top of page

食料品の消費税率0%・1%案で何が変わる?インボイス・システム改修の課題を税理士が解説

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 10 時間前
  • 読了時間: 10分

おはようございます!代表の安田です。


物価高への対応策として、食料品に係る消費税率を引き下げる議論が行なわれています。現在、飲食料品には軽減税率として8%が適用されていますが、この税率を一時的に0%または1%へ引き下げる案が検討されています。


消費者の立場から見ると、食料品の税率引下げは家計負担の軽減につながる可能性があります。一方で、事業者側、とくにスーパー、食品小売業、飲食料品を扱う卸売業、食品メーカーなどにとっては、レジ、POS、販売管理、会計、請求書発行、インボイス対応など、実務上の影響が非常に大きくなります。


特に注意したいのは、税率0%と非課税はまったく別物であるという点です。システム上、この区別ができない場合、仕入税額控除やインボイス発行に大きな問題が生じる可能性があります。


今回は、食料品の消費税減税をめぐる0%案・1%案について、税理士の視点から、事業者が押さえておきたい実務上の課題を整理します。


食料品の消費税減税が議論されている背景

現在、食料品には軽減税率8%が適用されています。しかし、物価高により生活必需品である食料品の価格が上昇しており、家計支援策として食料品の消費税率をさらに引き下げる案が議論されています。

今回の議論では、将来的な給付付き税額控除を実施するまでの「つなぎ」として、食料品の消費税率を引き下げる案が取り上げられています。

具体的には、現行8%の食料品税率を0%にする案と、1%にする案が検討されています。

一見すると、0%の方が消費者にとって分かりやすく、負担軽減効果も大きいように見えます。しかし、事業者の実務では、0%にすることでかえって大きなシステム上・税務上の課題が生じる可能性があります。


0%課税と非課税は違う

まず押さえておきたいのが、0%課税と非課税の違いです。


消費税率0%というのは、あくまで課税取引ではあるものの、適用税率が0%になるという考え方です。一方、非課税取引は、そもそも消費税の課税対象から外される取引です。


この違いは、事業者の仕入税額控除に大きく影響します。

0%課税であれば、その売上げは課税売上げに該当するため、原則としてその売上げに対応する仕入れについて仕入税額控除を受けられる方向で考えます。一方、非課税売上げとして処理されてしまうと、その非課税売上げに対応する仕入れについて、仕入税額控除が制限される可能性があります。


つまり、食料品の売上げを0%課税として処理すべきところ、システム上誤って非課税として処理してしまうと、消費税計算に大きな誤りが生じるおそれがあります。


税率0%案で問題になりやすいポイント

食料品の消費税率を0%にする場合、実務上は次のような課題が想定されます。


1. システムに「0%」を入力できない可能性

既存のPOSレジや販売管理システム、会計システムの中には、税率として0%を想定していないものがあります。

軽減税率8%、標準税率10%、非課税、不課税などの区分はあっても、「0%課税」という税区分を正しく設定できない場合があります。

0%という税率がシステム上特殊な数値として扱われるため、単純な税率変更では対応できないケースがあるわけです。


2. 0%課税を非課税と誤処理するリスク

システム上、消費税額が0円となる取引を自動的に非課税として扱ってしまう場合があります。しかし、0%課税と非課税は税務上の意味が異なります。もし食料品の売上げを非課税売上げとして処理してしまうと、その売上げに対応する仕入税額控除に影響が出る可能性があります。


特にスーパーなどの小売事業者では、食料品の仕入れに係る消費税額が大きいため、処理区分を誤ると消費税申告全体に大きな影響が出ます。


3. インボイス発行に支障が出る可能性

インボイス制度では、適格請求書に税率ごとの対価の額や消費税額等を記載する必要があります。ところが、システムによっては、消費税額が0円のものを非課税扱いとしてしまい、0%対象の価格を記載した適法なインボイスを発行できない可能性があります。


この場合、販売側だけでなく、購入側にも影響が出ます。

たとえば、事業者がスーパーで0%対象商品と10%対象商品を同時に購入した場合、インボイスの記載が適切でなければ、10%対象商品を含めて仕入税額控除に支障が出る可能性があります。


0%案ではシステム改修に時間がかかる

食料品の税率を0%にする場合、制度の詳細が公表された後、システム改修には最大10か月から1年程度かかる可能性があるとされています。


理由は、単に8%を0%に置き換えれば済むわけではないからです。

0%課税を非課税と区別するための税区分設定、インボイス様式の変更、レジ表示、値札、会計連携、返品処理、売上集計、仕入税額控除への反映など、幅広い改修が必要になります。


特に小売業では、POSレジ、商品マスタ、販売管理、在庫管理、会計システムが連動していることが多く、一部だけを修正すれば済むとは限りません。


1%案なら改修期間は短くなる可能性

一方、食料品の税率を0%ではなく1%にする場合、システム改修に必要な期間は最大5、6か月程度に短縮できる可能性があるとされています。


これは、1%であれば消費税額が発生するため、0%課税と非課税を区別するための特殊な改修が不要になるケースがあるためです。


つまり、8%の税率区分を1%に変更する形で対応できるシステムであれば、0%案よりも実務負担が軽くなる可能性があります。


ただし、1%案でもシステム対応が不要になるわけではありません。税率変更、商品マスタの更新、レジ設定、請求書・インボイス様式、会計処理、返品処理などの対応は必要です。


返品対応にも注意が必要

税率変更時に見落とされやすいのが、返品対応です。


たとえば、税率変更前に8%で販売した商品が、税率変更後に返品された場合、システム上は変更後の税率、つまり1%で処理されてしまう可能性があります。


しかし、実際には8%で販売した商品の返品であれば、8%で処理する必要があります。

そのため、税率変更前の商品を返品する場合には、経理処理やPOS処理の段階で、税率を手入力で修正する必要が出てくることがあります。


具体的には、店員がPOS端末上で返品処理を行なう際に、税率を1%から8%へ手入力で変更する方法や、POS端末に税率変更機能がない場合には手書き伝票で処理し、別の会計システムに入力する方法などが考えられます。


税率変更の際には、売上時だけでなく、返品・値引き・取消処理まで確認しておく必要があります。


小売業にとって影響が大きい理由

食料品の消費税率引下げは、特に小売業に大きな影響を与えます。

スーパーや食品小売店では、日々大量の商品を販売しており、商品ごとに税率を管理しています。軽減税率8%の商品と標準税率10%の商品が混在していることも多く、税率変更時には商品マスタの見直しが不可欠です。


さらに、インボイス制度のもとでは、事業者向け販売において税率ごとの対価や消費税額を正しく記載する必要があります。


税率変更に伴い、次のような対応が必要になる可能性があります。

  • 商品マスタの税率変更

  • POSレジの税率設定

  • 値札・棚札・価格表示の変更

  • レシート表示の変更

  • インボイス様式の変更

  • 売上データの税区分設定

  • 会計システムとの連携確認

  • 返品・値引き処理の確認

  • 従業員向けマニュアルの更新


これらを短期間で行なうのは簡単ではありません。


インボイス制度との関係

食料品の税率引下げは、インボイス制度とも密接に関係します。


インボイスでは、税率ごとに区分した対価の額や消費税額等を記載する必要があります。もし0%対象商品を非課税として処理してしまうと、適切なインボイスが発行できない可能性があります。


販売側が適法なインボイスを発行できなければ、購入側の事業者は仕入税額控除を受ける際に問題が生じます。


特に、事業者が小売店で食料品と日用品を同時に購入するケースでは、0%対象商品と10%対象商品が同じレシートや請求書に記載されます。このとき、インボイスの税区分が誤っていると、10%対象商品の仕入税額控除にも影響する可能性があります。

したがって、税率引下げが実施される場合には、販売側・購入側の双方でインボイス対応を確認することが重要です。


経理処理で想定される課題

食料品の消費税率が0%または1%に変更された場合、経理処理でも注意が必要です。


まず、売上側では、税率区分ごとの売上集計が必要になります。現行の8%区分が0%または1%に変わる場合でも、10%商品や非課税取引、不課税取引との区分を明確にする必要があります。


次に、仕入側では、仕入税額控除の対象となる取引かどうかを確認しなければなりません。特に0%課税と非課税を誤ると、仕入税額控除の計算に影響します。


また、返品・値引き・リベートなどについて、税率変更前後で正しい税率を適用できるようにする必要があります。


会計ソフトの税区分設定も、早めに確認しておくべきです。


制度の詳細を早期に示すことが重要

事業者側のシステム対応には時間がかかります。0%案の場合でも1%案の場合でも、政府が早期に方針を示し、その後方針を変更しないことが重要と考えられています。


これは実務上、とても大切なポイントです。

税率変更は、システム会社、レジメーカー、会計ソフト会社、小売業者、卸売業者、食品メーカー、経理部門、店舗スタッフなど、多くの関係者に影響します。制度の詳細が直前まで決まらなかったり、途中で方針が変わったりすると、現場の対応が間に合わなくなる可能性があります。


事業者としては、正式決定前であっても、現行システムが0%税率に対応できるか、税率変更時にどの程度の改修期間が必要かを確認しておくとよいでしょう。


事業者が今から確認しておきたいこと

食料品の消費税率引下げが実際に決定した場合に備え、食料品を扱う事業者は次の点を確認しておくと安心です。

  • 現在のレジ・POSが0%税率に対応できるか

  • 0%課税と非課税を区別できるか

  • 1%など低税率への変更が可能か

  • インボイスに0%対象商品を適切に表示できるか

  • 商品マスタの税率変更を一括で行えるか

  • 税率変更前商品の返品処理に対応できるか

  • 会計システムへ正しい税区分で連携できるか

  • 値札・棚札・レシート表示の変更にどの程度時間がかかるか

  • システム会社やレジメーカーの対応方針を確認しているか

  • 店舗スタッフ向けのマニュアル更新が必要か


制度が決まってから慌てて確認するのではなく、あらかじめ自社システムの制約を把握しておくことが重要です。


まとめ

食料品の消費税率を現行8%から0%または1%へ引き下げる議論が行われています。消費者にとっては家計負担の軽減が期待される一方で、事業者にとってはレジ、POS、販売管理、会計、インボイス発行などのシステム改修が大きな課題になります。


特に税率0%案では、0%課税と非課税をシステム上正しく区別できるかが重要です。もし食料品の0%売上げが非課税取引として誤って処理されると、小売事業者の仕入税額控除に影響する可能性があります。また、0%対象商品を適切に記載したインボイスを発行できない場合、購入側事業者の仕入税額控除にも影響が出るおそれがあります。


0%案の場合、制度詳細の公表後、システム改修には最大10か月から1年程度かかる可能性があります。一方、1%案の場合は、0%課税と非課税を区別するための改修などが不要となるため、改修期間は最大5、6か月程度に短縮できる可能性があります。


ただし、1%案であっても、税率変更前に8%で販売した商品の返品を税率変更後に処理する場合など、手入力で税率を修正する対応が必要になることがあります。


食料品の消費税減税が実施されるかどうかは今後の制度設計次第ですが、食品を扱う事業者は、0%課税への対応可否、インボイス発行、返品処理、会計システム連携について、早めに確認しておくことが大切です。



神戸の税理士事務所ロゴ

コメント


bottom of page