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東証の少数株主保護制度見直しとは?取締役選任議案の賛成割合開示と実務対応を解説

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 54 分前
  • 読了時間: 13分

おはようございます!代表の安田です。


東京証券取引所は、少数株主保護を強化するため、上場制度の見直しを公表しました。


今回の改正では、親会社や一定の議決権を持つ大株主が存在する上場会社について、株主総会における取締役選任議案の賛否状況を、少数株主に限定して開示することが求められます。


また、少数株主の賛成割合が50%を超えなかった取締役選任議案がある場合には、少数株主の反対理由を把握するための取締役会の対応方針や、その後の実施状況についても開示が必要になります。


親会社を有する上場子会社や、特定の大株主の影響が強い上場会社では、従来以上に少数株主の意思を意識したガバナンス運営が求められることになります。


本日は、東証による少数株主保護制度の見直しについて、対象会社、開示内容、適用時期、実務上の注意点を公認会計士の視点から解説します。


少数株主保護が重視される背景

上場会社に親会社や大株主が存在する場合、経営判断が必ずしもすべての株主にとって最善になるとは限りません。


たとえば、親会社と上場子会社との間で取引を行う場合、親会社グループ全体にとっては合理的でも、上場子会社の少数株主にとって不利益となる可能性があります。


具体的には、次のような場面が問題になりやすいと考えられます。

  • 親会社との取引条件が上場子会社に不利である

  • 親会社の意向が取締役の選任に強く反映される

  • グループ内再編で少数株主の利益が十分に考慮されない

  • 親会社と上場子会社の間で利益相反が生じる

  • 上場子会社の独立性が十分に確保されていない


このような利益相反リスクに対応するため、上場会社には独立社外取締役の選任、特別委員会の設置、関連当事者取引の管理などが求められてきました。


今回の制度見直しは、取締役選任における少数株主の意思を可視化し、少数株主を意識した経営をさらに促すものといえます。


制度見直しの対象となる会社

今回の改正の対象となるのは、株主総会の基準日時点で、一定の支配株主や大株主を有する上場会社です。主な対象は、次のような会社です。

  • 親会社を有する上場会社

  • 議決権の40%以上を保有するその他の関係会社を有する上場会社

  • これらに準じる支配関係がある上場会社


典型的には、上場子会社が対象になります。

また、親会社には該当しなくても、特定の会社が40%以上の議決権を保有している場合には、制度の対象となる可能性があります。


対象判定は、株主総会の基準日時点の株主構成をもとに行われます。そのため、期末後に大株主の持株比率が変動した場合や、親会社との資本関係が変更された場合には、対象となるかどうかを改めて確認する必要があります。


取締役選任議案の少数株主賛成割合を開示

対象会社は、株主総会における取締役選任議案について、少数株主による議決権行使の状況を開示する必要があります。


対象となるのは、会社が提案した取締役選任議案です。

具体的には、株主総会後、遅滞なく次の情報を開示することが求められます。

  • 少数株主による賛成の議決権数

  • 少数株主による反対の議決権数

  • 少数株主による棄権の議決権数

  • 少数株主による賛成割合


これにより、議案全体としては可決されていても、親会社や大株主の票を除いた場合に、少数株主からどの程度支持を得ていたかが明らかになります。


従来の株主総会における議決権行使結果では、全株主を合計した賛成割合が中心でした。そのため、親会社が過半数の議決権を持つ場合には、少数株主の多くが反対していても、全体としては高い賛成率で可決されることがあります。


今回の改正により、こうした状況が数値として見えるようになります。


「遅滞なく」の意味

当初の制度要綱では、株主総会後「速やかに」開示するとの表現が用いられていました。

しかし、最終的な改正では、「遅滞なく」開示する表現に変更されています。


これは、株主総会の議決権行使結果を開示する臨時報告書の実務と足並みをそろえるためです。もっとも、「遅滞なく」とされたからといって、開示準備を後回しにできるわけではありません。


株主総会後に少数株主の票を集計し、賛成・反対・棄権を区分し、賛成割合を計算したうえで開示する必要があります。


そのため、株主名簿管理人、証券代行会社、法務部門、IR部門などとの事前調整が重要になります。


少数株主の賛成が50%以下だった場合

少数株主による賛成割合が50%を超えなかった取締役選任議案がある場合には、追加の対応が必要です。


対象会社は、少数株主が反対した理由を把握するため、取締役会としてどのような対応を行なうか、その方針を開示しなければなりません。考えられる対応には、次のようなものがあります。

  • 機関投資家へのヒアリング

  • 議決権行使助言会社のレポート分析

  • 株主との個別面談

  • IRミーティングでの意見聴取

  • 取締役候補者の適格性に関する再検証

  • 独立性や在任期間に関する確認

  • 取締役会の構成見直し

  • スキル・マトリックスの再検討


単に「反対理由を確認する」と記載するだけではなく、誰が、どのような方法で、いつまでに対応するのかを具体的に整理することが望まれます。


6カ月以内に実施状況も開示

少数株主の反対理由を把握するための対応方針を開示した場合、その後の対応状況についても開示が必要です。


具体的には、株主総会後6カ月以内に、取締役会における対応方針の実施状況などを開示します。たとえば、次のような内容を開示することが考えられます。

  • 株主へのヒアリングを実施した件数

  • 反対理由として把握した主な意見

  • 取締役候補者に対する懸念事項

  • 取締役会で検討した内容

  • 次回の取締役選任に向けた改善策

  • ガバナンス体制の見直し状況

  • 独立社外取締役の構成に関する検討状況


この制度は、開示だけを目的とするものではありません。

少数株主の意見を把握し、その内容を取締役会で検討し、必要な改善につなげることが求められています。


少数株主の範囲をどう把握するか

実務上の重要な論点は、誰を少数株主として集計するかです。


親会社や40%以上の議決権を持つその他の関係会社などを除外し、それ以外の株主による議決権行使を集計する必要があります。


そのためには、基準日時点の株主名簿や大株主情報をもとに、集計対象から除く株主を明確にしておかなければなりません。


また、親会社と関係のある株主や、共同保有者、実質的な支配関係にある株主をどのように取り扱うかについて、慎重な確認が必要になる場合があります。


株主名簿管理人や証券代行会社に集計を依頼する場合には、制度上の定義や除外対象を事前に共有しておく必要があります。


取締役候補者ごとの集計が重要

取締役選任議案は、候補者ごとに賛否が分かれることがあります。


たとえば、ある候補者は少数株主から高い支持を得ていても、別の候補者は独立性、在任期間、兼任状況、スキル、業績責任などを理由に反対票が多くなることがあります。


そのため、少数株主の賛成割合は取締役候補者ごとに確認することが重要です。

特に、次のような候補者は反対票が集まりやすい可能性があります。

  • 親会社出身の取締役

  • 独立性に疑義がある社外取締役

  • 在任期間が長期化している社外取締役

  • 多数の上場会社役員を兼任している取締役

  • 不祥事発生時に在任していた取締役

  • 業績不振が続く中で再任される経営陣

  • 政策保有株式や資本効率への対応が不十分とみられる取締役


会社は、株主総会の結果を受けて初めて対応するのではなく、事前に候補者ごとの反対リスクを分析しておくことが望まれます。


取締役選任プロセスへの影響

今回の制度見直しにより、取締役候補者の選定プロセスも変わる可能性があります。


これまでは、親会社の賛成が確実であれば、会社提案の取締役選任議案が否決される可能性は低いケースもありました。

しかし、今後は議案が可決されたとしても、少数株主の賛成割合が公表されます。

少数株主の支持が低い取締役が選任された場合、その事実が市場に広く開示されることになります。


そのため、指名委員会や取締役会では、候補者について次の点をより丁寧に検討する必要があります。

  • 上場会社として必要な専門性を有しているか

  • 親会社から十分に独立しているか

  • 少数株主の利益を適切に考慮できるか

  • 取締役会の多様性に貢献するか

  • 過去の経営成績や監督責任に問題がないか

  • 投資家に選任理由を説明できるか


取締役候補者の選定理由や期待する役割について、招集通知や株主総会参考書類で分かりやすく説明することも重要になります。


親子上場会社への影響

今回の制度見直しで最も影響を受けやすいのは、親子上場を行なっている会社です。


親会社が上場子会社の議決権の過半数を保有している場合、取締役選任議案は親会社の賛成によって可決される可能性が高くなります。


一方、少数株主が親会社出身の取締役や、親会社との利益相反管理に不満を持っている場合、少数株主に限定した賛成割合は低くなる可能性があります。


この場合、議案自体は可決されても、少数株主の支持が得られていないことが明確になります。親子上場会社では、次の事項を改めて確認する必要があります。

  • 独立社外取締役の人数と独立性

  • 特別委員会の構成と権限

  • 親会社との取引条件の公正性

  • 上場子会社独自の経営判断の確保

  • 親会社出身役員の選任理由

  • 少数株主利益への配慮に関する開示

  • 親会社との利益相反管理方針


少数株主賛成割合の開示は、親子上場の合理性や上場子会社の独立性を市場が評価する材料の一つになると考えられます。


IR・株主対話の重要性が高まる

少数株主から十分な支持を得るためには、株主総会直前の説明だけでは不十分です。

平時から機関投資家や少数株主と対話し、会社のガバナンス方針や取締役会構成について理解を得る必要があります。


特に、次のようなテーマは反対票につながりやすいため、丁寧な説明が求められます。

  • 親会社との利益相反

  • 独立社外取締役の独立性

  • 取締役会の実効性

  • 役員報酬

  • 政策保有株式

  • 資本コストや株価を意識した経営

  • M&Aや事業ポートフォリオ

  • 不祥事への対応

  • サステナビリティ

  • 取締役会の多様性


会社は、議決権行使結果だけでなく、投資家との対話内容、議決権行使助言会社の方針、他社事例などを継続的に確認する必要があります。


適用時期

今回の改正は、2026年12月1日以後に終了する事業年度に係る定時株主総会の日から適用されます。たとえば、3月決算会社の場合、2027年3月期に係る定時株主総会から対象となることが考えられます。


対象会社は、適用直前になってから準備するのではなく、早い段階で株主総会実務、集計システム、開示体制を見直しておく必要があります。


企業が準備すべき実務対応

対象となる可能性がある上場会社は、次のような準備を進めるとよいでしょう。


  • 対象会社に該当するか確認する

まず、基準日時点の株主構成をもとに、親会社や40%以上の議決権を有するその他の関係会社が存在するかを確認します。

資本関係が複雑な場合には、形式的な持株比率だけでなく、実質的な支配関係も含めて検討する必要があります。


  • 少数株主の集計方法を決める

株主名簿管理人や証券代行会社と協議し、少数株主の賛成、反対、棄権をどのように集計するかを決めます。

候補者別に集計できるか、開示に必要なデータがいつ入手できるかも確認しておくことが重要です。


  • 開示スケジュールを整備する

株主総会後、遅滞なく開示できるよう、担当部署、確認者、取締役会への報告、適時開示の手順を整理します。

臨時報告書の提出や議決権行使結果の開示とあわせて対応することで、実務を効率化できる可能性があります。


  • 50%以下の場合の対応方針を準備する

少数株主の賛成割合が50%を超えなかった場合に備え、あらかじめ対応方針の基本形を検討しておくことが望まれます。

たとえば、IR部門による株主ヒアリング、指名委員会での再検証、取締役会での報告など、社内手続を決めておくとスムーズです。


  • 6カ月後のフォローアップを管理する

対応方針を開示した場合には、6カ月以内の実施状況開示が必要です。

開示後に対応が止まらないよう、進捗管理の責任部署や取締役会への報告時期を明確にしておく必要があります。


監査役・独立社外取締役にも関係するテーマ

今回の制度は直接的には取締役選任議案の開示に関するものですが、監査役や独立社外取締役にも重要なテーマです。


少数株主の賛成割合が低かった場合、その原因が取締役会の構成、利益相反管理、指名プロセスなどにある可能性があります。


独立社外取締役や監査役には、経営陣や親会社から独立した立場で、少数株主の利益が適切に考慮されているかを確認することが期待されます。


特に、指名委員会、特別委員会、ガバナンス委員会などを設置している会社では、今回の開示結果を委員会活動に反映することが重要です。


公認会計士の視点から見たポイント

公認会計士の視点から見ると、今回の制度見直しは、単なる株主総会結果の追加開示ではありません。


取締役会の実効性、利益相反管理、親会社からの独立性を、市場が評価するための新たな情報開示といえます。


特に重要なのは、次の3点です。

  • 少数株主の支持を定量的に把握すること

これまで感覚的に把握していた少数株主の評価が、候補者ごとの賛成割合として示されます。会社は、この数値をガバナンス改善のKPIの一つとして活用することが考えられます。


  • 可決されたかどうかだけで判断しないこと

親会社の賛成によって議案が可決されても、少数株主の賛成が低ければ、取締役選任プロセスに課題がある可能性があります。

取締役会は、法的に選任されたという事実だけでなく、資本市場からどの程度信任を得ているかを意識する必要があります。


  • 開示後の改善行動が重要であること

反対理由の把握方針や実施状況の開示が求められるため、形式的な説明だけでは不十分です。株主から得た意見を取締役会で検討し、候補者選定、取締役会構成、情報開示などの改善につなげることが重要です。


まとめ

東京証券取引所による少数株主保護に関する上場制度の見直しでは、親会社や一定の大株主を有する上場会社に対し、取締役選任議案における少数株主の賛否状況を開示することが求められます。


少数株主による賛成割合が50%を超えなかった議案がある場合には、反対理由を把握するための取締役会の対応方針を開示し、さらに株主総会後6カ月以内に実施状況等を開示する必要があります。


今回の改正により、議案が可決されたかどうかだけでなく、少数株主からどの程度支持を得たかが重要になります。


対象会社は、次の事項を早めに確認することが大切です。

  • 対象会社に該当するか

  • 少数株主の集計方法

  • 株主総会後の開示スケジュール

  • 賛成割合が50%以下の場合の対応

  • 6カ月以内のフォローアップ

  • 取締役候補者の選定・説明プロセス

  • 親会社との利益相反管理


今回の制度見直しを単なる開示負担の増加と捉えるのではなく、少数株主との対話や取締役会の実効性を見直す機会として活用することが重要です。


神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!

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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。

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