工場閉鎖時の会計処理とは?減損・取壊費用・退職金・税効果・後発事象を公認会計士が解説
更新日:9月1日
こんにちは!代表の安田です。
国内製造業では、工場の閉鎖や生産拠点の再編を検討する企業が増えています。
背景には、原材料価格の上昇、円安、人件費の増加、設備老朽化、カーボンニュートラル対応、電動化による市場変化、国内需要の縮小、海外生産への移管など、さまざまな要因があります。
工場閉鎖は、単に生産を止めるだけの話ではありません。
会計上は、固定資産の減損、建物や設備の取壊費用、早期割増退職金、解約違約金、棚卸資産の評価損、税効果会計、後発事象など、多くの論点が一度に発生します。
しかも、これらの論点は相互に関連します。たとえば、工場を更地にして土地を売却する場合、固定資産の回収可能価額の見積りでは、土地の時価だけでなく、工場の取壊費用も考慮する必要があります。
本日は、工場閉鎖に伴う主な会計論点について、公認会計士の視点からわかりやすく解説します。
工場閉鎖で検討すべき会計論点
工場閉鎖時に検討すべき会計論点は、大きく次の5つに整理できます。
1つ目は、固定資産の減損です。
閉鎖する工場の建物、機械装置、土地、設備などについて、帳簿価額を回収できるかを検討します。
2つ目は、負債の計上です。
工場の取壊費用、早期割増退職金、大量退職、契約の中途解約に伴う違約金などについて、いつ費用または負債を認識するかが問題になります。
3つ目は、棚卸資産の評価です。
工場閉鎖により、原材料、仕掛品、補修用部品、貯蔵品などが使用不能になる場合には、評価損の検討が必要です。
4つ目は、税効果会計です。
減損損失や棚卸資産評価損などにより一時差異が発生する場合、繰延税金資産の回収可能性を検討します。
5つ目は、後発事象です。
工場閉鎖の意思決定が決算日後に行われた場合、その原因が決算日時点に存在していたのか、翌期以降の新たな事象なのかを検討する必要があります。
固定資産の減損が最初の重要論点
工場閉鎖でまず検討すべきなのが、固定資産の減損です。
工場には、建物、構築物、機械装置、工具器具備品、土地、ソフトウェアなど、多額の固定資産が計上されていることがあります。
これらの固定資産は、将来の生産活動を通じてキャッシュ・フローを生み出すことを前提に貸借対照表に計上されています。しかし、工場を閉鎖する場合、従来どおり将来キャッシュ・フローを生み出すことができなくなります。
そのため、閉鎖の意思決定や事業撤退の計画は、減損の兆候に該当する可能性が高くなります。特に、工場閉鎖後に事業自体から撤退する場合や、工場を更地にして土地を売却する場合には、資産の回収方法が大きく変わるため、減損の検討が不可欠です。
グルーピングの見直し
固定資産の減損では、まず資産のグルーピングを確認します。
資産グループとは、他の資産または資産グループからおおむね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位です。
工場閉鎖時には、閉鎖する工場が独立した資産グループなのか、それとも他の工場や事業部門と一体でキャッシュ・フローを生み出しているのかを確認する必要があります。
たとえば、閉鎖する工場が特定製品を単独で生産しており、その事業から撤退する場合には、独立した資産グループとして減損を検討することが考えられます。
一方、同じ製品を別工場へ移管し、代替投資も予定されている場合には、閉鎖工場だけを切り離すのではなく、従来の資産グループ単位で減損を検討することもあります。
また、工場を更地にして土地を売却する場合には、工場全体を一つの単位として見るのではなく、建物、設備、土地をそれぞれ別の単位として考える必要が生じることもあります。
グルーピングの変更は、減損判定の結果に大きく影響します。単に「工場閉鎖を決めた」というだけで機械的に変更するのではなく、キャッシュ・フローがいつ、どのように切り離されたのかを慎重に判断することが重要です。
減損の兆候はいつ発生するのか
工場閉鎖の意思決定は、減損の兆候となり得ます。
ただし、注意すべきなのは、意思決定日だけを見ればよいわけではないという点です。
たとえば、決算日後に取締役会で工場閉鎖を決議した場合でも、その原因となる収益性の低下や市場環境の悪化が決算日時点ですでに存在していた場合には、決算日時点で減損の兆候があったと判断される可能性があります。
反対に、決算日後に新たな経営判断や外部環境の変化が生じ、それによって初めて閉鎖が決定された場合には、翌期の事象として扱うことも考えられます。
つまり、減損兆候の判定では、意思決定の形式的な日付だけでなく、意思決定に至った背景と原因を確認する必要があります。
監査上も、取締役会議事録、経営会議資料、中期経営計画、工場別損益、稼働率、受注状況、固定費負担、閉鎖検討資料などが重要な証拠になります。
減損と減価償却の見直しの順番
工場閉鎖が決まると、固定資産の耐用年数や残存価額の見直しも必要になります。
たとえば、これまで20年使用する前提だった建物や設備について、2年後に閉鎖することが決まった場合、残りの使用期間は大きく短縮されます。
この場合、減価償却費の見直しが必要になる可能性があります。
ただし、減損の兆候がある場合には、まず減損損失の認識判定を行なうことが基本です。
そのうえで、減損損失を計上するかどうかにかかわらず、耐用年数や残存価額が著しく不合理になっている場合には、減価償却の見直しを検討します。
順番を誤ると、減損損失と減価償却費の計算に影響するため注意が必要です。
将来キャッシュ・フローの見積期間
減損損失の認識判定では、主要な資産の経済的残存使用年数に基づいて将来キャッシュ・フローを見積もります。
ここで重要なのは、従来の耐用年数をそのまま使えばよいわけではないという点です。
工場を閉鎖し、更地にして売却することが決まっている場合、使用を継続する前提で設定していた耐用年数ではなく、閉鎖を前提とした企業固有の条件を踏まえて残存使用期間を見積もる必要があります。
たとえば、実際に生産を継続する期間が1年であれば、将来キャッシュ・フローの見積期間も、その実態に合わせて検討する必要があります。
閉鎖までの生産計画、在庫消化計画、受注残、操業停止時期、人員配置、設備撤去スケジュールなどを踏まえて、将来キャッシュ・フローを合理的に見積もることが重要です。
回収可能価額はどう考えるか
減損損失の測定では、帳簿価額を回収可能価額まで減額します。
回収可能価額は、使用価値と正味売却価額のいずれか高い方で算定されます。
使用価値は、資産を使用し続けることを前提とした将来キャッシュ・フローの現在価値です。正味売却価額は、資産を売却することを前提とした時価から処分費用見込額を控除した金額です。
通常は、使用価値の方が正味売却価額より高い場合もあります。
しかし、工場閉鎖後に更地にして土地を売却することを決定している場合には、企業が使用を継続しない意思決定をしているため、正味売却価額を重視することになります。
この場合、土地の時価から工場の取壊費用や処分費用の見込額を控除して回収可能価額を見積もる点に注意が必要です。
取壊費用はいつ負債計上するのか
工場閉鎖では、建物や設備の取壊費用が発生します。
ここで問題になるのが、取壊費用をいつ費用または負債として認識するかです。
工場を更地にして売却する場合、取壊費用は減損損失の測定における正味売却価額の算定で考慮されます。
つまり、土地や工場資産の時価から取壊費用見込額を控除して回収可能価額を算定するため、取壊費用見込額は減損損失の金額に反映されます。
一方で、工場の取壊しが企業の自発的な計画のみに基づくものであり、法律上の義務またはこれに準ずる義務が存在しない場合には、単に取壊しを決定しただけで資産除去債務や引当金を計上することは通常できません。
実際に取壊しの役務提供を受けた時点で費用処理することが基本になります。
ただし、すでに減損測定で処分費用を控除している場合、その後の処分費用をそのまま費用処理すると、損失が二重計上される可能性があります。
この点は実務上とても重要です。
処分費用の二重計上に注意
工場を更地にして土地を売却する場合、減損測定では、土地の時価から取壊費用などの処分費用見込額を控除して正味売却価額を算定します。
この時点で、処分費用見込額は減損損失に反映されています。
その後、実際に取壊費用が発生した際に、同じ金額を再び費用処理すると、同じ損失を二重に計上することになります。
たとえば、土地の時価が100、帳簿価額が130、処分費用見込額が30の場合、正味売却価額は70です。この場合、帳簿価額130から回収可能価額70を控除し、減損損失60を計上します。
この減損損失60には、処分費用見込額30の影響が含まれています。
その後、実際に取壊費用30が発生した場合、これをそのまま費用処理すると、処分費用部分が二重に損失計上されます。
このような場合、処分費用のうち資産価値の増加に対応する部分については、土地の帳簿価額を増加させる処理が考えられます。
不要な建物や設備が存在する土地より、更地の土地の方が価値が高いという実態を反映するためです。
早期割増退職金の会計処理
工場閉鎖に伴い、従業員に早期割増退職金を支払うことがあります。
早期割増退職金は、通常の退職給付とは性質が異なります。
勤務期間を通じた労働の提供に伴って発生したものというより、将来の勤務を放棄することへの補償や、失業期間中の補償という性格を持ちます。
そのため、早期割増退職金は、従業員が早期退職制度に応募し、かつ金額を合理的に見積もることができる時点で費用処理します。
工場閉鎖を決定しただけで、まだ従業員の応募が終わっていない場合には、費用計上の時点を慎重に判断する必要があります。
また、決算日後から監査報告書日までの間に応募が完了し、金額が合理的に見積もれる場合には、修正後発事象に該当するかどうかも検討が必要です。
大量退職に該当する場合
工場閉鎖により、多数の従業員が一時に退職する場合、大量退職に該当する可能性があります。
大量退職とは、工場閉鎖や営業停止などにより、従業員が予定より早期に退職し、退職給付制度を構成する相当数の従業員が一時に退職した結果、相当程度の退職給付債務が減少する場合をいいます。
大量退職に該当する場合には、退職給付制度の終了または一部終了に準じた会計処理を行います。この場合、終了した部分に係る退職給付債務と支払額との差額、未認識過去勤務費用、未認識数理計算上の差異のうち終了部分に対応する金額を損益として認識します。
原則として、これらの損益は特別損益に純額で表示します。
工場閉鎖では、単に割増退職金だけでなく、退職給付債務への影響もあわせて検討する必要があります。
解約違約金の会計処理
工場閉鎖に伴い、長期の原料調達契約、製品供給契約、物流契約、リース契約、外注契約などを中途解約することがあります。
この場合、契約上の解約違約金が発生することがあります。
解約違約金は、確定した時点で債務計上します。
また、確定前であっても、取引先への申し出や交渉状況などを踏まえ、引当金の認識要件を満たす場合には、合理的な見積りに基づき引当金を計上する必要があります。
支払方法が一括か、数年間にわたる分割払いかによって、会計処理や表示も変わる可能性があります。契約書の中途解約条項、違約金算定方法、支払時期、取引先との合意状況を早めに確認しておくことが重要です。
棚卸資産の評価損
工場閉鎖では、棚卸資産の評価も重要です。
工場で使用する予定だった原材料、仕掛品、製品、補修用部品、貯蔵品などが、閉鎖により不要になることがあります。
たとえば、特定工場の設備でしか使用できない原材料や部品について、他工場への転用可能性がなく、外部売却もできない場合には、資産価値がないものとして評価損を計上する必要があります。
また、閉鎖予定工場の装置補修にのみ使用される貯蔵品も、閉鎖により使用見込みがなくなる場合には評価損を検討します。
棚卸資産評価では、帳簿上の数量だけでなく、今後の使用見込み、転用可能性、売却可能性、廃棄予定を確認することが重要です。
税効果会計への影響
工場閉鎖では、固定資産の減損損失、棚卸資産評価損、退職関連費用、解約違約金などにより、一時差異が発生することがあります。
そのため、税効果会計の検討が必要です。
償却資産の減損損失に係る将来減算一時差異は、通常、減価償却を通じて解消されます。
ただし、工場建物を近い将来取り壊す予定がある場合には、その取壊し時期に基づいてスケジューリング可能と判断されることがあります。
一方、土地など非償却資産の減損損失に係る将来減算一時差異は、売却等の意思決定や実施計画がない場合にはスケジューリング不能とされます。
しかし、工場閉鎖後に土地を売却する具体的な計画がある場合には、スケジューリング可能と判断されることがあります。
また、工場閉鎖により将来収益力が低下する場合には、繰延税金資産の回収可能性そのものにも影響します。
会社分類の見直しが必要になることもあるため、単に個別の一時差異だけでなく、将来課税所得の見積り全体を見直すことが重要です。
後発事象の検討
工場閉鎖の意思決定が決算日後に行なわれた場合、後発事象の検討が必要です。
後発事象には、修正後発事象と開示後発事象があります。
修正後発事象とは、決算日時点ですでに存在していた状況について、決算日後に追加的またはより客観的な証拠が得られた場合に、財務諸表を修正する事象です。
たとえば、決算日後に工場閉鎖を決定した場合でも、その原因となる収益性低下や市場縮小が決算日時点で存在していた場合には、減損兆候や繰延税金資産の回収可能性に関して修正後発事象として扱う可能性があります。
一方、決算日後の新たな意思決定により、翌期以降の財務諸表に重要な影響を与える場合には、開示後発事象として注記が必要になることがあります。
工場閉鎖は金額的重要性が高くなりやすいため、意思決定日、原因発生日、取締役会資料、経営計画への反映時期を整理しておくことが大切です。
実務で確認すべきチェックポイント
工場閉鎖に伴う会計処理では、次の点を確認しましょう。
閉鎖する工場の資産グループを確認しているか
グルーピングの変更が必要か検討しているか
減損の兆候がいつ発生したか整理しているか
閉鎖意思決定前に収益性低下の事実がなかったか確認しているか
減損判定後に耐用年数や残存価額の見直しを検討しているか
将来キャッシュ・フローの見積期間を閉鎖前提で見直しているか
更地売却の場合、正味売却価額を適切に見積もっているか
土地時価から取壊費用などの処分費用を控除しているか
取壊費用を二重に損失計上していないか
早期割増退職金の応募状況と金額見積りを確認しているか
大量退職に該当するか検討しているか
長期契約の解約違約金を把握しているか
原材料や貯蔵品の転用可能性を確認しているか
税効果会計と繰延税金資産の回収可能性を見直しているか
決算日後の意思決定について後発事象を検討しているか
工場閉鎖は、経理部門だけでは判断できない論点が多くあります。経営企画、製造部門、人事、法務、税務、外部専門家と連携して進めることが重要です。
まとめ
工場閉鎖は、固定資産の減損、負債計上、棚卸資産評価、税効果会計、後発事象など、多くの会計論点を同時に発生させます。
固定資産の減損では、まず資産グループを確認し、閉鎖によりグルーピングの変更が必要かを検討します。工場閉鎖や事業撤退は減損の兆候となる可能性が高く、意思決定のタイミングだけでなく、その原因が決算日時点ですでに存在していたかを確認することが重要です。
減損損失の測定では、閉鎖を前提とした将来キャッシュ・フローや残存使用期間を見積もります。工場を更地にして土地を売却する場合には、使用価値ではなく正味売却価額を重視し、土地の時価から取壊費用などの処分費用見込額を控除して回収可能価額を算定します。
取壊費用については、工場の自発的な閉鎖計画だけで直ちに資産除去債務や引当金を計上できるとは限りません。一方で、減損測定で処分費用を控除している場合、実際に取壊費用が発生したときに二重に損失計上しないよう注意が必要です。
早期割増退職金は、従業員が制度に応募し、金額を合理的に見積もれる時点で費用処理します。大量退職に該当する場合には、退職給付制度の一部終了に準じた会計処理も検討します。
さらに、工場閉鎖に伴い不要となる原材料や貯蔵品には棚卸資産評価損が必要になる場合があります。減損損失や評価損により発生する一時差異については、税効果会計と繰延税金資産の回収可能性を見直す必要があります。
工場閉鎖の意思決定が決算日後に行われた場合には、修正後発事象か開示後発事象かを検討します。
工場閉鎖は、企業の財務諸表に大きな影響を与える重要な意思決定です。決算直前に慌てて処理するのではなく、閉鎖方針の検討段階から、会計・税務・人事・法務・監査の論点を整理しておくことをおすすめします。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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