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関連者間取引の書類保存特例とは?青色申告取消しとの関係と企業が確認すべき実務対応

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 1 時間前
  • 読了時間: 9分

こんばんは!代表の安田です。


令和8年度税制改正により、「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例」が創設されました。


この制度は、親会社・子会社など一定の関係にある法人間で、工業所有権等の譲渡・貸付けや、一定の役務提供を受ける場合に、取引内容や対価の算定根拠などを確認できる書類の保存を求めるものです。


特にグループ会社間の取引では、外部の第三者との取引に比べて、契約書や請求書の記載が簡略化されているケースがあります。たとえば、請求書に「経営指導料 一式」「業務支援料 一式」などとだけ記載され、具体的にどのような役務が提供されたのか、対価がどのように計算されたのかが分かりにくいケースです。


このような場合、税務調査において取引の実態を確認しにくくなります。そのため、一定の関連者間取引について、必要な事項が既存書類に記載されていない場合には、その不足事項を明らかにする書類を取得・作成し、保存することが求められるようになりました。


関連者間取引に係る書類保存特例の概要

今回の特例は、青色申告法人が関連者から一定の取引を受ける場合に問題となります。

対象となる取引の代表例は、次のようなものです。

  • 工業所有権等の譲渡や貸付け

  • 技術、ノウハウ等に関する権利の利用

  • 経営指導、管理業務、業務支援などの役務提供

  • 費用分担契約に基づくグループ内サービス


制度上は、まず既存の契約書、請求書、注文書、覚書、社内資料などに、必要な事項が記載されているかを確認します。


既存書類に、取引の内容や対価の額、対価の算定方法などが第三者から見て客観的に把握できる程度に記載されていれば、追加書類の作成が不要となる場合があります。


一方で、既存書類だけでは必要な情報が不足している場合には、その不足している事項を明らかにする書類、いわゆる「特定事項記載書類」を取得または作成し、保存する必要があります。


「一式」や抽象的な記載だけでは不十分な可能性

実務上、特に注意したいのは、グループ会社間の請求書や契約書の記載が簡略化されているケースです。


たとえば、次のような記載だけでは、取引の実態を十分に把握できない可能性があります。

  • 業務委託料 一式

  • 経営指導料 一式

  • ブランド使用料 一式

  • システム利用料 一式

  • 本部費負担金 一式

  • グループ管理費 一式


もちろん、「一式」と記載されているだけで必ず問題になるわけではありません。

しかし、その書類や関連資料を見ても、どのようなサービスを受けたのか、対価がどのように計算されたのか、受け手である法人にどのような利益があるのかが分からない場合には、特定事項記載書類の保存が必要になる可能性があります。


国税庁の事務運営指針では、必要記載事項について、関連者間取引の内容を第三者の立場から客観的に把握できる程度の記載が求められるとされています。


したがって、単に形式的に契約書や請求書があるかどうかではなく、その中身が実態を説明できるものになっているかが重要です。


特定事項記載書類には何を書けばよいか

特定事項記載書類に記載すべき内容は、取引の種類によって異なります。

たとえば、工業所有権等に関する取引であれば、次のような情報が重要になります。

  • 対象となる権利や技術の内容

  • 権利の範囲や存続期間

  • 自社の事業でどのように利用しているか

  • 対価の額

  • 対価の算定方法

  • 利用状況と対価の関係


一方、役務提供に関する取引であれば、次のような情報が重要です。

  • 提供された役務の具体的内容

  • 役務提供の方法

  • 提供された頻度や期間

  • 提供場所、回数、担当部署

  • 役務提供により自社が受ける利益

  • 対価または費用負担額の計算方法

  • 費用配賦の基準や根拠


たとえば、親会社から経営管理サービスを受けている場合には、「経営指導料」といった名目だけではなく、具体的にどのような会議、資料作成、経営管理、財務支援、法務支援、人事支援などが行われたのかを説明できる状態にしておくことが望ましいでしょう。


ローカルファイルがある場合の取扱い

国外関連者との取引については、移転価格税制の関係でローカルファイルを作成している企業もあります。


国税庁の事務運営指針では、ローカルファイルにおいて関連者間取引の内容を客観的に把握できる程度の必要記載事項が記載されている場合には、今回の特例は適用されない、すなわち追加的な特定事項記載書類の作成が不要となる場合があることが示されています。


ただし、ローカルファイルがあるからといって常に安心できるわけではありません。対象取引の内容、対価の算定方法、役務の内容などが、今回の特例で求められる水準で記載されているかを確認する必要があります。


書類がないとすぐに青色申告が取り消されるのか

今回の特例で実務上大きな関心を集めているのが、青色申告の承認取消しとの関係です。

特定事項記載書類が保存されていない場合、法令上は青色申告の承認取消事由に該当し得ます。そのため、制度の創設当初は、「関連者間取引の書類が不十分だと、直ちに青色申告が取り消されるのではないか」と不安を感じた企業も多いと思われます。


しかし、国税庁の事務運営指針では、保存等の有無だけをもって直ちに取消処分の要否を決めることは、青色申告制度の趣旨に照らして必ずしも適切ではないとされています。


つまり、書類がない、または記載が不十分であるという事実だけで、即座に青色申告の承認が取り消されるわけではありません。


実地調査において保存等がない、または記載内容が不十分と認められる場合には、調査担当者が不足している内容などを示したうえで、合理的な期間を定めて、特定事項記載書類の取得・作成・提示を求めるという運用が示されています。


ただし「安心して放置してよい」わけではない

直ちに青色申告が取り消されないからといって、関連者間取引の書類整備を後回しにしてよいわけではありません。


特定事項記載書類の保存等が十分でない場合、税務調査で取引の実態を説明できず、損金算入の妥当性、寄附金該当性、移転価格税制、同族会社等の行為計算否認など、別の税務論点につながる可能性があります。


また、青色申告の取消しそのものについても、違反の程度や是正の可否などを踏まえて判断されるとされています。軽微な不備であれば改善指導にとどまることがあり得る一方、実態を説明できない状態が放置されている場合には、リスクが高まります。


さらに、欠損金の繰越控除との関係にも注意が必要です。帳簿書類の保存等が十分でない場合、欠損金の繰越控除の適用に影響する可能性があります。


したがって、今回の事務運営指針は「納税者に配慮した弾力的な運用」といえますが、「書類整備をしなくてもよい」という意味ではありません。


親会社が書類を一元管理している場合

グループ会社間取引では、契約書や取引内容を親会社が一元的に管理しているケースも少なくありません。


この点について、国税庁の事務運営指針では、内国法人の納税地等に書類そのものが保存されていない場合でも、調査担当者の求めに応じて、親会社その他の関連者から必要事項を遅滞なく入手し、提示できると認められるときは、納税地等において保存等が行なわれているものとして取り扱うことが示されています。


これは実務上、非常に重要です。

たとえば、子会社側では契約書の写しや算定資料を保管していないものの、親会社の経理部・税務部・法務部が一元管理しており、必要なときに速やかに提出できる体制がある場合には、一定の配慮がされる可能性があります。


ただし、「親会社にあるはず」というだけでは不十分です。

どの部署が保管しているのか、どの資料を依頼すればよいのか、何日程度で入手できるのか、子会社側の担当者が把握しているか、といった点まで整理しておく必要があります。


企業が今すぐ確認すべき実務対応

今回の特例に対応するため、企業は次のような手順で確認を進めるとよいでしょう。


1. 関連者間取引を洗い出す

まず、親会社、子会社、兄弟会社、その他の関連者との取引を一覧化します。

特に、次のような勘定科目に注意が必要です。

  • 支払手数料

  • 業務委託費

  • 経営指導料

  • ロイヤルティ

  • システム利用料

  • 研究開発費負担金

  • 本部費負担金

  • 出向者負担金

  • グループ管理費

  • ブランド使用料


会計データから関連者向けの支払を抽出し、取引内容ごとに分類しておくと実務上確認しやすくなります。


2. 契約書・請求書・社内資料の記載内容を確認する

次に、各取引について、既存書類に必要な情報が記載されているかを確認します。

確認すべきポイントは、次のとおりです。

  • 取引の具体的内容が分かるか

  • 役務提供の頻度、期間、方法が分かるか

  • 対価の額が分かるか

  • 対価の算定方法が分かるか

  • 費用配賦の基準が分かるか

  • 自社が受ける便益を説明できるか

  • 第三者が見ても取引実態を把握できるか


この確認では、「経理担当者なら何となく分かる」という水準では不十分です。税務調査時に外部者へ説明できるか、という視点で見直すことが重要です。


3. 不足がある場合は補足資料を作成する

既存書類だけでは説明が不十分な場合には、特定事項記載書類に相当する補足資料を作成しておきます。たとえば、次のような資料が考えられます。

  • 取引内容説明書

  • 役務提供内容の一覧表

  • 費用配賦計算表

  • ロイヤルティ算定資料

  • 親会社からの提供サービス一覧

  • 会議資料、報告書、成果物

  • 契約書の補足覚書・算定根拠メモ


重要なのは、形式的な書類名ではなく、取引の実態と対価の合理性を説明できる内容になっているかどうかです。


4. 親会社・関連会社との資料入手ルートを整える

資料を親会社や海外関連会社が保管している場合には、必要なときに速やかに入手できる体制を整えておく必要があります。


特に、海外親会社との取引では、日本側の税務調査で求められる情報を海外側がすぐに理解できないこともあります。そのため、事前に必要資料の範囲、担当部署、提出までの期間を確認しておくことが望ましいです。


まとめ

関連者間取引に係る書類の整理保存の特例は、グループ会社間取引の実態や対価の算定根拠を確認できるようにするための制度です。


契約書や請求書などに必要な情報が十分に記載されていない場合には、特定事項記載書類を取得・作成し、保存する必要があります。


一方で、国税庁の事務運営指針では、保存等がないことや記載が不十分であることだけをもって、直ちに青色申告の承認取消しを行うものではないことが示されています。税務調査では、不足内容を示したうえで、合理的な期間内に取得・作成・提示を求めるなど、弾力的な運用が予定されています。


ただし、これは書類整備を不要とするものではありません。関連者間取引の内容を説明できない場合には、税務上の否認リスクや欠損金の繰越控除への影響など、別の問題につながる可能性があります。


親会社・子会社・関連会社との取引がある企業は、早めに関連者間取引を洗い出し、契約書・請求書・算定資料の記載内容を確認しておくことをおすすめします。

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