不動産の譲渡所得は登記名義だけで判断してよい?夫婦共有・名義違いの注意点を税理士が解説
- 安田 亮
- 24 分前
- 読了時間: 12分
こんにちは!代表の安田です。
不動産を売却した場合、譲渡所得の申告が必要になることがあります。
このとき、まず確認するのが不動産の登記簿です。
登記簿には、誰が所有者として登記されているか、持分割合はいくらか、取得原因は何かなどが記載されています。
ただし、税務上の判断を登記だけで済ませてよいとは限りません。
特に、夫婦共有名義のマイホーム、親族間で資金負担と名義が一致していない不動産、相続や贈与、財産分与、交換などが絡む不動産では、「登記上の名義」と「実際の所有関係」がずれていることがあります。
本日は、不動産の譲渡所得を申告する際に、登記名義をそのまま信じてよいのか、夫婦共有名義の場合にどう考えるべきか、実態と登記が異なる場合の確認ポイントについて、税理士の視点からわかりやすく解説します。
不動産を売却すると譲渡所得が発生する
土地や建物を売却して利益が出た場合、原則として譲渡所得として所得税・住民税の対象になります。
譲渡所得は、おおまかには次のように計算します。
譲渡所得= 売却価額 - 取得費 - 譲渡費用
取得費には、購入代金、購入時の仲介手数料、登記費用、不動産取得税などが含まれることがあります。
譲渡費用には、売却時の仲介手数料、測量費、売買契約書の印紙税、建物を取り壊して土地を売るための取壊し費用などが含まれる場合があります。
マイホームを売却した場合には、一定の要件を満たせば、居住用財産の3,000万円特別控除を使えることがあります。国税庁も、マイホームを売ったときは、所有期間の長短に関係なく、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例があると説明しています。
共有不動産の譲渡所得は持分ごとに計算する
不動産が共有名義になっている場合、譲渡所得は共有者ごとに計算します。
たとえば、夫婦で2分の1ずつ共有しているマイホームを売却した場合、原則として売却価額、取得費、譲渡費用をそれぞれの持分割合に応じて分けて、夫婦それぞれが譲渡所得を計算します。
国税庁も、共有のマイホームを売った人の譲渡所得の計算は、共有者の所有権持分に応じて行うと説明しています。
また、居住用財産の3,000万円特別控除についても、共有者全員で3,000万円ではなく、要件を満たす共有者ごとに最高3,000万円の控除を受けられます。共有者ごとに確定申告が必要になる点にも注意が必要です。
このため、夫婦共有のマイホームを売却した場合には、夫だけ、または妻だけでまとめて申告するのではなく、各共有者の持分、取得費、居住実態、特例適用の可否を個別に確認する必要があります。
登記名義だけで判断してよいとは限らない
不動産の申告では、登記簿を確認することが出発点になります。
しかし、登記名義だけで税務上の所有者を機械的に判断すると、実態とずれることがあります。
たとえば、次のようなケースです。
購入代金は夫が全額負担したのに、登記は夫婦共有になっている
妻名義で登記されているが、実際の購入資金は夫が負担している
相続で取得したにもかかわらず、登記原因が贈与のままになっている
市区町村との土地交換で取得したが、登記原因は「交換」となっていない
離婚に伴う財産分与なのに、登記上は贈与のように見える
このような場合、税務上は「登記に何と書いてあるか」だけではなく、実際に誰が資金を負担したのか、どのような合意があったのか、名義変更の経緯は何かを確認する必要があります。
実際には夫が購入資金をすべて負担していたにもかかわらず、夫婦共有名義で登記されていたマンションを売却したケースがあります。登記をそのまま信じると、妻にも譲渡損益が発生するように見えますが、実態を確認すると判断が変わる可能性があります。
夫婦共有名義でよくある落とし穴
マイホームを購入するとき、夫婦共有名義にすることは珍しくありません。
住宅ローンを夫婦で組んだ場合や、夫婦それぞれが購入資金を負担した場合には、その負担割合に応じて共有登記をするのが自然です。
一方で、次のような理由で、実際の資金負担とは異なる共有名義にしてしまうことがあります。
夫婦だから共有にしておいた方が安心
将来のことを考えて妻にも持分を付けておきたい
不動産会社や金融機関に勧められた
深く考えずに2分の1ずつにした
しかし、購入資金を片方だけが負担しているのに、もう一方に持分を付けると、贈与税の問題が生じる可能性があります。
また、その不動産を売却したときには、登記上の共有持分に応じて譲渡所得を申告すべきなのか、それとも実際の所有関係に基づいて申告すべきなのかという問題が出てきます。
税務上は、形式だけでなく実態を確認することが重要です。
実態と登記が違う場合、何を確認するか
登記名義と実態が一致しているかを確認するには、次のような資料を集めます。
売買契約書
重要事項説明書
住宅ローン契約書
通帳の出金記録
頭金や諸費用の支払記録
贈与契約書の有無
夫婦間の資金移動の有無。
購入当時の年収や資金状況
登記識別情報、登記事項証明書
司法書士とのやり取り
不動産会社や金融機関とのやり取り
特に重要なのは、購入代金を誰が負担したかです。
夫が全額負担しているにもかかわらず妻にも持分がある場合、実態として妻に贈与があったのか、それとも登記が実態と異なっているだけなのかを確認する必要があります。
税務署に説明する場合には、単に「実際は違います」と主張するだけでは不十分です。
購入資金の流れ、名義がそうなった経緯、贈与の意思がなかったことなどを、資料で説明できるようにしておくことが大切です。
「名義貸し」や「便宜上の登記」は説明資料が重要
実務では、便宜上、実際の所有者と異なる名義で登記されているケースがあります。
たとえば、夫が全額負担して購入したマンションについて、妻にも持分を付けたものの、妻は購入資金を負担しておらず、夫婦間で贈与の認識もなかった、というケースです。
この場合、売却時に登記上の持分だけを見て妻にも譲渡所得を申告させると、実態とずれる可能性があります。
一方で、妻名義の持分が登記されている以上、税務署から見ると妻が所有者に見えるのも事実です。
したがって、実態に基づいて申告する場合には、次のような説明資料を添付・保管しておくと安心です。
購入代金は誰が負担したか
妻や夫に対する贈与はなかったこと
共有登記となった経緯
売却代金が誰に帰属したか
登記と実態が異なる理由
今後、登記を実態に合わせて整理する予定があるか
登記を訂正せずに売却した場合の注意点
実態と登記が異なることに気づいたとき、本来であれば、登記を実態に合わせて整理することが望ましいです。
しかし、すでに売却が完了している場合や、登記の訂正が現実的に難しい場合もあります。
このような場合には、税務申告で実態を丁寧に説明する必要があります。
たとえば、登記上は夫婦共有だが、実際には夫が単独で取得資金を負担し、売却代金も夫に帰属している場合には、譲渡所得を夫の所得として申告することが考えられます。
ただし、これは事実関係によって判断が変わります。
妻が実際に一部資金を負担していた場合、夫婦間で贈与があった場合、住宅ローンを連帯債務で負担していた場合、売却代金を夫婦で分けて受け取った場合などは、別の判断になる可能性があります。
「登記が間違っているから全額自分のもの」と簡単には言えません。
事実関係の確認が何より重要です。
交換特例でも登記原因を鵜呑みにしない
不動産の登記原因で注意したいものに「交換」があります。
個人が土地や建物などの固定資産を、同じ種類の固定資産と交換した場合、一定の要件を満たせば、譲渡がなかったものとされる固定資産の交換の特例を使えることがあります。国税庁は、土地と土地、建物と建物のように同じ種類の固定資産を交換した場合、一定要件のもと譲渡がなかったものとする特例があると説明しています。
ただし、登記原因が「交換」となっているだけで、この特例が自動的に使えるわけではありません。
交換特例には、たとえば次のような要件があります。
交換する資産がいずれも固定資産であること
土地と土地、建物と建物のように同じ種類の資産であること
譲渡する資産を1年以上所有していること
取得する資産を相手方が1年以上所有しており、交換のために取得したものでないこと
取得資産を交換直前の用途と同じ用途に使用すること。
交換する資産の時価差額が、いずれか高い方の価額の20%以内であること
さらに、交換差金を受け取った場合には、その交換差金部分は譲渡所得として課税対象になります。
したがって、登記原因が「交換」だからといって、そのまま交換特例を使うのではなく、要件を一つずつ確認する必要があります。
贈与登記でも実態が違うことがある
登記原因が「贈与」となっていても、実態として贈与ではない場合があります。
たとえば、相続による遺産分割で不動産の名義を移したのに、登記上は便宜的に贈与のような形になっているケースです。
また、離婚に伴う財産分与で住宅を移転したにもかかわらず、登記原因が贈与になっているケースもあります。
このような場合、登記原因だけを見て贈与税の対象と判断すると、実態と異なる可能性があります。
離婚に伴う財産分与の場合、取得した側に贈与税がかかるのではなく、原則として譲渡した側に譲渡所得が生じる可能性があります。
ただし、居住用財産の3,000万円特別控除などの適用を検討できる場合があります。
国税庁は、マイホームを売った場合の3,000万円特別控除について、一定の要件を満たせば所有期間の長短に関係なく適用できると説明しています。
このように、登記原因が「贈与」となっていても、実際には相続、財産分与、錯誤、名義訂正など、別の実態があることがあります。
税務では、登記原因だけでなく、契約書、協議書、判決・調停調書、遺産分割協議書、資金の流れなどを確認する必要があります。
マイホームの共有売却と3,000万円控除
共有のマイホームを売却した場合、3,000万円特別控除は共有者ごとに判定します。
国税庁は、共有のマイホームを売った場合、特別控除額は共有者全員で3,000万円ではなく、この特例の適用を受けることができる共有者1人につき最高3,000万円であると説明しています。
ただし、共有者であれば誰でも必ず使えるわけではありません。
その人が実際に住んでいた家屋かどうか、売却時期、親族間売買でないか、他の特例との関係などを確認する必要があります。
また、家屋は夫単独所有で、敷地だけ妻が共有しているような場合には、妻が3,000万円特別控除を使えるかどうかに注意が必要です。国税庁は、家屋は共有でなく敷地だけを共有している場合、家屋の所有者以外の者は原則としてこの特例を受けることができないと説明しています。
つまり、マイホーム売却では、土地と建物の名義、居住実態、売却時期をセットで確認する必要があります。
税務署に説明するための資料を残す
登記と実態が異なる申告をする場合、税務署から問い合わせを受ける可能性があります。
そのため、申告時または申告後に説明できる資料を整えておくことが重要です。
特に次のような資料は保管しておきましょう。
登記事項証明書
売買契約書
購入時の資金負担がわかる通帳
住宅ローン契約書
返済予定表
購入時の諸費用明細
売却時の精算書
売却代金の入金口座
夫婦間や親族間の資金移動の記録
贈与契約書の有無
遺産分割協議書
財産分与協議書
司法書士や不動産会社とのやり取り
事実関係をまとめた説明書
税務調査や税務署からの照会では、「なぜ登記と違う申告をしたのか」を説明する必要があります。
口頭だけでは弱いため、購入時から売却時までの資金の流れと経緯を資料で説明できるようにしておくと安心です。
登記を信じすぎないためのチェックポイント
不動産の譲渡所得を申告する際には、次の点を確認しましょう。
登記上の所有者は誰か
登記上の持分割合はいくらか
購入代金を実際に負担したのは誰か
住宅ローンの債務者は誰か
返済は誰の口座から行われたか
夫婦や親族間で贈与・貸付があったか
売却代金は誰の口座に入金されたか
登記原因は実態と一致しているか
交換、贈与、相続、財産分与などの経緯を説明できるか
マイホーム特例を使う場合、居住実態があるか
土地と建物の名義が一致しているか
共有者ごとに確定申告が必要か
登記は重要な資料ですが、税務判断のすべてではありません。
登記と資金負担、実際の利用状況、契約内容、当事者の認識が一致しているかを確認することが大切です。
まとめ:不動産の譲渡所得は登記だけでなく「実態」を確認する
不動産を売却した場合、譲渡所得の申告では登記簿の確認が出発点になります。
しかし、登記名義や登記原因だけで税務上の判断を終えてはいけません。
夫婦共有名義のマイホーム、親族間で資金負担と名義が一致しない不動産、交換、贈与、相続、財産分与が絡む不動産では、登記と実態がずれていることがあります。
共有不動産を売却した場合、原則として共有者の持分に応じて譲渡所得を計算します。
また、共有のマイホームについては、要件を満たす共有者ごとに最高3,000万円の特別控除を受けられる場合があります。
一方で、登記上は共有でも、実際には一方が全額資金を負担し、贈与や貸付の実態もないような場合には、実態に基づいた申告を検討する必要があります。
その場合、購入資金の流れ、名義がそうなった経緯、売却代金の帰属、贈与の有無などを資料で説明できるようにしておくことが重要です。
不動産の譲渡所得では、次の3点を意識しましょう。
登記名義を確認する
資金負担と実際の所有関係を確認する
登記と実態が違う場合には、経緯を資料で説明できるようにする
不動産売却は金額が大きいため、申告を誤ると税額にも大きく影響します。
売却後に慌てるのではなく、売却前または申告前の段階で、登記・資金負担・特例適用の可否を税理士に確認しておくことをおすすめします。
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