事業年度の途中から研究開発に従事した研究員の人件費は税額控除の対象?研究開発税制の「専ら」要件を税理士が解説
- 安田 亮
- 19 時間前
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こんにちは!代表の安田です。
研究開発税制は、法人が新製品や新技術の開発などのために支出した試験研究費について、一定額を法人税額から控除できる制度です。
製造業、IT企業、食品メーカー、化学メーカー、医薬品関連企業など、研究開発を行う会社にとって重要な税制です。
ただし、研究開発税制の対象となる試験研究費には、すべての人件費を含められるわけではありません。特に注意が必要なのが、研究員の人件費に関する「専ら」要件です。
法人税法上、研究開発税制の対象となる試験研究費に含められる人件費は、原則として「専門的知識をもって当該試験研究の業務に専ら従事する者」に係るものに限られます。
では、事業年度の途中で研究部門に異動した社員や、期中に中途入社して研究所に配属された研究員は、その事業年度を通じて研究開発に従事していないため、「専ら」要件を満たさないのでしょうか。
結論からいうと、社内異動や中途入社により事業年度の途中から研究開発業務に従事した場合でも、その後、研究所や研究開発部門で試験研究業務に専属的に従事しているのであれば、研究開発業務に従事した期間に対応する人件費は、研究開発税制の対象となる試験研究費に含められる可能性があります。
本日は、研究開発税制における人件費の「専ら」要件、事業年度途中から研究開発業務に従事した研究員の取扱い、兼務者との違い、対象人件費を計算する際の注意点、社内で保存しておきたい資料を解説します。
研究開発税制とは
研究開発税制とは、青色申告法人が一定の試験研究費を支出した場合に、その試験研究費の額に一定割合を乗じた金額を法人税額から控除できる制度です。
この制度は、企業の研究開発投資を促進し、新製品・新技術・新サービスの開発を後押しするために設けられています。
対象となる試験研究費には、主に次のような費用があります。
・研究開発に従事する研究員の人件費
・試験研究に使用する原材料費
・試験研究に使用する設備や機械の減価償却費
・外部へ委託する試験研究費
・技術研究組合等への負担金ただし、会計上「研究開発費」として処理しているからといって、すべてが税務上の試験研究費になるわけではありません。
研究開発税制では、対象となる費用の範囲が細かく定められており、人件費についても一定の要件があります。
研究員の人件費には「専ら」要件がある
研究開発税制の対象となる人件費は、専門的知識をもって試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限られます。
ここでいう「専門的知識」とは、必ずしも博士号や特定の国家資格を意味するわけではありません。製品開発、技術開発、設計、試作、評価、分析、データ収集など、その試験研究に必要な知識・経験・技能を有していることが重要です。
一方、「専ら」とは、試験研究業務に専属的に従事していることを意味します。
つまり、研究開発税制の対象となる人件費は、単に研究所に所属している社員全員の給与ではありません。
試験研究に直接関係しない事務職員、守衛、運転手、総務担当者などの人件費は、原則として試験研究費には含められません。
「専ら」要件は何を防ぐための要件か
人件費の「専ら」要件は、研究開発税制の対象範囲が過度に広がることを防ぐための要件です。たとえば、会社の中央研究所に勤務しているからといって、すべての社員が試験研究業務に直接従事しているとは限りません。
研究所には、研究員だけでなく、経理・総務・庶務・受付・施設管理など、研究活動を支える職員もいます。これらの職員は研究所の運営には必要ですが、試験研究そのものに専門的知識をもって直接従事しているわけではありません。
そのため、研究所に所属しているというだけで人件費をすべて試験研究費に含めることはできません。
また、営業、製造、品質管理、通常の製品改良、顧客対応などの業務と並行して、片手間で研究開発を行なっているような場合も注意が必要です。
研究開発税制の人件費に含めるには、対象者が試験研究業務に専属的に従事していること、または研究プロジェクトにおける担当業務へ専属的に従事していることが求められます。
事業年度の途中から研究開発業務に従事した場合
実務では、研究員が事業年度の初日から研究開発業務に従事しているとは限りません。
たとえば、次のようなケースがあります。
・営業部門から研究開発部門へ期中に異動した
・製造部門から中央研究所へ配置換えになった
・外部から研究員を中途採用した
・ヘッドハンティングにより専門人材が期中に入社した
・新規プロジェクト開始に伴い、期中から研究チームに参加したこのような場合、「その事業年度を通じて研究開発に従事していないから、専ら要件を満たさない」と考えてしまうことがあります。
しかし、専ら要件は、必ずしも事業年度の初日から最終日まで継続して研究開発業務に従事していることだけを求めるものではありません。
事業年度の途中から研究開発部門に配属され、その後は試験研究業務に専属的に従事しているのであれば、その研究員は試験研究業務に専ら従事する者と考えられます。
この場合、研究開発業務に従事した期間に対応する人件費を、研究開発税制の試験研究費に含めることができます。
期中異動者の人件費は「異動後の期間」が対象
事業年度の途中で研究開発部門へ異動した社員については、異動前と異動後を分けて考える必要があります。
たとえば、4月1日開始の事業年度で、10月1日に製造部門から研究開発部門へ異動した社員がいるとします。
この社員が、10月1日以後、研究開発部門で新製品開発の試験研究業務に専属的に従事している場合、10月1日から事業年度末までの人件費は、研究開発税制の対象となる可能性があります。
一方、4月1日から9月30日までの製造部門勤務期間に対応する人件費は、通常、試験研究費には含められません。
4月1日~9月30日
→ 製造部門で通常業務に従事
→ 原則として研究開発税制の対象外
10月1日~3月31日
→ 研究開発部門で試験研究業務に専属的に従事
→ 要件を満たせば対象人件費に含められるつまり、期中異動者については、「その社員の年間給与を全額対象にできるか」ではなく、「研究開発業務に専属的に従事した期間の人件費を対象にできるか」という発想で整理します。
中途入社の研究員も対象になり得る
中途採用で事業年度の途中から入社した研究員についても、考え方は同じです。
たとえば、12月1日に入社し、入社後すぐに中央研究所で新技術開発プロジェクトに専属的に従事した研究員がいる場合、その研究員の12月1日から事業年度末までの人件費は、要件を満たせば試験研究費に含めることができます。
この場合も、「事業年度を通じて在籍していないから対象外」と考える必要はありません。
重要なのは、入社後の従事実態です。
・研究開発部門に配属されているか
・専門的知識をもって試験研究業務に従事しているか
・他の業務と兼務していないか
・対象期間の人件費を区分できるかこれらを確認し、研究開発業務に従事した期間に対応する給与・賞与・法定福利費などを適正に計算することが大切です。
研究プロジェクトの一部期間だけ従事する場合
研究開発の現場では、1人の研究員がプロジェクトの最初から最後まで関与するとは限りません。
研究開発には、企画、設計、試作、評価、分析、データ収集、検証、改良など、複数のフェーズがあります。たとえば、ある研究員は試作段階だけに関与し、別の研究員は評価・分析段階だけに関与することがあります。
このような場合でも、担当するフェーズが試験研究のプロセスに欠かせないものであり、その担当業務に専門的知識をもって専属的に従事しているのであれば、「専ら」要件を満たす可能性があります。
ポイントは、研究プロジェクト全体への関与期間ではなく、その研究員が担当する研究業務に専属的に従事しているかどうかです。ただし、対象期間が極端に短い場合や、従事状況が明確に区分できない場合には、試験研究費に含めることが難しくなります。
兼務者の人件費は慎重に判断する
期中異動者や中途入社者の人件費が対象になり得る一方で、兼務者の人件費には注意が必要です。たとえば、次のような社員です。
・普段は営業担当だが、研究開発会議にも参加している
・製造ラインの管理をしながら、新製品の試作にも関わっている
・品質管理業務と研究開発業務を並行している
・研究開発部門に所属しているが、半分以上は量産対応をしている
・顧客対応や営業資料作成も行っている研究員このような場合、試験研究業務に「専ら」従事しているといえるかどうかは、実態に基づいて判断する必要があります。
単に研究開発に少し関わっているだけでは、人件費を研究開発税制の対象に含めることはできません。
一方、研究プロジェクトの特定フェーズについて、専門的知識をもって専属的に従事し、その従事期間や人件費を明確に区分できる場合には、対象となる余地があります。
兼務者については、勤務実態、担当業務、工数管理、プロジェクト計画、業務指示書などの資料を残しておくことが重要です。
「研究所所属」だけでは足りない
研究開発税制の対象人件費を判断する際、研究所や研究開発部門に所属していることは重要な判断材料になります。しかし、それだけで自動的に対象になるわけではありません。
研究所に所属していても、次のような者の人件費は、原則として試験研究費に含められません。
・研究所の庶務担当者
・経理、総務、人事担当者
・守衛、受付、運転手
・研究施設の清掃や保守担当者
・研究開発に直接従事しない管理部門職員これらの人員は研究活動を支える役割を担っていても、専門的知識をもって試験研究業務に直接従事しているわけではありません。
研究開発税制の人件費に含めるには、研究開発部門への所属だけでなく、実際に試験研究業務に従事していることが必要です。
対象となる人件費の範囲
研究開発税制の対象となる人件費には、通常、対象研究員に係る給与、賞与、法定福利費などが含まれます。
ただし、研究開発業務に従事した期間に対応する金額を適正に区分する必要があります。
たとえば、期中異動者であれば、異動後の期間に対応する給与・賞与を計算します。
賞与については、対象期間に対応する部分を合理的に按分する必要があります。
対象になり得るもの
・基本給
・賞与
・法定福利費
・研究開発業務に対応する手当
対象外となり得るもの
・研究開発業務に従事していない期間の給与
・通常の製造、販売、管理業務に係る人件費
・研究開発に直接従事しない事務職員の人件費
・対象期間を合理的に区分できない人件費人件費は金額が大きくなりやすいため、研究開発税制の税額控除額にも大きく影響します。
対象者と対象期間を明確にし、過大計上にならないよう注意しましょう。
期中異動者の人件費計算例
次のようなケースで考えてみます。
事業年度:4月1日から3月31日
社員A:4月1日から9月30日まで製造部門
社員A:10月1日から3月31日まで中央研究所
異動後は新製品開発プロジェクトに専属従事
年間給与:720万円
賞与:120万円
法定福利費:会社負担分120万円この場合、10月1日から3月31日までの6か月間が研究開発業務に専属的に従事した期間です。単純に月割りで計算する場合、対象人件費は次のようになります。
給与:720万円 × 6か月 / 12か月 = 360万円
賞与:120万円 × 6か月 / 12か月 = 60万円
法定福利費:120万円 × 6か月 / 12か月 = 60万円
対象人件費合計:480万円もちろん、実際には賞与の算定期間、異動日、給与締日、業務従事日数などを踏まえて合理的に計算する必要があります。重要なのは、異動前の製造部門勤務期間まで含めて年間人件費全額を対象にしないことです。
保存しておきたい資料
研究開発税制は、税務調査で確認されやすい項目です。
特に人件費については、「本当に試験研究業務に専ら従事していたのか」「対象期間の人件費が適正に計算されているのか」が確認されます。
期中異動者や中途入社者を対象に含める場合には、次の資料を保存しておきましょう。
・組織図
・研究開発部門の人員一覧
・辞令、異動通知
・雇用契約書、採用通知書
・職務記述書
・研究プロジェクト計画書
・研究テーマ一覧
・研究日報、業務報告書
・工数管理表
・研究開発会議の議事録
・給与台帳
・賞与計算資料
・法定福利費の計算資料
・対象人件費の集計表特に、期中異動者については、異動日と異動後の業務内容が分かる資料が重要です。
中途入社者については、入社日、配属先、担当研究テーマが分かる資料を保存しておきましょう。
経理部門と研究開発部門の連携が重要
研究開発税制の人件費を正しく計算するには、経理部門だけでは限界があります。
経理部門は給与台帳や会計データを把握していますが、各研究員が実際にどの研究テーマに従事していたか、兼務があったか、どの期間から研究開発業務に参加したかまでは把握しきれないことがあります。
一方、研究開発部門は業務実態を把握していますが、税務上どの費用が研究開発税制の対象になるかまでは十分に理解していないことがあります。
そのため、研究開発税制を適用する会社では、次のような社内フローを整備するとよいでしょう。
1. 研究開発部門が対象プロジェクトを整理する
2. 対象プロジェクトに従事した研究員を一覧化する
3. 期中異動者・中途入社者・兼務者を区分する
4. 経理部門が対象期間の給与・賞与・法定福利費を集計する
5. 研究開発部門が従事実態を確認する
6. 税務担当者が研究開発税制の要件に照らして最終確認する毎期決算時に慌てて資料を集めるのではなく、期中から研究開発プロジェクトと従事者の情報を管理しておくことが大切です。
税務調査で見られやすいポイント
研究開発税制を適用している法人では、税務調査で次のような点が確認されることがあります。
・対象とした研究テーマが試験研究に該当するか
・人件費の対象者が専門的知識を有しているか
・対象者が試験研究業務に専ら従事しているか
・期中異動者の異動日が明確か
・中途入社者の入社後の配属先と業務内容が明確か
・兼務者の工数や従事期間を区分できているか
・事務職員や管理部門職員の人件費を含めていないか
・対象期間外の給与や賞与を含めていないか
・対象人件費の計算方法が合理的か研究開発税制は税額控除であり、法人税額を直接減らす効果があります。
そのため、対象費用の範囲は慎重に確認される傾向があります。
税務調査で説明できるように、研究開発の内容と人件費の集計根拠をセットで保存しておきましょう。
よくある誤解
事業年度を通じて研究開発に従事していないと対象にならない
必ずしもそうではありません。社内異動や中途入社により事業年度の途中から研究開発業務に従事した場合でも、その後、試験研究業務に専属的に従事していれば、その期間に対応する人件費は対象になり得ます。
研究所に所属していれば全員の人件費が対象になる
誤りです。研究所に所属していても、事務職員、守衛、運転手など、試験研究に直接従事していない者の人件費は原則として対象外です。
研究開発に少しでも関われば対象になる
誤りです。研究開発税制の対象人件費は、専門的知識をもって試験研究業務に専ら従事する者に係るものです。片手間の関与や単なる会議参加だけでは不十分です。
期中異動者は年間人件費を全額対象にできる
異動後に研究開発業務へ専属的に従事している場合でも、原則として対象になるのは研究開発業務に従事した期間に対応する人件費です。異動前の通常業務期間の人件費まで含めないよう注意が必要です。
兼務者は一切対象にならない
兼務者であっても、研究プロジェクトの特定フェーズに専門的知識をもって専属的に従事し、従事期間や人件費を明確に区分できる場合には、対象となる余地があります。ただし、資料整備が重要です。
実務上のチェックリスト
研究開発税制で期中異動者や中途入社者の人件費を対象にする場合は、次の点を確認しましょう。
・対象者が専門的知識を有しているか
・研究開発部門または研究プロジェクトに配属されているか
・試験研究業務に専属的に従事しているか
・異動日または入社日が明確か
・研究開発業務に従事した期間を特定できるか
・対象期間に対応する給与・賞与・法定福利費を区分できるか
・兼務がある場合、工数や担当業務を合理的に区分できるか
・研究日報やプロジェクト計画書などの証拠資料があるか
・事務職員や管理部門職員の人件費を含めていないか
・対象人件費の集計表を作成しているかこのチェックリストを使って、決算前に対象者を整理しておくと、申告時の確認がスムーズになります。
まとめ
研究開発税制の対象となる試験研究費には、一定の研究員の人件費を含めることができます。ただし、人件費については「専門的知識をもって当該試験研究の業務に専ら従事する者」に係るものに限られます。
この「専ら」要件は、研究開発に直接従事していない者や、片手間で研究開発に関与している者の人件費を除外するための要件です。
一方で、事業年度の途中から研究開発業務に従事した研究員について、必ずしも事業年度を通じて研究開発業務に従事していなければならないわけではありません。
社内異動や中途入社後、中央研究所や研究開発部門で試験研究業務に専属的に従事しているのであれば、その研究員は試験研究業務に専ら従事する者と考えられます。その場合、研究開発業務に従事した期間に対応する人件費は、研究開発税制の対象となる試験研究費に含めることができます。
ただし、異動前や入社前の期間に対応する人件費まで対象にすることはできません。
また、兼務者については、研究開発業務への従事実態、担当業務、工数、対象期間を明確に区分できるかが重要です。
研究開発税制は税額控除額に直接影響する制度であるため、対象人件費の集計は慎重に行なう必要があります。
期中異動者や中途入社者を対象に含める場合は、辞令、雇用契約書、研究プロジェクト計画書、研究日報、工数管理表、給与台帳などの資料を保存し、税務調査でも説明できるようにしておきましょう。




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