パワハラの損害賠償金は給与課税される?慰謝料・会社負担・加害者側の税務を税理士が解説
- 安田 亮
- 16 時間前
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こんばんは!代表の安田です。
職場でパワーハラスメントが発生し、被害を受けた従業員に対して会社や加害者が損害賠償金・慰謝料を支払うケースがあります。
このとき、経理担当者や人事担当者が迷いやすいのが、被害者が受け取る損害賠償金に所得税がかかるのかという点です。
会社から従業員へ金銭を支払う場合、通常は給与課税が問題になります。
しかし、パワハラ被害に対する損害賠償金は、通常の給与や賞与とは性質が異なります。
結論からいうと、パワハラにより心身に損害を受けた被害者が、会社や加害者から受け取る損害賠償金・慰謝料は、通常、所得税は非課税と考えられます。
これは、所得税法上、心身に加えられた損害について支払を受ける損害賠償金等が、一定のものを除き非課税とされているためです。
一方で、会社が加害者である従業員に代わって損害賠償金を負担する場合には、被害者側の課税関係とは別に、加害者側で給与課税が問題になることがあります。
本日は、パワハラによる損害賠償金の所得税の取扱い、給与課税されない理由、会社が加害者の賠償金を肩代わりした場合の注意点、実務上の経理・源泉徴収対応について解説します。
パワハラ防止措置は中小企業にも義務化されている
職場のパワーハラスメントについては、労働施策総合推進法の改正により、事業主に防止措置が義務付けられています。
大企業では令和2年6月1日から、中小企業では令和4年4月1日から、職場におけるパワーハラスメント防止措置が義務化されました。
会社には、パワハラに関する方針の明確化、相談窓口の設置、相談後の迅速かつ適切な対応、再発防止策、不利益取扱いの禁止などが求められます。
パワハラが発生すると、被害者の心身の健康に深刻な影響を与えるだけでなく、会社にとっても、損害賠償責任、労務管理上の信用低下、人材流出、職場環境の悪化といった大きなリスクになります。
そして、実際に損害賠償金や慰謝料を支払うことになった場合には、労務対応だけでなく、税務処理も確認する必要があります。
会社から従業員への支払いは原則として給与課税が問題になる
所得税法上、会社が従業員に対して支払う給与、賞与、手当、経済的利益などは、原則として給与所得に該当します。たとえば、次のような支払いは給与課税の対象になります。
基本給
賞与
役職手当
住宅手当
通勤手当のうち非課税限度額を超える部分
会社が従業員の個人的費用を負担した場合の経済的利益
そのため、会社が従業員へ金銭を支払う場合には、まず給与課税の有無を確認する必要があります。
しかし、すべての支払いが給与になるわけではありません。
支払いの名目が会社から従業員への金銭支払いであっても、その実質が「労働の対価」ではなく、「心身に加えられた損害に対する賠償」である場合には、給与とは別の取扱いになります。
パワハラ被害に対する損害賠償金・慰謝料は、まさにこの点が問題になります。
心身に加えられた損害に対する賠償金は非課税
所得税では、心身に加えられた損害について支払を受ける慰謝料や損害賠償金は、原則として非課税とされています。
たとえば、交通事故でけがをした場合に受け取る治療費、慰謝料、休業補償などは、一定のものを除き非課税です。
パワハラによる損害賠償金も、被害者の精神的苦痛や心身への損害を原因として支払われるものであれば、基本的にはこの非課税の考え方に沿って判断します。
つまり、会社が従業員に支払う金銭であっても、その支払いがパワハラによる精神的苦痛や健康被害への慰謝料・損害賠償である場合には、通常、給与所得として課税されません。
源泉徴収の対象にもならないと考えられます。
会社が支払う損害賠償金も通常は給与課税されない
パワハラでは、加害者である上司だけでなく、会社も使用者責任や安全配慮義務違反などを理由に損害賠償責任を負うことがあります。
たとえば、被害者である従業員が、加害者である上司と会社を相手に損害賠償請求を行ない、裁判や和解により、会社が慰謝料を支払うケースです。
この場合、会社が従業員に金銭を支払っているため、一見すると給与課税が問題になりそうです。しかし、その支払いの原因は労務の提供ではなく、パワハラによって被害者の心身に生じた損害です。
したがって、通常は給与所得ではなく、非課税となる損害賠償金として扱われます。
たとえば、次のようなケースです。
被害者がパワハラによる精神的苦痛を理由に慰謝料を受け取る
会社が使用者責任に基づき損害賠償金を支払う
裁判上の和解により会社が解決金を支払う
労働審判や調停で精神的苦痛に対する金銭が支払われる
このような支払いは、実質が慰謝料・損害賠償金であれば、通常は給与課税されません。
加害者が支払う分も非課税になる
パワハラの損害賠償では、会社だけでなく、加害者本人が損害賠償金を支払うこともあります。
たとえば、上司個人に対して100万円、会社に対して50万円の損害賠償金の支払いが命じられるようなケースです。
この場合、被害者が受け取る金銭は、上司から受け取る分も、会社から受け取る分も、心身に加えられた損害に基づく損害賠償金です。
したがって、いずれも所得税は非課税と考えられます。
支払者が会社か個人かによって、被害者側の課税関係が変わるわけではありません。
大切なのは、その金銭の性質が「労働の対価」なのか、「心身に加えられた損害への賠償」なのかです。
名目が「解決金」「和解金」の場合は内容を確認する
実務では、裁判や労働審判、示談交渉の中で、支払名目が「損害賠償金」ではなく、「解決金」「和解金」「見舞金」などとされることがあります。
この場合も、名称だけで課税関係を判断してはいけません。
たとえ「解決金」と記載されていても、その実質がパワハラによる精神的苦痛や心身の損害への補償であれば、非課税となる可能性があります。
一方で、同じ「解決金」という名称でも、未払残業代、未払給与、退職金の上乗せ、解雇予告手当、雇用契約上の対価などが含まれている場合には、その部分は給与所得や退職所得などとして課税対象になる可能性があります。
そのため、和解書や合意書では、支払金額の内訳をできるだけ明確にしておくことが重要です。
慰謝料部分
未払賃金部分
退職金部分
休業補償部分
弁護士費用相当部分
その他の解決金部分
税務上は、支払名目よりも実質が重視されます。
未払給与や退職金の補填部分は課税対象になり得る
パワハラ関連の紛争では、慰謝料だけでなく、未払賃金や退職金、休業中の給与相当額などが一緒に支払われることがあります。
このような場合、すべてを非課税の損害賠償金として処理できるわけではありません。
たとえば、次のような金額は課税対象になる可能性があります。
・未払残業代
・未払給与
・退職金として支払われる金額
・本来支給すべき賞与
・雇用契約上の賃金を補填する金額これらは、名目が和解金であっても、実質的には給与や退職金の支払いです。
そのため、給与所得や退職所得として源泉徴収が必要になる可能性があります。
一方、精神的苦痛に対する慰謝料や心身に加えられた損害への賠償金は、通常、非課税です。
和解金を一括で支払う場合には、どの部分が非課税の損害賠償金で、どの部分が給与・退職金等に該当するのかを整理しておきましょう。
会社が加害者の賠償金を肩代わりする場合は注意
ここまで説明したのは、被害者が損害賠償金を受け取る側の課税関係です。
一方で、会社が加害者である従業員の賠償金を肩代わりする場合には、別の問題が生じます。
たとえば、従業員が業務中に第三者へ損害を与え、本来はその従業員が損害賠償金を支払うべきところ、会社が代わりに支払うケースです。
この場合、加害者である従業員は、自分が負担すべき債務を会社に負担してもらったことになります。そのため、その経済的利益が給与として課税されるかどうかが問題になります。
所得税基本通達では、会社が役員または使用人の行為に基づく損害賠償金等を負担した場合、その行為が業務に関連し、かつ本人に故意または重過失がない場合には、給与等として課税しない取扱いが示されています。
裏を返せば、業務関連性がない場合や、本人に故意または重過失がある場合には、会社が負担した金額が加害者である従業員への給与として課税される可能性があります。
パワハラ加害者分を会社が負担する場合は慎重に判断
パワハラの場合、加害者である上司や従業員の行為について、会社がどこまで負担するかは慎重な判断が必要です。
たとえば、裁判で加害者個人にも損害賠償責任が認められたにもかかわらず、会社が加害者個人の負担分まで全額肩代わりした場合を考えます。
この場合、加害者である従業員は、本来自分が支払うべき損害賠償金を会社に負担してもらったことになります。
そのため、加害者側に給与課税が生じる可能性があります。
特に、パワハラ行為は故意または少なくとも重大な注意義務違反を伴うと評価されることも多く、単純に「業務中の出来事だから会社負担で非課税」と判断するのは危険です。
会社が加害者分を負担する場合には、次の点を確認しましょう。
損害賠償責任の主体は誰か
会社負担分と加害者個人負担分が区分されているか
加害行為に業務関連性があるか
加害者に故意または重過失があるか
会社が負担する合理的理由があるか
加害者に求償するか
求償しない場合の給与課税を検討したか
被害者側では非課税でも、加害者側では給与課税が問題になることがあります。
源泉徴収が必要かどうか
被害者に対して、パワハラによる心身の損害に基づく慰謝料・損害賠償金を支払う場合、通常は給与所得に該当しないため、源泉徴収は不要と考えられます。
一方、和解金の中に未払給与や退職金に該当する部分が含まれている場合には、その部分について源泉徴収が必要になる可能性があります。
また、会社が加害者である従業員の賠償金を肩代わりし、その経済的利益が給与課税される場合には、加害者側の給与として源泉徴収の対象になる可能性があります。
つまり、源泉徴収の要否は、次のように分けて考えます。
被害者への慰謝料・損害賠償金
→ 通常は非課税、源泉徴収不要
被害者への未払給与・賞与相当額
→ 給与所得として源泉徴収が必要
被害者への退職金相当額
→ 退職所得として源泉徴収を検討
加害者の賠償金を会社が肩代わり
→ 加害者への給与課税の有無を検討支払名目だけで処理せず、支払の内容を分解して判断することが大切です。
会社側の損金算入も確認する
会社がパワハラ被害者へ損害賠償金を支払った場合、法人税上、損金算入できるかも問題になります。
会社の業務に関連して発生した損害賠償金であり、会社の損害賠償責任に基づいて支払うものであれば、通常は損金算入が認められる可能性があります。
ただし、役員や従業員個人が本来負担すべき損害賠償金を会社が肩代わりした場合には、会社側では給与、役員給与、寄附金など別の性質で処理すべき可能性があります。
特に役員が加害者である場合、会社が役員個人の賠償責任を肩代わりすると、定期同額給与に該当しない役員給与として損金不算入となるリスクもあります。
会社が損害賠償金を支払う場合には、誰の責任に基づく支払いなのか、会社負担の合理性があるのかを整理しておく必要があります。
和解書・判決書・社内資料を保存する
パワハラによる損害賠償金の税務処理では、支払内容を説明できる資料が重要です。
税務調査で確認された場合、支払名目だけでなく、実際に何に対する支払いなのかを説明する必要があります。保存しておきたい資料は、次のとおりです。
判決書
和解調書
示談書
合意書
労働審判の調書
弁護士からの請求書、意見書
社内調査報告書
相談窓口への申出記録
損害賠償金の内訳資料
支払稟議書
源泉徴収の判断メモ
加害者への求償方針
特に、和解金として一括支払いを行なう場合には、慰謝料部分、未払給与部分、退職金部分などの内訳が分かるようにしておくと、税務処理を説明しやすくなります。
実務上のチェックポイント
パワハラに関連して損害賠償金や和解金を支払う場合、次の点を確認しましょう。
1. 支払先を確認する
被害者本人に支払うのか、加害者に代わって第三者へ支払うのかを確認します。
2. 支払原因を確認する
心身に加えられた損害への賠償なのか、未払給与や退職金の支払いなのかを確認します。
3. 非課税となる損害賠償金か確認する
慰謝料や心身の損害に基づく賠償金であれば、通常は非課税です。
4. 給与・退職金部分が含まれていないか確認する
和解金の中に未払給与や退職金が含まれる場合は、源泉徴収を検討します。
5. 加害者側の給与課税を確認する
会社が加害者個人の賠償金を肩代わりする場合、加害者への給与課税が問題になることがあります。
6. 会社側の損金算入を確認する
会社の責任に基づく支払いか、個人負担分の肩代わりかを整理します。
7. 証拠資料を保存する
判決書、和解書、示談書、支払内訳、源泉徴収判断メモを保存します。
8. 再発防止策も整備する
税務処理だけでなく、相談窓口、社内調査、懲戒処分、再発防止策も記録しておきましょう。
よくある誤解
会社から従業員に支払う金銭はすべて給与になる
誤りです。会社から従業員へ支払う金銭であっても、パワハラによる心身の損害に対する慰謝料・損害賠償金であれば、通常は非課税です。
パワハラ慰謝料は会社が支払うと給与課税される
通常は給与課税されません。支払いの原因が労務提供の対価ではなく、心身に加えられた損害への賠償であるためです。
和解金なら必ず非課税になる
名称だけでは判断できません。和解金の中に未払給与、賞与、退職金などが含まれている場合、その部分は課税対象になる可能性があります。
被害者側で非課税なら、加害者側でも何も問題にならない
被害者が受け取る損害賠償金が非課税であっても、会社が加害者個人の賠償金を肩代わりした場合、加害者側で給与課税が問題になることがあります。
業務中のトラブルなら会社が負担しても加害者に給与課税されない
必ずしもそうではありません。加害行為に業務関連性があり、本人に故意または重過失がない場合に限り、給与課税されない取扱いが考えられます。故意または重過失がある場合は注意が必要です。
まとめ
パワハラによって被害を受けた従業員が、会社や加害者から損害賠償金・慰謝料を受け取る場合、その金銭は通常、心身に加えられた損害に基づくものとして、所得税は非課税と考えられます。
会社から従業員へ支払われる金銭であっても、支払いの実質が労働の対価ではなく、精神的苦痛や健康被害に対する損害賠償であれば、給与所得には該当しません。
そのため、被害者に対して慰謝料・損害賠償金を支払う場合、通常は源泉徴収も不要です。
ただし、和解金や解決金の中に、未払給与、賞与、退職金などが含まれている場合には、その部分は給与所得や退職所得として課税対象になる可能性があります。
また、被害者側では非課税であっても、会社が加害者である従業員の損害賠償金を肩代わりする場合には、加害者側で給与課税が問題になることがあります。
特に、加害行為に業務関連性がない場合や、加害者に故意または重過失がある場合には、会社が負担した金額が加害者への給与として扱われる可能性があります。
パワハラに関する損害賠償金を支払う場合は、被害者側の非課税処理だけでなく、会社側の損金算入、加害者側の給与課税、源泉徴収の要否を整理することが大切です。
和解書や判決書、支払内訳、源泉徴収判断メモを保存し、税務調査でも支払いの性質を説明できるようにしておきましょう。
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