使用人兼務役員とは?役員賞与・使用人分給与を損金算入するための注意点を税理士が解説
更新日:9月1日
おはようございます!代表の安田です。
中小企業や同族会社では、役員でありながら、実際には現場の仕事も担当している方が少なくありません。
たとえば、取締役営業部長、取締役経理部長、工場長を兼ねる取締役などです。
このような場合に問題となるのが、「使用人兼務役員」に該当するかどうかです。
使用人兼務役員に該当すれば、役員としての給与とは別に、使用人としての職務に対する給与や賞与について、一定の要件のもと損金算入できる余地があります。
一方で、使用人兼務役員に該当しない役員に対して、使用人分賞与のつもりで支給しても、税務上は役員給与として取り扱われ、損金不算入となる可能性があります。
特に同族会社では、本人だけでなく、配偶者や親族、関係会社の持株割合まで含めて判定する必要があります。
本日は、使用人兼務役員の基本、該当しない役員の範囲、同族会社での持株割合の判定、賞与を支給する際の注意点について、税理士の視点からわかりやすく解説します。
使用人兼務役員とは
使用人兼務役員とは、簡単にいうと、役員でありながら、会社の使用人としての職務にも常時従事している人をいいます。
国税庁は、使用人兼務役員について、役員のうち、部長、課長その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事する者と説明しています。
たとえば、次のようなケースが考えられます。
取締役営業部長として、実際に営業部門の管理や営業活動を行なっている
取締役経理部長として、日常的に経理実務や決算業務に従事している
取締役工場長として、製造現場の管理や作業指示を行なっている
このように、単に肩書きとして部長名が付いているだけではなく、実際に使用人としての職務に常時従事していることが必要です。
形式上の肩書きだけで「使用人兼務役員です」と説明しても、実態がなければ税務上認められない可能性があります。
使用人兼務役員になると何が違うのか
法人税では、役員給与の損金算入に厳しいルールがあります。
役員に対して支給する給与は、原則として、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与などに該当しない限り、損金算入できません。また、これらに該当する場合でも、不相当に高額な部分は損金算入できません。
一方、使用人兼務役員については、役員としての給与部分と、使用人としての職務に対する給与部分を区分して考えることができます。
たとえば、役員としての報酬は毎月同額で支給し、使用人としての職務に対する給与や賞与は、他の従業員と同じ基準で支給する、という設計が考えられます。
この場合、使用人分給与として合理的に区分されており、他の従業員と同様の支給基準に基づいているのであれば、使用人分について損金算入できる余地があります。
ただし、「使用人兼務役員に該当すること」と「支給額や支給時期が適正であること」は別問題です。
使用人兼務役員であっても、過大な給与や賞与、他の従業員と異なる不自然な支給、役員分と使用人分の区分が不明確な支給については、税務上問題になる可能性があります。
使用人兼務役員になれない人
すべての役員が使用人兼務役員になれるわけではありません。
国税庁は、使用人兼務役員になれない役員として、代表取締役、代表執行役、代表理事、清算人、副社長・専務・常務など、合名会社・合資会社・合同会社の業務執行社員、監査役などを挙げています。
つまり、社長や代表取締役は、たとえ現場業務を行なっていたとしても、税務上の使用人兼務役員にはなれません。
中小企業では、社長が営業、経理、現場管理、採用などを何でも行っているケースがあります。
しかし、「実際に使用人のような仕事もしているから、社長にも使用人分賞与を払える」というわけではありません。
代表取締役に対する給与や賞与は、原則として役員給与のルールで考える必要があります。
同族会社では持株割合の判定に注意
特に注意が必要なのが、同族会社の役員です。
同族会社の役員については、一定の持株割合の判定により、使用人兼務役員になれない場合があります。
国税庁の説明では、同族会社の役員のうち、所有割合による判定で一定の要件をすべて満たす役員は、使用人兼務役員にはなれないとされています。具体的には、次の3つの要件を確認します。
1つ目は、その役員が、上位株主グループのうち一定の50%超判定に関係する株主グループに属していることです。
2つ目は、その役員が属する株主グループの所有割合が10%を超えていることです。
3つ目は、その役員本人、配偶者、その者らが50%超を所有する他の会社を含めた所有割合が5%を超えていることです。
この3つをすべて満たす場合、その役員は使用人兼務役員にはなれません。
ここで重要なのは、本人の持株割合だけを見るわけではないという点です。
配偶者、親族、関係法人を含めた株主グループで判定する必要があります。
「本人は2%しか持っていないから大丈夫」とは限らない
同族会社では、本人の持株割合だけを見ると少なくても、配偶者や関係会社を含めると、使用人兼務役員になれないケースがあります。
たとえば、夫が会社の株式を70%持っており、妻が30%持っている会社があるとします。
その会社が別の会社の株式を保有しており、妻本人もその別会社の株式を少し持っているようなケースでは、妻本人の直接持株割合だけを見るのではなく、夫婦や関係会社を含めた所有割合の判定が必要になります。
実務上よくあるのは、次のような思い込みです。
本人は5%以下しか持っていないから使用人兼務役員になれる
株を持っているのは配偶者だから本人には関係ない
関連会社を通じた保有分までは考えなくてよい
このような判断は危険です。
使用人兼務役員の判定では、本人だけでなく、配偶者や親族、同族関係者、関係会社の所有割合も確認する必要があります。
株式の贈与、譲渡、新株発行、資本政策などがあった場合には、毎期確認するのが安全です。
みなし役員にも注意
使用人兼務役員の判定では、「みなし役員」にも注意が必要です。
みなし役員とは、登記上は役員でなくても、実質的に法人の経営に従事しているなど、税務上役員とみなされる人をいいます。
国税庁は、同族会社の使用人のうち税務上みなし役員とされる者も、使用人兼務役員にはならないと説明しています。
たとえば、登記上は取締役ではないものの、創業者一族として会社の重要な意思決定に関与し、実質的に経営を動かしている人がいる場合には、みなし役員に該当する可能性があります。
このような人に対して賞与を支給した場合、通常の従業員賞与として損金算入できると考えていたものが、税務上は役員給与として扱われる可能性があります。
特に同族会社では、登記簿上の役員だけでなく、実際に誰が経営判断をしているのか、誰が重要な権限を持っているのかを確認する必要があります。
使用人分賞与を損金算入するための注意点
使用人兼務役員に対して賞与を支給する場合でも、無条件に損金算入できるわけではありません。
まず、使用人分としての職務実態が必要です。
実際に部長、課長、工場長などとして、常時使用人としての職務に従事していることが求められます。
次に、他の使用人と同じ基準で支給されていることが重要です。
たとえば、一般従業員には夏と冬に賞与を支給しているのに、使用人兼務役員にだけ決算直前に特別賞与を支給するような場合には、使用人分賞与として認められにくくなります。
また、支給額の算定根拠も必要です。
使用人としての職務内容、他の従業員とのバランス、給与規程、賞与規程、職位、勤務実態などから見て、合理的な金額である必要があります。
さらに、役員分と使用人分を明確に区分しておくことも大切です。
給与台帳、賃金規程、取締役会議事録、株主総会議事録、賞与計算資料などを整備しておきましょう。
使用人兼務役員への賞与は事前確定届出給与が不要な場合もある
役員賞与を損金算入するためには、原則として事前確定届出給与として、事前に税務署へ届出を行う必要があります。
しかし、使用人兼務役員に対して支給する使用人分賞与については、一定の要件を満たす場合、通常の使用人賞与として取り扱うことができます。
この場合、役員賞与ではなく使用人分賞与として整理されるため、事前確定届出給与の届出が不要となるケースがあります。
ただし、これはあくまで「使用人分」として合理的に認められる場合です。
使用人兼務役員に該当しない人への賞与や、実態として役員としての地位に基づく賞与と見られるものは、役員給与のルールに従う必要があります。
特に、社長の配偶者、後継者、創業家の親族などに対する支給は、税務調査で確認されやすいポイントです。
「使用人分です」と説明できるだけの実態と資料を整えておくことが重要です。
同族会社では毎年チェックしたいポイント
使用人兼務役員の判定は、一度行えば終わりではありません。
同族会社では、株式の贈与、相続、譲渡、新株発行、自己株式の取得、関係会社の設立などにより、持株割合が変動することがあります。
その結果、以前は使用人兼務役員に該当していた人が、翌期には該当しなくなることがあります。
たとえば、後継者へ株式を贈与した場合、配偶者や子どもの持株割合が増えた場合、資産管理会社を通じて株式を保有するようになった場合などです。
このような変動があると、使用人兼務役員の判定にも影響します。
特に次のような場合には、必ず確認しておきましょう。
株式の贈与を行った
株式の譲渡を行った
相続により株主が変わった
新株発行を行った
資産管理会社を設立した
役員の親族が株主になった
役員の配偶者が別会社を保有している
使用人兼務役員の判定を誤ると、本来損金算入できない賞与や給与を損金算入してしまい、税務調査で否認される可能性があります。
使用人兼務役員の判定でよくある誤解
実務では、次のような誤解がよくあります。
部長という肩書きがあれば使用人兼務役員になる
実際には、肩書きだけでなく、常時使用人としての職務に従事している実態が必要です。
代表取締役でも現場仕事をしていれば使用人兼務役員になれる
代表取締役は、税務上、使用人兼務役員にはなれません。
本人の持株割合だけを見ればよい
同族会社では、本人だけでなく、配偶者、親族、関係会社を含めた株主グループの判定が必要です。
使用人兼務役員なら自由に賞与を出せる
使用人兼務役員であっても、他の従業員と同じ基準で、合理的な金額・時期に支給されていることが必要です。
税務調査で確認されやすい資料
使用人兼務役員に給与や賞与を支給している場合、税務調査では次のような資料を確認される可能性があります。
株主名簿
法人税申告書別表二
登記事項証明書
組織図
職務分掌表
給与規程
賞与規程
給与台帳
賞与計算資料
取締役会議事録
株主総会議事録
雇用契約書や辞令
実際の勤務実態がわかる資料
特に、同族会社では「本当に使用人として働いているのか」「支給額が他の従業員と比べて不自然ではないか」「親族への利益移転になっていないか」という点が見られやすいです。
事後的に説明できるよう、支給前から資料を整えておくことが大切です。
まとめ:使用人兼務役員は「肩書き」ではなく実態と持株割合で判断する
使用人兼務役員とは、役員でありながら、部長や課長などの使用人としての職制上の地位を有し、常時使用人としての職務に従事している人をいいます。
使用人兼務役員に該当すれば、使用人としての職務に対する給与や賞与について、一定の要件のもと損金算入できる余地があります。
しかし、代表取締役、副社長、専務、常務、監査役などは使用人兼務役員にはなれません。
また、同族会社では、本人だけでなく、配偶者、親族、関係会社を含めた持株割合の判定が必要です。本人の直接持株割合が少なくても、株主グループで見ると使用人兼務役員になれないケースがあります。
さらに、登記上の役員でなくても、実質的に経営に関与している場合には、みなし役員として扱われる可能性があります。
使用人兼務役員への賞与を損金算入するには、次の点を確認しておきましょう。
使用人としての職務実態があるか
使用人兼務役員になれない役員に該当しないか
同族会社の持株割合判定に問題がないか
他の従業員と同じ基準で支給しているか
支給額が過大でないか
役員分と使用人分を明確に区分しているか
使用人兼務役員の判定は、法人税の損金算入に大きく影響します。
特に同族会社で親族役員に給与や賞与を支給している場合には、毎期、株主構成と勤務実態を確認しておくことをおすすめします。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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