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グループ通算制度と中小企業向け賃上げ促進税制|1社でも中小企業者でない法人がある場合の注意点

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 2 日前
  • 読了時間: 12分

こんにちは!代表の安田です。


グループ通算制度を適用している法人グループでは、法人税の申告にあたり、グループ全体で確認しなければならない項目が増えます。


その中でも注意したいのが、「中小企業向け賃上げ促進税制」の適用可否です。

中小企業向け賃上げ促進税制は、従業員の給与等を一定以上増加させた中小企業者等について、法人税額から一定額を控除できる制度です。賃上げを行った中小企業にとっては、税負担を軽減できる可能性がある重要な制度といえます。


しかし、グループ通算制度を適用している場合、各法人が個別に要件を満たしているかだけを見ればよいわけではありません。


通算グループ内に、中小企業者に該当しない法人が1社でもある場合、他の法人が給与増加要件を満たしていても、中小企業向け賃上げ促進税制を適用できないことがあります。


本日は、グループ通算制度を適用している法人が、中小企業向け賃上げ促進税制を検討する際の注意点について解説します。


グループ通算制度とは

グループ通算制度とは、完全支配関係がある企業グループについて、グループ内の各法人を一体として法人税を計算する制度です。


従来の連結納税制度に代わる制度として、令和4年4月1日以後開始事業年度から適用されています。


グループ通算制度では、各通算法人がそれぞれ法人税の申告を行いますが、損益通算や欠損金の通算など、一定の項目についてはグループ全体で調整します。


そのため、単体納税の法人とは異なり、税額控除や中小企業向け特例の適用にあたっても、グループ内の他法人の状況を確認する必要が出てきます。


特に、中小企業向けの優遇税制については、「自社だけが中小企業者に該当しているか」ではなく、「通算グループ全体として要件を満たしているか」を確認することが大切です。


中小企業向け賃上げ促進税制とは

中小企業向け賃上げ促進税制とは、青色申告書を提出する中小企業者等が、国内雇用者に対する給与等を前年度より一定割合以上増加させた場合に、法人税額から一定額を控除できる制度です。


現行制度では、一定の要件を満たす場合、控除対象雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額から控除できます。


さらに、給与等の増加割合が一定以上である場合、教育訓練費の増加要件を満たす場合、くるみん認定・えるぼし認定などの一定の認定を受けている場合には、控除率が上乗せされ、最大45%の税額控除が可能です。


ただし、控除額には法人税額の一定割合を上限とする制限があります。また、適用を受けるためには、申告書に明細書を添付するなどの手続も必要です。


制度の名称から「給与を増やせば自動的に使える」と思われがちですが、実際には対象法人、給与増加割合、控除限度額、上乗せ要件などを丁寧に確認する必要があります。


中小企業者とは

中小企業向け賃上げ促進税制の対象となる中小企業者は、原則として、資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人などをいいます。


ただし、資本金が1億円以下であっても、大規模法人に一定割合以上の株式を保有されている法人などは対象から除かれます。


また、資本または出資を有しない法人の場合には、常時使用する従業員数が1,000人以下であることなどが要件になります。


さらに、所得金額が一定規模を超える適用除外事業者などは、中小企業者向けの制度を利用できない場合があります。


つまり、中小企業者に該当するかどうかは、単に「資本金が1億円以下か」だけで判断するものではありません。


株主構成、完全支配関係、従業員数、所得金額、通算グループ内の他法人の状況なども確認する必要があります。


グループ通算制度では全法人が中小企業者であることが重要

グループ通算制度を適用している場合、中小企業向け賃上げ促進税制では、通算グループ内の全法人が中小企業者に該当しているかを確認する必要があります。


ここが、単体申告の法人と大きく異なるポイントです。

通算グループ内の法人のうち、1社でも中小企業者に該当しない法人がある場合、その通算グループ内の他の法人も、中小企業向け賃上げ促進税制を適用できないことになります。

たとえば、グループ内に次の3社があるとします。

  • 親法人A:資本金1億円以下

  • 子法人B:資本金1億円以下

  • 子法人C:資本金1億円超


この場合、親法人Aと子法人Bが給与増加要件を満たしていたとしても、子法人Cが中小企業者に該当しないため、A・Bも中小企業向け賃上げ促進税制を適用することはできません。


「自社は資本金1億円以下だから使えるはず」と考えていると、思わぬ適用漏れや申告誤りにつながります。


連結納税制度から移行した法人は特に注意

従来の連結納税制度では、一定の中小企業向け制度について、連結親法人が中小企業者に該当するかどうかを中心に判断する場面がありました。


しかし、グループ通算制度では、通算グループ内の全法人が中小企業者に該当しているかが問題になります。


そのため、連結納税制度からグループ通算制度へ移行した法人グループでは、従来の感覚のまま「親法人が中小企業者だから大丈夫」と判断しないよう注意が必要です。


特に、親法人は資本金1億円以下であっても、グループ内に資本金1億円超の子法人がある場合や、大法人に該当する法人が含まれている場合には、中小企業向け賃上げ促進税制の適用可否を慎重に確認する必要があります。


制度変更により、これまで使えていた中小企業向け特例が使えなくなるケースもあります。


適用要件の判定は法人ごとに行なう

グループ通算制度では、通算グループ内の全法人が中小企業者であるかを確認する必要があります。そのうえで、中小企業向け賃上げ促進税制の具体的な適用要件については、個々の法人ごとに判定します。


たとえば、給与等支給額が前年度から一定割合以上増加しているか、控除対象雇用者給与等支給増加額がいくらか、税額控除限度額がいくらかといった計算は、各法人ごとに行います。つまり、次の2段階で確認するイメージです。

  1. 通算グループ内の全法人が中小企業者に該当するか

  2. 各法人ごとに賃上げ促進税制の適用要件を満たすか


1つ目の段階で、グループ内に中小企業者でない法人がある場合には、2つ目の段階で個別法人が給与増加要件を満たしていても、中小企業向け賃上げ促進税制は適用できません。

この順番を間違えないことが重要です。


給与増加要件の基本

中小企業向け賃上げ促進税制では、国内雇用者に対する給与等の支給額が、前年度の給与等支給額と比べて一定割合以上増加していることが基本的な要件になります。


現行制度では、雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額より1.5%以上増加していることが必要です。


さらに、増加割合が2.5%以上である場合には、税額控除率の上乗せがあります。

ここでいう国内雇用者には、法人の使用人のうち、国内に所在する事業所の賃金台帳に記載された者が含まれます。ただし、役員や役員の特殊関係者などは対象から除かれます。


また、給与等支給額には、所得金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等が含まれます。


グループ通算制度を適用している場合でも、この給与増加要件の判定は、各通算法人ごとに行います。


税額控除率と上乗せ要件

中小企業向け賃上げ促進税制では、基本の税額控除率に加えて、一定の上乗せ要件があります。


現行制度では、基本の控除率は15%です。

さらに、給与等支給額の増加割合が2.5%以上である場合、教育訓練費の増加要件を満たす場合、くるみん認定やえるぼし認定などの一定の認定を受けている場合には、控除率が上乗せされます。


これらの要件をすべて満たす場合、最大45%の税額控除が可能です。

ただし、実際に控除できる金額は、法人税額の一定割合が上限となります。また、控除しきれない金額については、一定の要件のもとで繰越控除が認められる場合があります。

制度改正により、適用期間、控除率、上乗せ要件、繰越控除の取扱いは変更されることがあります。申告時には、適用事業年度に対応した最新の制度内容を確認することが大切です。


グループ内に大法人がある場合の具体例

グループ通算制度を適用する法人グループで、次のようなケースを考えてみます。

  • 親法人Aは資本金5,000万円

  • 子法人Bは資本金3,000万円

  • 子法人Cは資本金2億円


A社とB社は、国内雇用者に対する給与等を前年度比で2%増加させており、中小企業向け賃上げ促進税制の給与増加要件を満たしています。


一方、C社は資本金が1億円を超えているため、中小企業者には該当しません。

この場合、A社とB社は、それぞれ単体で見れば資本金1億円以下で、給与増加要件も満たしています。しかし、通算グループ内に中小企業者でないC社が存在するため、A社とB社も中小企業向け賃上げ促進税制を適用できません。


このように、グループ通算制度では、他の通算法人の資本金や中小企業者該当性が、自社の税額控除の可否に影響します。


中小企業向け以外の賃上げ促進税制も検討する

通算グループ内に中小企業者でない法人があるため、中小企業向け賃上げ促進税制を適用できない場合でも、賃上げ促進税制そのものをまったく使えないとは限りません。


法人の規模や要件によっては、全企業向け賃上げ促進税制や中堅企業向け賃上げ促進税制の適用を検討できる場合があります。


ただし、それぞれ対象法人、給与増加要件、控除率、上乗せ要件が異なります。

中小企業向けの制度が使えないと分かった場合でも、他の制度の適用余地がないかを確認することが重要です。


特に、グループ通算制度を適用している法人グループでは、税額控除の適用可否がグループ全体の法人税負担に影響します。


どの制度を適用できるか、どの法人が要件を満たすかを、決算前から確認しておくことをおすすめします。


他の中小企業向け優遇措置にも影響する

グループ通算制度では、中小企業向け賃上げ促進税制だけでなく、他の中小企業向け優遇措置についても、通算グループ内の全法人が中小法人等に該当するかどうかが問題になることがあります。

たとえば、次のような制度です。

  • 中小法人向けの軽減税率

  • 貸倒引当金の損金算入制度

  • その他、中小法人等を対象とする優遇措置


これらについても、通算グループ内に中小法人に該当しない法人がある場合、グループ内の全法人で適用できなくなることがあります。


そのため、グループ通算制度を適用している法人は、賃上げ促進税制だけでなく、中小企業向けの税制優遇全般について、グループ全体の法人構成を確認する必要があります。


実務上確認すべきポイント

グループ通算制度を適用している法人が、中小企業向け賃上げ促進税制を検討する際には、次の点を確認しましょう。

  • 通算グループ内の全法人を把握しているか

  • 各法人の資本金または出資金の額を確認しているか

  • 資本または出資を有しない法人について従業員数を確認しているか

  • 大規模法人による株式保有関係を確認しているか

  • 適用除外事業者に該当しないか

  • 通算制度における適用除外事業者に該当しないか

  • グループ内に中小企業者でない法人がないか

  • 各法人ごとに給与増加要件を満たしているか

  • 教育訓練費や認定要件による上乗せを検討しているか

  • 申告書に必要な明細書を添付できるか


特に、期中に新たな法人が通算グループに加入した場合、子会社の資本金が増資により1億円を超えた場合、大法人との支配関係が変わった場合などは、適用可否が変わる可能性があります。


決算前に確認しておきたい理由

賃上げ促進税制は、決算後に初めて確認するのではなく、できれば決算前から検討しておくべき制度です。


なぜなら、給与等支給額の増加要件や教育訓練費の上乗せ要件は、事業年度中の実績に基づいて判断するためです。


決算後に「あと少し給与等支給額が足りなかった」「教育訓練費の記録が不足していた」と気づいても、対応が難しいことがあります。


グループ通算制度を適用している場合には、さらに、グループ内の全法人の中小企業者該当性も確認しなければなりません。

そのため、決算前に次のような作業をしておくと安心です。

  • グループ内法人の資本金等を一覧化する

  • 給与等支給額の前年同期比較を行う

  • 教育訓練費の支出状況を確認する

  • 認定要件の取得状況を確認する

  • 税額控除の試算を行なう

  • 中小企業向け制度以外の適用可能性も検討する


税額控除は法人税額に直接影響するため、適用できるかどうかを早めに確認することが大切です。


申告書への明細書添付も忘れずに

中小企業向け賃上げ促進税制の適用を受けるためには、確定申告書等に、控除の対象となる控除対象雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額、その金額の計算に関する明細を記載した書類を添付する必要があります。


また、教育訓練費の上乗せ要件を適用する場合には、教育訓練費の額や比較教育訓練費の額に関する一定の事項を記載した書類を保存する必要があります。


グループ通算制度を適用している法人では、各通算法人ごとに申告実務が発生します。

そのため、どの法人がどの制度を適用するのか、どの明細書を添付するのか、どの資料を保存するのかを、グループ全体で整理しておくことが重要です。


まとめ

グループ通算制度を適用している法人が中小企業向け賃上げ促進税制を検討する場合、まず確認すべきなのは、通算グループ内の全法人が中小企業者に該当しているかどうかです。


通算グループ内に、中小企業者に該当しない法人が1社でもある場合、他の法人が給与増加要件を満たしていたとしても、中小企業向け賃上げ促進税制は適用できません。


この点は、従来の連結納税制度からグループ通算制度へ移行した法人にとって、特に注意すべきポイントです。


中小企業向け賃上げ促進税制の具体的な適用要件や税額控除額は、個々の法人ごとに判定しますが、その前提として、グループ全体の中小企業者該当性を確認する必要があります。


また、中小法人向けの軽減税率や貸倒引当金の損金算入制度など、他の中小企業向け優遇措置についても、通算グループ内の全法人の状況が影響する場合があります。


グループ通算制度を適用している法人は、決算前にグループ内法人の資本金、株主構成、従業員数、適用除外事業者該当性、給与等支給額を整理し、賃上げ促進税制の適用可否を早めに確認しておきましょう。


グループ通算制度や賃上げ促進税制の適用判断で迷う場合は、税理士へ相談することをおすすめします。


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