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有価証券報告書と事業報告の「一本化」とは?選択しない企業への影響も解説

執筆者の写真: 安田亮
安田亮
8月21日
読了時間: 12分

更新日:9月2日

こんばんは!代表の安田です。


上場会社の開示実務に関する重要な制度改正として、会社法上の事業報告等と、金融商品取引法上の有価証券報告書を「一本化」する案が議論されています。


現在、上場会社は、定時株主総会に向けて事業報告や計算書類などを作成する一方、金融商品取引法に基づき有価証券報告書も作成しています。


両者には、事業内容、役員、ガバナンスなど重複する情報が多く含まれています。このため、開示書類を一本化できれば、企業の作成負担を軽減し、株主や投資家にとっても情報を確認しやすくなることが期待されています。


一方、すべての上場会社が一本化を選択するのか、それとも企業ごとの任意選択とするのかについては、意見が分かれています。


また、「一本化を選択しない会社にも、新たな開示実務の負担が生じるのか」という点も、企業にとって気になるところです。


2026年7月時点の検討状況では、一本化を選択しない会社は、原則として従来どおり事業報告等と有価証券報告書を別々に作成し、実務への影響は限定的となる方向が示されています。もっとも、開示項目の整理・スリム化が行なわれれば、一本化を選択しない会社にも負担軽減の効果が及ぶ可能性があります。


本日は、有価証券報告書と事業報告等の一本化案の概要、一本化を選択しない場合の影響、企業が検討しておきたい実務上のポイントを公認会計士の視点から解説します。


有価証券報告書と事業報告等の違い

まず、有価証券報告書と事業報告等の位置付けを整理します。

有価証券報告書は、金融商品取引法に基づく開示書類です。主として投資家の投資判断に必要な情報を提供する目的で作成されます。


主な記載内容は、次のとおりです。

  • 企業の概況

  • 事業の内容

  • 経営方針や経営環境

  • 事業等のリスク

  • サステナビリティ情報

  • 従業員の状況

  • コーポレート・ガバナンスの状況

  • 連結財務諸表・個別財務諸表

  • 監査報告書


一方、事業報告や計算書類は会社法に基づいて作成され、主として株主総会における報告や議決権行使のために株主へ提供されます。


両者は根拠となる法律や利用目的が異なりますが、会社の事業状況、役員、ガバナンス、財務情報などについて重複する記載があります。


そのため、上場会社では、似た内容を複数の書類に記載し、それぞれの内容に矛盾がないかを確認する作業が必要になっています。


有価証券報告書の「一本化」とは

法制審議会で検討されている一本化案は、上場会社が一定の要件を満たした有価証券報告書を株主総会前に提出することで、会社法上の事業報告等の作成を不要とする仕組みです。


検討案では、上場会社が次の日までに、事業報告等に必要な事項を含む有価証券報告書を提出することが想定されています。

  • 株主総会の日の3週間前の日

  • 招集通知を発した日


このいずれか早い日が、電子提供措置の開始日となります。

一本化を選択する会社は、有価証券報告書に事業報告等として必要な情報を追加し、それを株主総会前に提出します。


その代わり、従来のように事業報告等を別途作成する必要がなくなるという制度設計です。


一本化のメリット

一本化によって期待される主なメリットは、企業の開示負担の軽減です。

上場会社では、決算後の短期間に、次のような書類を作成しています。

  • 決算短信

  • 株主総会招集通知

  • 株主総会参考書類

  • 事業報告

  • 計算書類・連結計算書類

  • 有価証券報告書

  • コーポレート・ガバナンス報告書

  • 決算説明資料


これらの書類には重複する情報が多く、経理、法務、総務、IR、サステナビリティなど複数の部門が内容を確認しなければなりません。


有価証券報告書と事業報告等を一本化できれば、重複する情報の作成・レビューを減らせる可能性があります。


また、株主や投資家にとっても、企業情報が一つの書類に整理されれば、複数の開示書類を照合する負担が軽減されます。


一本化は強制適用か任意適用か

制度設計をめぐっては、すべての上場会社に一本化を義務付けるべきか、企業が任意に選択できるようにすべきかという論点があります。


日本公認会計士協会は、企業間の情報の比較可能性を確保する観点から、段階的な導入を認めつつ、最終的にはすべての上場会社へ適用することが望ましいとの意見を示しています。

一方、企業側からは、一本化を選択するかどうかは、各社の判断に委ねるべきとの意見が出ています。


一本化を選択すると、有価証券報告書の提出を株主総会前へ大幅に前倒しする必要があります。


会社によっては、決算スケジュール、監査日程、取締役会の日程、サステナビリティ情報の収集状況などから、株主総会の3週間前までに有価証券報告書を完成させることが難しい場合があります。


このため、すべての企業に一律の対応を求めるのではなく、各社の状況に応じて選択できる制度を望む声が出ています。


一本化を選択しない企業はどうなるのか

一本化が任意制度となった場合、一本化を選択しない上場会社の実務がどのように変わるのかが重要です。


2026年7月時点の検討状況では、一本化を選択しない会社にまで、事業報告等の内容をすべて含む有価証券報告書の作成・提出を求めることは想定されていないとされています。


したがって、一本化を選択しない会社は、原則として従来どおり次の2種類の書類を作成することになります。

  1. 会社法に基づく事業報告等

  2. 金融商品取引法に基づく有価証券報告書


有価証券報告書を株主総会の3週間前までに提出する必要もなく、従来の提出期限を前提に実務を行なうことになると考えられます。


この方向で制度化されれば、一本化を選択しない会社にとって、開示スケジュールや作成手続に直ちに大きな変更が生じる可能性は低いでしょう。


一本化を選択しなくても恩恵を受ける可能性

もっとも、一本化を選択しない会社にまったく影響がないとは限りません。


一本化制度を整備する過程では、有価証券報告書と事業報告等の開示項目を比較し、どの情報が本当に必要なのかが精査されます。


事業報告等に記載されている事項のうち、現在の投資家や株主にとって有用性が低いものや、ほかの開示書類と重複するものについては、開示を不要とすることも検討されます。


仮に、一部の開示項目が不要と判断され、会社法上の事業報告等から削除される場合には、一本化を選択したかどうかにかかわらず、すべての上場会社でその項目の記載が不要となる可能性があります。


つまり、一本化を選択しない企業でも、事業報告等の開示項目がスリム化されれば、作成・確認の負担が軽減される可能性があります。


「比較可能性」は維持されるのか

一本化を一部の企業だけが選択すると、企業間の開示内容を比較しにくくなるのではないかという懸念があります。


たとえば、A社は一本化した有価証券報告書を作成し、B社は従来どおり事業報告と有価証券報告書を別々に作成した場合、書類の形式や掲載場所が異なります。


この点については、一本化を選択する企業が追加する情報を共通の開示府令によって定めれば、一本化企業同士の比較可能性は一定程度確保できると考えられます。


一方、一本化を選択しない企業については、従来の開示府令に基づいて有価証券報告書を作成し、会社法に基づいて事業報告等を作成します。


したがって、情報の掲載先は異なっても、必要な情報自体が失われるわけではありません。

企業間比較を重視するのであれば、形式的に書類を一つにすることだけでなく、用語、算定基準、対象期間、記載内容を統一することが重要です。


一本化を選択する企業に求められる対応

一本化を選択する場合、単に事業報告等を有価証券報告書へ貼り付ければよいわけではありません。


株主総会前に有価証券報告書を完成させるため、決算・監査・開示プロセス全体の前倒しが必要です。


具体的には、次のような対応が考えられます。

  • 決算スケジュールの前倒し

連結決算、個別決算、税金計算、連結パッケージの収集などを早める必要があります。


  • 監査法人との日程調整

財務諸表監査や内部統制監査を、従来より早い時期に完了させる必要があります。

監査法人側の人員確保も必要になるため、早期の協議が重要です。


  • 非財務情報の早期収集

サステナビリティ情報、人的資本情報、ガバナンス情報などを早い段階で収集・確定しなければなりません。


  • 取締役会日程の見直し

有価証券報告書の承認や株主総会関連書類の承認を行う取締役会の日程を調整する必要があります。


  • 開示統制の再設計

有価証券報告書と株主総会資料を一体として作成・確認するため、経理、法務、IR、総務などの役割分担を見直す必要があります。


一本化を選択しない場合の注意点

一本化を選択しない会社では、基本的には従来の作成実務を継続す

ると考えられます。

ただし、制度改正後も何も確認しなくてよいわけではありません。

次の点については、今後の制度設計を確認する必要があります。

  • 事業報告等の開示項目が削減されるか

  • 有価証券報告書の記載事項が改正されるか

  • 株主総会前に開示すべき情報が追加されるか

  • 事業報告と有価証券報告書の整合性確認が変わるか

  • 一本化を選択しない理由について説明が求められるか

  • 将来的に強制適用へ移行する可能性があるか


特に、開示府令や会社計算規則が改正された場合には、一本化を選択しない会社にも記載内容の変更が生じる可能性があります。


一本化を選択するか判断するポイント

制度が任意選択となった場合、会社は一本化によるメリットと負担を比較して判断することになります。


<一本化を選択しやすい会社>

次のような会社は、一本化を比較的選択しやすいと考えられます。

  • 決算早期化が進んでいる

  • 有価証券報告書を株主総会前に提出している

  • 経理・法務・IRの連携体制が整っている

  • 監査法人との早期監査体制が構築されている

  • 非財務情報の収集がシステム化されている

  • 開示書類の重複削減効果が大きい


<慎重な検討が必要な会社>

次のような会社では、一本化に伴う負担が大きくなる可能性があります。

  • 海外子会社が多く、連結決算に時間がかかる

  • 決算修正が期末後に多く発生する

  • 税金計算や減損判定に時間を要する

  • サステナビリティ情報の収集体制が未整備

  • 監査日程を前倒ししにくい

  • 株主総会の開催時期を変更しにくい

  • 開示担当者が少ない


一本化によって書類数が減っても、有価証券報告書の提出期限を大幅に前倒しする必要があれば、実務負担がかえって増える可能性もあります。


企業が今から準備すべきこと

制度の詳細は今後の法制審議会や関係法令の改正によって確定しますが、上場会社は現時点から次の事項を確認しておくとよいでしょう。


  • 重複項目の洗い出し

現在の事業報告等と有価証券報告書を比較し、同じ情報をどの部署が、どのように作成しているかを整理します。


  • 作成スケジュールの可視化

決算日から株主総会、有価証券報告書提出までの作業工程を一覧化します。

一本化した場合に、どの作業を何日早める必要があるかを試算します。


  • 監査法人との協議

一本化を選択した場合に、監査報告書を株主総会の3週間前までに取得できるかを確認します。


  • 社内体制の確認

経理、財務、法務、IR、総務、人事、サステナビリティ部門の役割分担を整理します。


  • 投資家・株主への影響分析

一本化によって情報の見つけやすさや読みやすさが向上するか、株主向け資料として分かりにくくならないかを検討します。


制度はまだ確定していない

有価証券報告書と事業報告等の一本化は、2026年7月時点では法制審議会で検討が続いている段階です。


一本化を任意とするのか、将来的に強制適用するのか、一本化のために追加すべき開示項目をどこまでとするのかなど、今後の議論で変更される可能性があります。


そのため、現時点で実務対応を確定させるのではなく、制度の方向性を踏まえた準備を行いながら、法務省、金融庁、東京証券取引所などの今後の公表内容を確認することが重要です。


まとめ

有価証券報告書と事業報告等の一本化は、重複する開示書類を整理し、企業の作成負担や株主・投資家の確認負担を軽減することを目的とした制度です。


一本化を選択する会社は、事業報告等に必要な情報を含む有価証券報告書を株主総会前に提出することで、事業報告等を別途作成しない仕組みが検討されています。


一方、一本化を選択しない会社については、従来どおり事業報告等と有価証券報告書を別々に作成し、実務への直接的な影響は限定的となる方向です。


ただし、一本化制度の検討過程で不要な開示項目が整理されれば、一本化を選択しない企業でも、事業報告等のスリム化による恩恵を受けられる可能性があります。


上場会社は、今後の制度動向を確認するとともに、次の事項を整理しておくことが重要です。

  • 一本化による作成負担の削減効果

  • 有価証券報告書を前倒しできるか

  • 監査法人の監査スケジュール

  • 非財務情報の収集体制

  • 社内の開示統制

  • 一本化を選択しない場合の制度変更

  • 株主や投資家にとっての情報の分かりやすさ


一本化するかどうかは、単に書類の数だけで判断するのではなく、決算早期化、監査対応、社内体制、株主への情報提供を含めて総合的に検討する必要があります。



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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。

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