資本金1億円超の法人でも賃上げ税制は使える?令和8年度改正後の中堅企業向け措置を解説
- 安田 亮
- 2 日前
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更新日:2 日前
おはようございます!代表の安田です。
従業員の給与を引き上げた企業が、一定の要件を満たす場合に法人税額の控除を受けられる制度として、賃上げ促進税制があります。
人件費の増加は企業にとって大きな負担ですが、賃上げ税制を活用できれば、税額控除によって一定の負担軽減が期待できます。
一方で、令和8年度税制改正により、賃上げ促進税制の取扱いには大きな変更がありました。特に注意したいのが、大企業向けの措置が廃止されたという点です。
そのため、資本金1億円超の法人では、「もう賃上げ税制は使えないのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、必ずしもそうとは限りません。
令和8年4月1日以後開始事業年度では、大企業向けの措置は使えませんが、一定の従業員数要件を満たす法人については、中堅企業向けの措置により賃上げ税制を適用できるケースがあります。
本日は、資本金1億円超の法人と賃上げ税制の関係について、令和8年度改正後の取扱いを整理します。
令和8年度改正で大企業向け措置は廃止
令和8年度税制改正により、大企業向けの賃上げ促進税制は廃止されました。
そのため、令和8年4月1日以後に開始する事業年度においては、従来の大企業向け措置を適用することはできません。
これにより、資本金1億円超の法人、いわゆる大企業に該当する法人では、一見すると賃上げ促進税制を利用できないように見えます。
しかし、改正後も一定期間については、資本金1億円超の法人であっても、別の枠組みである中堅企業向け措置の適用を検討できる場合があります。
資本金1億円超でも中堅企業向け措置を使える場合がある
中堅企業向けの賃上げ促進税制は、一定の要件を満たす特定法人が適用できる制度です。
ここで重要なのは、中堅企業向け措置には、資本金に関する要件が設けられていないという点です。つまり、資本金が1億円を超えている法人であっても、従業員数に関する要件などを満たして特定法人に該当すれば、中堅企業向け措置により賃上げ税制を適用できる可能性があります。
「資本金1億円超=賃上げ税制は一切使えない」と単純に判断しないことが大切です。
中堅企業向け措置を使える「特定法人」とは
中堅企業向け措置の対象となる特定法人とは、主に次の2つの要件をいずれも満たす法人です。
要件1:常時使用する従業員数が2,000人以下
まず、適用事業年度終了時において、法人単体で常時使用する従業員数が2,000人以下であることが必要です。
ここでは、資本金ではなく、従業員数が基準になります。
そのため、資本金が1億円を超えていても、従業員数が2,000人以下であれば、この要件を満たす可能性があります。
要件2:支配関係法人を含めた従業員数が1万人以下
次に、その法人およびその法人との間にその法人による支配関係がある他の法人の従業員数の合計が1万人以下であることが必要です。
つまり、自社単体だけでなく、支配関係にある法人を含めたグループベースで従業員数を確認する必要があります。
単体では2,000人以下であっても、グループ全体の従業員数が1万人を超える場合には、特定法人に該当しない可能性があります。
資本金要件がない点がポイント
中堅企業向け措置で特に押さえておきたいのは、資本金要件がないことです。
中小企業向けの税制では、資本金1億円以下かどうかが重要になる場面が多くあります。そのため、資本金1億円超の法人では、税制優遇の対象外と考えてしまいがちです。
しかし、この中堅企業向け措置では、資本金ではなく、従業員数要件を満たすかどうかがポイントになります。
したがって、資本金1億円超の法人であっても、次のような法人では適用余地があります。
資本金は大きいが、従業員数は2,000人以下
グループ会社を含めても従業員数が1万人以下
継続雇用者給与等支給額の増加要件を満たしている
その他、賃上げ税制の適用要件を満たしている
資本金だけを見て適用を諦めるのはもったいないケースがあります。
もちろん賃上げ要件も必要
中堅企業向け措置の対象となる特定法人に該当するだけで、直ちに税額控除を受けられるわけではありません。
賃上げ促進税制である以上、給与等の支給額が一定以上増加していることが必要です。
具体的には、継続雇用者給与等支給額の対前年比の増加割合が一定以上であることなどの要件を満たす必要があります。
つまり、適用可否は大きく分けると次の2段階で確認します。
まず、自社が中堅企業向け措置の対象となる特定法人に該当するかを確認します。
次に、継続雇用者給与等支給額の増加割合など、賃上げ税制そのものの要件を満たすかを確認します。
令和9年3月31日で中堅企業向け措置も廃止
ここで非常に重要なのが、適用期限です。
中堅企業向け措置についても、令和8年度改正により、適用期限である令和9年3月31日をもって廃止されることになりました。
つまり、資本金1億円超の法人が、従業員数要件を満たして中堅企業向け措置を使える可能性があるのは、令和9年3月31日までに開始する事業年度に限られます。
令和9年4月1日以後に開始する事業年度では、資本金1億円超の法人は、中堅企業向け措置を利用できません。
この点は、決算期によって大きく影響します。
3月決算法人の例
3月決算法人を例に考えてみましょう。
資本金1億円超で、従業員数要件を満たす法人があるとします。
この法人の令和9年3月期は、令和8年4月1日から令和9年3月31日までの事業年度です。
この事業年度では、大企業向け措置は既に廃止されているため適用できません。しかし、中堅企業向け措置はまだ適用期限内であるため、要件を満たせば賃上げ税制を適用できる可能性があります。
一方、令和10年3月期は、令和9年4月1日から令和10年3月31日までの事業年度です。
この事業年度では、大企業向け措置も中堅企業向け措置も適用対象外になります。そのため、資本金1億円超の法人は、賃上げ税制を適用することができません。
3月決算法人では令和9年3月期が最後のチャンスになり得る
資本金1億円超で、従業員数要件を満たす3月決算法人にとっては、令和9年3月期が賃上げ税制を適用できる最後の事業年度になる可能性があります。
もちろん、継続雇用者給与等支給額の増加要件やその他の要件を満たす必要があります。
しかし、令和10年3月期以後は、中堅企業向け措置そのものが適用できないため、令和9年3月期で適用漏れがないように確認することが重要です。
特に、賃上げを実施している法人では、決算時に賃上げ税制の検討を忘れないようにしましょう。
4月決算法人・12月決算法人なども開始日で判断
賃上げ税制の適用可否は、事業年度の開始日で確認します。
令和9年3月31日までに開始する事業年度であれば、中堅企業向け措置の適用余地があります。一方、令和9年4月1日以後に開始する事業年度では、中堅企業向け措置は適用できません。
たとえば、12月決算法人の場合、令和9年1月1日から令和9年12月31日までの事業年度は、令和9年3月31日までに開始しているため、中堅企業向け措置の適用余地があります。
一方、令和10年1月1日開始事業年度では、当然ながら適用対象外になります。
決算期によって、最後に適用できる可能性がある事業年度が異なるため、事業年度開始日を確認することが重要です。
マルチステークホルダー方針の公表・届出に注意
資本金1億円超の法人が中堅企業向け措置を適用する場合、もう一つ注意すべき点があります。
適用事業年度終了時において、次の両方に該当する法人は、中堅企業向け措置を適用する場合でも、マルチステークホルダー方針の公表および届出が必要になります。
資本金の額または出資金の額が10億円以上
常時使用する従業員数が1,000人以上
つまり、資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上の法人については、中堅企業向け措置を使う場合でも、マルチステークホルダー方針の要件を忘れてはいけません。
この要件を満たさないと、賃上げ要件を満たしていても税額控除を受けられない可能性があります。
マルチステークホルダー方針とは
マルチステークホルダー方針とは、従業員、取引先、株主、地域社会など、多様な利害関係者への還元や配慮に関する方針をいいます。
一定規模以上の法人が賃上げ税制を適用する場合、この方針を公表し、所定の届出を行うことが求められることがあります。
具体的な手続や期限は制度ごとに確認が必要ですが、賃上げ税制の適用を検討する際には、給与増加率だけでなく、マルチステークホルダー方針の公表・届出が済んでいるかも確認しなければなりません。
特に、決算後に税額控除を検討し始めた場合、方針の公表や届出が間に合わないことがあります。事前の準備が重要です。
実務で確認すべきポイント
資本金1億円超の法人が賃上げ税制を検討する場合、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
まず、適用事業年度の開始日を確認します。令和9年4月1日以後開始事業年度であれば、資本金1億円超の法人については賃上げ税制の適用ができない可能性が高くなります。
次に、令和9年3月31日までに開始する事業年度であれば、中堅企業向け措置の対象となる特定法人に該当するかを確認します。
そのうえで、継続雇用者給与等支給額の増加割合など、賃上げ税制の具体的な要件を確認します。
さらに、資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上の場合には、マルチステークホルダー方針の公表・届出の有無を確認します。
経理担当者が確認したいチェックリスト
資本金1億円超の法人で賃上げ税制を検討する場合、経理担当者は次の点を確認しておきましょう。
適用事業年度の開始日が令和9年3月31日以前か
大企業向け措置が廃止されていることを確認しているか
中堅企業向け措置の適用余地があるか
適用事業年度終了時の常時使用従業員数が2,000人以下か
支配関係法人を含めた従業員数合計が1万人以下か
継続雇用者給与等支給額の増加割合を確認しているか
税額控除額を試算しているか
資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上に該当しないか
該当する場合、マルチステークホルダー方針を公表・届出しているか
令和9年4月1日以後開始事業年度では適用不可となることを把握しているか
このチェックを行うことで、資本金1億円超だからといって適用可能性を見落とすリスクを減らせます。
よくある誤解
資本金1億円超の法人と賃上げ税制については、次のような誤解が起こりやすいです。
資本金1億円超なら令和8年度改正後は必ず適用不可
大企業向け措置は廃止されていますが、令和9年3月31日までに開始する事業年度では、従業員数要件を満たす特定法人であれば、中堅企業向け措置を適用できる場合があります。
中堅企業向け措置は資本金1億円以下の法人だけが対象
中堅企業向け措置には資本金要件がありません。従業員数要件を満たすかどうかがポイントです。
単体従業員数だけ見ればよい
特定法人に該当するには、自社単体の常時使用従業員数2,000人以下に加え、支配関係法人を含めた従業員数合計1万人以下も必要です。
令和10年3月期も同じように使える
3月決算法人の場合、令和9年3月期は中堅企業向け措置の適用余地がありますが、令和10年3月期は大企業向け措置も中堅企業向け措置も対象外です。
税理士として顧問先に伝えたいこと
税理士としては、資本金1億円超の法人に対して、賃上げ税制の適用可否を早めに確認することが重要です。特に、次のような法人は確認しておきたいところです。
資本金1億円超だが従業員数は比較的少ない法人
グループ会社を保有している法人
従業員数2,000人以下の法人
グループ全体の従業員数が1万人以下の法人
令和9年3月31日までに開始する事業年度で賃上げを実施している法人
資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上の法人
顧問先には、「大企業向け措置は廃止されたが、中堅企業向け措置を使える場合がある」「資本金要件ではなく、従業員数要件を見る」「令和9年4月1日以後開始事業年度では使えない」「3月決算法人なら令和9年3月期が最後の適用機会になり得る」と説明すると分かりやすいでしょう。
まとめ
令和8年度税制改正により、大企業向けの賃上げ促進税制は廃止されました。そのため、令和8年4月1日以後開始事業年度においては、従来の大企業向け措置を適用することはできません。
ただし、資本金1億円超の法人であっても、一定の従業員数要件を満たす場合には、中堅企業向け措置により賃上げ税制を適用できるケースがあります。
中堅企業向け措置を適用できる特定法人とは、適用事業年度終了時において常時使用する従業員数が2,000人以下であり、かつ、その法人およびその法人との間にその法人による支配関係がある他の法人の従業員数の合計が1万人以下である法人です。この要件には資本金に関する基準は設けられていません。
したがって、資本金1億円超の大企業であっても、これらの従業員数要件を満たし、継続雇用者給与等支給額の対前年比の増加割合を一定以上とするなどの要件を満たす場合には、中堅企業向け措置により賃上げ税制を適用できる可能性があります。
ただし、中堅企業向け措置も、令和8年度改正により、令和9年3月31日をもって廃止されます。そのため、令和9年4月1日以後開始事業年度では、従業員数要件を満たしていても、資本金1億円超の法人は賃上げ税制を適用できません。
たとえば、資本金1億円超で従業員数要件を満たす3月決算法人の場合、令和9年3月期では大企業向け措置は使えないものの、中堅企業向け措置により賃上げ税制を適用できる可能性があります。一方、令和10年3月期では、大企業向け措置・中堅企業向け措置のいずれも対象外となるため、賃上げ税制は適用できません。
なお、適用事業年度終了時において、資本金または出資金の額が10億円以上で、かつ常時使用する従業員数が1,000人以上である法人は、中堅企業向け措置を適用する場合でも、マルチステークホルダー方針の公表および届出が必要です。
資本金1億円超の法人では、資本金だけを見て賃上げ税制の適用を諦めるのではなく、事業年度の開始日、従業員数要件、給与増加要件、マルチステークホルダー方針の要否を確認し、適用漏れがないようにしましょう。
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