源泉所得税の納期の特例とは?従業員10人以上になった場合の注意点を税理士が解説
- 安田 亮
- 1 日前
- 読了時間: 11分
こんにちは!代表の安田です。
小規模な会社や個人事業主にとって、源泉所得税の納付は意外と手間のかかる業務です。
給与を支払うたびに源泉所得税を計算し、原則として翌月10日までに納付する必要があります。
ただし、一定の要件を満たす事業者については、「源泉所得税の納期の特例」を使うことで、毎月納付ではなく、年2回にまとめて納付することができます。
この制度は、従業員数が少ない事業者にとって非常に便利です。
一方で、事業が成長し、従業員やパート・アルバイトが増えてくると、注意が必要です。
特に、給与の支給人員が「常時10人未満」でなくなった場合には、納期の特例の要件を満たさなくなり、届出や納付期限の変更が必要になります。
本日は、源泉所得税の納期の特例の基本、常時10人未満の判定、従業員が10人以上になった場合の手続き、実務上の注意点について、税理士の視点からわかりやすく解説します。
源泉所得税の納付期限は原則「翌月10日」
会社や個人事業主が従業員に給与を支払う場合、給与から所得税および復興特別所得税を源泉徴収します。
源泉徴収した所得税等は、原則として、給与などを実際に支払った月の翌月10日までに国へ納付しなければなりません。国税庁も、源泉徴収した所得税および復興特別所得税は、原則として給与などを実際に支払った月の翌月10日までに納める必要があると説明しています。
たとえば、9月25日に給与を支払った場合、その給与から源泉徴収した所得税等の納付期限は、原則として10月10日です。
毎月給与を支払っている会社であれば、毎月10日までに源泉所得税を納付する必要があります。
しかし、従業員数が少ない会社にとって、毎月納付は事務負担が大きいものです。
そこで設けられているのが、源泉所得税の納期の特例です。
源泉所得税の納期の特例とは
源泉所得税の納期の特例とは、一定の小規模な源泉徴収義務者について、源泉所得税等を年2回にまとめて納付できる制度です。
国税庁は、給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者について、給与や退職金、税理士・弁護士・司法書士などへの一定の報酬から源泉徴収した所得税等を、半年分まとめて納めることができる特例があると説明しています。
この特例を受けている場合、納付期限は次のようになります。
対象期間 | 納付期限 |
1月から6月までに源泉徴収した所得税等 | 7月10日 |
7月から12月までに源泉徴収した所得税等 | 翌年1月20日 |
通常であれば毎月10日に納付する必要がありますが、納期の特例を受けることで、納付回数を年12回から年2回に減らせます。
小規模事業者にとっては、経理業務の負担を大きく減らせる制度です。
納期の特例を受けるには申請が必要
納期の特例は、要件を満たしていれば自動的に適用される制度ではありません。
適用を受けるには、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を、給与等の支払を行う事務所などの所在地を所轄する税務署へ提出する必要があります。国税庁の手続案内でも、給与の支給人員が常時10人未満である源泉徴収義務者が、この特例の適用を受けようとする場合に行なう手続とされています。
この申請書について、提出期限そのものは特に定められていません。
ただし、申請書を提出した月の翌月末日までに税務署長から承認または却下の通知がなければ、その翌月末日に承認があったものとされ、原則として申請の翌々月の納付分から特例が適用されます。
つまり、会社を設立した直後や、個人事業を開始した直後に給与の支払いが始まる場合には、早めに申請しておくことが大切です。
「常時10人未満」とはどう考えるのか
納期の特例で最も重要なのが、「給与の支給人員が常時10人未満」という要件です。
ここでいう「10人未満」は、単純に正社員だけの人数を数えるわけではありません。
給与等の支払いを受ける人員で判定するため、役員、正社員、パート、アルバイトなども含めて確認する必要があります。
一方で、たまたま繁忙期に臨時で人を雇った結果、一時的に10人以上になっただけで、直ちに特例が使えなくなるとは限りません。
たとえば、毎年9月から年末にかけて繁忙期となり、通常の正社員7人に加えて、臨時のパート・アルバイトを数名雇うような場合、平常時は7人で、繁忙期だけ一時的に10人以上になるのであれば、「常時10人未満」に該当する余地があります。
反対に、建設業やイベント業などのように、日々雇い入れる労働者も含めると平常的に10人以上になる場合には、「常時10人未満」とは言いにくくなります。
大切なのは、ある月だけの人数で機械的に判断するのではなく、給与支給人員の通常の状態、事業の性質、雇用形態、繁忙期の一時性などを総合的に確認することです。
一時的な繁忙期の増員なら、特例を継続できる場合がある
年末調整の時期などに従業員名簿や賃金台帳を確認していると、ある月だけ給与の支給人員が10人以上になっていることがあります。
このとき、慌てて「納期の特例は使えなくなった」と判断する必要はありません。
たとえば、通常は正社員7人で営業している会社が、毎年9月から12月の繁忙期だけ、短期のアルバイトを数名雇うケースです。
この場合、繁忙期が終われば再び7人程度に戻り、平常時は10人未満であるなら、常時10人未満と判断できる可能性があります。
もちろん、実際には会社ごとの雇用状況を確認する必要があります。
次のような資料を見て、臨時的な増員なのか、恒常的な増員なのかを判断します。
賃金台帳
雇用契約書
シフト表
出勤簿
給与明細
従業員名簿
過去数年の人員推移
繁忙期の売上や業務量の状況
「9月だけ10人以上だった」という事実だけで判断するのではなく、その会社にとって通常の人員体制がどうなっているかを確認することが重要です。
要件を満たさなくなった場合は届出が必要
一方で、給与の支給人員が常時10人以上になり、納期の特例の要件に該当しなくなった場合には、手続きが必要です。
具体的には、「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を提出します。
国税庁は、この届出について、源泉所得税の納期の特例の承認を受けている源泉徴収義務者が、給与の支給人員が常時10人未満でなくなった場合に行う手続であり、該当しなくなった事実が発生した場合には遅滞なく提出する必要があると説明しています。
提出先は、給与支払事務所等の所在地を所轄する税務署です。
届出書は、要件を満たさなくなった後に「いつか出せばよい」というものではありません。
従業員数の増加が一時的なものではなく、平常時も10人以上になったと判断される場合には、早めに税務署へ届出を行う必要があります。
届出を出した後の納付期限に注意
納期の特例の要件に該当しなくなった場合、届出書を提出した後の納付期限にも注意が必要です。
国税庁は、この届出書を提出した場合、その提出した日の属する納期の特例の期間内に源泉徴収した税額のうち、提出日の属する月分以前の各月に源泉徴収した税額は、提出日の属する月の翌月10日までに納付し、その後の各月に源泉徴収した税額は、毎月翌月10日までに納付すると説明しています。
少しわかりにくいので、例で見てみましょう。
たとえば、10月中に「納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を提出したとします。
この場合、7月から10月までに源泉徴収した税額については、11月10日までに納付します。
そして、11月分の源泉所得税は12月10日まで、12月分の源泉所得税は翌年1月10日までに納付します。
注意したいのは、7月から12月分を翌年1月20日にまとめて納める通常の納期の特例とは異なることです。
届出後は、納付スケジュールが変わるため、納付漏れが起きやすくなります。
届出が遅れた場合の考え方
では、常時10人以上になっていたにもかかわらず、届出を忘れていた場合はどうなるのでしょうか。
この点について、添付資料でも実務上の不安が取り上げられていました。
結論としては、「届出を出していない間は納期の特例が有効である」と考えられるため、特例の納付期限までに納付していれば、直ちに延滞税や不納付加算税が課されるわけではないと整理されています。
ただし、これは「届出を出さなくても問題ない」という意味ではありません。
給与の支給人員が常時10人以上となり、要件を満たさなくなった場合には、遅滞なく届出書を提出する必要があります。
また、要件を満たさなくなった時期や届出のタイミングによって、納付期限の管理が複雑になります。
そのため、従業員数が増えてきた場合には、できるだけ早く税理士に相談し、納期の特例を継続できるのか、届出が必要なのかを確認することが大切です。
年末調整の時期に確認したいポイント
年末調整の時期は、源泉所得税の納期の特例を見直すよいタイミングです。
なぜなら、年末調整では、従業員名簿、扶養控除等申告書、給与台帳、賃金台帳などを確認するため、会社の人員状況を把握しやすいからです。
特に、次のような会社は確認しておきましょう。
パート・アルバイトが増えている
繁忙期に臨時スタッフを雇っている
店舗や事業所が増えた
役員や従業員の家族に給与を支払っている
外注から雇用へ切り替えたスタッフがいる
毎月の給与支給人員が10人前後で推移している
従業員数が10人に近い会社では、納期の特例の要件を満たしているかどうかを毎年確認しておくと安心です。
「去年も大丈夫だったから今年も大丈夫」と思い込まず、給与支給人員の推移を見て判断しましょう。
納期の特例の対象になる源泉所得税にも注意
納期の特例の対象となる源泉所得税は、すべての源泉所得税ではありません。
対象となるのは、主に給与、退職手当、税理士・弁護士・司法書士などへの一定の報酬から源泉徴収した所得税および復興特別所得税です。
一方で、たとえば原稿料、講演料、デザイン料、外交員報酬など、支払内容によっては納期の特例の対象外となるものもあります。
そのため、納期の特例を使っている会社でも、すべての源泉所得税を年2回納付にできるわけではありません。
支払先や支払内容ごとに、納期の特例の対象になるかどうかを確認する必要があります。
特に、士業報酬、外注費、原稿料、講演料、広告制作費などを支払っている会社では、源泉徴収の要否と納付期限をセットで確認しましょう。
納付漏れを防ぐための実務対応
源泉所得税の納付漏れは、実務で非常に起こりやすいミスです。
特に、納期の特例から毎月納付に切り替わるタイミングでは、納付スケジュールが変わるため注意が必要です。
納付漏れを防ぐためには、次のような対応が有効です。
給与支給人員を毎月確認することです。
給与計算ソフトや会計ソフトで源泉所得税の未納額を管理します。
納期の特例を受けている場合でも、半年分の納付額を毎月概算で把握し、納税資金を分けて管理しておくと安心です。
従業員数が10人前後になってきたら、納期の特例を継続できるかどうかを税理士と確認しましょう。
届出書を提出する場合には、提出月以前の納付期限が変わるため、いつまでに何月分を納付するのかを一覧にしておくことをおすすめします。
まとめ:10人以上になったら、まず「常時」かどうかを確認する
源泉所得税の納期の特例は、給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者が利用できる便利な制度です。
この特例を受けると、給与や退職金、税理士・弁護士・司法書士などへの一定の報酬から源泉徴収した所得税等を、年2回にまとめて納付できます。
ただし、給与の支給人員が常時10人以上になると、納期の特例の要件を満たさなくなります。
一時的な繁忙期のアルバイト増員で10人以上になっただけであれば、直ちに特例が使えなくなるとは限りません。一方、通常の人員体制として10人以上になっている場合には、「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を遅滞なく提出する必要があります。
届出後は、納付期限が変わります。
たとえば、10月に届出を提出した場合、7月から10月分の源泉所得税等は11月10日までに納付し、その後は毎月翌月10日までに納付する流れになります。
従業員数が増えてきた会社では、次の点を確認しましょう。
給与の支給人員は平常時で何人か
繁忙期の増員は一時的なものか
パート・アルバイトを含めて常時10人未満といえるか
納期の特例の届出が必要か
納付期限が変わっていないか
源泉所得税は、納付漏れがあると不納付加算税や延滞税につながる可能性があります。
特に年末調整の時期は、従業員数や雇用状況を確認するよいタイミングです。
「納期の特例を使っているから大丈夫」と思い込まず、会社の人員状況に合わせて、制度の適用要件を定期的に見直すことをおすすめします。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。


