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振興基準の改正で賃上げ税制・補助金に影響も|型の無償保管と価格転嫁の注意点を解説

執筆者の写真: 安田亮
安田亮
8月7日
読了時間: 14分

更新日:8月30日

おはようございます!代表の安田です。


中小企業庁は、受託中小企業振興法に基づく振興基準の改正を公表しました。


振興基準というと、税務とは少し離れた話に見えるかもしれません。しかし、実務上は、賃上げ促進税制や補助金の加点措置にも影響する可能性があります。


特に、一定規模以上の法人が中堅企業向け賃上げ促進税制を適用する場合には、マルチステークホルダー方針の公表・届出が必要となることがあります。その中で、パートナーシップ構築宣言を行う際には、振興基準の遵守が重要になります。


また、ものづくり補助金や中小企業新事業進出補助金などでは、パートナーシップ構築宣言を行なっていることが加点や優遇措置につながる場合があります。


今回の改正では、特に次の点が見直されています。

  • 知的財産取引の適正化

  • 型等の無償保管

  • 価格転嫁の浸透を後押しする人事評価制度


本日は、振興基準の概要、賃上げ税制・補助金との関係、型等の無償保管に関する望ましくない事例、企業が実務上対応すべきポイントを整理します。


振興基準とは?

振興基準とは、受託中小企業の振興を図るため、中小受託事業者と委託事業者が取引を行なう際に、よるべき一般的な基準として定められているものです。


簡単にいうと、発注側である委託事業者と、受注側である中小受託事業者との取引を適正化し、中小企業が不利な取引条件を押し付けられないようにするための基準です。


製造業の下請取引だけでなく、知的財産、役務提供、価格交渉、支払条件、型の保管など、幅広い取引実務に関係します。


大企業や中堅企業にとっては、単なる努力目標ではなく、税制や補助金の適用にも関係し得るため、軽視できません。


振興基準と賃上げ促進税制の関係

振興基準が税務と関係する代表例が、中堅企業向け賃上げ促進税制です。


中堅企業向け賃上げ促進税制では、一定の大規模法人について、マルチステークホルダー方針の公表・届出が必要となる場合があります。


具体的には、適用事業年度終了時に、次の両方に該当する法人です。

  • 資本金の額等が10億円以上

  • 常時使用する従業員数が1,000人以上


このような法人が中堅企業向け賃上げ促進税制を適用する場合、パートナーシップ構築宣言などを通じて、取引先や従業員など多様なステークホルダーへの配慮を示す必要があります。


その中で、振興基準の遵守が重要な意味を持ちます。


パートナーシップ構築宣言とは

パートナーシップ構築宣言とは、企業がサプライチェーン全体の共存共栄や、取引先との望ましい取引慣行の構築に取り組むことを宣言するものです。

具体的には、次のような取組みが含まれます。

  • 価格転嫁への協議に応じる

  • 下請取引の適正化に取り組む

  • 支払条件を改善する

  • 型の保管費用などを適切に負担する

  • 知的財産やノウハウを不当に扱わない

  • 取引先との共存共栄を目指す


パートナーシップ構築宣言を行なっている企業は、補助金の審査時に加点措置などの優遇を受けられる場合があります。


一方で、振興基準に基づく指導等があった場合には、宣言の掲載が取りやめられることがあります。


その結果、賃上げ税制や補助金の適用・優遇措置に影響する可能性があるため注意が必要です。


補助金にも影響する可能性

パートナーシップ構築宣言は、税制だけでなく補助金の審査にも関係することがあります。

たとえば、次のような補助金では、パートナーシップ構築宣言を行っている法人に対して、加点措置等の優遇措置が講じられる場合があります。

  • ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金

  • 中小企業新事業進出補助金


補助金は、採択率や加点項目が重要です。

そのため、パートナーシップ構築宣言を行なっていることは、補助金申請において有利に働く可能性があります。


しかし、宣言をしているだけでは十分ではありません。

宣言内容に沿った実際の取引対応が求められます。振興基準に違反するような取引慣行があると、宣言の掲載が取りやめられ、補助金の優遇にも影響する可能性があります。


今回の改正の主なポイント

今回の振興基準改正では、特に次の3点が重要です。


1つ目は、知的財産取引の適正化です。

近年、幅広い業種で知的財産取引に関する問題事例が報告されています。たとえば、取引上の立場を利用して、取引先のノウハウや技術情報を不当に開示させる、無償で利用する、契約上の権利関係を曖昧にするような問題です。


2つ目は、型等の無償保管です。

製造業では、金型、木型、治具、工具などを中小受託事業者が長期間保管しているケースがあります。発注がないにもかかわらず、発注側が引き取らず、受託側に無償で保管させ続けることが問題になっています。


3つ目は、価格転嫁を後押しする人事評価制度です。

価格転嫁を適切に進めるためには、調達部門などの担当者が取引先との価格協議に前向きに取り組める仕組みが必要です。今回の改正では、適切な価格転嫁等に取り組んだ担当者が正当に評価される人事評価制度の整備に努めることも示されました。


型等の無償保管とは

型等の無償保管とは、製品の製造に使用する金型などを、受託側の中小企業が保管しているにもかかわらず、その保管費用が支払われていない状態をいいます。


製造業では、発注元が製品の製造に必要な型を作らせたり、使用させたりすることがあります。問題は、その製品の発注がなくなった後も、型を中小受託事業者の工場や倉庫に保管させ続けるケースです。


型を保管するには、場所代、管理コスト、劣化防止、棚卸管理などの負担が発生します。

にもかかわらず、発注元が保管費用を負担せず、廃棄や引取りにも応じない場合、中小企業側に不当な負担が生じます。


型等の保管に関する望ましくない4つの事例

今回の改正では、型等の保管に関する望ましくない事例として、4つのケースが明記されました。


1. 一年以上発注しないのに無償保管させるケース

1つ目は、型等を用いて製造する製品の発注を1年間以上行なわないにもかかわらず、中小受託事業者にその型等を無償で保管させるケースです。

長期間発注がないのであれば、型を引き取る、廃棄する、保管費用を支払うなどの対応が必要です。

それにもかかわらず、受託側に無償保管を続けさせることは望ましくない取扱いとされています。


2. 廃棄や引取りの希望を伝えられても無償保管させるケース

2つ目は、中小受託事業者から型等の廃棄や引取り等の希望を伝えられているにもかかわらず、引き続き無償で保管させるケースです。

受託側が保管負担を訴えているにもかかわらず、発注側が対応しない場合、中小企業に一方的な負担を押し付けることになります。

このような対応は、振興基準上望ましくないと明記されました。


3. 今後1年間の具体的な発注時期を示せないケース

3つ目は、型等を用いて製造する製品について、今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態であるにもかかわらず、引き続き無償で保管させるケースです。

将来使うかもしれないという曖昧な理由で、発注側が型を引き取らず、保管費用も負担しないという状況が問題になります。

今後1年間の発注時期を具体的に示せないのであれば、保管費用の支払い、引取り、廃棄などを検討すべきです。


4. 使用予定がないのに無償保管させるケース

4つ目は、型等を用いて製品が製造された後、改めてその型等を使用する予定がないにもかかわらず、引き続き中小受託事業者に無償で保管させるケースです。

使用予定がない型を受託側に保管させ続けることは、保管スペースや管理コストの負担を押し付けることになります。

発注側は、使用予定がなくなった時点で、引取りや廃棄、保管費用負担を検討する必要があります。


型の保管費用は保管期間に応じて支払う必要がある

今回の改正では、型等の無償保管要請を行わないことを徹底する旨が定められました。

また、型等の保管費用については、保管期間に応じて支払う必要があることも規定されています。


これは、型を保管すること自体が受託側にコストを発生させるためです。

発注側は、製品の発注がない期間であっても、型を保管してもらう必要があるなら、その保管コストを適切に負担する必要があります。


「発注元の都合で保管してもらっているのに、費用は受託先に負担させる」という取扱いは、今後ますます問題視されるでしょう。


知的財産取引の適正化も重要

今回の改正では、知的財産取引の適正化も見直されています。

中小企業が有する技術、ノウハウ、デザイン、製造方法、営業秘密などは、企業価値の源泉です。


しかし、取引上の力関係により、発注側が中小企業に対して、技術情報やノウハウの開示を求めたり、知的財産権の無償譲渡を求めたりするケースがあります。


このような取引は、中小企業の競争力を損なうおそれがあります。

発注側は、知的財産やノウハウを適正に評価し、契約上の権利関係や対価を明確にすることが重要です。


価格転嫁を後押しする人事評価制度

今回の改正で新たに設けられたのが、価格転嫁を後押しする人事評価制度に関する規定です。


近年、原材料費、エネルギー費、人件費、物流費などの上昇により、中小企業は価格転嫁の必要性に迫られています。


しかし、発注側の調達部門では、仕入価格を抑えることが評価されやすく、取引先からの価格転嫁要請に応じることが担当者の評価に結びつきにくいケースがあります。


そこで、適切な価格転嫁に取り組んだ調達部門等の担当者が正当に評価される人事評価制度の整備に努めることが示されました。


つまり、会社として価格転嫁に応じる方針を掲げるだけでなく、現場の担当者がその方針に沿って行動しやすい評価制度を作ることが求められています。


調達部門の評価基準を見直す必要性

価格転嫁を進めるには、調達部門の評価基準が重要です。


もし、調達担当者の評価が「いかに仕入単価を下げたか」だけで決まるなら、担当者は取引先からの価格改定要請に応じにくくなります。


一方で、次のような項目を評価に入れることで、適切な価格転嫁を後押ししやすくなります。

  • 取引先との価格協議に誠実に対応したか

  • 原材料費・人件費上昇を踏まえた価格改定に応じたか

  • サプライチェーンの安定性を確保したか

  • 取引先との長期的な関係を維持したか

  • 不当な買いたたきや支払遅延を防止したか

  • パートナーシップ構築宣言に沿った対応をしたか


価格転嫁は、単なるコスト増ではなく、サプライチェーン全体の持続可能性を確保するための取組みと位置付ける必要があります。


発注側企業が確認すべきこと

発注側企業は、今回の振興基準改正を踏まえて、次の点を確認する必要があります。

  • 取引先に型等を無償で保管させていないか

  • 1年以上発注していない型がないか

  • 今後1年間の発注予定を示せない型がないか

  • 取引先から廃棄や引取りの要望を受けていないか

  • 使用予定のない型を放置していないか

  • 型の保管費用を支払っているか

  • 知的財産やノウハウを不当に取得していないか

  • 価格転嫁の協議に誠実に応じているか

  • 調達部門の人事評価が価格転嫁を妨げていないか

  • パートナーシップ構築宣言の内容と実態が一致しているか


特に、製造業では、過去から保管されている型が多数残っていることがあります。

一度、取引先ごとに型の保管状況を棚卸しすることが重要です。


受託側企業が確認すべきこと

中小受託事業者側も、発注側に任せきりにせず、自社の保管負担を整理しておくことが大切です。確認すべきポイントは次のとおりです。

  • 発注元ごとに保管している型を一覧化しているか

  • どの型が現在使用中か把握しているか

  • 1年以上発注がない型を把握しているか

  • 使用予定のない型を把握しているか

  • 保管スペースや管理コストを算定しているか

  • 発注元に廃棄・引取り・保管費用の相談をしているか

  • 相談履歴を記録しているか

  • 契約書に型の所有者・保管費用・廃棄ルールが明記されているか


受託側としては、型の保管にかかるコストを見える化し、発注側との協議資料を準備することが重要です。


契約書に入れておきたい項目

型等の保管や知的財産取引に関するトラブルを防ぐには、契約書の整備が不可欠です。

契約書には、次のような項目を入れておくことが考えられます。

  • 型等の所有者

  • 型等の保管場所

  • 保管期間

  • 保管費用の負担者

  • 保管費用の計算方法

  • 一定期間発注がない場合の取扱い

  • 廃棄・引取りの手続

  • 廃棄費用の負担者

  • 知的財産権の帰属

  • ノウハウ・営業秘密の取扱い

  • 技術情報の利用範囲

  • 価格改定協議の手続


契約書が古い場合や、口頭合意だけで取引が続いている場合には、この機会に見直しを行なうとよいでしょう。


よくある誤解

振興基準の改正については、次のような誤解が起こりやすいです。


  • 振興基準は税務とは関係ない

振興基準自体は取引適正化の基準ですが、パートナーシップ構築宣言やマルチステークホルダー方針を通じて、中堅企業向け賃上げ促進税制や補助金の優遇措置に影響する場合があります。


  • パートナーシップ構築宣言をしていれば安心

宣言をしていても、実態として振興基準に反する取引をしていれば、宣言の掲載が取りやめられる可能性があります。宣言内容と実際の取引対応を一致させることが重要です。


  • 型の保管は昔からの慣行なので問題ない

長年の慣行であっても、1年以上発注がない型を無償で保管させる、廃棄希望を無視する、使用予定がない型を放置するような取扱いは、望ましくない事例として明記されています。


  • 価格転嫁は調達担当者の努力だけでよい

価格転嫁を進めるには、会社全体の方針だけでなく、調達部門等の担当者が正当に評価される人事評価制度の整備も重要です。


経理・総務担当者のチェックリスト

振興基準改正を踏まえ、経理・総務担当者は次の点を確認しておきましょう。

  • パートナーシップ構築宣言を行っているか

  • 宣言内容と実際の取引対応が一致しているか

  • 中堅企業向け賃上げ促進税制の適用を予定しているか

  • マルチステークホルダー方針の公表・届出が必要か

  • 補助金申請で宣言が加点対象になるか

  • 型等の保管状況を一覧化しているか

  • 1年以上発注がない型がないか

  • 保管費用を支払っているか、または請求しているか

  • 廃棄・引取り希望への対応履歴があるか

  • 知的財産取引の契約書を整備しているか

  • 価格転嫁協議の記録を残しているか

  • 調達担当者の評価基準が価格転嫁を妨げていないか


このチェックを行なうことで、税制・補助金・取引適正化のリスクを早めに把握できます。


まとめ

中小企業庁は、受託中小企業振興法に基づく振興基準の改正を公表しました。


振興基準は、中小受託事業者と委託事業者が取引を行う際に、よるべき一般的な基準です。今回の改正では、幅広い業種で知的財産取引の問題事例が報告されていることや、型等の無償保管に関する勧告件数が増加傾向にあることを背景に、知的財産取引の適正化と型等の無償保管について見直しが行なわれました。


特に、型等の保管については、望ましくない事例として4つのケースが明記されています。

1つ目は、型等を用いて製造する製品の発注を1年間以上行わないにもかかわらず、中小受託事業者に型等を無償で保管させるケースです。

2つ目は、中小受託事業者から型等の廃棄や引取り等の希望を伝えられているにもかかわらず、引き続き無償で保管させるケースです。

3つ目は、今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態であるにもかかわらず、引き続き無償で保管させるケースです。

4つ目は、製品が製造された後、型等を改めて使用する予定がないにもかかわらず、引き続き無償で保管させるケースです。


また、型等の保管費用は、保管期間に応じて支払う必要があることも示されています。

さらに、今回の改正では、価格転嫁の浸透を後押しする人事評価制度に関する規定も設けられました。適切な価格転嫁等に取り組んだ調達部門等の担当者が正当に評価される人事評価制度の整備に努めることが求められています。


振興基準は、取引適正化だけでなく、税制や補助金にも影響する可能性があります。中堅企業向け賃上げ促進税制では、一定規模以上の法人がマルチステークホルダー方針を公表・届出する必要があり、パートナーシップ構築宣言では振興基準の遵守が関係します。また、ものづくり補助金や中小企業新事業進出補助金などで、パートナーシップ構築宣言が加点措置等につながる場合もあります。


発注側企業は、型等の無償保管、知的財産取引、価格転嫁への対応を見直し、宣言内容と実態が一致しているかを確認しましょう。受託側企業も、自社が保管している型等を一覧化し、保管費用・廃棄・引取りについて発注側と協議できるよう資料を整備しておくことが重要です。


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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。

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