人材開発支援助成金とは?従業員の研修・リスキリングに使える助成金を公認会計士・税理士が解説
- 安田亮
- 7 時間前
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おはようございます!代表の安田です。
従業員のスキルアップや人材育成は、中小企業にとって重要な経営課題です。
新しい事業に挑戦したい、DXを進めたい、デジタル人材を育成したい、若手社員に実務スキルを身につけさせたい、非正規社員を正社員化したい。
このような場合に活用を検討したい制度が「人材開発支援助成金」です。
人材開発支援助成金は、事業主が雇用する労働者に対して、職務に関連した専門的な知識や技能を習得させるための訓練を実施した場合などに、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。
単なる福利厚生としての研修ではなく、職務に関連した能力開発や、事業展開、リスキリング、DX人材育成などに使いやすい助成金です。
本日は、人材開発支援助成金の概要、主なコース、対象となる訓練、助成額、申請時の注意点、税務上の取扱いについて、公認会計士・税理士の視点からわかりやすく解説します。
人材開発支援助成金とは
人材開発支援助成金とは、事業主等が雇用する労働者に対して、職務に関連した専門的な知識や技能を習得させるための職業訓練等を実施した場合に、その費用の一部を助成する制度です。
対象となるのは、原則として雇用保険適用事業所の事業主です。
助成対象となる費用には、主に次のようなものがあります。
外部研修の受講料
講師謝金
教材費
訓練期間中の賃金
OJTを伴う訓練の実施費用
定額制研修サービスの利用料
大学院等での訓練費用
建設労働者向け技能実習に係る費用
ただし、どのような研修でも対象になるわけではありません。
人材開発支援助成金では、職務との関連性、訓練時間、OFF-JTかOJTか、訓練計画の提出時期、対象労働者の雇用形態、受講実績など、コースごとに細かな要件があります。
助成金を活用する場合は、研修を実施する前に、どのコースに該当するかを確認することが重要です。
主なコース
人材開発支援助成金には、2026年度時点で主に次のコースがあります。
人材育成支援コース
教育訓練休暇等付与コース
人への投資促進コース
事業展開等リスキリング支援コース
建設労働者認定訓練コース
建設労働者技能実習コース
障害者職業能力開発コース
ただし、障害者職業能力開発コースは、令和6年4月から独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が支給業務を行う助成金へ移管されています。
実務上、中小企業が一般的に検討しやすいのは、人材育成支援コース、人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コース、教育訓練休暇等付与コースです。
建設業の場合は、建設労働者認定訓練コースや建設労働者技能実習コースも検討対象になります。
人材育成支援コース
人材育成支援コースは、従業員に職務に関連した知識や技能を習得させるための訓練を実施した場合に活用できる基本的なコースです。
主な訓練メニューは次のとおりです。
人材育成訓練
認定実習併用職業訓練
有期実習型訓練
中高年齢者実習型訓練
人材育成訓練は、職務に関連した知識や技能を習得させるためのOFF-JTです。OFF-JTとは、通常の業務遂行の過程とは区別して行なわれる訓練をいいます。
たとえば、会計ソフトの操作研修、営業スキル研修、製造技術研修、ITスキル研修、マネジメント研修などが考えられます。
認定実習併用職業訓練は、OFF-JTとOJTを組み合わせた訓練で、厚生労働大臣の認定を受けたものです。主に新規学校卒業者などを対象に、実務を通じた訓練と座学を組み合わせて人材育成を行う場合に活用されます。
有期実習型訓練は、有期契約労働者等を正社員等へ転換することを目指す訓練です。OFF-JTとOJTを組み合わせて実施し、訓練終了後に正規雇用労働者等への転換等を行うことが前提になります。
2026年度からは、中高年齢者実習型訓練も新設されています。中高年齢層のリスキリングや職務転換を支援する制度として、該当する従業員がいる企業では確認しておきたいポイントです。
人材育成支援コースでは、訓練経費に対する経費助成や、訓練時間中の賃金助成が設けられています。中小企業の場合、訓練内容や対象者によって、経費助成率が高くなることがあります。
教育訓練休暇等付与コース
教育訓練休暇等付与コースは、労働者が自発的に職業能力開発を行なう機会を確保するための制度を導入し、実際に利用した場合に活用できるコースです。
対象となる制度は、主に次の3つです。
教育訓練休暇制度
長期教育訓練休暇制度
教育訓練短時間勤務等制度
教育訓練休暇制度は、3年間に5日以上取得できる有給の教育訓練休暇制度を導入し、実際に労働者がその休暇を取得して訓練を受けた場合に対象となります。
長期教育訓練休暇制度は、30日以上の長期教育訓練休暇を取得できる制度を導入し、実際に適用した場合に対象となります。
教育訓練短時間勤務等制度は、所定労働時間の短縮や所定外労働時間の免除を一定回数以上利用できる制度を導入し、実際に適用した場合に対象となります。
このコースは、会社主導の研修だけでなく、従業員の自発的な学びを支援したい企業に向いています。
たとえば、従業員が資格取得、大学院受講、専門学校受講、外部講座の受講を行うために、有給休暇とは別に教育訓練休暇を付与するような場合です。
なお、長期教育訓練休暇制度と教育訓練短時間勤務等制度は、人への投資促進コースのメニューの一つとしても位置づけられています。制度の位置づけや申請手続は、最新のパンフレットで確認しましょう。
人への投資促進コース
人への投資促進コースは、企業の人材育成を強力に支援するために設けられたコースです。
2022年度から2026年度までの期間限定助成として実施されています。
対象となる主なメニューは次のとおりです。
定額制訓練
高度デジタル人材訓練
成長分野等人材訓練
自発的職業能力開発訓練
情報技術分野認定実習併用職業訓練
長期教育訓練休暇等制度
定額制訓練は、いわゆるサブスクリプション型の研修サービスを利用する場合に活用しやすいメニューです。複数の従業員がオンライン研修サービスを利用して学習するようなケースが考えられます。
高度デジタル人材訓練は、DX推進や高度IT人材の育成に関する訓練を対象とするものです。ITスキル標準やDX推進スキル標準に関連する高度な訓練などが対象となる場合があります。
成長分野等人材訓練は、成長分野に関する大学院等での訓練を行う場合などに活用できます。国内だけでなく、一定の場合には海外の大学院での訓練も対象となることがあります。
自発的職業能力開発訓練は、労働者が自発的に受講する訓練について、事業主が費用を負担する場合に活用できるメニューです。
情報技術分野認定実習併用職業訓練は、IT分野未経験者を即戦力化するため、OFF-JTとOJTを組み合わせた訓練を行う場合に活用できます。
2026年度には、人への投資促進コースに新規採用助成や職務代行助成が追加されています。新たに採用した従業員の研修や、訓練を受講する従業員の業務を代行する体制整備に関係する可能性があるため、最新の支給要領で確認しておきましょう。
事業展開等リスキリング支援コース
事業展開等リスキリング支援コースは、新規事業の立ち上げや事業転換、DX化、グリーン・カーボンニュートラル化などに伴い、従業員に新たな分野で必要となる知識や技能を習得させるための訓練を実施する場合に活用できるコースです。
このコースも、2022年度から2026年度までの期間限定助成として実施されています。
対象となる訓練は、主に次の要件を満たす必要があります。
実訓練時間数が10時間以上であること
OFF-JTであること
職務に関連した訓練であること
事業展開、DX化、グリーン
カーボンニュートラル化等に必要な専門的知識や技能を習得させる訓練であること
ここでいう事業展開には、新たな製品の製造、新たな商品・サービスの提供、新たな分野への進出、事業や業種の転換、既存事業における製造方法や提供方法の変更などが含まれます。
たとえば、次のようなケースが考えられます。
製造業が新製品の製造に必要な技術研修を実施する
飲食業がEC販売に進出するため、従業員にEC運営研修を受講させる
会計事務所がクラウド会計やAI活用の研修を実施する
建設業がBIMやドローン活用の研修を行なう
工場が省エネ設備導入に合わせて、エネルギー管理や脱炭素関連の研修を行なう
2026年度には、事業展開等リスキリング支援コースで設備投資加算が新設されています。新規事業やDX化に伴う訓練と設備投資を一体で進める企業にとっては、確認しておきたい改正点です。
このコースでは、訓練経費に対する経費助成と、訓練期間中の賃金助成があります。中小企業の場合、経費助成率や賃金助成額が比較的手厚く設定されています。
建設労働者認定訓練コース
建設労働者認定訓練コースは、建設業における労働者の育成や技能継承を目的として、建設関連の認定職業訓練または指導員訓練を実施する場合に活用できるコースです。
主な助成には、次のものがあります。
経費助成
賃金助成
賃金向上助成
資格等手当助成
経費助成では、建設関連の認定職業訓練または指導員訓練を実施し、都道府県から一定の補助金の交付を受けている場合に、その経費の一部が助成されます。
賃金助成では、建設労働者に認定職業訓練等を有給で受講させた場合に、訓練受講日数に応じて助成されます。
建設業では、技能者の高齢化や若手不足が深刻です。認定訓練を通じた技能継承や資格取得支援は、採用力や定着率の向上にもつながります。
建設労働者技能実習コース
建設労働者技能実習コースは、建設労働者の技能向上のための実習を有給で受講させる場合に活用できるコースです。
主な助成には、次のものがあります。
経費助成
賃金助成
賃金向上助成
資格等手当助成
対象となる技能実習には、建設業務に関連する実技講習や技能講習などが含まれます。
助成額は、雇用保険被保険者数、企業規模、技能実習の内容、建設キャリアアップシステムの技能者情報登録の有無などによって変わる場合があります。
建設業では、現場作業に必要な資格や技能講習が多くあります。安全性の向上、施工品質の向上、技能者の処遇改善を進めたい企業にとって、検討余地のあるコースです。
申請前に確認すべきポイント
人材開発支援助成金を活用する際は、次の点に注意が必要です。
1. 訓練開始前に計画届の提出が必要
多くのコースでは、訓練を開始する前に、職業訓練実施計画届や制度導入・適用計画届を提出する必要があります。
研修を実施した後で「助成金が使えるかもしれない」と気づいても、原則として間に合わない可能性があります。
外部研修の申込み、契約、受講開始の前に、必ず助成金の要件を確認しましょう。
2. 職務関連性が必要
人材開発支援助成金では、職務に関連した専門的な知識や技能の習得を目的とする訓練であることが重要です。
たとえば、業務に必要なITスキル、製造技術、営業スキル、会計知識、労務管理、マネジメント、DX、GXなどは対象になり得ます。
一方で、業務との関係が薄い一般教養講座や、福利厚生目的の研修、通常業務と区別がつかないOJTだけの研修などは対象外となる可能性があります。
3. OFF-JTとOJTの区別を明確にする
助成金では、OFF-JTとOJTの区別が重要です。
OFF-JTは、通常業務を離れて行う座学や研修です。OJTは、実際の業務を通じて行う訓練です。
コースによって、OFF-JTのみが対象となる場合、OFF-JTとOJTを組み合わせる必要がある場合があります。
訓練カリキュラム、受講時間、講師、教材、実施場所、出席状況などを明確に記録しておきましょう。
4. 受講料等の価格設定に関する疎明書が必要になる場合がある
2026年5月14日以降の支給申請では、一定の場合に「受講料等の価格設定に関する疎明書」の提出が必要となっています。
これは、人材育成支援コース、人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コースなどに関係する改正です。
支給申請時点で必要書類が不足していると、審査が遅れたり、不支給となったりする可能性があります。
実際に申請する際は、最新の支給要領と申請様式を確認しましょう。
5. 電子申請にも対応
人材開発支援助成金の主要コースは、雇用関係助成金ポータルによる電子申請に対応しています。
ただし、電子申請画面が制度改正に追いついていない場合には、追加書類を所定の添付欄にアップロードする必要があるなど、運用上の注意点があります。
電子申請を使う場合でも、申請書類や添付資料の内容が最新要件に合っているかを確認しましょう。
会計・税務上の取扱い
人材開発支援助成金を受け取った場合、法人であれば原則として収益に計上され、法人税の課税対象となります。
個人事業主の場合も、原則として事業所得の収入金額に含まれます。
助成金は「税金がかからない収入」と誤解されることがありますが、通常は課税対象です。
また、人材開発支援助成金は、従業員の研修費や訓練期間中の賃金を補助する性格の助成金です。そのため、設備投資補助金のような圧縮記帳の対象になる場面は通常想定しにくいと考えられます。
一方で、事業展開等リスキリング支援コースの設備投資加算など、今後の制度内容によっては、対象経費の性質を確認する必要があります。
会計処理では、研修費、教育訓練費、給与手当、助成金収入の計上時期に注意が必要です。
助成金の支給決定時期や入金時期が決算期をまたぐ場合は、収益計上時期について顧問税理士に確認しておきましょう。
消費税については、助成金収入そのものは通常、課税売上には該当しません。ただし、研修費用等に係る消費税の仕入税額控除や、税込・税抜の処理には注意が必要です。
人材開発支援助成金が向いている企業
人材開発支援助成金は、次のような企業に向いています。
従業員のスキルアップを進めたい
新入社員研修や若手社員研修を実施したい
非正規社員を正社員化するための訓練を行ないたい
DXやITスキルの研修を実施したい
新規事業に必要な知識や技能を従業員に習得させたい
リスキリングを進めたい
サブスクリプション型の研修サービスを利用したい
従業員の自発的な学びを支援したい
建設業で技能講習や認定訓練を受講させたい
教育訓練休暇制度を整備したい
特に、今後新しい事業に取り組む企業、DX化を進める企業、従業員の能力開発に継続的に投資したい企業には、活用余地があります。
一方で、助成金を受けることだけを目的に研修を実施するのはおすすめできません。
研修は、会社の事業計画や人材戦略と結びついて初めて効果が出ます。どの従業員に、どのスキルを、なぜ身につけてもらうのかを明確にしたうえで、助成金を活用することが大切です。
まとめ
人材開発支援助成金は、従業員の人材育成、スキルアップ、リスキリングを支援する助成金です。
主なコースには、人材育成支援コース、教育訓練休暇等付与コース、人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コース、建設労働者認定訓練コース、建設労働者技能実習コースなどがあります。
2026年度には、人材育成支援コースで中高年齢者実習型訓練が新設され、人への投資促進コースでは新規採用助成・職務代行助成が追加され、事業展開等リスキリング支援コースでは設備投資加算が新設されています。
また、2026年5月14日以降の支給申請では、一定の場合に受講料等の価格設定に関する疎明書の提出が必要となるなど、申請実務上の変更もあります。
人材開発支援助成金を活用する場合は、訓練開始前の計画届、職務関連性、OFF-JTとOJTの区別、受講実績、賃金台帳、出勤簿、研修費用の証憑、最新様式の確認が重要です。
従業員教育を単なるコストではなく、将来の売上・生産性・採用力を高める投資として位置づけ、助成金を上手に活用していきましょう。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。





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