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製造委託等の代金支払ルールが大企業同士にも拡大へ|2027年4月から60日超の支払遅延に注意

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 21 時間前
  • 読了時間: 12分

おはようございます!代表の安田です。


2027年4月1日から、製造委託等の代金支払に関する新たなルールが施行されます。


公正取引委員会は、独占禁止法に基づく新たなルールとして、「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」を公表しました。これにより、取適法の規模要件に該当しない大企業同士の取引であっても、一定の製造委託等については、原則として、物品・サービス等の受領日から60日を超えて代金を支払うことが禁止されます。


これまでは、取適法の対象外となる大企業同士の取引では、支払サイトが長期化しやすく、サプライチェーン全体で価格転嫁や取引適正化が進みにくいという課題がありました。今回の新ルールは、こうした課題に対応し、サプライチェーン全体で適切な支払条件を実現することを目的としています。


本日は、公認会計士の視点から、新ルールの概要、取適法との違い、大企業同士の取引に与える影響、経理・購買・法務部門が確認すべき実務ポイントを整理します。


取適法とは

取適法とは、正式には「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」をいいます。


従来の下請法を改正・再編する形で導入された制度であり、中小受託事業者との取引における支払遅延、不当減額、買いたたきなどを防止することを目的としています。


取適法では、取引内容と一定の規模要件により、適用対象となる取引が定められています。規模要件には、資本金基準や従業員基準があり、委託事業者と中小受託事業者の規模関係によって適用対象が判断されます。


たとえば、自動車メーカーが自動車部品の製造を部品メーカーに委託する場合、委託事業者である自動車メーカーの資本金が3億円超、受託側である部品メーカーの資本金が3億円以下であれば、取適法の対象となる可能性があります。


取適法の対象となる主な「製造委託等」

今回の独占禁止法に基づく新ルールでも、取適法で規定される「製造委託等」が重要なキーワードになります。主な対象取引は、次の5つです。


(1)製造委託

物品を販売し、または物品の製造を請け負っている事業者が、規格、品質、形状、デザインなどを指定して、他の事業者に物品の製造や加工などを委託する取引です。

製造業では、部品加工、製品組立、OEM生産などが典型例です。


(2)修理委託

物品の修理を請け負っている事業者が、その修理を他の事業者に委託する場合や、自社で使用する物品を自社で修理している事業者が、その修理の一部を他の事業者に委託する場合が該当します。


(3)情報成果物作成委託

ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなど、情報成果物の提供や作成を行う事業者が、他の事業者にその作成作業を委託する取引です。

システム開発、アプリ制作、動画制作、デザイン制作などが含まれます。


(4)役務提供委託

他者に対して運送、ビルメンテナンスなどのサービスを提供する事業者が、その役務の全部または一部を他の事業者に委託する取引です。

ただし、建設業法に規定される建設業を営む事業者が請け負う建設工事は除かれます。


(5)特定運送委託

事業者が、販売する物品、製造・修理を請け負った物品、または作成を請け負った情報成果物が記載された物品などを取引相手に運送する場合に、その運送を他の事業者に委託する取引です。

物流・運送費の管理にも関係するため、経理部門だけでなく物流部門との連携も必要になります。


なぜ大企業同士にも規制が広がるのか

取適法は、取引内容と規模要件によって適用対象を定めています。

そのため、発注者と受注者の資本金がいずれも3億円超であるような大企業同士の取引は、取適法の対象外となるケースがあります。


しかし、大企業同士の取引であっても、必ずしも対等な交渉が行なわれているとは限りません。発注者の取引上の地位が強い場合、受注者側が十分な価格協議を行えず、価格転嫁が進まないことがあります。


また、支払条件についても、発注者が優位に立つことで、支払サイトが長期化しやすい傾向があります。


サプライチェーンでは、複数の取引段階が連なっています。上流の大企業同士の取引で支払期日が長く設定されると、その影響が下流の中小企業との取引にも波及し、サプライチェーン全体で資金繰り負担が重くなる可能性があります。


今回の新ルールは、大企業同士の取引も含め、サプライチェーン全体で支払条件を適正化するために導入されるものです。


独占禁止法に基づく新ルールの概要

今回、公正取引委員会が定めた新ルールは、独占禁止法に基づく「特定の不公正な取引方法」です。対象となるのは、取適法で規定する「製造委託等」を行なう事業者です。


重要なのは、取適法のような資本金基準や従業員基準を問わない点です。

つまり、取適法の規模要件に該当しない大企業同士の製造委託等であっても、発注者が受注者に対して優越的な地位にあると判断される場合には、新ルールの対象となり得ます。


新ルールでは、正当な理由がある場合を除き、製造委託等について支払うべき代金を、受注者から物品・サービス等を受領した日から起算して60日の期間経過後に支払うことが禁止されます。


簡単にいえば、対象取引については、原則として受領日から60日以内に支払う必要があるということです。


受注者が大企業でも対象になる可能性がある

今回の新ルールで特に注意すべきなのは、受注者が中小企業でなくても対象になる可能性がある点です。


取適法では、中小受託事業者に該当するかどうかが重要です。一方、独占禁止法に基づく新ルールでは、「受託事業者」は、委託事業者から製造委託等を受けた事業者とされています。


ただし、その取引上の地位が委託事業者に対して劣っていないと認められる者は除かれます。


つまり、受託事業者が大企業であっても、取引上の地位が委託事業者に対して劣っていると判断される場合には、60日以内の支払が求められる可能性があります。

この「取引上の地位の優劣」は、たとえば次のような事情を総合的に見て判断されます。

  • 受託事業者の発注者に対する取引依存度

  • 発注者の市場における地位

  • 取引先を変更することの難しさ

  • 取引条件の交渉実態

  • 発注者からの要請を拒否できるか

  • 価格や支払条件の決定プロセス


大企業同士だから安心、という判断はできません。実務上は、取引先の規模だけでなく、取引関係の実態を確認する必要があります。


支払手段の取扱いは取適法と異なる

今回の新ルールでは、代金の支払手段についても注意が必要です。


独占禁止法に基づく新ルールでは、代金の支払手段は「現金又は現金に準ずる支払手段」とされています。


ここでいう現金に準ずる支払手段には、手形払、電子記録債権、ファクタリング等も含まれるとされています。


一方、取適法では、手形払のほか、電子記録債権やファクタリングについて、支払期日までに代金相当額を得ることが困難なものは支払遅延として禁止されています。


つまり、取適法と独占禁止法に基づく新ルールでは、支払手段に関する整理が異なります。

実務では、次のように混同しないことが重要です。

  • 取適法:支払期日までに現金化が困難な手形・電子記録債権・ファクタリング等は問題となる

  • 独禁法新ルール:手形払、電子記録債権、ファクタリング等も現金に準ずる支払手段として認められる


ただし、独禁法新ルールで認められるからといって、すべての取引で問題ないとは限りません。取適法対象取引については、取適法のルールを別途確認する必要があります。


違反した場合の措置も取適法とは異なる

今回の新ルールは、独占禁止法に基づくものです。

そのため、違反行為に該当した場合には、独占禁止法に基づく措置の対象となります。

具体的には、次のような措置が考えられます。

  • 排除措置命令

  • 確約計画の認定

  • 警告

  • 注意


一方、取適法に違反した場合には、勧告、指導・助言など、取適法上の措置が問題になります。


対象取引、支払手段、禁止行為、違反時の措置が異なるため、企業は「取適法対応」と「独占禁止法に基づく新ルール対応」を分けて整理する必要があります。


2027年4月1日施行に向けた実務対応

新ルールは、2027年4月1日から施行されます。


適用対象となる企業は、施行日までに契約条件や支払実務を見直す必要があります。

特に、支払サイトが長い契約や、月末締め翌々月末払いなど、受領日から60日を超える可能性がある支払条件については、早めに確認する必要があります。

実務上は、次のような対応が必要です。


(1)対象取引の洗い出し

まず、自社が発注者として行っている取引のうち、製造委託等に該当する取引を洗い出します。

対象になり得る取引は、製造業だけに限られません。ソフトウェア開発、デザイン制作、運送委託、ビルメンテナンスなども含まれる可能性があります。


(2)受注者の取引上の地位を確認する

取引先が大企業であっても、取引依存度や市場における地位などを踏まえ、受注者の地位が劣っていると判断される可能性があります。

特に、長年継続している大口取引、特定の発注者への依存度が高い取引、代替取引先の確保が難しい取引については注意が必要です。


(3)支払サイトを確認する

対象取引について、受領日から支払期日までの期間が60日以内になっているかを確認します。

請求書受領日ではなく、原則として物品・サービス等の受領日から起算する点に注意が必要です。


(4)契約書・発注書を見直す

契約書や発注書に、支払期日、検収日、受領日、締日、支払日などがどのように定められているかを確認します。

受領日から60日を超える可能性がある支払条件は、契約更新や改定時に見直す必要があります。


(5)会計・支払システムを確認する

経理システムや支払管理システムが、受領日を基準に60日以内の支払期限を管理できるかを確認します。

現在、請求書受領日や締日ベースで支払管理をしている会社では、システム上の管理項目を見直す必要があるかもしれません。


経理部門が特に注意すべきポイント

今回の新ルールは、法務や購買だけでなく、経理部門にも大きく関係します。

経理部門が特に注意すべきなのは、次の点です。


  • 受領日基準で管理できているか

60日の起算点は、原則として物品・サービス等の受領日です。

経理部門では、請求書の日付や支払締日を基準に処理していることがありますが、それだけでは60日以内かどうかを正確に判定できない場合があります。

購買・物流・現場部門から受領日情報を取得できる体制が必要です。


  • 支払条件が契約どおり運用されているか

契約上は60日以内でも、社内承認の遅れ、検収処理の遅れ、請求書処理の滞留などにより、実際の支払が遅れることがあります。

支払遅延を防ぐには、契約条件だけでなく、実際の支払フローを点検する必要があります。


  • グループ会社間取引にも注意

大企業グループでは、グループ会社間で製造委託や役務提供委託を行っていることがあります。

グループ内取引であっても、対象取引に該当する可能性がある場合には、支払条件を確認しておくことが望まれます。


  • 取適法対象取引と独禁法対象取引を区分する

同じ製造委託等でも、取適法の対象となるものと、独禁法に基づく新ルールの対象となるものがあります。

支払手段や違反時の措置が異なるため、取引分類ごとに適用ルールを整理しておくことが重要です。


購買・法務・物流部門との連携が不可欠

製造委託等の支払ルール対応は、経理部門だけでは完結しません。

対象取引の内容を把握しているのは、購買部門や事業部門です。受領日や検収日を把握しているのは、物流部門や現場部門であることもあります。契約条件の見直しには法務部門の関与が必要です。


そのため、実務対応では、次のような部門横断の連携が求められます。

  • 購買部門:対象取引の洗い出し、取引先との交渉

  • 法務部門:契約書・発注書の見直し

  • 経理部門:支払サイト、支払手段、支払実務の確認

  • 物流・現場部門:受領日・検収日の管理

  • 経営企画・内部監査:全社対応状況のモニタリング

  • 情報システム部門:支払システム・購買システムの改修確認


施行日は2027年4月1日ですが、契約変更やシステム改修が必要になる場合には、早めに動き出す必要があります。


実務チェックリスト

2027年4月の新ルール施行に向けて、企業は次の点を確認しましょう。

  • 自社が発注者として行う製造委託等を洗い出しているか

  • 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託、特定運送委託を区分しているか

  • 取適法対象取引と、独禁法に基づく新ルールの対象取引を整理しているか

  • 大企業同士の取引についても対象可能性を検討しているか

  • 受注者の取引上の地位が委託事業者に対して劣っていないか確認しているか

  • 受領日から60日以内に支払う条件になっているか

  • 請求書受領日ではなく、物品・サービス等の受領日を起算点として確認しているか

  • 支払手段について、取適法と独禁法新ルールの違いを整理しているか

  • 契約書、発注書、基本取引契約の支払条件を見直しているか

  • 購買・法務・経理・物流・情報システム部門で連携しているか

  • 支払システムで受領日基準の管理ができるか確認しているか

  • 2027年4月1日の施行までに契約条件を見直すスケジュールを立てているか


まとめ

公正取引委員会は、製造委託等の代金支払に関して、独占禁止法に基づく新たなルールを公表しました。2027年4月1日から、取適法に規定する製造委託等を行う発注事業者は、原則として、受注者から物品・サービス等を受領した日から60日を超えて代金を支払うことが禁止されます。


今回の新ルールの大きな特徴は、取適法の資本金基準や従業員基準を問わない点です。そのため、取適法の対象外となる大企業同士の取引であっても、受注者の取引上の地位が発注者に対して劣っていると判断される場合には、規制対象となる可能性があります。


また、支払手段や違反時の措置については、取適法と独占禁止法に基づく新ルールで違いがあります。特に、手形払、電子記録債権、ファクタリング等の取扱いは混同しやすいため、対象取引ごとに適用されるルールを整理する必要があります。


企業は、2027年4月の施行に向けて、製造委託等に該当する取引の洗い出し、支払サイトの確認、受領日基準での管理、契約書・発注書の見直しを早めに進めることが重要です。経理部門だけでなく、購買、法務、物流、情報システム部門が連携し、サプライチェーン全体で適正な支払実務を整備していきましょう。


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