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免税事業者との取引条件を見直すときの注意点|インボイス制度と独占禁止法を税理士が解説

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 1 日前
  • 読了時間: 12分

こんにちは!代表の安田です。


インボイス制度が始まったことで、免税事業者との取引条件をどう見直すか悩む事業者が増えています。


買手側である課税事業者にとって、免税事業者からの仕入れは、原則としてインボイスの保存ができないため、仕入税額控除に制限が生じます。


そのため、取引先が免税事業者である場合に、

  • 消費税分を値引きしてもらってよいのか

  • インボイス登録をお願いしてよいのか

  • 免税事業者のままなら取引価格を見直してよいのか

  • 一方的に消費税相当額を支払わないと伝えるのは問題ないのか

といった疑問が出てきます。


結論からいうと、インボイス制度をきっかけに、免税事業者との取引条件を見直すこと自体が直ちに問題になるわけではありません。


しかし、買手側が一方的に著しく低い価格を設定したり、「この金額でなければ今後取引しない」と強制したりすると、独占禁止法上の優越的地位の濫用などの問題が生じる可能性があります。


この記事では、免税事業者との取引条件を見直す際の基本的な考え方、価格交渉で注意すべき点、インボイス制度の経過措置、実務上の対応ポイントについて解説します。


インボイス制度と免税事業者の関係

インボイス制度では、買手が消費税の仕入税額控除を受けるために、原則として適格請求書、いわゆるインボイスの保存が必要です。


インボイスを発行できるのは、税務署に登録した「適格請求書発行事業者」です。

一方、免税事業者は、原則として適格請求書発行事業者になることができません。インボイスを発行するには、課税事業者になる必要があります。


そのため、買手である課税事業者が免税事業者から仕入れを行なう場合、原則としてその仕入れについてインボイスを受け取ることができず、仕入税額控除に制限が生じます。

この点が、免税事業者との取引価格の見直しが問題になる背景です。


免税事業者との取引条件を見直すこと自体は直ちに問題ではない

インボイス制度が始まると、買手側では、免税事業者からの仕入れについて仕入税額控除が制限されるため、税負担やコスト構造が変わります。そのため、免税事業者との取引条件について、今後どうするかを話し合うこと自体は自然なことです。


公正取引委員会等が公表している「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」でも、免税事業者との間で取引価格等について再交渉することが直ちに問題となるものではないという考え方が示されています。


つまり、買手側が免税事業者に対して、インボイス登録の予定や取引価格の見直しについて相談すること自体が、ただちに独占禁止法違反になるわけではありません。

問題になるのは、その交渉の進め方です。


双方が納得して価格を決めることが重要

免税事業者が、インボイス制度の内容を理解したうえで、あえて免税事業者のままでいることを選択する場合があります。


この場合、買手側と免税事業者が協議し、双方納得のうえで取引価格を決めるのであれば、結果として価格が下がったとしても、直ちに独占禁止法上問題になるわけではありません。


免税事業者が課税事業者になることができること、簡易課税制度も選択できることを理解したうえで、引き続き免税事業者でいることを選択し、再交渉で双方納得のうえ取引価格を設定するのであれば、結果的に取引価格が引き下げられても、独占禁止法上問題とはならないとされています。


ここで大切なのは、「説明」と「協議」です。

買手側が一方的に通知するのではなく、次のような内容を共有しながら話し合うことが望ましいです。

・インボイス制度により買手側で仕入税額控除が制限されること
・免税事業者が課税事業者を選択できること
・簡易課税制度や2割特例などの制度があること
・免税事業者のまま取引を続ける場合の価格設定
・経過措置を踏まえた段階的な見直し・今後の取引継続の方針

交渉記録や合意書を残しておくと、後日トラブルになった際にも説明しやすくなります。


一方的な値下げや取引停止の強要は問題になり得る

一方で、買手側が自社の都合だけで価格を一方的に引き下げるような対応は危険です。

たとえば、次のような対応です。

・今後は消費税相当額を一切支払わないと一方的に通知する
・免税事業者のままなら10%値下げすると通告する
・登録しないなら取引を打ち切ると迫る
・交渉の余地なく新価格を押し付ける
・免税事業者が負担していた消費税相当額も払えない水準まで下げる

再交渉が形式的なものにすぎず、買手側の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が今後の取引への影響を懸念して受け入れざるを得ない場合には、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題になり得るとされています。


また、買手側が一方的に「今後は消費税相当額を支払わない」「この金額でなければ今後取引できない」と減額を強要する行為は、問題となり得ると説明されています。


インボイス制度への対応だからといって、買手側が自由に価格を引き下げてよいわけではありません。


なぜ「消費税分を一律10%カット」が危険なのか

免税事業者は、消費税の納税義務が免除されているため、「消費税を納めていないのだから、10%分を下げてもよい」と考える方もいます。


しかし、この考え方は単純すぎます。

免税事業者であっても、仕入れや経費の支払いでは消費税を負担しています。たとえば、材料費、外注費、通信費、家賃、消耗品費などには消費税が含まれています。

そのため、売上に含まれる消費税相当額を一律に全額カットすると、免税事業者が実際に負担している仕入れ等の消費税分まで回収できなくなることがあります。


価格交渉をする場合には、「免税事業者だから10%値下げ」と機械的に考えるのではなく、取引内容、原価構造、経過措置、双方の負担を踏まえて協議する必要があります。


インボイス登録をお願いすることはできるか

買手側が免税事業者に対して、インボイス登録を検討してほしいと伝えること自体は、通常、直ちに問題になるものではありません。ただし、伝え方には注意が必要です。

たとえば、次のような伝え方が望ましいでしょう。

・インボイス制度開始に伴い、当社でも仕入税額控除の確認が必要になりました
・貴社のインボイス登録予定について確認させてください
・登録の有無により、今後の請求書様式や取引条件について協議させてください
・登録する場合、課税事業者として消費税の申告納税が必要になるため、税理士等にもご相談ください

一方、次のような伝え方は避けるべきです。

・登録しないなら取引を終了します
・登録しないなら一律10%値下げします
・登録しないなら消費税相当額は支払いません
・登録するか値下げするか、どちらかを選んでください

もちろん、取引継続にあたりインボイス登録の有無が重要になる業種や取引もあります。

それでも、相手方に十分な説明と検討期間を与え、協議のうえで条件を決めることが重要です。


免税事業者からの仕入れには経過措置がある

インボイス制度では、免税事業者などインボイスを発行できない事業者からの仕入れについて、一定期間、仕入税額相当額の一部を控除できる経過措置があります。


国税庁のインボイスQ&Aでは、免税事業者等からの仕入れについて、制度開始後一定期間は仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置が設けられていると説明されています。具体的には、令和5年10月1日から令和8年9月30日までは80%の控除が認められ、それ以後は段階的に控除できる割合が下がっていく予定です。


経過措置があるため、一度に消費税相当額を引き下げるのではなく、経過措置に沿って段階的に引下げを行なうのが望ましいとされています。


つまり、買手側の仕入税額控除がいきなりゼロになるわけではありません。

この経過措置を踏まえると、免税事業者との価格交渉でも、いきなり10%相当額を下げるのではなく、控除できなくなる部分を考慮して段階的に見直す方が合理的です。


経過措置を踏まえた価格見直しの考え方

たとえば、税抜10万円、消費税1万円、税込11万円相当の取引があったとします。

免税事業者からの仕入れについて、経過措置により仕入税額相当額の80%を控除できる期間であれば、買手側が控除できなくなる部分は、消費税相当額の20%部分です。


単純化すると、1万円の消費税相当額のうち、控除できない部分は2,000円相当です。

消費税相当額:10,000円
経過措置80%控除:8,000円相当を控除可能
控除できない部分:2,000円相当

そのため、この期間にいきなり10,000円全額を値下げするという対応は、買手側の実際の影響を超える可能性があります。


もちろん、実際の価格交渉では、原価、利益率、業界慣行、契約内容、取引量などを総合的に考慮する必要があります。ただ、少なくとも経過措置を無視して「免税事業者だから10%カット」とするのは、慎重に考えるべきです。


取適法(旧下請法)にも注意が必要

免税事業者との取引条件の見直しでは、独占禁止法だけでなく、取適法にも注意が必要です。


たとえば、買手側が親事業者、免税事業者が下請事業者に該当する場合、発注後に下請代金を減額することや、著しく低い代金を不当に定めることは問題となる可能性があります。

特に、次のような取引では注意が必要です。

・製造委託
・修理委託
・情報成果物作成委託
・役務提供委託
・フリーランスへの業務委託
・デザイン、ライティング、システム開発などの外注

インボイス制度への対応であっても、契約済みの報酬を一方的に減額したり、相手方と十分に協議せずに次回以降の単価を引き下げたりすると、法令上の問題が生じる可能性があります。


契約書・発注書・請求書の見直しも必要

免税事業者との取引条件を見直す場合には、価格だけでなく、契約書や発注書の表示も確認しましょう。たとえば、契約書に次のような記載がある場合です。

報酬:100,000円+消費税
報酬:税込110,000円
報酬:100,000円、消費税相当額は別途支払う

免税事業者との取引では、請求書に消費税と記載されている場合でも、相手方はインボイスを発行できません。


そのため、今後の契約では、報酬額を税込で定めるのか、税抜・消費税別で定めるのか、インボイス登録の有無で条件をどうするのかを明確にしておく必要があります。


ただし、契約書に「免税事業者の場合は消費税相当額を支払わない」と一方的に定めるような内容は、相手方との関係性によって問題になる可能性があります。


実務上は、契約更新時に協議し、合意書や覚書を作成しておくのが望ましいです。


買手側が整備しておきたい社内対応

免税事業者との取引が多い会社では、社内ルールを整備しておくことが重要です。

たとえば、次のような対応です。


1. 取引先の登録状況を確認する

取引先が適格請求書発行事業者かどうかを確認します。

登録番号の通知を受けた場合には、国税庁の公表サイトなどで登録状況を確認しておくと安心です。


2. 免税事業者との取引を一覧化する

免税事業者との取引金額、取引内容、契約期間、代替可能性、重要度を整理します。

すべての取引先に同じ対応をするのではなく、取引実態に応じて検討します。


3. 価格交渉の方針を決める

経過措置を踏まえて、どのような考え方で価格を見直すかを決めます。

一律10%カットではなく、80%控除・70%控除等の経過措置も踏まえた段階的な見直しが現実的です。


4. 交渉記録を残す

取引条件を見直す場合には、交渉経緯、説明資料、相手方の回答、合意内容を残します。

「双方納得のうえで合意した」ことを説明できるようにしておきましょう。


5. 契約書・発注書を更新する

取引条件を変更した場合は、契約書、発注書、覚書などを整備します。

口頭合意だけで済ませると、後日トラブルになる可能性があります。


免税事業者側が確認すべきポイント

免税事業者側も、買手から価格見直しやインボイス登録の相談を受けた場合、次の点を確認しましょう。


1. 課税事業者になるかどうか

インボイス登録をすると、原則として課税事業者となり、消費税の申告・納税が必要になります。売上規模、経費構造、取引先の要請、事務負担を踏まえて判断しましょう。


2. 簡易課税制度や2割特例を確認する

小規模事業者の場合、簡易課税制度や2割特例により、消費税の納税額や事務負担を軽減できる場合があります。登録するかどうかは、税理士等に相談したうえで判断することをおすすめします。


3. 値下げ要請の内容を確認する

買手から値下げを求められた場合、その根拠を確認しましょう。経過措置を踏まえずに一律10%値下げを求められている場合には、協議の余地があります。


4. 一方的な通告には注意する

「登録しないなら取引停止」「消費税相当額は支払わない」といった一方的な通告を受けた場合には、公正取引委員会や中小企業庁等の相談窓口に相談することも考えられます。


よくある誤解

  • 免税事業者との取引価格を話し合うだけで違法になる

そうではありません。インボイス制度を契機に取引条件を見直すこと自体が直ちに問題となるわけではありません。問題になるのは、一方的な押し付けや著しく低い価格設定です。


  • 免税事業者には消費税分を払わなくてよい

免税事業者も仕入れや経費で消費税を負担しています。一律に消費税相当額を支払わないとする対応は、優越的地位の濫用などの問題になり得ます。


  • インボイス登録しない取引先とは必ず取引をやめるべき

取引を続けるかどうかは、仕入税額控除への影響、経過措置、取引の重要性、価格条件などを踏まえて判断します。必ず取引停止しなければならないわけではありません。


  • 令和5年10月から仕入税額控除は完全にできない

免税事業者等からの仕入れについては、一定期間、80%・50%控除の経過措置があります。


  • 口頭で合意すれば十分

価格見直しは後日トラブルになりやすいため、協議内容や合意内容を文書で残すことが望ましいです。


まとめ

インボイス制度の開始により、買手である課税事業者は、免税事業者からの仕入れについて仕入税額控除に制限を受けることになりました。そのため、免税事業者との取引条件を見直すこと自体は、直ちに問題になるものではありません。


しかし、買手側が一方的に「今後は消費税相当額を支払わない」「この金額でなければ取引しない」と通告するような対応は、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となる可能性があります。


価格交渉を行なう場合には、免税事業者に対してインボイス制度の内容、課税事業者を選択できること、簡易課税制度等があることを説明し、双方が納得したうえで取引価格を決めることが重要です。


また、インボイス制度には、免税事業者等からの仕入れについて、当初3年間は仕入税額相当額の80%、その後2年間は70%を控除できるといった経過措置があります。このため、一度に消費税相当額を全額引き下げるのではなく、経過措置に沿って段階的に見直すことが望ましいといえます。


免税事業者との取引条件の見直しは、税務だけでなく、独占禁止法、下請法、契約実務、取引先との関係性が絡む論点です。買手側も免税事業者側も、一方的な対応を避け、資料を残しながら丁寧に協議を進めましょう。

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