top of page

中小企業向け研究開発税制に繰越税額控除が創設|適用要件と注意点を税理士が解説

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 2 時間前
  • 読了時間: 11分

おはようございます!代表の安田です。


令和8年度税制改正では、研究開発税制について大きな見直しが行なわれました。その中でも、中小企業にとって注目したいのが、中小企業技術基盤強化税制における繰越税額控除制度の創設です。


これまで、研究開発税制は、試験研究費を支出した年度の法人税額から一定額を控除できる制度として活用されてきました。しかし、赤字や法人税額が少ない年度では、せっかく税額控除限度額が生じても、控除しきれないケースがありました。


今回の改正により、一定の要件を満たす場合には、控除しきれなかった金額を翌事業年度以後に繰り越し、最大3年間にわたって税額控除できる制度が設けられました。


ただし、繰越税額控除は、単に「使い切れなかった控除額を翌年に回せる」という単純な制度ではありません。適用する事業年度において、試験研究費の額が前事業年度の試験研究費の額を超えていることなど、複数の要件があります。


今回は、令和8年度改正で創設された中小企業技術基盤強化税制の繰越税額控除制度について、実務上のポイントを整理します。


中小企業技術基盤強化税制とは?

中小企業技術基盤強化税制とは、中小企業者等が試験研究費を支出した場合に、一定の税額控除を受けられる研究開発税制の一つです。


中小企業の研究開発投資を後押しする制度であり、製造業、IT業、研究開発型ベンチャー、技術開発を行なう中小企業などにとって重要な税制です。


令和8年度改正では、この中小企業技術基盤強化税制について、控除率カーブや控除上限の上乗せに関する時限措置が、令和11年3月31日まで3年延長されました。

さらに、今回新たに3年間の繰越税額控除制度が創設されています。


繰越税額控除制度とは?

繰越税額控除制度とは、中小企業技術基盤強化税制を適用した事業年度において、法人税額の関係で控除しきれなかった金額がある場合に、その控除しきれなかった金額を翌事業年度以後に繰り越して控除できる制度です。


この控除しきれなかった金額を、制度上は繰越税額控除限度超過額といいます。

今回の改正では、青色申告書を提出する中小企業者等が、中小企業技術基盤強化税制の適用を受けた事業年度において繰越税額控除限度超過額が生じた場合、翌事業年度以後3年間、一定要件を満たせば繰越税額控除を適用できることになりました。


適用対象は、令和8年4月1日以後開始事業年度に生じる繰越税額控除限度超過額です。


なぜ繰越制度が重要なのか

研究開発税制は、法人税額から控除する制度です。そのため、研究開発費を多く支出していても、法人税額が少なければ、税額控除の効果を十分に使い切れないことがあります。


たとえば、研究開発投資を積極的に行なっている中小企業では、開発初期に利益が出にくいこともあります。このような場合、税額控除限度額が発生しても、当期の法人税額が少なければ控除しきれません。


繰越税額控除制度があれば、一定の要件を満たすことで、翌期以後に利益が出たタイミングで控除を活用できる可能性があります。


研究開発投資と利益計上のタイミングがずれやすい中小企業にとって、実務上ありがたい改正といえます。


繰越税額控除を受けるための主な要件

今回創設された繰越税額控除制度には、いくつかの要件があります。

特に重要なのは、次の4つです。


  1. 繰越税額控除を受ける事業年度において、試験研究費の額が比較試験研究費の額を超えていること

  2. 繰越事業年度および繰越税額控除を受ける事業年度において、青色申告書を提出する法人であること

  3. 繰越税額控除を受ける事業年度において、一般型の研究開発税制を適用していないこと

  4. 所定の明細書を確定申告書に添付すること


それぞれ詳しく見ていきましょう。


要件1:試験研究費が前年度を超えていること

繰越税額控除を適用する事業年度では、試験研究費の額が比較試験研究費の額を超えている必要があります。

ここでいう比較試験研究費の額とは、基本的には前事業年度における試験研究費の額を指します。

つまり、繰越税額控除を使いたい事業年度において、前年よりも試験研究費が増えていることが求められます。

この要件は、単に過去の控除しきれなかった金額を使わせるだけではなく、引き続き研究開発投資を行っている法人を支援する趣旨と考えられます。

実務では、繰越税額控除を検討する際に、まず当期の試験研究費と前期の試験研究費を比較する必要があります。


要件2:繰越後の年度では中小企業者等でなくてもよい

中小企業技術基盤強化税制そのものを適用するには、その適用事業年度において中小企業者等に該当する必要があります。


しかし、今回の繰越税額控除については、繰越税額控除限度超過額が発生した事業年度に中小企業者等であれば、繰越後の適用年度まで中小企業者等であることは求められていません。


つまり、繰越税額控除を実際に使う事業年度では、青色申告書を提出する法人であればよく、必ずしも中小企業者等に該当する必要はありません。


これは、成長により中小企業者等に該当しなくなった法人にとって重要です。

たとえば、研究開発投資を行なった年度は中小企業者等であったものの、その後、資本金や株主構成などの変化により中小企業者等に該当しなくなった場合でも、要件を満たせば繰越税額控除を使える可能性があります。


要件3:一般型の研究開発税制を適用する年度は使えない

繰越税額控除を検討するうえで、実務上かなり重要なのが、一般型の税額控除との関係です。


繰越税額控除を受ける事業年度において、一般の試験研究費に係る税額控除制度、いわゆる一般型の研究開発税制を適用している場合、その事業年度では繰越税額控除を適用できません。つまり、繰越税額控除を使いたい年度では、一般型の税額控除を適用しないことが必要です。


この点は、申告実務で判断に迷いやすいところです。当期の一般型を使う方が有利なのか、過去の繰越税額控除を使う方が有利なのか、税額や控除限度額を比較して検討する必要があります。


要件4:明細書の添付が必要

繰越税額控除を適用するには、確定申告書への明細書等の添付も必要です。


具体的には、中小企業技術基盤強化税制を適用した事業年度以後の各事業年度の確定申告書に、繰越税額控除限度超過額に関する明細書を添付する必要があります。


また、実際に繰越税額控除を受ける事業年度の確定申告書等には、控除対象となる繰越税額控除限度超過額や、控除を受ける金額等を記載した書類を添付する必要があります。

繰越税額控除は、金額を翌期以後に管理していく制度です。そのため、発生年度だけでなく、その後の各年度で明細書の添付を継続することが重要です。


添付漏れがあると、繰越控除の適用に影響する可能性があるため、申告書作成時のチェックリストに必ず入れておきたい項目です。


適用イメージ

具体例で考えてみましょう。


ある中小企業が、X年3月期に中小企業技術基盤強化税制を適用し、法人税額の関係で控除しきれない繰越税額控除限度超過額が発生したとします。


翌期であるX+1年3月期では、試験研究費の額が前年度の試験研究費を超えていませんでした。この場合、試験研究費の増加要件を満たさないため、繰越税額控除は適用できません。

次のX+2年3月期では、一般型の研究開発税制を適用したとします。この場合も、一般型を適用しているため、繰越税額控除は適用できません。


さらに次のX+3年3月期では、試験研究費の額が前年度を超えており、一般型の税額控除も適用していませんでした。この場合、要件を満たすため、繰越税額控除を適用できる可能性があります。


このように、3年間の繰越期間があるからといって、毎年必ず使えるわけではありません。各年度で要件を満たすかどうかを確認する必要があります。


「3年以内ならいつでも使える」わけではない

繰越税額控除制度で誤解しやすいのは、控除しきれなかった金額を3年間いつでも自由に使えると思ってしまうことです。


実際には、繰越税額控除を適用する事業年度ごとに、試験研究費の増加要件や一般型との併用制限を確認する必要があります。そのため、過去に繰越税額控除限度超過額が生じていても、次のような年度では適用できません。

  • 当期の試験研究費が前期の試験研究費を超えていない年度

  • 一般型の研究開発税制を適用している年度

  • 青色申告書を提出していない年度

  • 必要な明細書の添付がない年度


繰越控除を使えるかどうかは、毎期の申告時に慎重に確認する必要があります。


一般型との有利不利判定が重要に

今回の制度では、一般型の税額控除を適用する年度には繰越税額控除を適用できません。

そのため、法人によっては、当期の一般型を適用するか、過去の中小企業技術基盤強化税制に係る繰越税額控除を使うか、選択判断が必要になる場面があります。


この判断では、次のような点を比較する必要があります。

  • 当期の試験研究費の額

  • 当期の法人税額

  • 一般型で控除できる金額

  • 繰越税額控除として使える金額

  • 繰越期限までの残り年数

  • 今後の研究開発投資の見込み

  • 今後の利益計画

繰越期限が迫っている場合には、当期の一般型よりも繰越税額控除を優先した方が有利になるケースも考えられます。一方で、当期の一般型の控除額が大きい場合には、一般型を選んだ方が有利な場合もあります。


税額控除の選択は、単年度だけでなく、複数年度の見通しを踏まえて検討することが大切です。


中小企業者等から外れた場合も管理を続ける

繰越後の事業年度では、中小企業者等に該当することまでは求められていません。これは成長企業にとってメリットです。


ただし、中小企業者等でなくなったからといって、管理をやめてよいわけではありません。繰越税額控除を使うためには、青色申告書の提出、試験研究費の増加要件、一般型との関係、明細書添付などを引き続き確認する必要があります。


特に、会社規模が拡大して税務担当者や顧問税理士が変わった場合、過去の繰越税額控除限度超過額が引き継がれず、適用漏れが起こる可能性があります。

研究開発税制を適用した年度から、繰越期限までの管理表を作成しておくとよいでしょう。


実務で準備しておきたい資料

中小企業技術基盤強化税制の繰越税額控除を適用する可能性がある法人では、次の資料を整理しておきましょう。

  • 試験研究費の明細

  • 前事業年度の試験研究費との比較資料

  • 中小企業者等に該当することの確認資料

  • 青色申告書提出法人であることの確認

  • 発生年度の繰越税額控除限度超過額の明細

  • 各年度の繰越税額控除残高管理表

  • 一般型の税額控除との有利不利比較資料

  • 確定申告書に添付する明細書


研究開発税制は、税額控除の金額が大きくなることもあります。そのため、税務調査でも、試験研究費の内容や控除額の計算根拠が確認されやすい分野です。


顧問先様に伝えたいこと

特に、次のような法人には影響があります。

  • 毎期継続して試験研究費を支出している法人

  • 赤字や法人税額が少ない年度がある法人

  • 研究開発投資が先行し、利益化が翌期以後になりやすい法人

  • 中小企業技術基盤強化税制を過去または今後適用する法人

  • 将来的に中小企業者等から外れる可能性がある成長企業


「控除しきれなかった金額を翌期以後に使える可能性がある」というメリットだけでなく、「使う年度にも試験研究費の増加要件や一般型との併用制限がある」という注意点もセットでお伝えしたいところです。


まとめ

令和8年度税制改正により、中小企業向けの研究開発税制である中小企業技術基盤強化税制に、3年間の繰越税額控除制度が創設されました。この制度は、青色申告書を提出する中小企業者等が同税制を適用した事業年度において、控除しきれない金額である繰越税額控除限度超過額が生じた場合に、翌事業年度以後3年間、一定要件のもとで税額控除を受けられるものです。


ただし、繰越税額控除を適用する事業年度では、試験研究費の額が前事業年度の試験研究費の額を超えている必要があります。また、一般型の研究開発税制を適用する事業年度では、繰越税額控除を適用できません。さらに、繰越事業年度および適用事業年度において青色申告書を提出していること、必要な明細書を確定申告書に添付することも求められます。


なお、繰越税額控除限度超過額が発生した事業年度では中小企業者等に該当する必要がありますが、繰越税額控除を実際に適用する事業年度まで中小企業者等であることは求められていません。


中小企業技術基盤強化税制の繰越税額控除は、研究開発投資を続ける中小企業にとって有用な制度です。一方で、適用には年度ごとの要件確認と明細書管理が欠かせません。研究開発税制を活用している法人は、繰越税額控除限度超過額の発生年度から3年間、控除可能性を継続的に確認しておきましょう。


神戸の税理士事務所ロゴ

コメント


bottom of page