従業員の健康診断費用は福利厚生費になる?給与課税されないための注意点を税理士が解説
- 安田 亮
- 1 日前
- 読了時間: 10分
こんにちは!代表の安田です。
会社が従業員の健康診断費用を負担した場合、通常は福利厚生費として処理している会社が多いでしょう。
しかし、健康診断費用は、どのような場合でも無条件に福利厚生費として処理できるわけではありません。
たとえば、役員だけが高額な人間ドックを受けている場合や、特定の従業員だけを対象にしている場合には、会社の福利厚生費ではなく、その人に対する給与として課税される可能性があります。
一方で、全従業員に健康診断を受ける機会を与えている場合には、結果として受診しない人がいたとしても、直ちに給与課税の問題が生じるわけではありません。
本日は、従業員の健康診断費用を会社が負担した場合の所得税・法人税の取扱い、福利厚生費として処理するためのポイント、任意受診にした場合の注意点について解説します。
会社には健康診断を実施する義務がある
まず前提として、会社には従業員に対する健康診断を実施する義務があります。
厚生労働省は、労働安全衛生法第66条に基づき、事業者は労働者に対して医師による健康診断を実施しなければならず、労働者も事業者が行なう健康診断を受けなければならないと説明しています。
一般的な会社であれば、雇入れ時の健康診断や、年1回の定期健康診断が代表例です。
法人が負担する従業員の健康診断費用について、原則として給与課税されることなく福利厚生費として処理できる背景には、労働安全衛生法により雇入れ時や年1回の定期健康診断の実施が義務付けられている点が挙げられます。
つまり、健康診断は単なる従業員サービスではなく、会社が労務管理・安全衛生管理の一環として実施すべきものです。
健康診断費用は原則として福利厚生費で処理できる
会社が従業員の健康管理のために健康診断を実施し、その費用を負担した場合、通常は福利厚生費として損金算入できます。
また、従業員側でも、会社が負担した健康診断費用について給与として課税されないのが一般的です。
その理由は、健康診断が会社の安全衛生管理上必要なものであり、従業員に対して個人的な利益を与えることだけを目的とした支出ではないためです。
ただし、福利厚生費として認められるためには、少なくとも次のような点を満たしておく必要があります。
役員や特定の従業員だけを対象としていないこと
全従業員に受診機会が与えられていること
健康管理のために一般的に必要とされる内容であること
費用が社会通念上、著しく高額でないこと
会社が直接医療機関等へ支払うなど、実費精算の形が明確であること
国税庁の質疑応答事例でも、人間ドック費用について、役員や特定の地位にある人だけを対象とする場合には課税の問題が生じる一方、一定年齢以上の希望者が全て受診でき、受診者全員を対象に費用を負担する場合には、給与等として課税する必要はないとされています。
特定の人だけが対象だと給与課税のリスクがある
健康診断費用で最も注意すべきなのは、対象者が限定されているケースです。
たとえば、次のような場合には、福利厚生費としての処理に注意が必要です。
役員だけが人間ドックを受けている
管理職だけに高額な検査を認めている
一部の従業員だけに受診費用を補助している
社長や親族役員だけが高額な検診を受けている
特定の人だけオプション検査の費用を会社が負担している
このような場合、会社が負担した費用は、その人に対する経済的利益、つまり給与として取り扱われる可能性があります。
給与課税となると、従業員側では所得税の課税対象となり、会社側では源泉徴収漏れの問題が生じます。役員の場合には、法人税上の役員給与・定期同額給与の問題にも発展する可能性があります。
全員に受診機会を与えていれば、実際に受けない人がいてもよい
実務上よくある相談が、「全従業員に案内はしているが、実際には一部の人しか健康診断を受けていない場合でも、福利厚生費でよいのか」というものです。
結論としては、全従業員に公平に受診機会を与えているのであれば、結果として受診しない人がいたとしても、それだけで給与課税されるわけではありません。
これは、健康診断が社員旅行のように「参加率」自体に意味がある福利厚生とは性質が異なるためです。
社員旅行は、従業員同士の親睦や慰安という目的があるため、一定以上の参加割合が問題になることがあります。一方、健康診断は、従業員一人ひとりの健康状態を確認することが目的です。全員が同じ日に同じ場所で受診する必要はなく、個別に受診しても目的は達成できます。
したがって、税務上は「実際に何%が受診したか」よりも、「受診機会が特定の人だけに限定されていないか」が重要です。
任意受診に変更しても税務上は直ちに問題にならない
会社によっては、費用負担や個人情報管理の観点から、「健康診断を義務ではなく任意受診にしたい」と考えることがあります。
この場合、税務上の観点だけでいえば、全従業員に受診機会を与えており、受診した従業員全員について会社が費用を負担するのであれば、福利厚生費として処理できる余地があります。
ただし、ここで注意すべきなのは、税務上の取扱いと労働安全衛生法上の義務は別問題であるという点です。
税務上は給与課税されないとしても、会社が健康診断を実施せず、従業員にも受診させていない場合には、労働安全衛生法上の問題が生じる可能性があります。
したがって、「税務上は福利厚生費でよいから、健康診断は完全任意でよい」と考えるのは危険です。会社としては、税務処理だけでなく、労務管理上の義務も踏まえて運用する必要があります。
健康診断結果を会社が管理しない場合の税務上の影響
健康診断結果は、従業員の身体に関する非常に重要な個人情報です。そのため、会社としては「できるだけ健康診断結果を社内で管理したくない」と考えることもあります。
では、会社が健康診断結果を保存・管理しない場合、会社が負担した健康診断費用は福利厚生費として認められなくなるのでしょうか。
この点について、会社が支払った健康診断費用は従業員が受診するための費用であり、健康診断結果の管理とは切り離して考えるべきとされています。また、健康診断結果を記録しなかったとしても、課税関係には影響しないと整理されています。
つまり、税務上は、健康診断結果を会社が管理しているかどうかよりも、受診機会が公平に与えられているか、費用負担が特定の人への利益供与になっていないかが重要です。
ただし、労働安全衛生法では、健康診断結果について一定の記録保存や、異常所見がある場合の医師の意見聴取などが求められます。税務上問題がないとしても、労務管理・安全衛生管理の面では適切な対応が必要です。
人間ドックやオプション検査を会社が負担する場合
通常の定期健康診断に加えて、人間ドックやオプション検査を会社が負担するケースもあります。この場合も、一定の条件を満たしていれば、給与課税されない福利厚生費として処理できる可能性があります。
国税庁の質疑応答事例では、35歳以上の希望者全員について人間ドックを受けられるようにし、受診した者全員を対象に会社が費用を負担する場合、給与等として課税する必要はないとされています。
ポイントは、年齢などの合理的な基準に基づいて対象者を定め、該当者全員に機会を与えることです。
たとえば、「35歳以上の役員・従業員全員を対象に人間ドック費用を会社が負担する」という制度であれば、福利厚生として説明しやすくなります。
一方、「役員だけ」「社長だけ」「一部の幹部だけ」という制度では、給与課税のリスクが高くなります。
法人税上の取扱い
法人税上、会社が負担する健康診断費用は、通常、福利厚生費として損金算入されます。
ただし、特定の役員や従業員だけを対象とするなど、実質的に給与と認定される場合には、法人税上の取扱いも変わります。
従業員に対する給与とされた場合には、原則として給与として損金算入されますが、源泉所得税の徴収漏れが問題になります。
役員に対する給与とされた場合には、定期同額給与などの要件を満たさない限り、法人税上、損金不算入となる可能性があります。特に、社長や役員だけを対象に高額な人間ドック費用を会社が負担している場合は注意が必要です。
そのため、健康診断費用を福利厚生費として処理するためには、社内規程や案内文で対象者・費用負担範囲・受診方法を明確にしておくことが大切です。
実務上のチェックポイント
健康診断費用を会社負担にする場合には、次の点を確認しておきましょう。
1. 対象者が公平か
全従業員または合理的な基準に該当する全員を対象にしているかを確認します。
「役員だけ」「親族だけ」「特定部署だけ」といった運用は、給与課税のリスクがあります。
2. 費用が通常必要な範囲か
一般的な健康診断や人間ドックの範囲を大きく超える高額な検査は、福利厚生費として認められにくくなる可能性があります。
高額な自由診療や美容目的の検査などは、健康管理目的といえるか慎重に判断する必要があります。
3. 会社が直接支払っているか
医療機関から会社宛てに請求を受け、会社が直接支払う方法が望ましいです。
従業員がいったん立て替える場合でも、領収書や受診内容を確認し、実費精算であることを明確にしておきましょう。
4. 社内規程を整備しているか
健康診断や人間ドックの対象者、実施頻度、会社負担額、受診方法、オプション検査の取扱いを社内規程や案内文で明確にしておくと、税務上も説明しやすくなります。
5. 労務管理上の義務も確認しているか
税務上、福利厚生費として処理できるかどうかと、労働安全衛生法上の健康診断実施義務は別の問題です。
健康診断結果の保存、異常所見がある場合の医師の意見聴取、必要な事後措置など、労務管理上の対応も確認しておきましょう。
まとめ
会社が従業員の健康診断費用を負担した場合、通常は福利厚生費として処理でき、従業員側でも給与課税されないのが一般的です。
ただし、役員や特定の従業員だけを対象にしている場合や、通常必要とされる範囲を超える高額な検査を一部の人だけに認めている場合には、給与として課税される可能性があります。
健康診断費用を福利厚生費として処理するためには、全従業員または合理的な基準に該当する全員に受診機会を与えることが重要です。結果として受診しない人がいたとしても、受診機会が公平に与えられていれば、直ちに課税関係に影響するものではありません。
また、健康診断結果を会社が管理していないこと自体は、税務上ただちに給与課税の原因になるとは考えにくいものの、労働安全衛生法上の義務とは別に検討する必要があります。
健康診断は、税務だけでなく労務管理・個人情報管理とも関係する制度です。会社としては、福利厚生費として処理できるかだけでなく、対象者の公平性、費用の妥当性、社内規程、健康診断結果の取扱いまで含めて、実務運用を整えておきましょう。
神戸での起業や開業に関するご相談、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
<あわせて読みたい>
【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






コメント