永年勤続表彰の旅行券を使わなかった社員に一時金を支給したら給与課税?他の社員への影響も解説
- 安田 亮
- 4 時間前
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こんにちは!代表の安田です。
永年勤続表彰として、勤続10年、20年、30年などの節目に記念品や旅行券を支給している会社は少なくありません。長く会社に貢献してくれた従業員への感謝を示す制度であり、福利厚生の一環としても有効です。
一方で、永年勤続表彰は税務上の取扱いに注意が必要です。
特に旅行券は、現金や商品券に近い性質を持つため、支給方法や使用状況によっては給与として課税される可能性があります。
さらに、旅行券を使用しなかった従業員が会社へ旅行券を返還し、その代わりに会社が表彰一時金を支給する場合には、「その本人だけ課税すればよいのか」「まだ旅行券を持っている他の表彰者にも給与課税が必要なのか」という問題が生じます。
本日は、永年勤続表彰における旅行券・表彰一時金の税務上の取扱い、給与課税されるケース、他の従業員にも課税が及ぶケース、社内規程を作る際の注意点について解説します。
永年勤続表彰の記念品等は一定要件で非課税
会社が永年勤続者に対して、旅行や観劇へ招待したり、記念品を支給したりする場合、一定の要件を満たせば、従業員に対する給与として課税しなくてよい取扱いがあります。
国税庁は、永年勤続者に支給する記念品や旅行・観劇への招待費用について、次の要件を満たす場合には給与として課税しなくてもよいと案内しています。
勤続年数や地位などに照らして、社会一般的にみて相当な金額以内であること
勤続年数がおおむね10年以上である人を対象としていること
同じ人を2回以上表彰する場合は、前回の表彰からおおむね5年以上の間隔があること
したがって、永年勤続表彰として旅行券を支給する制度であっても、制度設計と運用が適切であれば、給与課税されない余地があります。
ただし、ここで重要なのは「現金支給」と「現物支給」は税務上の扱いが違うという点です。
現金・商品券を支給すると原則として給与課税
永年勤続表彰であっても、記念品や旅行招待に代えて現金や商品券を支給する場合には、その全額が給与として課税されます。
国税庁も、記念品の支給や旅行・観劇への招待費用の負担に代えて、現金や商品券などを支給する場合には、その全額が給与として課税されると説明しています。
たとえば、次のような支給は給与課税の対象になりやすいです。
永年勤続表彰として現金10万円を支給する
旅行に行かない人に商品券を支給する
従業員が旅行券か現金かを自由に選べる
記念品の代わりにギフトカードを支給する
「永年勤続表彰」という名目であっても、現金や自由に使える金券を渡す場合には、実質的には給与と同じと考えられます。
そのため、源泉所得税の徴収、給与台帳への反映、年末調整への反映が必要になります。
旅行券はなぜ注意が必要なのか
旅行券は、旅行目的で支給されるため、現金とは違うようにも見えます。
しかし、旅行券には換金性があり、有効期限が長いものも多く、使い方によっては現金や商品券に近い性質を持ちます。
そのため、会社が単に旅行券を渡して終わりにしてしまうと、給与課税の問題が生じます。
旅行券を給与課税しない取扱いにするには、一般に次のような運用が重要です。
支給後一定期間内に旅行を実施する
旅行日、旅行先、旅行費用等を記載した報告書を提出させる
旅行券を使用したことが分かる領収書等を添付させる
未使用の場合は旅行券を会社へ返還させる
旅行券と現金を自由に選択できる制度にしない
会社が勤続20年の永年勤続表彰者に20万円の旅行券を支給し、旅行券を使用した場合には、旅行期間・旅行先・旅行費用総額等を記載した所定様式と、旅行券を使用した旨が記載された旅行会社の領収書を提出させるなどの運用が考えられます。
また、支給後1年以内に旅行券の全部または一部を使用しなかった場合には、未使用分を会社へ返還することとしていました。
このように、旅行券を「旅行に使うもの」として管理しているかどうかが大切です。
コロナ禍で旅行期限を延長した場合
永年勤続表彰で支給した旅行券については、通常、支給後1年以内に旅行を実施し、会社に報告するような運用が想定されます。
しかし、新型コロナウイルス感染症の影響により、旅行そのものが難しくなった時期がありました。
会社は新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、令和2年12月14日付の東京国税局文書回答事例を参考に、旅行券の使用期限について、本人の申請により1年延長する措置を講じていいる会社もありました。また、再延長も可能とされていました。
このような特殊事情がある場合には、旅行実施期限や報告期限を延長すること自体が、直ちに給与課税につながるわけではありません。
ただし、延長する場合でも、旅行券を旅行目的で使用させること、使用後に報告書や領収書を提出させること、未使用の場合には返還させることなど、旅行券としての管理を続けることが重要です。
旅行券を返還した従業員へ表彰一時金を支給する場合
今回取り上げるのは、旅行券を使用しなかった従業員が会社へ旅行券を返還し、その従業員に対して会社が臨時的に表彰一時金10万円を支給するケースです。
会社としては、新型の感染症の影響もあり、旅行を実施できなかった事情を考慮して、旅行券を返還した従業員へ一時金を支給したいという状況です。
この場合、表彰一時金10万円を受け取る従業員本人については、現金支給であるため、原則として給与課税の対象になります。
問題は、まだ旅行券を使用していない他の表彰者にも、同じ10万円相当の給与課税が必要になるのかという点です。
原則:旅行券と一時金を選択できる制度でなければ、他の表彰者への課税は不要
旅行と表彰一時金との選択が可能となっている場合を除き、既に旅行券を支給し未使用となっている他の表彰者に対しては、課税する必要はないものと考えられるとされています。
つまり、ポイントは「従業員が旅行券を使うか、一時金を受け取るかを自由に選択できる状態だったか」です。
今回の事例では、もともとの制度は次のような内容でした。
勤続20年の表彰者に旅行券20万円を支給する
旅行券を使用した場合は報告書と領収書を提出する
使用しなかった旅行券は会社へ返還する
旅行券を返還した場合に一時金を支給する制度ではなかった
その後、旅行券を返還した従業員が1名出たため、会社がその者に対して臨時的に表彰一時金10万円を支給することを検討したという流れです。
このような場合、当初から旅行券と一時金を選択できたわけではありません。
したがって、まだ旅行券を持っている他の表彰者についてまで、「10万円の給与を受け取れる権利があった」と見る必要はないと考えられます。
選択制にすると他の表彰者にも給与課税が及ぶ可能性
一方で、制度設計を誤ると、他の従業員にも給与課税が及ぶ可能性があります。
仮に「旅行券を返還すれば表彰一時金10万円が支給される」という規程変更がされ、その旨があらかじめ周知されていた場合には、表彰者は旅行券を使用して旅行するか、旅行券を返還して表彰一時金10万円を受け取るかを選択できることになります。
このような場合には、既に旅行券を支給し未使用となっている他の表彰者に対しても、表彰一時金10万円相当額の給与の支払があったものとして課税する必要が生じるとされています。
要するに、次のような制度にしてしまうと危険です。
「旅行券を使うまたは旅行券を返還して10万円を受け取る」
このように、従業員が旅行と現金を選べる制度になると、旅行を選んだ人についても「現金を受け取ることができたのに旅行を選んだ」と考えられます。
その結果、現金支給相当額について給与課税が必要になる可能性があります。
レクリエーション費用の取扱いとの違い
使用者が負担するレクリエーション費用に関する所得税基本通達36-30との比較も考えてみましょう。
レクリエーション費用については、自己都合で参加しなかった者に対して、参加に代えて金銭を支給する場合、参加者・不参加者のいずれについても給与課税が必要になると整理されています。これは、不参加者に金銭を支給すると、行事に参加するか金銭を受け取るかを選べる状態になるためです。
永年勤続表彰の旅行券についても、同じように、旅行券を使うか現金を受け取るかを選択できる制度にすると、現金相当額が給与課税されるリスクがあります。
一方で、もともと旅行券しか支給しておらず、未使用分は返還させる制度であり、特定の事情により返還者へ臨時的に一時金を支給しただけであれば、他の旅行券保有者まで課税する必要はないと考えられます。
課税される場合の収入すべき時期
では、旅行券と表彰一時金を選択できる制度になってしまい、給与課税が必要になる場合、いつの給与として課税すればよいのでしょうか。
旅行券の返還もあり得ることを踏まえると、旅行券を使用した者についてはその旅行券の使用時、旅行券を返還した者については表彰一時金10万円の支給日と見るのが相当とされています。つまり、課税時期は次のように整理されます。
旅行券を使用した者 → 旅行券を使用した時
旅行券を返還して一時金を受け取った者 → 表彰一時金の支給日
旅行券を支給した時点で直ちに課税するのではなく、その後の使用・返還の状況を踏まえて判断するという考え方です。
ただし、これは選択制により課税が必要になる場合の整理です。
そもそも選択制でなければ、旅行券を使用した者については、永年勤続表彰の非課税要件を満たす限り、給与課税しない取扱いが考えられます。
会社がやってはいけない制度設計
永年勤続表彰の旅行券制度では、次のような制度設計は避けるべきです。
1. 旅行券か現金かを自由に選べる
「旅行券20万円または現金10万円を選択できる」といった制度は、現金を選ばなかった従業員にも給与課税が及ぶ可能性があります。
2. 未使用なら現金を支給すると事前に周知する
「旅行券を使わなければ10万円を支給します」と事前に周知すると、旅行と現金の選択制と見られます。
3. 旅行報告書を提出させない
旅行券を旅行目的で使用したことを確認できなければ、実質的に金券を支給しただけと見られる可能性があります。
4. 未使用でも返還させない
旅行券を使わずに保有し続けられる制度では、換金性のある経済的利益を自由に使える状態と見られやすくなります。
5. 役員や特定従業員だけに有利な運用をする
永年勤続表彰は、一定の勤続年数や表彰間隔に基づいて公平に運用する必要があります。
特定の役員や親族だけに高額な旅行券や一時金を支給すると、役員給与や賞与として問題になる可能性があります。
社内規程で明確にしたいポイント
永年勤続表彰制度を安全に運用するには、社内規程を整備しておくことが重要です。
規程には、少なくとも次のような項目を入れておくとよいでしょう。
表彰の目的
対象となる勤続年数
表彰の間隔
支給する記念品または旅行券の内容
旅行券の使用期限
旅行実施後の報告書提出義務
領収書等の添付義務
未使用旅行券の返還義務
旅行券の換金、譲渡禁止
未使用時に現金を支給する制度ではないこと
やむを得ない事情がある場合の期限延長手続
特に大切なのは、「旅行券を使わなかった場合に現金を受け取れる制度ではない」ことを明確にすることです。
臨時的に一時金を支給する場合の実務対応
新型の感染症、自然災害、病気、介護など、やむを得ない事情で旅行券を使えない従業員が出ることはあります。そのような場合に、会社が臨時的に表彰一時金を支給するなら、次の点を整理しておきましょう。
1. 一時金の対象者を限定する
旅行券を返還した特定の従業員について、個別事情を踏まえて臨時的に支給したことを明確にします。
2. 事前の選択制ではないことを明確にする
旅行券を持つ他の従業員に対して、「返還すれば一時金を支給する」と事前に周知しないようにします。
3. 支給した一時金は給与課税する
現金支給であるため、表彰一時金を受け取った従業員本人については、給与として源泉徴収の対象にします。
4. 社内決裁資料を残す
なぜ一時金を支給したのか、どのような事情があったのか、他の表彰者とは選択制になっていないことを記録しておきます。
5. 今後の制度を見直す
旅行券制度を継続するのか、旅行招待方式にするのか、別の記念品にするのか、現金支給として課税処理するのかを検討します。
給与課税が必要な場合の経理・源泉処理
表彰一時金を支給する場合、給与課税される金額については、通常の給与と同様に源泉所得税の対象になります。
実務上は、次の対応が必要です。
給与台帳に表彰一時金を反映する
源泉所得税を徴収する
社会保険料、労働保険料の取扱いを確認する
年末調整に反映し、源泉徴収票に含める
法人側では給与または福利厚生費等の処理を検討する
支給名目が「表彰一時金」であっても、所得税上給与に該当する場合には、源泉徴収漏れがないよう注意しましょう。
また、役員に支給する場合には、役員給与の損金算入制限も問題になることがあります。
よくある誤解
永年勤続表彰なら現金を渡しても非課税
誤りです。旅行や観劇への招待、記念品の支給については一定要件で非課税となる場合がありますが、現金や商品券を支給する場合は原則として給与課税されます。
旅行券を返還した人に一時金を支給すると、他の全員も必ず課税される
必ずそうなるわけではありません。旅行券と表彰一時金との選択が可能となっていない場合、既に旅行券を支給し未使用となっている他の表彰者に対しては、課税する必要はないと考えられます。
旅行券を返せば一時金をもらえる制度にしても問題ない
このような制度にすると、旅行券を使用するか、一時金を受け取るかを選択できる状態になります。その場合、他の未使用者にも一時金相当額の給与課税が必要になる可能性があります。
旅行券を渡せば報告書は不要
旅行券は換金性があるため、旅行目的で使用されたことを確認する資料が重要です。旅行期間、旅行先、旅行費用、領収書等を保存しておきましょう。
コロナ禍などで旅行できなかった場合でも必ず課税される
やむを得ない事情により旅行期限を延長する対応が認められる場合があります。ただし、旅行券を旅行目的で使用させる管理や報告義務は維持する必要があります。
まとめ
永年勤続表彰として旅行や観劇へ招待したり、記念品を支給したりする場合、勤続年数や金額、表彰間隔など一定の要件を満たせば、給与として課税しなくてよい取扱いがあります。
一方、現金や商品券を支給する場合には、原則として給与課税の対象になります。
旅行券については、旅行目的で使用されたことを確認できるよう、旅行報告書や領収書の提出、未使用時の返還などの運用が重要です。
旅行券を使用しなかった従業員が会社へ旅行券を返還し、会社がその従業員へ臨時的に表彰一時金を支給する場合、その一時金は現金支給であるため、本人については給与課税が必要です。
ただし、当初から旅行券と表彰一時金を自由に選択できる制度になっていないのであれば、既に旅行券を支給され未使用となっている他の表彰者にまで、一時金相当額の給与課税をする必要はないと考えられます。
反対に、「旅行券を返還すれば表彰一時金を支給する」と規程変更し、事前に周知しているような場合には、旅行券を使用するか一時金を受け取るかを選択できる状態になります。その場合、他の表彰者にも一時金相当額の給与課税が必要になる可能性があります。
永年勤続表彰制度では、旅行券・記念品・現金支給の違いを整理し、旅行券を現金選択制にしないこと、未使用時の取扱いを明確にすること、報告書や領収書を保存することが大切です。
神戸での起業や開業に関するご相談、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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