当初申告要件とは?研究開発税制・賃上げ促進税制で後から控除を増やせない理由を税理士が解説
- 安田 亮
- 1 日前
- 読了時間: 12分
おはようございます!代表の安田です。
法人税の申告では、税額控除や特別償却など、会社にとって有利な制度を使えることがあります。
たとえば、研究開発税制、賃上げ促進税制、中小企業投資促進税制などです。
これらはいわゆる「租税特別措置法上のインセンティブ措置」と呼ばれる制度で、適用できれば法人税額を大きく減らせる場合があります。
しかし、ここで注意したいのが 当初申告要件 です。
当初申告要件がある制度では、原則として、確定申告書等に必要な明細書を添付していなければ、後から「やはり適用したい」と更正の請求をしても認められません。
また、当初申告で制度を適用していた場合でも、明細書に記載した対象金額を後から増やして、控除額を増額することはできない場合があります。
本日は、当初申告要件とは何か、研究開発税制や賃上げ促進税制で注意すべきポイント、期限後申告との関係、法人税法上の制度との違いについて解説します。
当初申告要件とは
当初申告要件とは、簡単にいうと、税制優遇の適用を受けるために、最初に提出する申告書に一定の明細書を添付しておくことを求める要件です。
国税庁の資料でも、当初申告要件は、納税者にとって有利な制度の適用を受けるために、当初申告において制度適用の意思表示を求めるものであり、具体的には申告書に一定事項を記載したり、一定書類を添付したりすることをいうと説明されています。
つまり、税制優遇を受けるためには、単に要件を満たしているだけでは足りません。
申告時に、必要な明細書を添付し、「この制度を使います」という意思表示をしておく必要があります。
当初申告要件がある制度は後から適用できない
当初申告要件が設けられている制度では、原則として、申告後にその制度を新たに適用することはできません。
たとえば、決算時には研究開発税制の適用を見落としており、後日になって試験研究費があることに気付いたとします。この場合、当初申告で必要な明細書を添付していなければ、後から更正の請求をして研究開発税制を適用することはできない、ということになります。
ここが非常に重要です。
税務調査や決算後の見直しで「要件を満たしていた」と分かっても、当初申告要件を満たしていなければ、制度を使えないことがあります。
研究開発税制も当初申告要件に注意
代表的な制度が研究開発税制です。
研究開発税制は、青色申告法人が試験研究費を支出した場合に、一定額を法人税額から控除できる制度です。国税庁も、試験研究費の額がある青色申告法人について、一定割合で計算した金額を法人税額から控除する制度として案内しています。
ただし、この制度を適用するには、試験研究費の額や控除を受ける金額などを記載した明細書の添付が必要になります。国税庁の資料でも、研究開発税制の適用を受けるには、試験研究費の額および控除を受ける金額等を記載した書類の添付要件を満たす必要があるとされています。
したがって、研究開発税制を検討する会社では、申告期限前に次の点を確認しておく必要があります。
試験研究費に該当する支出があるか
対象となる人件費、材料費、外注費等を集計しているか
中小企業技術基盤強化税制などの適用区分を確認しているか
税額控除限度額を計算しているか
必要な明細書を申告書に添付しているか
「後から気付いたら更正の請求をすればよい」と考えていると、控除を受けられない可能性があります。
賃上げ促進税制も当初申告要件がある
賃上げ促進税制も、当初申告要件に注意すべき制度です。
賃上げ促進税制は、一定の給与等支給額の増加などの要件を満たした場合に、法人税額から一定額を控除できる制度です。
現在は制度名や内容が改正により変遷していますが、給与増加を基礎とする税額控除制度では、当初申告での明細書添付が非常に重要です。実務上は、次のようなミスが起こりやすいです。
雇用者給与等支給額の集計を誤った
比較雇用者給与等支給額を誤った
教育訓練費の集計を忘れた
中小企業向け制度と大企業向け制度の判定を誤った
適用できるのに明細書を添付しなかった
当初申告要件がある制度では、申告書提出前のチェックが勝負です。
「期限後申告書」も確定申告書等に含まれる
当初申告要件という言葉から、「期限内申告でなければ絶対に使えない」と思われることがあります。
しかし、ここでいう「確定申告書等」には、確定申告書、中間申告書のほか、期限後申告書も含まれます。期限後申告書とは、申告期限を過ぎた後、税務署長による決定があるまでの間に提出する申告書です。
つまり、期限後申告であっても、その申告書に必要な明細書を添付していれば、当初申告要件を満たす余地があります。
ただし、期限後申告には無申告加算税や延滞税などの問題が生じる可能性があります。税制優遇の適用可否だけでなく、期限内申告を徹底することが大前提です。
当初申告要件がある制度は控除額にも制限がある
当初申告要件がある制度で注意すべきなのは、制度を後から新たに適用できないだけではありません。
当初申告で制度を適用していた場合でも、後から対象金額を増やして控除額を増額することはできない場合があります。たとえば、研究開発税制で次のようなケースを考えます。
当初申告で明細書に記載した試験研究費:600万円
後日判明した正しい試験研究費:800万円
差額:200万円この場合、実際には試験研究費が800万円だったとしても、当初申告で600万円として明細書を添付していた場合、後から更正の請求により800万円を前提に控除額を増やすことはできない、ということになります。
なぜ後から控除額を増やせないのか
当初申告要件があるインセンティブ措置は、政策的な税制優遇です。
そのため、制度の適用を受けるかどうか、どの金額を基礎として控除を受けるかについて、申告時に明確にしておくことが求められます。
後から自由に適用したり、控除額を増やしたりできると、申告後の状況を見て有利な制度を選択することができてしまいます。
そこで、当初申告での意思表示と明細書添付を要件とし、控除額にも一定の制限を設けているわけです。実務的には、次のように考えると分かりやすいです。
当初申告要件あり
→ 申告時に明細書を添付して制度適用を意思表示する必要がある
→ 後から新規適用はできない
→ 後から対象金額を増やして控除額を増額することもできないかなり厳しいですが、だからこそ申告前の確認が重要になります。
逆に控除額が減る修正はあり得る
当初申告要件がある制度では、後から控除額を増やすことは制限されます。
一方で、当初申告で過大に控除していた場合には、当然ながら修正が必要です。
たとえば、試験研究費を800万円として研究開発税制を適用したものの、後日、そのうち200万円は対象外だったと分かった場合には、控除額が過大です。
この場合は修正申告により、過大に控除した税額を是正する必要があります。
当初申告要件は、納税者が有利になる方向、つまり後から制度を適用したり、控除額を増やしたりすることを制限するものです。
誤って過大に控除していた場合まで、そのままでよいという意味ではありません。
法人税法上の制度は事後適用できるものがある
一方で、すべての制度に当初申告要件があるわけではありません。
法人税法上に規定されている一部の制度については、平成23年12月の改正により当初申告要件が廃止されています。
受取配当等の益金不算入や所得税額控除など、法人税法上に規定のある制度は、平成23年12月改正により当初申告要件が廃止されたため、更正の請求書等に一定の明細書を添付することで、事後的に適用を受けることができます。
当初申告要件あり・なしの違い
実務上は、次のように整理すると分かりやすいです。
区分 | 代表例 | 後から新規適用 | 後から控除額増額 |
租税特別措置法上のインセンティブ措置 | 研究開発税制、賃上げ促進税制など | 原則不可 | 原則不可 |
法人税法上の制度 | 受取配当等の益金不算入、所得税額控除など | 可能な場合あり | 可能な場合あり |
ただし、制度ごとに細かな要件や添付書類が異なります。
「この制度は後から使えるのか」「控除額を増やせるのか」は、制度ごとの条文や申告要件を確認する必要があります。
更正の請求で対応できる制度もある
更正の請求とは、申告した税額が過大であった場合などに、税務署に対して税額を減額するよう求める手続きです。
法人税法上の一定の制度については、当初申告で適用していなかった場合でも、更正の請求書に必要な明細書を添付することで、事後的に適用できる場合があります。
受取配当等の益金不算入や所得税額控除について、更正の請求をすれば当初の控除額から増額させることも可能とされています。
ただし、更正の請求には期限があります。
また、租税特別措置法上の当初申告要件がある制度については、更正の請求をしても新規適用や控除額の増額ができない場合があります。
「更正の請求で何でも直せる」と考えないようにしましょう。
申告前に確認すべき主な制度
法人税申告前には、少なくとも次のような制度について、当初申告要件や添付書類を確認しておきましょう。
研究開発税制
賃上げ促進税制
中小企業投資促進税制
中小企業経営強化税制
DX投資促進税制
カーボンニュートラル投資促進税制
地方拠点強化税制
特別償却または税額控除を選択する制度
これらの制度は、適用できれば税負担に大きく影響します。
一方で、要件判定や集計が複雑で、決算直前に慌てて確認すると漏れが出やすい制度でもあります。
研究開発税制で確認したい資料
研究開発税制を検討する場合には、申告前に次の資料を確認しましょう。
試験研究テーマ一覧
研究開発部門の人件費集計
対象となる材料費
経費の一覧
外注研究費の契約書
請求書
試験研究費の会計処理
前期以前の試験研究費
税額控除限度額の計算資料
申告書添付明細書
研究開発税制では、会計上の研究開発費と税務上の試験研究費が完全に一致するとは限りません。対象範囲を確認し、申告時に正しい金額を明細書に記載することが重要です。
賃上げ促進税制で確認したい資料
賃上げ促進税制を検討する場合には、給与集計が重要です。
当期の雇用者給与等支給額
前期の比較雇用者給与等支給額
役員給与を除外しているか
役員親族等への給与を除外しているか
継続雇用者の判定
教育訓練費の集計
上乗せ要件の確認
申告書添付明細書
給与データは、会計ソフト、給与計算ソフト、年末調整データなどに分散していることがあります。
申告直前に集計すると誤りが出やすいため、決算前から適用可能性を確認しておくことが大切です。
税理士・経理担当者が注意すべき実務ポイント
当初申告要件がある制度については、経理担当者と税理士の連携がとても重要です。
1. 決算前に適用可能性を確認する
申告書作成時に初めて確認するのではなく、決算前から適用できそうな制度を洗い出しましょう。
2. 明細書の添付漏れを防ぐ
制度の適用を受けるには、必要な別表や明細書の添付が必要です。
電子申告の場合も、送信データに明細書が含まれているか確認しましょう。
3. 対象金額の集計根拠を残す
後から控除額を増やせない制度では、当初申告時の金額が重要です。
対象金額の集計表、給与データ、研究開発費資料などを保存しておきましょう。
4. 控除額の上限を確認する
税額控除制度では、法人税額の一定割合を限度とすることが多くあります。
繰越しできる制度か、切り捨てになる制度かも確認しましょう。
5. 更正の請求で対応できる制度か確認する
制度によって、後から適用できるものとできないものがあります。
当初申告要件の有無を必ず確認しましょう。
よくある誤解
要件を満たしていれば後からでも適用できる
当初申告要件がある制度では、要件を満たしていても、当初申告で明細書を添付していなければ、後から適用できない場合があります。
更正の請求をすれば控除額を増やせる
研究開発税制など当初申告要件があるインセンティブ措置では、明細書に記載した対象金額を後から増やして控除額を増額することはできません。
期限後申告では当初申告要件を満たせない
添付資料では、当初申告要件にいう確定申告書等には期限後申告書も含まれるとされています。
法人税のすべての制度に当初申告要件がある
受取配当等の益金不算入や所得税額控除など、法人税法上の制度では、平成23年12月改正により当初申告要件が廃止され、一定の明細書添付により事後適用できるものがあります。
明細書を添付していれば金額誤りは後で増額できる
当初申告要件がある制度では、明細書に記載した対象金額を後から増やして控除額を増額することができない場合があります。
まとめ
当初申告要件とは、税制優遇の適用を受けるために、確定申告書等に控除額の計算に関する一定の明細書を添付することを求める要件です。
研究開発税制や賃上げ促進税制など、租税特別措置法上のインセンティブ措置では、この当初申告要件が設けられていることがあります。
当初申告要件がある制度では、申告時に必要な明細書を添付していなければ、後から更正の請求により制度を新たに適用することは原則としてできません。
また、当初申告で制度を適用していた場合でも、明細書に記載した対象金額を後から増やして控除額を増額することはできない場合があります。たとえば、研究開発税制で明細書に試験研究費600万円と記載していた場合、後から正しい金額が800万円と分かっても、更正の請求により控除額を増やせないことがあります。
一方、受取配当等の益金不算入や所得税額控除など、法人税法上の制度には、当初申告要件が廃止され、一定の明細書を添付することで事後的に適用できるものもあります。
法人税申告では、「後から直せるもの」と「当初申告で出していないと使えないもの」があります。申告期限前に適用可能な税額控除や特別措置を洗い出し、必要な明細書の添付漏れや対象金額の集計誤りがないよう、早めに確認しておきましょう。
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