法人成りしたらインボイス登録番号は引き継げる?個人事業主から法人化するときの手続きを税理士が解説
- 安田 亮
- 3 日前
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こんにちは!代表の安田です。
個人事業主として事業を続けていると、売上規模の拡大、節税、社会的信用、従業員採用、取引先対応などを理由に、法人化、いわゆる「法人成り」を検討することがあります。
インボイス制度が始まった現在では、法人成りの際に特に注意したいのが、適格請求書発行事業者、いわゆるインボイス発行事業者の登録です。
個人事業主としてすでにインボイス登録をしている場合でも、法人成りをすれば、その登録番号を法人がそのまま使えるわけではありません。個人事業主と新設法人は、消費税法上、別の事業者として扱われます。
そのため、個人事業主の登録番号は法人に引き継がれず、個人側では廃業に関する手続き、法人側では新たなインボイス登録に関する手続きが必要になります。
この手続きを忘れると、法人化後に取引先へインボイスを交付できない期間が生じるおそれがあります。特に、法人化後すぐにインボイスを発行したい場合には、設立初年度から課税事業者になるための手続きや、新設法人等の登録時期の特例を確認する必要があります。
この記事では、個人事業主が法人成りするときのインボイス登録番号の取扱い、個人側・法人側で必要な消費税手続き、資本金1,000万円未満の法人が設立初年度からインボイス登録を受ける方法、簡易課税を選ぶ場合の注意点を解説します。
法人成りとは
法人成りとは、個人事業主として行なっていた事業を法人に移すことをいいます。
たとえば、個人で飲食店、EC販売、コンサル業、士業事務所、建設業、デザイン業、ITサービス業などを営んでいた人が、株式会社や合同会社を設立し、その法人で事業を継続するケースです。
法人成りをすると、事業の主体が個人から法人へ変わります。
屋号や店舗名、取引先、従業員、事業内容がほとんど同じであっても、税務上は「個人事業主」と「法人」は別人格です。
そのため、所得税・法人税・消費税・源泉所得税・社会保険・労働保険など、さまざまな手続きが必要になります。
インボイス登録も同じです。「個人で登録済みだから、法人でも同じ番号を使える」とは考えないようにしましょう。
個人のインボイス登録番号は法人に引き継がれない
個人事業主がインボイス発行事業者として登録を受けていた場合でも、法人成りにより新たに設立した法人は、個人事業主とは別の事業者です。そのため、個人事業主の登録番号を法人が引き継ぐことはできません。
個人事業主の登録番号は、個人に付与された登録番号です。
一方、法人の登録番号は、法人番号を基礎とした番号になります。
取引先から見ると、法人成り後の請求書には、個人時代の登録番号ではなく、新設法人としての登録番号を記載する必要があります。
法人成り後も個人時代の登録番号を記載した請求書を発行してしまうと、取引先の仕入税額控除に影響する可能性があります。
したがって、法人化のタイミングでは、請求書・領収書・契約書・販売管理システム・ECサイト・レジ・領収書テンプレートなどの登録番号を必ず見直しましょう。
個人事業主側では廃業に関する手続きが必要
法人成りにより、個人事業としての事業を廃止する場合、個人事業主側では廃業に関する届出が必要になります。消費税について、個人事業主が課税事業者であった場合には、事業廃止届出書などの提出を検討します。
個人事業者が課税事業者である場合、個人事業の廃業の手続として「事業廃止届出書」等を提出する必要があり、インボイス発行事業者として登録を受けていた場合には、その届出書等の提出により、事業廃止日の翌日に登録の効力が失われます。
つまり、個人事業主としてのインボイス登録は、法人設立によって自動的に法人へ移るのではなく、個人事業の終了とともに失効していくものです。
また、個人事業を廃止した年については、所得税の確定申告、消費税の確定申告、青色申告の取扱い、事業用資産を法人へ移す場合の譲渡処理なども確認が必要です。
法人側では新たにインボイス登録が必要
法人成り後の法人がインボイスを発行するには、その法人自身が適格請求書発行事業者として登録を受ける必要があります。
国税庁も、インボイスは税務署長の登録を受けた適格請求書発行事業者でなければ交付できず、登録を受けるには「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出する必要があると案内しています。
新設法人が登録を受ける場合、資本金の額や設立初年度の納税義務の有無によって、必要な手続きが変わります。
特に注意したいのは、資本金1,000万円未満の法人です。
資本金1,000万円未満で設立した法人は、原則として設立後2年間、基準期間がないため免税事業者になることが多いです。
しかし、インボイス発行事業者として登録を受けられるのは、原則として課税事業者に限られます。したがって、設立初年度からインボイスを発行したい場合には、免税事業者のままではなく、課税事業者になるための手続きと、インボイス登録申請が必要になります。
資本金1,000万円以上の新設法人は原則として課税事業者
新たに設立した法人で、事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上である場合、設立初年度から消費税の納税義務は免除されません。
つまり、原則として課税事業者になります。
この場合、消費税の新設法人に該当する旨の届出書などの提出が必要になります。
資本金1,000万円以上の法人が設立初年度からインボイス登録を受けたい場合には、課税事業者であることを前提に、法人として登録申請書を提出します。
ただし、課税事業者であっても、自動的にインボイス登録されるわけではありません。
登録申請書の提出と、税務署長による登録簿への登載が必要です。
資本金1,000万円未満の法人は原則として免税事業者
資本金1,000万円未満で法人を設立した場合、設立1期目・2期目は、原則として基準期間がないため免税事業者になることが多いです。
この点だけを見ると、消費税の納税負担がないため有利に見えます。
しかし、インボイス制度では注意が必要です。
免税事業者は、原則としてインボイス発行事業者の登録を受けられません。
そのため、法人化後に取引先からインボイスの交付を求められる事業であれば、設立初年度から課税事業者になることを検討しなければなりません。
たとえば、個人事業主時代から法人・個人事業主など課税事業者向けにサービスを提供していた場合、法人化後にインボイスを発行できないと、取引先の仕入税額控除に影響し、価格交渉や取引継続に影響する可能性があります。
一方、取引先のほとんどが一般消費者で、インボイスを求められることが少ない事業では、設立初年度から登録するかどうかを慎重に検討する余地があります。
設立初年度からインボイス登録を受けるための登録時期の特例
資本金1,000万円未満の新設法人が、設立初年度からインボイス発行事業者になりたい場合には、新たに設立された法人等の登録時期の特例を確認します。
国税庁Q&Aでは、新たに設立された法人が免税事業者である場合、事業を開始した日の属する課税期間の末日までに、課税選択届出書を提出すれば、その課税期間の初日から課税事業者になることができるとされています。さらに、同じ期限までに、課税期間の初日から登録を受けようとする旨を記載した登録申請書を提出し、税務署長により登録簿へ登載された場合、その課税期間の初日に登録を受けたものとみなされます。
つまり、設立初年度からインボイス登録を受けたい場合には、原則として次の書類を、事業開始日の属する課税期間の末日までに提出します。
・消費税課税事業者選択届出書
・適格請求書発行事業者の登録申請書資本金1,000万円未満の法人が設立1年目から登録を受けようとする場合には、課税事業者の選択と登録申請を同時に行える登録時期の特例があり、課税選択届出書と登録申請書を事業開始日の属する課税期間の末日までに提出する必要があると整理されています。
ただし、免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中にインボイス登録を受ける場合には、一定の経過措置により、課税事業者選択届出書の提出をしなくても、登録日から課税事業者となる取扱いがあります。また、課税事業者選択届出書を提出した場合には2割特例や3割特例を使えなくなるという点にも注意が必要です。
また、新設法人が事業開始日の属する課税期間の初日から登録を受けたものとみなされるためには、登録申請書に「課税期間の初日から登録を受けようとする旨」を記載するなど、登録時期の特例の要件を満たす必要があります。
国税庁Q&Aでもこの経過措置に触れたうえで、登録申請書に「課税期間の初日から登録を受けようとする旨」を記載することにより、事業を開始した課税期間の初日に遡って登録を受けたものとみなされると説明されています。
このあたりは、設立日、課税期間、登録希望日、登録申請書の記載内容によって結論が変わるため、法人成り前にスケジュールを確認しておくことが重要です。
期限が休日でも課税期間末日までに提出が必要
新たに設立された法人等の登録時期の特例では、提出期限に注意が必要です。
国税庁Q&Aでは、事業を開始した日の属する課税期間の末日が日曜日、祝日、土曜日、12月29日から12月31日などに当たる場合であっても、その課税期間の末日までに課税選択届出書や登録申請書の提出がなければ、登録時期の特例の適用を受けることはできないと注意喚起されています。
通常の税務申告では、期限が土日祝日の場合に翌開庁日へ延びる場面があります。
しかし、この特例については、課税期間末日までに提出が必要とされています。
設立初年度からインボイス登録を受けたい法人は、決算月の末日ギリギリに手続きしないよう、早めに登録申請を進めましょう。
法人成り後に簡易課税を使いたい場合
法人成り後の法人が課税事業者となる場合、原則課税で消費税を計算するか、簡易課税制度を選択するかを検討します。
簡易課税制度は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下である事業者について、実際の仕入税額を集計する代わりに、業種ごとのみなし仕入率を使って納付税額を計算する制度です。
新設法人が事業を開始した課税期間から簡易課税制度を適用したい場合には、原則として、その事業を開始した課税期間の末日までに、消費税簡易課税制度選択届出書を提出する必要があります。
簡易課税は事務負担を軽減できる一方、業種や仕入・経費の構成によっては原則課税より不利になることもあります。
法人化初年度の設備投資が大きい場合には、原則課税の方が有利になる可能性もあります。
登録申請とあわせて、簡易課税を選ぶかどうかも試算しておきましょう。
法人成りのタイミングで確認すべき消費税の論点
法人成りでは、インボイス登録だけでなく、消費税全体の設計が重要です。
特に、次の点を確認しましょう。
・個人事業主の課税事業者・免税事業者の区分
・個人事業主のインボイス登録の有無
・個人事業の廃止日
・法人の設立日
・法人の事業開始日
・法人の資本金
・法人の決算月
・法人設立初年度からインボイスが必要か
・課税事業者選択届出書が必要か
・登録申請書の提出期限
・簡易課税制度を選択するか
・個人から法人へ資産を移す際の消費税法人成りでは、個人事業の売上をいつまで個人で計上し、いつから法人で計上するのかも重要です。
個人名義でインボイスを発行する期間と、法人名義でインボイスを発行する期間が混在しないよう、請求書発行日、役務提供日、納品日、契約切替日を整理しておきましょう。
請求書・契約書・取引先通知の切替えも忘れない
法人としてインボイス登録を受けたら、請求書や領収書の様式も変更する必要があります。
法人成り後は、請求書の発行者名、住所、登録番号、振込先口座などが変わります。
個人時代の情報が残ったままだと、取引先が誤って処理してしまう可能性があります。
法人成りの前後では、次の書類・システムを確認しましょう。
・請求書テンプレート
・領収書テンプレート
・納品書
・見積書
・契約書
・販売管理システム
・会計ソフト
・ECサイト
・レジシステム
・決済サービスの登録情報
・銀行口座情報また、取引先には、法人成りにより事業主体が法人へ変わること、法人の正式名称、法人番号、インボイス登録番号、適用開始日、振込先口座などを事前に案内しておくとスムーズです。
法人成り直後に登録番号が間に合わない場合
法人設立後、登録申請をしても、登録通知が届くまで一定の時間がかかることがあります。
法人化直後から取引先にインボイスを求められる場合、登録番号の通知が間に合わないと、請求書発行に困ることがあります。
このような事態を避けるためには、法人設立後すぐに登録申請を行ない、取引先にも登録手続中であることを説明しておく必要があります。
登録が完了した後、登録番号を記載した請求書を再発行する、または不足事項を通知するなどの対応を検討することになります。
ただし、取引先との実務対応や保存書類の整合性が重要になるため、法人成り前から登録スケジュールを確認しておくのが理想です。
個人事業を一部継続する場合
法人成りといっても、すべての事業を法人へ移すとは限りません。
個人事業の一部を残し、別の事業だけを法人に移すケースもあります。
この場合、個人事業主としてのインボイス登録を廃止するかどうかは慎重に判断する必要があります。
個人事業を継続するのであれば、個人の登録番号は引き続き必要になる可能性があります。
一方、法人で行なう取引については、法人としての登録番号が必要です。
個人と法人の両方で事業を行う場合には、請求書の発行者、売上計上主体、契約主体、登録番号を明確に区分しなければなりません。
個人で行う事業
→ 個人名義の請求書、個人の登録番号
法人で行う事業
→ 法人名義の請求書、法人の登録番号この区分が曖昧だと、消費税だけでなく、所得税・法人税の売上計上にも影響します。
よくあるミス
1. 個人の登録番号を法人の請求書に記載してしまう
個人事業主と法人は別事業者です。
法人の請求書には、法人自身の登録番号を記載する必要があります。
2. 法人成りすれば登録番号も自動的に移ると思っている
登録番号は引き継がれません。個人側の廃業手続きと、法人側の登録申請がそれぞれ必要です。
3. 資本金1,000万円未満だから消費税は気にしなくてよいと考える
資本金1,000万円未満の新設法人は免税事業者になり得ますが、免税事業者のままでは原則としてインボイス登録を受けられません。
設立初年度から登録が必要か検討しましょう。
4. 登録時期の特例の提出期限を過ぎてしまう
設立初年度から登録を受けたい場合、原則として事業開始日の属する課税期間の末日までに必要書類を提出する必要があります。
期限が休日でも延びない点に注意が必要です。
5. 簡易課税の届出を忘れる
設立初年度から簡易課税を適用したい場合、事業を開始した課税期間の末日までに簡易課税制度選択届出書を提出する必要があります。
法人成り時のインボイス手続きチェックリスト
法人成りを予定している個人事業主は、次の点を確認しましょう。
1. 個人のインボイス登録状況を確認する
個人事業主として登録済みか、登録番号は何か、法人成り後も個人事業を続けるかを確認します。
2. 個人事業の廃業日を決める
個人としていつまで事業を行い、いつから法人で事業を行うかを明確にします。
3. 法人の設立日・事業開始日・決算月を確認する
登録時期の特例や提出期限に影響します。
4. 法人の資本金を確認する
資本金1,000万円以上なら原則課税事業者、1,000万円未満なら原則免税事業者となる可能性があります。
5. 法人設立初年度からインボイスが必要か判断する
取引先が課税事業者か、インボイスを求められるかを確認します。
6. 課税事業者選択届出書の要否を確認する
資本金1,000万円未満の免税事業者が設立初年度から登録を受ける場合、必要になることがあります。
7. 登録申請書を提出する
法人として適格請求書発行事業者の登録申請を行います。
8. 簡易課税を選ぶか試算する
原則課税と簡易課税で納税額を比較し、必要なら簡易課税制度選択届出書を提出します。
9. 請求書・領収書を切り替える
法人名、法人所在地、法人の登録番号、振込先口座を反映します。
10. 取引先へ通知する
法人成り日、法人名、登録番号、請求書の切替日などを案内します。
まとめ
個人事業主が法人成りする場合、個人事業主としてのインボイス登録番号を、新設法人がそのまま引き継ぐことはできません。個人事業主と法人は、消費税法上、別の事業者として扱われます。
そのため、個人事業主側では、事業廃止届出書など廃業に関する手続きが必要になり、インボイス登録を受けていた場合には、事業廃止日の翌日にその登録の効力が失われます。
一方、法人側では、新たに法人として適格請求書発行事業者の登録申請を行なう必要があります。
資本金1,000万円以上の新設法人は、原則として設立初年度から消費税の課税事業者となるため、消費税の新設法人に該当する旨の届出書などを提出し、必要に応じてインボイス登録申請を行ないます。
資本金1,000万円未満の新設法人は、原則として設立初年度は免税事業者となることが多いですが、免税事業者のままでは原則としてインボイス登録を受けられません。
設立初年度からインボイスを発行したい場合には、事業開始日の属する課税期間の末日までに、原則として課税事業者選択届出書と登録申請書を提出し、新たに設立された法人等の登録時期の特例を活用することを検討しますが、令和11年9月30日までの日の属する課税期間の特例により、登録申請書のみの提出でも課税事業者となります。また、課税事業者選択届出書を提出した場合には2割特例や3割特例を使えなくなるという点にも注意が必要です。
また、設立初年度から簡易課税制度を適用したい場合には、事業を開始した課税期間の末日までに簡易課税制度選択届出書を提出する必要があります。
法人成りでは、個人の廃業、法人設立、消費税の課税事業者判定、インボイス登録、簡易課税、請求書様式の切替え、取引先通知をまとめて管理することが重要です。
インボイス登録番号の空白期間や請求書の記載誤りが生じないよう、法人設立前からスケジュールを組んで対応しましょう。




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