みなし退職金の受給歴に注意|退職金・小規模企業共済・iDeCoの税務を税理士が解説
- 安田 亮
- 20 時間前
- 読了時間: 12分
こんばんは!代表の安田です。
退職金は、長年の勤務に対する退職後の生活資金という性格があるため、税務上は給与や賞与よりも優遇されています。
具体的には、退職所得控除を差し引いたうえで、原則として残額の2分の1だけを退職所得として課税する仕組みになっています。
そのため、退職金は「税金が少なく済む」と考えられがちです。
しかし、退職金の税務で注意したいのが、「みなし退職金」の受給歴です。
会社から受け取る退職金だけでなく、小規模企業共済の共済金や解約手当金、確定拠出年金の老齢一時金なども、税務上は退職所得として扱われることがあります。
この場合、過去に受け取った退職所得との関係で退職所得控除が調整され、思ったより税負担が増えることがあります。
本日は、退職金とみなし退職金の基本、小規模企業共済や確定拠出年金一時金の取扱い、退職所得控除の重複調整について、税理士の視点からわかりやすく解説します。
退職金は税務上優遇されている
まず、退職金の基本的な税務を確認しておきましょう。
退職所得とは、退職により勤務先から受ける退職手当などの所得をいいます。国税庁は、社会保険制度などにより退職に基因して支給される一時金や、確定拠出年金法に基づく老齢給付金として支給される一時金なども、退職所得とみなされると説明しています。
退職所得の金額は、原則として次の式で計算します。
退職所得の金額= 退職金の収入金額 - 退職所得控除額× 1/2
正確には、退職金の収入金額から退職所得控除額を差し引き、その残額の2分の1を退職所得とします。
退職所得控除額は、勤続年数に応じて計算します。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円 × 勤続年数。ただし80万円未満の場合は80万円 |
20年超 | 800万円 + 70万円 × 20年超の勤続年数 |
たとえば、勤続30年の場合、退職所得控除額は800万円+70万円×10年=1,500万円です。
このように、退職金は長期勤務に対する生活保障的な性格を踏まえて、税負担が軽くなるように設計されています。
みなし退職金とは
退職金というと、勤務先の会社から支給される退職手当をイメージする方が多いと思います。
しかし、税務上は、会社からの退職金以外にも「退職所得」として扱われるものがあります。これが、いわゆる「みなし退職金」です。
代表的なものには、次のような一時金があります。
小規模企業共済の共済金や一定の解約手当金
確定拠出年金、いわゆる企業型DCやiDeCoの老齢一時金
確定給付企業年金の一時金
中小企業退職金共済の退職金
未払賃金立替払制度により退職した労働者が受け取る未払賃金
これらは、通常の給与や雑所得ではなく、一定の要件のもと退職所得として扱われます。
そのため、退職所得控除や2分の1課税の対象になる一方で、他の退職金との受給時期によっては、退職所得控除の調整が必要になります。
小規模企業共済の一時金も退職所得になることがある
小規模企業共済は、個人事業主や会社役員などの退職金準備として利用される制度です。
掛金は所得控除の対象となるため、節税効果も期待できます。
ただし、受け取るときの課税関係は、受取事由や年齢、受取方法によって変わります。
中小機構の案内では、小規模企業共済の共済金や解約手当金について、共済金または準共済金を一括で受け取る場合は退職所得扱い、共済金を分割で受け取る場合は公的年金等の雑所得扱いとされています。また、65歳以上の方が任意解約する場合や、65歳以上の共同経営者が任意退任する場合は、退職所得扱いとされています。
一方、65歳未満で任意解約する場合や、65歳未満の共同経営者が任意退任する場合は、一時所得扱いとなるケースがあります。
つまり、小規模企業共済は「いつ、どの理由で、どの方法で受け取るか」によって所得区分が変わります。
会社からの退職金と同じ年や近い年に小規模企業共済を受け取る場合には、単に「退職所得で有利」と考えるだけでなく、退職所得控除の重複調整まで確認する必要があります。
法人成りと小規模企業共済の一時金
個人事業主が法人成りする場合にも、小規模企業共済の取扱いが問題になることがあります。
国税庁は、個人事業者が法人成りし、小規模企業共済契約に基づく一時金を受けた場合について、一定の事実関係を前提に、その一時金は退職所得に該当すると説明しています。
ただし、法人成りといっても、どのような形で個人事業を廃止したのか、法人で同一事業を行っているのか、加入資格がなくなったのか、解約事由が何かによって取扱いが変わる可能性があります。
そのため、法人成りのタイミングで小規模企業共済を解約・請求する場合には、法人設立手続きだけでなく、共済金の請求事由と税務上の所得区分を事前に確認しておくべきです。
確定拠出年金の一時金も退職所得になる
近年、iDeCoや企業型DCを利用する方が増えています。
これらの確定拠出年金を老齢給付金として一時金で受け取る場合、税務上は退職所得とみなされます。国税庁も、確定拠出年金法に規定する企業型年金規約または個人型年金規約に基づいて老齢給付金として支給される一時金は、退職所得とみなされると説明しています。
この点は、老後資金の受け取り方を考えるうえで非常に重要です。
iDeCoや企業型DCは、一時金として受け取る方法と、年金形式で受け取る方法があります。
一時金で受け取れば退職所得扱いとなり、退職所得控除を使える可能性があります。
一方、年金形式で受け取る場合には、公的年金等の雑所得として取り扱われます。
どちらが有利かは、会社退職金、小規模企業共済、他の年金収入、所得控除、住民税、社会保険料などによって変わります。
過去に退職金を受け取っている場合は控除額が調整される
退職所得控除は非常に大きな控除ですが、何度も自由に満額使えるわけではありません。
国税庁は、前年以前に退職金を受け取ったことがある場合や、同一年中に2か所以上から退職金を受け取る場合などは、退職所得控除額の計算が異なることがあると説明しています。
たとえば、ある会社から退職金を受け取ったあと、数年以内に別の会社から退職金を受け取る場合、勤続期間が重複していれば、その重複部分について退職所得控除を二重に使えないよう調整されることがあります。
小規模企業共済や確定拠出年金一時金も、税務上は退職所得に該当することがあるため、会社からの退職金との関係で調整が必要になる場合があります。
この調整を見落とすと、退職金を受け取った後に「思ったより税金が高い」ということになりかねません。
4年ルール・9年ルール・19年ルールに注意
退職所得控除の調整では、受給する退職金の種類や順番によって確認期間が変わります。
従来から、退職手当等を受け取った年の前年以前4年内に他の退職手当等を受け取っている場合には、勤続期間の重複を排除して退職所得控除額を計算する仕組みがあります。
また、確定拠出年金の老齢一時金を受け取る場合には、前年以前19年内に他の退職手当等を受け取っていると、勤続期間の重複排除の対象になる場合があります。
さらに、令和7年度税制改正では、退職手当等を受け取る年の前年以前9年内にDC一時金を受給している場合にも、退職所得控除の重複排除調整の対象とする見直しが行われています。
つまり、退職金・小規模企業共済・iDeCo・企業型DCを複数受け取る場合には、
どれを先に受け取るか
何年空けて受け取るか
勤続期間や加入期間が重複しているか
を確認する必要があります。
退職所得控除を最大限活用するには、受給時期のシミュレーションが欠かせません。
退職金と小規模企業共済の受給順序で税額が変わることがある
たとえば、会社役員が65歳で退職し、会社から役員退職金を受け取るとします。
同じ時期に、小規模企業共済も請求できる状態になっている場合、どちらも退職所得として扱われる可能性があります。
このとき、同じ年に受け取るのか、数年ずらして受け取るのかによって、退職所得控除の使い方が変わることがあります。
また、iDeCoや企業型DCの老齢一時金がある場合には、会社退職金との受給順序がさらに重要になります。
退職所得控除の調整は複雑で、単純に「早くもらった方がよい」「後に回した方がよい」とは言い切れません。
退職金の金額、勤続年数、役員期間、iDeCoや企業型DCの加入期間、小規模企業共済の掛金納付月数、他の所得、住民税、社会保険料などを総合的に見て判断する必要があります。
退職所得の受給に関する申告書を忘れない
退職金を受け取るときには、「退職所得の受給に関する申告書」の提出も重要です。
この申告書を提出している場合、退職金の支払者が退職所得の金額に応じて所得税および復興特別所得税を源泉徴収するため、原則として確定申告は不要です。
一方、この申告書を提出していない場合、退職金等の支払金額に対して20.42%の所得税および復興特別所得税が源泉徴収されます。その後、本人が確定申告を行って精算することになります。
小規模企業共済についても、中小機構は、税法上退職所得扱いとなる共済金等を請求する場合には、退職所得申告書を記入して提出する必要があると案内しています。
退職金や共済金の手続きでは、支給額だけでなく、申告書の提出状況も確認しましょう。
65歳以上の小規模企業共済は「退職所得扱い」になる場合がある
65歳以上の小規模企業共済の取扱いは実務上よく問題になります。
中小機構の案内では、65歳以上で180か月以上掛金を払い込んだ方は、仕事を続けたまま共済金を請求できるとされています。
また、65歳以上の方が任意解約する場合や、65歳以上の共同経営者が任意退任する場合には、退職所得扱いとされています。
一方、65歳未満での任意解約や、65歳未満での共同経営者の任意退任による解約などは、一時所得として確定申告が必要になる場合があります。
この違いは非常に大きいです。
退職所得であれば退職所得控除や2分の1課税の対象になりますが、一時所得の場合は計算方法が異なります。
したがって、小規模企業共済を受け取る場合には、
共済金なのか、準共済金なのか、解約手当金なのか
任意解約なのか、老齢給付なのか
65歳以上か65歳未満か
一括受取か分割受取か
を確認する必要があります。
確定申告が必要になるケース
退職金は、退職所得の受給に関する申告書を提出していれば、原則として確定申告は不要です。
しかし、次のような場合には確定申告が必要になることがあります。
退職所得の受給に関する申告書を提出していない場合
医療費控除や寄附金控除などを受けるために確定申告をする場合
複数の退職金やみなし退職金があり、控除額の調整が必要な場合
小規模企業共済を65歳未満で任意解約し、一時所得として申告が必要な場合
退職金以外に不動産所得、事業所得、譲渡所得などがある場合
特に、退職金、iDeCo、小規模企業共済、役員退職金が重なる年は、申告が複雑になりやすいです。
「支払者が源泉徴収しているから大丈夫」と思い込まず、過去の退職所得の受給歴を確認しておきましょう。
退職金を受け取る前に確認すべきチェックポイント
退職金やみなし退職金を受け取る前には、次の点を確認しておくと安心です。
会社からの退職金はいくらか
勤続年数は何年か
役員期間が5年以下に該当しないか
小規模企業共済の加入期間、掛金納付月数、請求事由は何か
小規模企業共済は退職所得扱いか、一時所得扱いか
iDeCoや企業型DCの加入期間と受給予定時期はいつか
過去に退職金や小規模企業共済、DC一時金を受け取ったことがあるか
退職所得控除の重複調整が必要か
退職所得の受給に関する申告書を提出するか
確定申告が必要か
退職金は金額が大きくなりやすいため、少しの判断ミスで税額に大きな差が出ます。
特に、受給時期を少しずらすだけで税負担が変わる場合もあります。
退職直前ではなく、数年前から退職金・共済・年金一時金の受給計画を立てておくことが重要です。
まとめ:退職金は「会社からの支給」だけで判断しない
退職金は、税務上優遇された所得です。
しかし、会社から支給される退職金だけでなく、小規模企業共済、iDeCo、企業型DC、確定給付企業年金などの一時金も、退職所得として扱われることがあります。
これらを複数受け取る場合には、退職所得控除の重複調整に注意が必要です。
特に、退職金・小規模企業共済・確定拠出年金一時金の受給時期が近い場合には、
どの一時金が退職所得になるのか
過去に退職所得を受け取っていないか
4年・9年・19年ルールの影響がないか
退職所得控除をどのように使えるか
を事前に確認する必要があります。
また、小規模企業共済は、65歳以上か65歳未満か、任意解約か老齢給付か、一括受取か分割受取かによって税務上の扱いが変わります。
退職金は、受け取ってから税額を調整するよりも、受け取る前にシミュレーションする方が圧倒的に有利です。
会社役員、個人事業主、iDeCoや小規模企業共済に加入している方は、退職時期や受給時期を決める前に、退職所得の受給歴と退職所得控除の使い方を確認しておくことをおすすめします。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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