労災で入院した従業員の家族の交通費・宿泊費を会社が負担したら給与課税される?税理士が解説
更新日:13 時間前
おはようございます!代表の安田です。
従業員が業務中や通勤中に事故に遭い、労災として入院治療が必要になることがあります。
このような場合、会社としては、本人の治療や休業補償だけでなく、家族への支援も検討したいところです。
たとえば、遠方の工場や事業所で労災が発生し、従業員が現地の病院に入院した場合、配偶者、子、父母などの家族が付添看護や身の回りの世話のために現地へ向かうことがあります。
その際、家族の交通費や宿泊費を会社が負担した場合、税務上は従業員に対する給与として課税されるのでしょうか。
結論からいうと、労災で入院治療が必要となった従業員について、家族が付添看護等を行うために現地へ赴く際の交通費・宿泊費を、会社が一定のルールに基づき実費相当額として負担する場合には、従業員に対する給与として課税する必要はないと考えられます。
ただし、どのような費用でも無条件に非課税になるわけではありません。
対象者、支給目的、支給限度額、領収書等による精算、保険給付や損害賠償との重複排除など、制度設計と運用が重要です。
本日は、労災発生時に従業員家族へ支給する交通費・宿泊費について、源泉所得税の取扱い、非課税と考えられる理由、社内規程の整備ポイントを解説します。
労災発生時の家族支援とは
労災発生時の家族支援とは、従業員が業務上災害や通勤災害により負傷し、入院治療が必要になった場合に、会社が従業員やその家族を支援する制度です。
たとえば、次のような支援が考えられます。
家族が病院へ向かうための往復交通費
付添看護等のための宿泊費
長期滞在時の宿泊施設の手配
病院や会社との連絡支援
見舞金
休業中の生活支援
労災保険手続のサポート
このうち、交通費や宿泊費は、現地へ赴く家族に実際に発生する費用です。
会社としては、労災発生時の経済的負担を軽減し、従業員本人や家族が治療・看護に専念できるように支援する目的があります。
一方で、会社が従業員やその家族に金銭を支給する以上、所得税の給与課税が問題になります。
会社が従業員や家族の費用を負担すると給与課税が問題になる
所得税では、会社が従業員に金銭や経済的利益を与える場合、原則として給与課税の対象になります。
たとえば、会社が従業員の私的な旅行代や宿泊費を負担した場合、従業員が経済的利益を受けたものとして給与課税される可能性があります。
しかし、会社が負担する費用のすべてが給与になるわけではありません。
会社の業務遂行上必要な費用や、会社が本来負担すべき性質の費用を、従業員や家族に実費弁償するような場合には、従業員に課税すべき所得が生じていないと考えられることがあります。
たとえば、通常必要な出張旅費、業務上必要な交際費の実費精算、一定の健康診断費用などは、会社の業務や責務に関連する費用として、給与課税しない取扱いが認められることがあります。
労災発生時の家族の交通費・宿泊費も、この考え方に近いものとして整理できます。
労災時の付添看護等は会社の責務と関係する
労災の場合、会社には労働者の療養に関する責務があります。
労働基準法では、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかった場合、使用者は必要な療養を行い、または必要な療養の費用を負担しなければならないとされています。
また、療養の範囲には、診察、薬剤や治療材料、処置・手術、入院、看護、移送などが含まれます。
つまり、労災で従業員が入院治療を必要とする場合、会社がその療養に関連する費用について一定の責務を負うことになります。家族による付添看護等のための交通費・宿泊費は、従業員本人の療養そのものではありません。
しかし、入院に伴う世話や看護に関連する支援として、会社が一定の範囲で負担することは、会社の労災対応・従業員支援の一環と見ることができます。
そのため、会社が合理的な基準に基づいて実費相当額を支給するのであれば、従業員に対する給与として課税しない取扱いが考えられます。
給与課税されないと考えられる理由
労災発生時に、従業員家族が付添看護等を行うため現地へ赴く交通費・宿泊費を会社が負担する場合、給与課税されないと考えられる主な理由は次のとおりです。
まず、その支給は従業員本人の労働の対価ではありません。
通常の給与や賞与のように、勤務成績や労働時間に応じて支給されるものではなく、労災発生という特殊な事情に基づき、付添看護等に必要な費用を補填するものです。
次に、会社が労災発生時の療養・看護に関連する支援として負担する費用と考えられます。
労災による入院治療が必要な場面で、家族の付添看護等を支援することは、会社の従業員保護や安全配慮、労災対応の一環と整理しやすいものです。
さらに、交通費や宿泊費が実費相当額であり、領収書等に基づいて精算される場合、従業員や家族に課税すべき利益が残らないと考えられます。
収入と支出が対応しており、実質的に費用弁償の性格を持つためです。
支給対象者は限定しておく
労災発生時の家族旅費を非課税で処理するためには、支給対象者を明確にしておくことが重要です。
たとえば、対象者を配偶者、子、父母とするなどが考えられます。
これは、付添看護等を行なう家族として合理的な範囲といえます。
一方で、対象者を広げすぎると、会社の責務や療養支援との関係が薄くなり、私的な見舞いや親族訪問の費用と見られる可能性があります。
たとえば、親族全員、友人、知人、恋人などまで広く対象にすると、給与課税や交際費的な性格が問題になる可能性があります。
制度としては、配偶者、子、父母、必要に応じて同居親族や主たる介護者など、付添看護等の必要性を説明できる範囲に限定することが望ましいでしょう。
支給目的は「付添看護等」に限定する
非課税処理を行なううえで、支給目的も重要です。
目的は、労災で入院治療が必要となった従業員について、家族が付添看護等を行うため現地に赴く際の経済的負担を軽減することです。
単なる見舞い、慰安、観光、家族旅行の補助ではありません。
したがって、社内規程や細則には、次のような目的を明確に記載しておくとよいでしょう。
「労働災害により入院治療が必要となった従業員について、その配偶者、子又は父母が付添看護等を行う際の経済的支出の負担軽減を目的とする。」
このように書いておくことで、会社が従業員家族に私的な利益を与えるものではなく、労災対応の一環として必要な費用を負担する制度であることを説明しやすくなります。
交通費は旅費規程に基づく実費精算が基本
交通費については、会社の旅費規程に基づいて支給することが望ましいです。
たとえば、家族の居住地から入院先または現地までの往復交通費を対象とし、最も経済的かつ合理的な経路・交通手段による実費を支給する形です。
具体的には、次のような費用が考えられます。
鉄道運賃
新幹線料金
航空運賃
バス代
タクシー代
空港や駅までの交通費
ただし、過度に高額な座席、合理性のない遠回り、観光を兼ねた移動、家族以外の同行者分などは、非課税処理が難しくなる可能性があります。
会社としては、旅費規程に従い、合理的な交通費のみを支給する運用にしましょう。
宿泊費は上限を設ける
宿泊費についても、実費精算を基本としつつ、上限を設けておくことが重要です。
このように具体的な上限を設けておけば、社会通念上相当な範囲の支給であることを説明しやすくなります。
宿泊費については、次の点を確認しましょう。
入院先や現地に近い宿泊施設か
付添看護等に必要な期間か
宿泊費が社会通念上相当か
領収書等で実費確認できるか
高級ホテルや観光目的の宿泊ではないか
長期滞在が見込まれる場合には、会社が宿泊施設を手配する方法もあります。
その場合も、必要性と相当性を説明できるようにしておくことが大切です。
領収書等の提出を受ける
労災発生時の家族交通費・宿泊費を給与課税しないためには、領収書等の提出を受けて実費精算することが非常に重要です。
領収書等がないまま定額で支給すると、実際に費用が発生したかどうか確認できません。
その場合、費用弁償ではなく、見舞金や手当のように見られる可能性があります。
保存したい資料は次のとおりです。
交通費の領収書
航空券や乗車券の控え
経路や移動日が分かる資料
宿泊費の領収書
宿泊日数が分かる明細
病院名や入院先が分かる資料
付添看護等の必要性が分かる申請書
会社の承認記録
振込記録
支給額と実際の支出額が対応していることを説明できれば、課税すべき所得が生じていないという整理がしやすくなります。
支給回数・人数に制限を設ける
制度の濫用を防ぐためには、支給回数や人数に制限を設けることも有効です。
往復交通費について、2名につき月2回を限度とするなどが考えられます。
また、宿泊費についても、2名につき1人1泊1万円を限度としています。
このような制限があれば、支援の範囲が過度に広がることを防げます。
税務上も、会社が通常必要な範囲で費用を負担していると説明しやすくなります。
一方、人数や回数に制限がなく、親族が何度でも自由に訪問できる制度になっていると、療養支援の範囲を超えた福利厚生や私的支援と見られる可能性があります。
制度設計では、必要性と相当性を意識しましょう。
保険給付・損害賠償との重複支給を避ける
労災や事故に関連して、保険給付、損害賠償、加害者側からの補償などが行われることがあります。会社が交通費・宿泊費を負担する場合には、これらと重複して支給しないようにする必要があります。
交通費及び宿泊費について、保険給付または損害賠償等による給付がある場合は、会社から重複して支給しないとすることが考えられます。
重複支給があると、実費弁償ではなく、従業員や家族に経済的利益が残る可能性があります。
その場合、給与課税や雑所得の問題が生じることも考えられます。
会社としては、申請時に他の給付の有無を確認し、重複支給を避ける運用にしましょう。
従業員に支給する場合と家族に支給する場合
交通費・宿泊費を誰に支給するかも確認しておきたいポイントです。
実務上は、従業員本人に支給する場合と、実際に付添看護等を行なった家族に直接支給する場合があります。
従業員本人に支給する場合でも、その支給が家族の付添看護等に必要な実費弁償であり、規程に基づき領収書等で精算されているのであれば、給与課税しない取扱いが考えられます。
一方、家族に直接支給する場合、会社と家族の間には雇用関係がありません。
そのため、少なくとも会社が家族に給与として源泉徴収する関係にはなりません。
ただし、家族に直接支払う場合でも、支給内容が実費弁償であることを説明できるよう、領収書や申請書を保存しておくことが重要です。
見舞金とは区分する
労災発生時には、会社が従業員や家族に見舞金を支給することがあります。
見舞金と、付添看護等のための交通費・宿泊費は、税務上区分して考えるべきです。
交通費・宿泊費は、実際に発生した費用を領収書等に基づいて精算するものです。
一方、見舞金は、従業員や家族への慰問・生活支援として一定額を支給するものです。
見舞金については、社会通念上相当な金額であれば課税しない取扱いが考えられる場合もありますが、金額が高額であったり、規程がなかったり、特定の者だけに恣意的に支給されたりする場合には課税関係が問題になります。
実務では、見舞金規程と家族旅費支援規程を分け、支給目的、支給基準、証憑管理を区分しておきましょう。
社内規程に入れておきたい項目
労災発生時に従業員家族の交通費・宿泊費を会社負担する場合、社内規程や細則を整備しておくことが重要です。
規程には、次の項目を入れておくとよいでしょう。
制度の目的
対象となる労災の範囲
対象となる従業員
対象となる家族の範囲
付添看護等の定義
支給対象となる交通費
支給対象となる宿泊費
支給人数の上限
支給回数の上限
宿泊費の上限額
長期滞在時の宿泊施設手配
領収書等の提出義務
保険給付や損害賠償との重複排除
申請、承認手続
不正受給時の取扱い
規程があることで、会社が恣意的に支給しているのではなく、労災発生時の支援制度として合理的に運用していることを説明できます。
経理処理上の注意点
会社側の経理処理では、支給内容に応じて科目を整理します。
労災対応に係る従業員家族の交通費・宿泊費であれば、福利厚生費、旅費交通費、労災関連費用などとして処理することが考えられます。
ただし、重要なのは勘定科目名よりも、支出の内容と証憑です。
経理処理では、次の点を確認しましょう。
労災に関連する支出であること
付添看護等のための支出であること
対象家族が規程の範囲内であること
交通費、宿泊費の領収書があること
支給限度額を超えていないこと
保険給付や損害賠償と重複していないこと
給与計算に誤って含めていないこと
見舞金と区分していること
給与課税しない処理をする場合には、税務調査で説明できるよう、申請書・承認書・領収書をセットで保存しておきましょう。
給与課税される可能性があるケース
労災発生時の家族交通費・宿泊費であっても、次のようなケースでは給与課税のリスクがあります。
労災や入院治療と関係のない支出
付添看護等の必要性がない単なる見舞い旅行
対象家族の範囲を超える者への支給
領収書等がない定額支給
実際の費用を超える支給
保険給付や損害賠償と重複している支給
高額な宿泊施設や合理性のない交通手段
特定の役員や従業員だけに恣意的に支給するもの
規程がなく、その都度会社判断で支給しているもの
このような場合、実費弁償ではなく、従業員への経済的利益と見られる可能性があります。
非課税処理をするためには、制度の目的と支給内容を明確にしておくことが大切です。
税務調査で確認されやすいポイント
税務調査では、労災時の家族交通費・宿泊費について、次のような点が確認される可能性があります。
労災発生の事実
入院治療の有無
家族の付添看護等の必要性
支給対象者の範囲
支給規程の有無
支給額の計算方法
交通費、宿泊費の領収書
宿泊費の上限額
支給回数、人数の制限
保険給付や損害賠償との重複有無
給与課税しなかった理由
見舞金との区分
特に、領収書等のない支給や、規程を超える支給は説明が難しくなります。
制度導入時から、税務調査を意識した資料保存を行ないましょう。
実務上のチェックポイント
労災発生時に従業員家族の交通費・宿泊費を会社が負担する場合は、次の点を確認しましょう。
労災により入院治療が必要となったケースか
付添看護等のために現地へ赴く家族の費用か
対象家族は配偶者、子、父母など合理的範囲か
交通費は旅費規程に基づくものか
宿泊費は社会通念上相当な上限額内か
支給人数や回数に制限があるか
領収書等に基づく実費精算か
保険給付や損害賠償と重複していないか
見舞金と区分しているか・社内規程や細則に基づいて支給しているか
給与計算に含めない理由を説明できるか
これらの条件を満たしていれば、従業員に対する給与として課税しない整理がしやすくなります。
まとめ
労災により従業員が入院治療を必要とする場合、家族が付添看護等のために現地へ赴くことがあります。
会社がその家族の交通費・宿泊費を負担した場合、一定の条件を満たせば、従業員に対する給与として課税する必要はないと考えられます。
ポイントは、その支給が労災発生時の付添看護等に必要な実費弁償であり、従業員本人への労働の対価や私的利益の供与ではないことです。
労働基準法では、業務上負傷・疾病について、使用者が必要な療養を行ない、または療養費用を負担しなければならないとされています。
また、療養の範囲には、入院やその療養に伴う世話その他の看護も含まれます。
このような会社の責務を踏まえると、労災で入院した従業員について、家族の付添看護等のための交通費・宿泊費を会社が合理的範囲で負担することは、会社の労災対応・従業員支援の一環と整理できます。
ただし、非課税処理をするには、制度設計が重要です。
対象家族を配偶者、子、父母などに限定し、交通費は旅費規程に基づく合理的な実費、宿泊費は1人1泊1万円など社会通念上相当な上限額を設け、領収書等の提出を受けて精算することが望ましいです。
また、保険給付や損害賠償等による給付がある場合には、会社から重複して支給しないようにする必要があります。
一方、労災や付添看護等と関係のない支出、領収書のない定額支給、実費を超える支給、対象家族以外への支給、高額な宿泊費などは、給与課税のリスクがあります。
会社が労災発生時の家族支援制度を導入する場合は、就業規則や細則を整備し、支給目的、対象者、支給範囲、上限額、証憑保存、重複支給の排除を明確にしておきましょう。
労災時の家族旅費や見舞金の税務処理で迷う場合は、税理士や社会保険労務士へ相談することをおすすめします。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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