不祥事で役員報酬を減額したら損金不算入?定期同額給与と臨時改定事由を税理士が解説
- 安田 亮
- 7月31日
- 読了時間: 16分
こんばんは!代表の安田です。
会社の役員報酬は、法人税の計算上とても注意が必要な項目です。
従業員給与と違い、役員給与は自由に増減すると、法人税上、損金に算入できない部分が生じることがあります。
特に問題になりやすいのが、期中に役員報酬を減額するケースです。
たとえば、役員が不祥事を起こした場合、社内外への責任を明確にするため、一定期間、役員報酬を減額することがあります。
また、会社としての社会的信用を守るため、役員が自主返上や報酬カットを行うケースもあります。
このとき気になるのが、法人税法上の「定期同額給与」に該当するかどうかです。
役員報酬は、原則として毎月同額でなければ損金算入が認められにくい仕組みになっています。
では、不祥事等を理由に役員報酬を一時的に減額し、その後、元の金額に戻した場合、その減額分や復額後の支給額は損金算入できるのでしょうか。
結論から言うと、不祥事等を理由とする一定期間の役員報酬の減額であっても、社会通念上相当と認められる範囲であり、会社の社会的評価への悪影響を避けるためなど、やむを得ない事情によるものであれば、定期同額給与の臨時改定事由に該当する可能性があります。
この場合、減額改定だけでなく、一定期間経過後に元の水準へ戻す増額改定についても、臨時改定事由による改定として整理できる可能性があります。
本日は、役員給与の基本、定期同額給与の考え方、不祥事による報酬減額が臨時改定事由に該当するか、実務上の注意点を税理士の視点から解説します。
役員給与はなぜ注意が必要なのか
法人が役員に支給する給与は、法人税法上、一定の要件を満たすものに限り損金算入が認められます。
役員は会社の意思決定に関与する立場です。
そのため、利益が出そうなときに役員報酬を増やして法人税を減らしたり、利益が少ないときに報酬を減らしたりすることで、利益調整が行われるおそれがあります。
そこで法人税法では、役員給与について、損金算入できる類型を限定しています。
主なものは次の3つです。
定期同額給与
事前確定届出給与
業績連動給与
中小企業で最も一般的なのは、毎月同じ金額を支給する定期同額給与です。
この定期同額給与に該当しない役員給与は、原則として損金不算入となります。
定期同額給与とは
定期同額給与とは、1か月以下の一定期間ごとに支給され、その事業年度の各支給時期における支給額が同額である役員給与をいいます。
簡単にいえば、毎月同じ金額を支給する役員報酬です。
たとえば、代表取締役に毎月50万円の役員報酬を支給する場合、その金額が事業年度を通じて同額であれば、定期同額給与として損金算入できるのが基本です。
一方、期中に理由なく50万円から80万円へ増額したり、80万円から30万円へ減額したりすると、定期同額給与に該当しない部分が生じ、損金不算入となる可能性があります。
ただし、役員報酬の改定が一切認められないわけではありません。
一定の時期や一定の理由による改定であれば、定期同額給与として扱われる場合があります。
役員報酬を改定できる主なケース
定期同額給与として認められる役員報酬の改定には、主に次のようなものがあります。
1つ目は、通常改定です。
事業年度開始の日から原則3か月以内に行う定時株主総会などで、役員報酬を改定するケースです。
中小企業では、決算後の定時株主総会で役員報酬を決め、翌月から新しい報酬額にすることが多いでしょう。
2つ目は、臨時改定事由による改定です。
役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更、その他これらに類するやむを得ない事情により、期中に役員報酬を改定するケースです。
3つ目は、業績悪化改定事由による改定です。
会社の経営状況が著しく悪化したことなどにより、やむを得ず役員報酬を減額するケースです。
今回のテーマである不祥事等による役員報酬の一時的な減額は、主に2つ目の臨時改定事由に該当するかが問題になります。
臨時改定事由とは
臨時改定事由とは、役員の職制上の地位の変更、役員の職務内容の重大な変更、その他これらに類するやむを得ない事情をいいます。
典型例は、期中に社長が退任し、副社長が社長に就任するような場合です。
この場合、副社長から社長へ地位が変わり、職務内容や責任も大きく変わります。
そのため、役員報酬を改定する合理的な理由があります。
また、合併などの組織再編により、役員の職務内容が大幅に変わる場合も臨時改定事由に該当し得ます。
このようなケースでは、事業年度開始時には予測しにくい事情が発生し、当初決めた役員報酬額を維持することが実態に合わなくなります。
そのため、利益調整ではなく、やむを得ない事情による改定として認められる余地があります。
不祥事による役員報酬減額も臨時改定事由になるのか
実務で悩ましいのが、不祥事等により役員報酬を減額する場合です。
たとえば、次のようなケースです。
役員の管理責任が問われた
社内不祥事が発覚した
重大な品質問題が生じた
顧客情報の漏えいが発生した
法令違反や行政処分があった
社会的信用を損なう事故が発生した
このような場合、会社として責任を明確にするため、役員報酬を一定期間減額することがあります。
ただし、役員の降格や役職変更がない場合、「職制上の地位の変更」がないため、臨時改定事由に該当しないのではないかという疑問が生じます。
しかし、臨時改定事由は、地位の変更だけに限定されているわけではありません。
条文上は、職務内容の重大な変更や、その他これらに類するやむを得ない事情も含まれます。
そのため、不祥事等による役員報酬の一時的な減額についても、事情によっては臨時改定事由に該当すると考えられます。
地位の変更がなくても認められる可能性がある
不祥事による役員報酬の減額では、必ずしも降格や役職変更が行われるとは限りません。
代表取締役のまま、または取締役のまま、一定期間だけ報酬を減額するケースもあります。
このような場合でも、直ちに臨時改定事由に該当しないとはいえません。
国税庁の通達解説でも、臨時改定事由は、個々の実態に即して、事前に定められていた役員給与の額を改定せざるを得ないやむを得ない事情があるかどうかで判定するとされています。
また、不祥事等を起こした場合に、役員給与を一定期間減額することについて、その減額が社会通念上相当と認められる範囲であれば、減額改定およびその後の増額改定についても臨時改定事由に該当し得るとされています。
つまり、地位の変更がない一時的な減額であっても、会社の社会的評価を守るため、責任を明確にするためなど、やむを得ない事情があり、減額内容が相当であれば、臨時改定事由として整理できる可能性があります。
社会通念上相当な範囲とは
不祥事による役員報酬の減額が認められるかどうかで重要なのが、「社会通念上相当な範囲」かどうかです。
社会通念上相当とは、一般的に見て合理的で、過度でも恣意的でもない範囲という意味です。
たとえば、不祥事の内容、役員の責任の程度、会社への影響、社会的批判の程度、他社事例、社内規程、取締役会の判断などを踏まえ、減額率や減額期間が相当かどうかを判断します。
軽微なミスにもかかわらず、期末直前に極端な報酬減額を行ない、その後すぐに復額するようなケースでは、利益調整と見られるリスクがあります。
一方、社会的信用に重大な影響を与える不祥事が発生し、責任ある役員について一定期間報酬を減額する場合には、社会通念上相当と説明しやすくなります。
重要なのは、減額の理由、対象者、減額率、期間を合理的に説明できることです。
減額後に元へ戻す増額改定も問題になる
不祥事による役員報酬の減額では、もう一つ重要な論点があります。
それは、減額期間が終わった後に、役員報酬を元の水準に戻す増額改定です。
定期同額給与の考え方からすると、期中に報酬を増額すると損金不算入のリスクがあります。
そのため、減額は認められても、復額が認められるのかが問題になります。
この点について、不祥事等による一定期間の減額が社会通念上相当な範囲で臨時改定事由に該当する場合、その後、元の水準まで戻す増額改定についても、同じく臨時改定事由による改定として整理できる可能性があります。
つまり、適切な理由と期間を定めて一時的に減額し、その期間終了後に元の報酬へ戻す場合、減額改定と復額改定を一体として臨時改定事由による改定と考える余地があります。
ただし、復額時期や復額金額も当初の決議内容と整合している必要があります。
業績悪化改定事由との違い
役員報酬の減額には、臨時改定事由のほかに、業績悪化改定事由による減額があります。
業績悪化改定事由とは、会社の経営状況が著しく悪化したことなどにより、やむを得ず役員報酬を減額する場合です。
たとえば、売上が大幅に減少し、資金繰りが急激に悪化し、取引銀行や取引先との関係からも役員報酬を減額せざるを得ないようなケースです。
ただし、単なる一時的な資金繰りの都合や、業績目標に達しなかったという程度では、業績悪化改定事由には該当しないとされています。
不祥事による役員報酬の減額は、会社の業績悪化そのものを理由とするわけではありません。むしろ、会社の社会的信用への影響や役員責任を踏まえた処分としての性格が強いものです。
そのため、臨時改定事由として検討するのが基本になります。
利益調整と見られないことが重要
役員給与の損金算入制度で最も警戒されるのは、利益調整です。
利益が出そうなときに役員報酬を増やして法人税を減らす
利益が出ないときに役員報酬を減らして個人課税を抑える
このような恣意的な調整を防ぐために、定期同額給与のルールがあります。
不祥事による役員報酬の減額であっても、実態として利益調整のために行なわれたように見えると、損金算入が否認されるリスクがあります。
たとえば
期末に利益が出そうだから急に不祥事を理由に報酬を減額する
減額理由が曖昧で、社内決議もない
減額対象者や減額率に一貫性がない
減額期間が不自然に短い
このような場合は注意が必要です。
臨時改定事由として認められるためには、会社として役員報酬を改定せざるを得ない事情が客観的に説明できることが重要です。
取締役会や株主総会の決議を残す
不祥事等を理由に役員報酬を減額する場合、必ず社内決議を残しましょう。
取締役会設置会社であれば、取締役会議事録を作成します。
株主総会決議が必要な場合には、株主総会議事録を作成します。
中小企業では、役員報酬の決議が曖昧なまま、給与計算だけ変更してしまうケースがあります。しかし、税務調査では、なぜその時期に、なぜその役員の報酬を、どの程度、どの期間減額したのかが確認されます。
議事録には、少なくとも次の内容を記載しておくとよいでしょう。
不祥事や問題事象の概要
対象役員の責任
会社の社会的信用への影響
役員報酬を減額する理由
減額対象者
減額前の報酬額
減額後の報酬額
減額率
減額期間
減額期間終了後の取扱い
社会通念上相当と判断した理由
議事録があることで、恣意的な利益調整ではなく、やむを得ない事情による改定であることを説明しやすくなります。
減額期間を明確にする
不祥事による役員報酬の減額では、減額期間を明確にすることが重要です。
たとえば、「令和〇年〇月支給分から令和〇年〇月支給分まで、月額報酬を30%減額する」といった形です。
期間を明確にせず、「当面の間」「状況が落ち着くまで」としてしまうと、復額時に新たな改定理由が問題になることがあります。
一定期間の責任処分として報酬を減額するのであれば、当初の決議で減額期間と復額時期を定めておく方が、税務上の説明もしやすくなります。
また、復額時には、当初決議どおりに元の水準へ戻したことを確認できる資料を残しておきましょう。
もし減額期間を延長する場合には、その延長理由や追加決議も必要です。
減額率の決め方
減額率についても、社会通念上相当な範囲であることが必要です。
一般的には、不祥事の内容や責任の程度に応じて、10%、20%、30%、50%などの減額が検討されます。
ただし、どの割合なら必ず認められるという明確な基準があるわけではありません。
大切なのは、会社として合理的な判断を行ない、その根拠を残すことです。
たとえば、代表取締役は月額報酬の30%を3か月減額、担当取締役は20%を3か月減額、監督責任のある役員は10%を3か月減額、といったように、責任の程度に応じた取扱いにすることが考えられます。
全く責任のない役員まで一律に減額する場合や、責任の重い役員の減額率が軽い場合には、合理性の説明が難しくなることもあります。
自主返上との違い
不祥事対応では、役員が「報酬を自主返上する」と表現されることがあります。
ただし、税務上は、自主返上の形式によって処理が変わる可能性があります。
たとえば、いったん役員報酬を満額支給したうえで、役員が会社へ返金する場合には、その返金が寄附金や債務免除のように整理される可能性もあります。
一方、役員報酬自体を取締役会等で減額改定し、減額後の金額だけを支給する場合には、定期同額給与の臨時改定事由に該当するかを検討します。
実務上は、税務処理を明確にするため、単なる自主返上という曖昧な表現ではなく、役員報酬の減額改定として正式に決議する方が整理しやすいことがあります。
ただし、会社法上の手続や報酬決定権限との関係もあるため、顧問税理士や弁護士に相談しながら進めることをおすすめします。
役員賞与や事前確定届出給与には注意
今回のテーマは、毎月支給される役員報酬、つまり定期同額給与の減額です。
一方、役員賞与や事前確定届出給与については別の注意が必要です。
事前確定届出給与は、事前に税務署へ届出を行い、届出どおりの時期・金額で支給することにより損金算入が認められる制度です。
届出と異なる金額を支給した場合、原則として損金算入が認められなくなるリスクがあります。不祥事を理由に事前確定届出給与を減額または不支給にする場合には、定期同額給与とは別の検討が必要です。
また、役員賞与を後から支給したり、支給額を変更したりする場合も、損金不算入のリスクがあります。不祥事対応で役員給与全体を見直す場合には、月額報酬だけでなく、賞与や届出給与も確認しましょう。
中小企業でよくあるミス
中小企業では、役員報酬の減額について次のようなミスがよくあります。
取締役会議事録や株主総会議事録を作成していない
減額理由が記録されていない
減額期間が曖昧
復額時期を決めていない
給与計算だけ変更している
不祥事の内容と減額率の関係が説明できない
期末の利益調整と見られやすい時期に改定している
役員賞与や事前確定届出給与との関係を確認していない
これらのミスがあると、税務調査で定期同額給与として認められず、損金不算入となるリスクがあります。
役員給与は金額が大きくなりやすいため、否認された場合の税額影響も大きくなります。
減額を行う前に、必ず手続と資料を整えておきましょう。
税務調査で確認されやすいポイント
不祥事による役員報酬の減額について、税務調査では次のような点が確認される可能性があります。
不祥事等の発生事実
役員の責任の有無
減額対象者の範囲
減額率と減額期間
減額決議の議事録
復額決議または当初決議の内容
減額前後の役員報酬支給状況
給与台帳
会社の業績との関係
利益調整目的ではないこと
社会通念上相当といえる理由
税務調査で重要なのは、後から口頭で説明することではなく、当時の判断資料が残っていることです。
不祥事発生時の社内報告書、取締役会資料、外部公表資料、再発防止策、役員責任に関する資料なども保存しておくとよいでしょう。
実務上のチェックポイント
不祥事等を理由に役員報酬を減額する場合は、次の点を確認しましょう。
役員報酬の種類は定期同額給与か
不祥事や問題事象の内容を整理しているか
対象役員の責任を明確にしているか
職制上の地位の変更があるか
地位変更がない場合でも、やむを得ない事情を説明できるか
減額が会社の社会的評価への悪影響を避けるためなど合理的理由に基づくか
減額率は社会通念上相当か
減額期間は明確か
復額時期を当初から決めているか
取締役会または株主総会の議事録を作成しているか
給与台帳と決議内容が一致しているか
利益調整と見られる事情がないか
事前確定届出給与や役員賞与への影響を確認しているか
このチェックを行なうことで、損金不算入リスクを下げることができます。
まとめ
役員給与は、法人税法上、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与などに該当しない限り、原則として損金算入が認められません。
中小企業で最も一般的なのは、毎月同額で支給する定期同額給与です。
そのため、期中に役員報酬を増減させる場合には、定期同額給与の要件を満たすかどうかを慎重に確認する必要があります。
不祥事等により役員報酬を一定期間減額する場合、降格などの職制上の地位変更がないと臨時改定事由に該当しないのではないかと不安になることがあります。
しかし、臨時改定事由は、地位変更だけに限定されているわけではありません。
役員の職務内容の重大な変更や、その他これらに類するやむを得ない事情による改定も含まれます。
不祥事等を理由とする一定期間の役員報酬減額についても、会社の社会的評価への悪影響を避けるためなど、やむを得ず行われたものであり、かつ社会通念上相当と認められる範囲であれば、臨時改定事由に該当する可能性があります。
この場合、減額改定だけでなく、その後に元の水準へ戻す増額改定についても、臨時改定事由によるものとして整理できる可能性があります。
ただし、認められるためには、減額理由、対象役員、減額率、減額期間、復額時期を明確にし、取締役会議事録や株主総会議事録などの資料を残しておくことが重要です。
単なる利益調整と見られるような減額や、理由が曖昧な報酬変更は、損金不算入のリスクがあります。
不祥事対応として役員報酬を減額する場合は、税務だけでなく、会社法、労務、ガバナンス、社外説明も含めて慎重に進めましょう。
役員給与の減額や定期同額給与の判断で迷う場合は、税理士へ相談することをおすすめします。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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