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有価証券報告書と事業報告の一本化とは?株主総会前開示をめぐる議論と企業実務への影響

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 5 時間前
  • 読了時間: 10分

こんにちは!代表の安田です。


上場会社の開示実務に大きな影響を与えるテーマとして、事業報告等と有価証券報告書の「一本化」が議論されています。


現在、上場会社は、会社法に基づく事業報告・計算書類・株主総会参考書類などと、金融商品取引法に基づく有価証券報告書を、それぞれ作成・開示しています。


両者には重複する情報も多く、企業側には作成負担が生じています。一方、投資家や株主にとっても、似た情報が複数の書類に分かれて掲載されることで、確認に手間がかかる面があります。


こうした背景から、事業報告等と有価証券報告書を一本化する方向で会社法制の見直しが検討されています。


もっとも、一本化自体には賛成意見が多いものの、「定時株主総会の3週間前までに有価証券報告書の全内容を開示すること」を事実上義務付ける制度設計には、企業側から慎重な意見が多く出ています。


本日は、有価証券報告書と事業報告の一本化をめぐる議論、株主総会前開示の論点、企業実務への影響について、公認会計士の視点から解説します。


有価証券報告書と事業報告の違い

まず、有価証券報告書と事業報告の違いを整理しておきます。


有価証券報告書は、金融商品取引法に基づき、主に投資家向けに提出される開示書類です。企業の事業内容、経営方針、リスク情報、サステナビリティ情報、財務諸表、監査報告書、コーポレート・ガバナンスの状況など、投資判断に必要な幅広い情報が含まれます。


一方、事業報告は、会社法に基づき、株主総会に向けて株主へ提供される書類です。会社の事業の経過や成果、重要な親会社・子会社の状況、役員の状況、会社役員に関する事項などが記載されます。


両者は目的や根拠法令が異なるものの、会社の事業内容、経営状況、役員・ガバナンス情報など、一部の記載事項が重複しています。


そのため、企業側から見ると、似た情報を複数の書類に記載し、内容の整合性を確認しながら作成する負担があります。投資家・株主側から見ても、情報が分散しているため、必要な情報を探しにくいという課題があります。


「一本化」に賛成する意見が多い理由

事業報告等と有価証券報告書の一本化については、多くの企業、団体、個人から賛成意見が寄せられています。


主な理由は、企業の実務負担の軽減と、株主・投資家にとっての利便性向上です。

企業にとっては、重複する開示項目を別々に作成する必要がなくなれば、決算・開示作業の効率化が期待できます。特に、決算短信、有価証券報告書、事業報告、計算書類、株主総会参考書類、サステナビリティ開示など、上場会社の開示書類は増加・高度化しています。


開示内容が拡充される一方で、提出時期の早期化も求められており、経理・財務・法務・IR部門の負担は大きくなっています。そのため、重複情報の整理や開示書類の一本化は、実務上大きな意味があります。


また、株主・投資家にとっても、開示書類が整理されることにより、必要な情報を確認しやすくなるメリットがあります。複数の書類を突き合わせる必要が減れば、情報利用者にとっても利便性が高まります。


論点は「株主総会3週間前の全内容開示」

今回の議論で大きな論点となっているのが、一本化に伴う有価証券報告書の開示時期です。

中間試案では、上場会社が電子提供措置開始日までに、事業報告等の開示事項の全てを記載した有価証券報告書を提出する必要があるとされています。


電子提供措置開始日とは、株主総会の日の3週間前の日、または招集通知を発した日のいずれか早い日を指します。


つまり、制度設計によっては、上場会社が定時株主総会の3週間前までに、事業報告等の内容を含む有価証券報告書を提出することが求められる可能性があります。


この点について、企業側からは慎重な意見が多く出ています。

有価証券報告書は、財務情報だけでなく、事業等のリスク、経営方針、サステナビリティ情報、人的資本情報、コーポレート・ガバナンス情報など、多岐にわたる情報を含みます。また、監査法人による監査、社内レビュー、取締役会承認、関係部署との確認など、作成・確認プロセスも複雑です。


そのため、株主総会の3週間前までに全内容を開示することが一律に求められると、上場会社の実務負担が大きくなる可能性があります。


なぜ企業は3週間前開示に慎重なのか

企業が株主総会3週間前の有価証券報告書開示に慎重な理由は、単に「作成が大変だから」だけではありません。


第一に、有価証券報告書の記載内容が年々拡充していることがあります。近年は、サステナビリティ情報、人的資本、多様性、気候変動対応、コーポレート・ガバナンスなど、非財務情報の重要性が高まっています。


これらの情報は、経理部門だけで完結するものではありません。人事、法務、サステナビリティ、経営企画、IR、事業部門など、多くの部署から情報を収集し、整合性を確認する必要があります。


第二に、開示情報の正確性を確保するための内部統制やレビューが必要です。開示を早めるほど、確認期間は短くなります。結果として、形式的には早期開示できても、内容の品質や正確性に影響が出る懸念があります。


第三に、株主総会の開催時期の後倒しを迫られる可能性があります。株主総会3週間前に有価証券報告書を完成させることが難しい場合、実務上は株主総会の開催日を後ろ倒しする対応が必要になるかもしれません。


このように、3週間前開示は、開示スケジュール全体、監査対応、社内体制、株主総会日程に影響する重要な論点です。


「必要な情報だけを早期開示する」という考え方

パブリックコメントでは、有価証券報告書の全内容を3週間前に開示するのではなく、株主の議決権行使判断に必要な情報に限定して早期開示すべきではないか、という意見も出ています。


たとえば、株主総会における議決権行使に直接関係する情報として、役員選任議案に関わるガバナンス情報、人的資本情報、役員報酬、政策保有株式、リスク情報などが考えられます。


実際に、一部の上場会社では、有価証券報告書の全体ではなく、一部項目を株主総会前に先行開示する取組みも見られます。


この方法であれば、投資家が議決権行使判断に必要な情報を早期に確認できる一方で、企業側の開示実務負担を一定程度抑えることができます。


重要なのは、「有価証券報告書を早く出すこと」自体が目的ではないという点です。本来の目的は、株主が議案を判断するために十分な情報を、十分なタイミングで入手できるようにすることです。


その目的を達成するためには、有価証券報告書の全内容を一律に早期開示する方法だけでなく、必要情報を事業報告や別資料に掲載する方法も検討に値します。


事業報告への必要情報掲載という選択肢

パブリックコメントでは、投資家のために最低限必要な情報を定義したうえで、その情報を事業報告に掲載する方法も容認すべきとの意見も出ています。


これは、実務的には重要な視点です。

有価証券報告書は投資家向けの詳細な開示書類ですが、個人株主にとっては情報量が多く、読み解くのが難しい場合があります。一方、事業報告は、株主総会に向けた書類として、比較的読みやすく編集されることが多く、個人株主にも届きやすい資料です。


そのため、議決権行使に必要な情報を、分かりやすい形で事業報告に掲載することは、株主とのコミュニケーションの観点から有効です。


開示制度の見直しでは、単に書類を一本化するだけでなく、誰に、何を、どのタイミングで、どのような形式で届けるのが望ましいのかという視点が重要になります。


開示項目のスリム化も重要な論点

有価証券報告書の早期開示を実現するためには、開示項目の見直しも避けて通れません。


現在の有価証券報告書には、投資家にとって重要性が高い情報がある一方で、相対的に有用性が低下している項目や、他の開示書類・財務諸表注記と重複している項目もあります。


たとえば、固定資産に関する情報は、財務諸表注記でも一定程度開示されています。連結財務諸表を中心に投資判断が行われる会社において、単体財務諸表注記の詳細情報がどこまで必要かという論点もあります。


開示の充実は重要ですが、情報量が増えすぎると、かえって重要な情報が埋もれてしまうこともあります。


今後の制度設計では、開示の早期化と開示内容の拡充だけでなく、不要または重複する情報の整理、重要性に応じた開示、投資家にとって本当に有用な情報への重点化が求められます。


企業実務への影響

有価証券報告書と事業報告の一本化が進めば、上場会社の開示実務には大きな影響があります。


まず、経理・財務部門だけでなく、法務、総務、IR、人事、サステナビリティ、経営企画など、開示に関わる部署の連携がこれまで以上に重要になります。


また、株主総会日程、取締役会日程、監査法人の監査スケジュール、有価証券報告書のレビュー、招集通知の作成、電子提供措置の開始時期などを一体で管理する必要があります。


特に、株主総会前の有価証券報告書開示が求められる方向になった場合には、決算作業の前倒しや、非財務情報の収集・確認体制の整備が必要になります。


企業は、制度改正が確定してから対応するのではなく、現時点から次のような準備を進めておくことが望ましいでしょう。

  • 有価証券報告書と事業報告の重複項目を洗い出す

  • 株主総会前に必要な情報を整理する

  • 非財務情報の収集プロセスを早期化する

  • 開示資料の社内レビュー体制を見直す

  • 監査法人とのスケジュール共有を早める

  • 取締役会承認や社内決裁の日程を確認する

  • 投資家・株主にとって重要な情報を優先順位付けする


実質株主確認制度の議論にも注目

今回の法制審議会では、有価証券報告書と事業報告の一本化だけでなく、実質株主確認制度についても議論されています。


実質株主確認制度とは、会社がカストディアンなどを通じて、実質的に株式を保有している株主の情報を確認できるようにする制度です。


上場会社にとって、誰が実質的な株主なのかを把握することは、株主との対話、議決権行使対応、アクティビスト対応、資本政策の検討において重要です。


中間試案では、違反者に対する制裁として過料が示されていましたが、パブリックコメントでは、海外居住者に過料を科すことの実効性に疑問があり、議決権停止を検討すべきとの意見も出ています。


第15回会議で示された検討案では、故意または重大な過失による違反を前提に、一定の手続を経て議決権を停止できる措置が示されています。


この論点は、上場会社の株主対応やガバナンス実務にも影響するため、今後の議論を注視する必要があります。


公認会計士の視点から見たポイント

公認会計士の視点から見ると、有価証券報告書と事業報告の一本化は、単なる開示書類の整理ではありません。

上場会社の決算・監査・開示・株主総会運営を一体で見直すテーマです。

特に、以下の3点が重要です。


1. 開示の早期化と品質確保の両立

開示の早期化は、投資家にとって有益です。しかし、早期化により開示内容の正確性やレビュー品質が低下しては本末転倒です。

企業は、単に作業を前倒しするだけでなく、情報収集プロセス、内部統制、レビュー手続を整備する必要があります。


2. 非財務情報の管理体制

今後の開示では、人的資本、サステナビリティ、ガバナンスなどの非財務情報がますます重要になります。

これらの情報は、従来の経理決算プロセスだけでは管理しきれません。非財務情報についても、数値の定義、集計方法、承認ルート、証跡管理を整備することが求められます。


3. 株主・投資家目線での情報整理

開示書類は、作成することが目的ではありません。株主・投資家が意思決定に利用できる情報を提供することが目的です。

そのため、重要な情報を分かりやすく、適切なタイミングで提供するという視点が欠かせません。


まとめ

事業報告等と有価証券報告書の一本化は、上場会社の開示実務を効率化し、株主・投資家の利便性を高める可能性があります。


一方で、株主総会の3週間前までに有価証券報告書の全内容を開示することが事実上義務化されるような制度設計には、企業側から慎重な意見が多く出ています。


今後の制度設計では、全内容の早期開示を一律に求めるのではなく、株主の議決権行使判断に必要な情報をどの範囲で、どのタイミングで、どの書類に掲載するのかが重要な論点になります。


また、開示項目のスリム化や、非財務情報の管理体制、実質株主確認制度の実効性確保も、上場会社にとって重要なテーマです。


上場会社は、今後の法制審議会の議論を注視しつつ、有価証券報告書と事業報告の重複項目、株主総会前に必要な情報、開示スケジュール、社内レビュー体制を早めに確認しておくことが望まれます。


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