留保金課税とは?対象となる特定同族会社・計算方法・中小企業の注意点を税理士が解説
こんにちは!代表の安田です。
会社が利益を計上したとき、その利益を株主へ配当せず、将来の設備投資や運転資金に備えて社内に蓄積することがあります。
利益を会社に残すこと自体は、財務基盤を強化するうえで重要です。しかし、一定の同族会社が利益を過度に社内留保した場合には、通常の法人税に加えて「特定同族会社の留保金課税」が行なわれることがあります。
留保金課税は、すべての同族会社に適用される制度ではありません。一般的なオーナー系中小企業では対象外となるケースが多い一方、大企業の100%子会社や、資本金が増加した会社などでは、思わぬ追加税負担が生じる可能性があります。
本日は、留保金課税の仕組み、対象となる特定同族会社の判定、税率、留保控除額、実務上の対策について税理士が解説します。
留保金課税とは
留保金課税とは、一定の特定同族会社が、税引後利益のうち一定額を超えて会社内部に留保した場合に、その超過額へ追加の法人税を課す制度です。
通常、法人が利益を計上すると、その利益に対して法人税等が課されます。
さらに、会社が税引後利益を株主へ配当した場合、株主側でも配当所得などに対する課税が行われます。
一方、会社が配当を行なわず、利益を社内に残した場合には、株主個人に対する配当課税は直ちには発生しません。そのため、同族会社が配当を控えて利益を長期間留保することで、株主段階の課税を繰り延べることを防止する目的で、留保金課税が設けられています。
制度の根拠は、法人税法第67条の「特定同族会社の特別税率」です。国税庁の法人税申告書でも、対象法人は別表三(一)を用いて留保金額と追加税額を計算します。
利益を社内に残すと、必ず課税されるわけではない
会社が黒字であり、配当をしていないからといって、必ず留保金課税が発生するわけではありません。
留保金課税が問題になるのは、主に次の両方を満たす場合です。
法人税法上の「特定同族会社」に該当する
その事業年度の留保所得金額が、留保控除額を超える
したがって、まず確認すべきなのは、自社が特定同族会社に該当するかどうかです。
特定同族会社に該当しなければ、利益を多く留保していても、この制度による追加課税はありません。
同族会社と特定同族会社は異なる
「同族会社」と「特定同族会社」は同じものではありません。
<同族会社とは>
一般に同族会社とは、上位3つの株主グループが保有する株式数や議決権などの合計が、会社全体の50%を超える会社をいいます。
オーナーとその親族が株式の大部分を持つ中小企業の多くは、同族会社に該当します。
ただし、同族会社であることだけを理由に、直ちに留保金課税が行なわれるわけではありません。
<特定同族会社とは>
留保金課税の対象となる特定同族会社は、原則として、一つの株主グループが発行済株式等の50%を超えて保有する「被支配会社」のうち、一定の法人をいいます。
国税庁は、特定同族会社について、発行済株式等の50%超を一つの株主グループに支配されている会社を基礎として判定する考え方を示しています。
典型的な例としては、次のような会社があります。
個人オーナーが株式を100%保有する会社
親会社が株式を100%保有する子会社
一人の株主とその親族で過半数を保有する会社
一つの企業グループで過半数を支配している会社
もっとも、資本金などによる適用除外があるため、これらの会社がすべて留保金課税の対象になるわけではありません。
資本金1億円以下の会社は原則として対象外
事業年度末の資本金または出資金の額が1億円以下の会社は、原則として特定同族会社から除外されます。
したがって、個人オーナーが株式を100%保有している一般的な中小企業であっても、資本金が1億円以下であれば、通常は留保金課税の対象になりません。
これは中小企業にとって非常に重要な適用除外です。
「同族会社だから内部留保に追加課税される」と心配されることがありますが、一般的な中小企業では、同族会社への該当と留保金課税の適用は分けて考える必要があります。
1億円以下でも対象になる例外
資本金が1億円以下であっても、一定の大法人に完全支配されている会社などは、適用除外を受けられず、特定同族会社となる可能性があります。
国税庁の判定資料では、資本金1億円以下の会社であっても、たとえば次のような法人は特定同族会社の対象になり得るとされています。
資本金または出資金が5億円以上の大法人に100%支配される法人
複数の大法人によって実質的に100%支配される法人
相互会社などに完全支配される法人
投資法人
特定目的会社
つまり、資本金数千万円の子会社であっても、資本金5億円以上の親会社が株式を100%保有している場合には、留保金課税の検討が必要です。
海外親会社の日本子会社も注意が必要
日本法人が海外の親会社に100%保有されている場合も、株主構成や親会社の資本金等によっては、特定同族会社に該当する可能性があります。
たとえば、外国法人である親会社が日本子会社の株式を100%保有し、その親会社が法人税法上の大法人に相当する場合には、日本子会社の資本金が1億円以下であっても、留保金課税の対象となることがあります。
外資系企業では、次の資料を確認する必要があります。
日本法人の株主名簿
海外親会社の資本金または出資金
親会社と中間持株会社の資本関係
グループ内の間接保有関係
議決権割合
事業年度末時点の支配関係
日本法人だけの登記事項証明書を確認しても、判定に必要な情報がそろわないことがあります。親会社の資本金やグループ図を早めに入手しておくことが重要です。
留保金課税の基本的な計算構造
留保金課税の計算は、概ね次の流れで行ないます。
当期留保金額-留保控除額=課税留保金額
この課税留保金額に、一定の累進税率を乗じて追加の法人税を計算します。
なお、会計上の「当期純利益」や貸借対照表上の「利益剰余金」へ、そのまま税率を掛けるわけではありません。
法人税申告上の所得金額を基礎として、法人税や住民税、配当、税務上の加算・減算などを反映して留保所得金額を計算します。
そのため、会計上の利益と課税対象となる留保金額は通常一致しません。
留保金課税の税率
課税留保金額には、次の段階的な税率が適用されます。
課税留保金額 | 税率 |
年3,000万円以下の部分 | 10% |
年3,000万円超、年1億円以下の部分 | 15% |
年1億円超の部分 | 20% |
事業年度が1年未満の場合には、3,000万円や1億円の基準額を月数に応じて按分します。
この税額は通常の法人税に追加して計算されます。
たとえば、課税留保金額が1億5,000万円の場合の概算額は、次のようになります。
3,000万円×10%=300万円
7,000万円×15%=1,050万円
5,000万円×20%=1,000万円
合計すると、留保金課税による追加法人税は2,350万円です。
実際の申告では、端数処理、地方法人税、法人住民税への影響なども含めて計算する必要があります。
留保控除額とは
特定同族会社に該当しても、当期の留保所得金額の全額が課税対象になるわけではありません。
事業上必要な内部留保まで課税しないよう、一定の「留保控除額」が設けられています。
留保控除額は、原則として複数の基準による金額のうち、最も大きい金額を採用します。
主な基準は次のとおりです。
<所得基準額>
当期の所得等の金額の40%相当額を基礎とする基準です。
会社の所得が増えるほど、一定額を社内に留保できるように設けられています。
<定額基準額>
年間2,000万円を基礎とする基準です。
事業年度が1年未満の場合には、月数に応じて按分します。
国税庁の別表三(一)付表一の記載要領にも、定額基準額として2,000万円を月数按分する計算が示されています。
<積立金基準額>
資本金の25%相当額から、期末の利益積立金額を差し引いた金額を基礎とする基準です。
期末利益積立金額がマイナスの場合には、そのマイナス額を加味する取扱いとなります。
たとえば、資本金の25%相当額が2,500万円、利益積立金額がマイナス500万円である場合、積立金基準額は3,000万円となります。国税庁の通達にも、利益積立金額が負の場合の計算方法が明記されています。
一定の中小特定同族会社については、自己資本比率に基づく基準が関係する場合もあります。実際の計算は別表三(一)付表一に沿って行います。
留保金課税の簡単な計算例
次のような会社を想定します。
特定同族会社に該当
当期留保金額:1億2,000万円
留保控除額:4,000万円
事業年度:12か月
まず、課税留保金額を計算します。
1億2,000万円-4,000万円=8,000万円
次に段階税率を適用します。
3,000万円以下の部分:3,000万円×10%=300万円
3,000万円超8,000万円以下の部分:5,000万円×15%=750万円
したがって、留保金課税額は概算で1,050万円となります。
通常の法人税等を納めたうえで、さらに1,050万円の追加税負担が生じるため、資金繰りへの影響は小さくありません。
配当をすれば留保金課税は減る?
会社が利益を株主へ配当すると、原則として会社に留保される金額が減るため、留保金課税を抑えられる可能性があります。
ただし、「留保金課税を避けるために配当を出せばよい」と単純に判断するのは危険です。
配当には、次の影響があります。
会社の現預金が減少する
設備投資や運転資金に使える資金が減る
個人株主側で配当所得課税が生じる
外国株主への配当では源泉所得税や租税条約の検討が必要
法人株主では受取配当等の益金不算入を検討する
金融機関から見た自己資本や財務安全性が変わる
配当可能限度額を会社法上確認する必要がある
会社側の追加税負担だけでなく、株主側の税負担と資金需要を合わせて判断する必要があります。
設備投資をすれば留保金課税は減る?
設備投資を行ない現預金が減っても、それだけで直ちに留保金課税が減るとは限りません。
留保金課税は、単純な現金残高ではなく、税務上の留保所得金額を基礎に計算するためです。
たとえば、1億円の機械を現金で購入しても、税務上は取得時に1億円全額を損金算入せず、耐用年数に応じて減価償却するのが通常です。
そのため、
現金を使った金額=当期の所得から減る金額
とは限りません。
一方、設備投資に伴う減価償却費や税額控除などにより、課税所得が減少すれば、結果として留保所得金額にも影響する可能性があります。
「決算前に現金を使えば留保金課税を避けられる」というものではなく、税務上の損金算入時期まで含めて検討する必要があります。
賞与や役員報酬を増やせばよい?
従業員賞与や一定の費用を適切に支給すれば、法人の所得が減少し、留保金課税の負担が軽減する可能性があります。
ただし、税金を減らすことだけを目的に、必要性のない支出を増やすのは本末転倒です。
特に役員報酬や役員賞与は、法人税法上の損金算入要件が厳格です。
役員給与は、原則として次のいずれかに該当する必要があります。
定期同額給与
事前確定届出給与
一定の業績連動給与
決算直前に役員賞与を決めて支給しても、損金算入できない可能性が高く、その場合は留保金課税対策にもならないことがあります。
支給を検討する場合には、税務上の要件、社会保険料、役員個人の所得税まで含めて事前に試算する必要があります。
資本金を1億円以下に減資すれば対象外になる?
留保金課税の対象判定は、原則として事業年度終了時の資本金等や株主関係を基に行います。
そのため、資本金が1億円を超える会社が減資を行なうことで、一定の場合には翌期以降の適用関係が変わる可能性があります。
ただし、資本金を1億円以下にすれば、必ず対象外になるわけではありません。
大法人による完全支配関係がある会社などは、資本金が1億円以下でも特定同族会社となる可能性があります。
また、減資には次のような影響があります。
法人税の中小法人向け特例
法人事業税の外形標準課税
法人住民税の均等割
信用力や取引先への印象
許認可や入札資格
株主や債権者への手続
会社法上の債権者保護手続
留保金課税だけを見て減資を決めるのではなく、会社全体への影響を検討する必要があります。
留保金課税で起こりやすい誤り
1.同族会社はすべて対象だと思っている
同族会社と特定同族会社は異なります。
一般的な資本金1億円以下のオーナー企業は、原則として留保金課税の対象外です。
2.資本金1億円以下なら必ず対象外と判断する
資本金5億円以上の大法人に100%支配される子会社などは、資本金1億円以下でも対象となる可能性があります。親会社の規模と完全支配関係を確認しましょう。
3.貸借対照表の利益剰余金に税率を掛ける
留保金課税は、会計上の利益剰余金そのものに課税する制度ではありません。
法人税申告上の当期留保金額と留保控除額を計算する必要があります。
4.黒字になった年度末に初めて検討する
配当や役員給与、設備投資は、決算後に自由に調整できるものではありません。
特定同族会社に該当する可能性がある場合は、期中から見込税額を計算することが重要です。
5.親会社の資本金を確認していない
特に外資系企業や複雑な企業グループでは、直接の株主だけでなく、最終親会社まで含めた資本関係の確認が必要です。
6.配当額だけで対策を決める
配当には株主側の所得税や源泉税が生じることがあります。
会社と株主を合わせた実効税負担、資金繰りを比較する必要があります。
留保金課税の対象判定チェックリスト
決算前には、次の事項を確認しましょう。
<株主関係>
一つの株主グループが50%を超えて保有しているか
株主本人だけでなく親族等を含めて判定したか
議決権割合と株式保有割合に違いがないか
中間持株会社を含む間接保有関係を確認したか
事業年度中に株主構成が変わっていないか
<資本金・親会社関係>
期末資本金は1億円以下か
親会社の資本金は5億円以上ではないか
親会社との間に完全支配関係があるか
複数の大法人による100%支配に該当しないか
外国親会社の資本金等を確認したか
<税額計算>
当期留保金額を試算したか
配当金額を正しく反映したか
留保控除額の各基準を計算したか
事業年度が1年未満の場合に月数按分したか
別表二の特定同族会社判定が正しいか
別表三(一)と付表一を作成したか
地方法人税や法人住民税への影響を確認したか
留保金課税への実務的な対応
留保金課税の対象となる会社では、期末直前ではなく、事業年度の途中から対応することが大切です。
まず、今期の着地見込みを基に、通常の法人税と留保金課税を含めた納税予測を作成します。そのうえで、次の選択肢を比較します。
配当を行なう
必要な設備投資を実施する
従業員への還元を検討する
研究開発や人材採用を進める
借入金の返済や財務基盤強化を優先する
将来の事業計画に必要な内部留保を確保する
資本政策やグループ構成を見直す
留保金課税を減らすために無理な支出をするよりも、追加税負担を受け入れて手元資金を確保した方が合理的な場合もあります。
重要なのは、税額だけではなく、資金繰り、株主課税、会社の成長投資を総合的に比較することです。
まとめ
留保金課税は、特定同族会社が一定額を超える利益を社内に留保した場合に、通常の法人税へ追加して課される制度です。
主なポイントは次のとおりです。
同族会社であるだけでは留保金課税の対象にならない
一つの株主グループが50%超を支配する被支配会社が判定の出発点となる
資本金1億円以下の会社は原則として対象外
大法人に100%支配される子会社などは、1億円以下でも対象になる可能性がある
課税留保金額には10%・15%・20%の段階税率が適用される
留保所得金額から一定の留保控除額を差し引く
会計上の利益剰余金に直接課税する制度ではない
配当、投資、報酬を検討するときは、株主課税や資金繰りも含めて判断する
外資系企業や大企業グループの子会社は、親会社の資本金と支配関係を確認する
留保金課税は、対象会社にとって数百万円から数千万円単位の追加負担になることがあります。
自社が対象になる可能性がある場合には、決算後に気付くのではなく、期中から株主関係と利益見込みを確認し、納税予測を行うことをおすすめします。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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