雇用調整助成金とは?休業・教育訓練・出向による雇用維持を支援する制度を解説
- 安田 亮
- 7月13日
- 読了時間: 11分
更新日:4 日前
こんばんは!代表の安田です。
景気の悪化、取引先からの受注減少、原材料価格の高騰、サプライチェーンの混乱などにより、一時的に事業活動を縮小せざるを得ない場面があります。
そのようなとき、すぐに従業員を解雇するのではなく、休業、教育訓練、出向などにより雇用を維持する企業を支援する制度が「雇用調整助成金」です。
雇用調整助成金は、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、従業員の雇用を守るために一時的な休業、教育訓練、出向を実施した場合に、その費用の一部を助成する制度です。
本日は、雇用調整助成金の概要、対象となる事業主、助成率、教育訓練加算、申請の流れ、注意点について、公認会計士・税理士の視点からわかりやすく解説します。

雇用調整助成金とは
雇用調整助成金とは、景気の変動、産業構造の変化、原材料の入手困難、価格高騰などの経済上の理由により、事業活動を縮小せざるを得なくなった事業主が、従業員の雇用を維持するために活用できる助成金です。対象となる雇用調整の方法は、主に次の3つです。
休業
教育訓練
出向
たとえば、受注が一時的に減少したため従業員を休業させる場合、休業期間中に従業員へ教育訓練を実施する場合、雇用を維持するために一時的に他社へ出向させる場合などが想定されます。
雇用調整助成金の目的は、企業が一時的に苦しい状況にあっても、従業員を解雇せず、雇用を維持できるようにすることです。
そのため、単に売上が下がった会社に対して資金を補填する制度ではありません。労使間の協定に基づき、雇用維持のための休業、教育訓練、出向を実施することが前提となります。
対象となる事業主
雇用調整助成金の対象となるのは、雇用保険の適用事業主です。
企業規模は問われません。中小企業だけでなく、大企業も対象となります。
ただし、受給するためには、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされていることが必要です。
主な要件として、次のようなものがあります。
まず、売上高または生産量など、事業活動を示す指標の最近3か月間の月平均値が、前年同期に比べて10%以上減少していることが必要です。
これを「生産量要件」といいます。
次に、雇用保険被保険者数と受け入れている派遣労働者数の最近3か月間の月平均値が、前年同期と比較して一定以上増加していないことも必要です。
中小企業の場合は、10%を超えて、かつ4人以上増加していないことが要件とされています。大企業の場合は、5%を超えて、かつ6人以上増加していないことが要件とされています。
これを「雇用量要件」といいます。
つまり、売上や生産量が減っている一方で、雇用者数が大きく増えている場合には、雇用調整助成金の対象にならない可能性があります。
対象となる休業・教育訓練・出向
雇用調整助成金では、休業、教育訓練、出向のいずれかを実施することが必要です。
<休業>
休業とは、労使間の協定に基づき、所定労働日に従業員を休ませることをいいます。
休業は、所定労働時間内に実施される必要があります。短時間休業の場合には、対象労働者の一部または全員について、一定時間以上の休業を行うことが必要です。
休業を行なう場合、会社は労働基準法上の休業手当を支払う必要があります。雇用調整助成金では、その休業手当に相当する額の一部が助成されます。
<教育訓練>
教育訓練とは、休業期間などを活用して、従業員に職業に関する知識、技能、技術を習得・向上させるための訓練を行うものです。たとえば、次のようなものが対象になり得ます。
生産性向上に関する研修
業務に必要な資格や免許に関する講習DX、AI、GXなど新しい技術を業務に活用するための研修
マネジメント研修
ビジネススキル研修
外部講師を招いた業務関連研修
一方で、職業能力の向上と直接関係しない研修は対象外となる可能性があります。
たとえば、モラル向上研修、一般的なマナー講習、懇親会やイベント、通常業務と区別がつかない自社商品知識研修、講師不在の単なる動画視聴や自習などは、支給対象外とされることがあります。
教育訓練を活用する場合は、「従業員の職業能力の向上につながる内容か」「実施状況を客観的に確認できるか」を意識することが重要です。
<出向>
出向とは、対象期間内に従業員を他社へ出向させ、一定期間後に出向元事業所へ復帰させるものです。
出向についても、雇用維持を目的とするものである必要があります。
出向の場合は、休業や教育訓練とは様式や確認書類が異なるため、実施前に労働局やハローワークに確認することをおすすめします。
助成率と支給上限
雇用調整助成金の助成額は、休業を実施した場合には休業手当相当額、教育訓練を実施した場合には賃金相当額に助成率を乗じて計算されます。
令和8年4月1日現在の厚生労働省の案内では、休業・教育訓練の場合、受給額には1人1日あたり8,870円を上限とするなどの基準があります。
支給日数は、休業・教育訓練の場合、その初日から1年の間に最大100日分、3年の間に最大150日分とされています。
助成率は、累計の支給日数や教育訓練実施率によって異なります。
累計の支給日数が30日に達した判定基礎期間までは、原則として中小企業は3分の2、大企業は2分の1とされています。
その後、累計支給日数が30日に達した判定基礎期間の次の判定基礎期間からは、教育訓練実施率に応じて助成率が変わります。
教育訓練実施率が10分の1未満の場合、中小企業は2分の1、大企業は4分の1です。
教育訓練実施率が10分の1以上5分の1未満の場合、中小企業は3分の2、大企業は2分の1です。
教育訓練実施率が5分の1以上の場合、中小企業は3分の2、大企業は2分の1です。
つまり、一定以上の教育訓練を実施することで、助成率を維持しやすくなります。
教育訓練加算額
教育訓練を実施した場合には、助成額とは別に、1人1日あたりの教育訓練加算が設けられています。
累計支給日数が30日に達した判定基礎期間までは、教育訓練加算額は1人1日あたり1,200円です。
累計支給日数が30日に達した判定基礎期間の次の判定基礎期間からは、教育訓練実施率により教育訓練加算額が変わります。
教育訓練実施率が5分の1未満の場合は1,200円、5分の1以上の場合は1,800円です。
教育訓練加算額は、1人1日あたりの支給上限額には含まれません。
休業だけでなく教育訓練を組み合わせることで、従業員のスキルアップを図りながら助成金を活用できる点は、実務上大きなポイントです。
教育訓練実施率とは
教育訓練実施率とは、休業等の延日数のうち、教育訓練を実施した日数の割合をいいます。
たとえば、ある判定基礎期間において、休業と教育訓練の延日数が合計100日あり、そのうち教育訓練を20日実施した場合、教育訓練実施率は5分の1、つまり20%です。
教育訓練実施率が5分の1以上になると、教育訓練加算額が1,800円となります。
雇用調整助成金を活用する際は、単に休業日数を管理するだけでなく、教育訓練をどの程度実施するのかも計画段階で整理しておくことが重要です。
申請の流れ
雇用調整助成金の申請では、原則として事前に計画届を提出する必要があります。
大まかな流れは次のとおりです。
雇用調整の内容を検討する
労使間で休業協定・教育訓練協定等を締結する
計画届を提出する
計画に基づき休業、教育訓練、出向を実施する
支給申請書を作成する
労働局で審査が行われる
支給決定後、助成金が振り込まれる
計画届の提出期限は、休業等を開始する日の前日までです。
出向を行う場合は、支給対象期の初日の前日までに提出する必要があります。
なお、初回の届出は、休業等の初日の2週間前までを目安に提出することが推奨されています。
事前に計画届の提出がない休業等は、雇用調整助成金の支給対象にならないため注意が必要です。
支給申請は、支給対象期間または支給対象期の末日の翌日から2か月以内に行なう必要があります。期限を過ぎると、要件を満たしていても支給されない可能性があります。
必要書類
雇用調整助成金では、計画届と支給申請でそれぞれ必要書類があります。
休業や教育訓練の場合、主な書類として次のようなものが必要になります。
休業等実施計画届
雇用調整実施事業所の事業活動の状況に関する申出書
雇用調整実施事業所の雇用指標の状況に関する申出書
教育訓練計画一覧表
休業協定書、教育訓練協定書
事業所の状況に関する書類
教育訓練の内容に関する書類
支給申請書
助成額算定書
休業・教育訓練実績一覧表
労働日、休日、休業、教育訓練の実績に関する書類
教育訓練の受講実績に関する書類
書類の様式は年度や制度改正により更新されることがあります。
実際に申請する際は、厚生労働省の様式ダウンロードページから最新様式を取得し、古い様式を使わないように注意しましょう。
税務上の取扱い
雇用調整助成金を受け取った場合、法人であれば原則として収益に計上され、法人税の課税対象となります。
個人事業主の場合も、原則として事業所得の収入金額に含まれます。
助成金は「税金がかからない収入」と誤解されることがありますが、通常は課税対象です。
また、雇用調整助成金は、休業手当や賃金の負担を補う性格の助成金です。そのため、設備投資補助金のような圧縮記帳の対象には通常なりません。
会計処理では、対象となる休業手当や賃金の発生時期、助成金の支給決定時期、入金時期がずれることがあります。
決算期をまたぐ場合は、収益計上時期について顧問税理士や会計担当者と確認しておくことが重要です。
不正受給には厳しい対応がある
雇用調整助成金では、不正受給への対応が厳格化されています。
実際には休業を実施していないにもかかわらず休業したものとして申請する、教育訓練を実施していないのに実施したものとして申請する、賃金台帳や出勤簿を改ざんする、といった行為は不正受給に該当します。
不正受給が認められた場合、不正の事実があった時点以降の受給額の返還、事業所名の公表、悪質な場合には詐欺罪等による告発の対象となることがあります。
助成金は、実態に基づいて正しく申請することが大前提です。
特に雇用調整助成金では、出勤簿、賃金台帳、休業協定、教育訓練の実施記録、受講者名簿、教材、講師資料など、実態を確認できる資料を整えておく必要があります。
雇用調整助成金が向いている事業主
雇用調整助成金は、次のような事業主に向いています。
一時的に売上や生産量が減少している
従業員を解雇せず雇用を維持したい
休業期間中に教育訓練を実施したい
受注回復までの間、従業員のスキルアップを図りたい
一時的な出向により雇用維持を図りたい
原材料価格高騰や取引先事情により事業活動が縮小している
一方で、恒常的に事業継続が困難な場合や、休業ではなく人員整理を前提としている場合、実態のない休業や教育訓練を計画している場合には、制度の趣旨に合いません。
雇用調整助成金は、あくまで一時的な雇用調整により雇用を守るための制度です。
まとめ
雇用調整助成金は、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、従業員の雇用を維持するために休業、教育訓練、出向を行う場合に活用できる助成金です。
休業・教育訓練の場合、助成額には1人1日あたりの上限があり、支給日数にも限度があります。また、累計支給日数や教育訓練実施率により、助成率や教育訓練加算額が変わります。
特に、教育訓練実施率が5分の1以上となる場合には、教育訓練加算額が1人1日あたり1,800円となるため、休業と教育訓練を組み合わせた計画が重要です。
ただし、申請には事前の計画届が必要であり、支給申請にも期限があります。古い様式を使わず、最新のガイドブックや様式を確認することも大切です。
雇用調整助成金を活用する場合は、売上減少要件、雇用量要件、休業協定、教育訓練の内容、申請期限、証拠書類の整備、会計・税務処理まで含めて、早めに準備を進めることをおすすめします。
神戸での起業や開業に関するご相談、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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