四半期開示の歴史とは?導入から見直しまでの流れを公認会計士がわかりやすく解説
- 安田亮
- 23 時間前
- 読了時間: 11分
こんにちは!代表の安田です。
上場会社の決算情報といえば、年度決算だけでなく、四半期ごとの業績開示を思い浮かべる方も多いでしょう。
投資家は、会社の業績や財政状態をタイムリーに把握したいと考えます。一方で、会社側にとって四半期開示は、決算作業、監査・レビュー対応、開示資料の作成など、大きな実務負担を伴う制度でもあります。
この四半期開示は、日本で最初から現在のような形で存在していたわけではありません。投資家保護や市場の透明性向上を目的として導入され、その後、制度化・簡素化・見直しを繰り返してきました。
近年では、企業の開示負担を軽減しつつ、投資家に必要な情報をどのように提供するかという観点から、四半期開示のあり方が改めて議論されています。
本日は、日本における四半期開示の歴史、制度導入の背景、四半期報告書と四半期決算短信の違い、開示簡素化の流れ、近年の見直しについて、公認会計士の視点からわかりやすく解説します。
四半期開示とは
四半期開示とは、上場会社などが、1事業年度を3か月ごとに区切り、業績や財政状態などの情報を開示する制度です。
通常、会社は1年に1回、年度決算を行ないます。しかし、投資家にとっては、1年に1回の情報だけでは会社の状況を十分に把握できないことがあります。
たとえば、売上が急増しているのか、利益率が悪化しているのか、資金繰りに問題がないのか、大きな損失が発生していないかといった情報は、投資判断に大きく影響します。
そのため、上場会社には、よりタイムリーな情報提供が求められてきました。
四半期開示は、投資家が会社の状況を定期的に確認するための重要な仕組みです。一方で、会社側にとっては、年4回に近い頻度で決算情報を整理し、開示する必要があるため、実務負担が大きい制度でもあります。
日本の四半期開示はマザーズ市場創設がきっかけ
日本における四半期開示は、1999年11月に東京証券取引所でマザーズ市場が創設されたことをきっかけに始まりました。
マザーズ市場は、成長企業向けの市場として設けられました。成長企業は、事業環境の変化が早く、業績も大きく変動しやすい傾向があります。そのため、投資家保護の観点から、四半期ごとに業績の概況を開示することが求められました。
この段階では、現在のような法定開示制度というより、市場のルールとして、投資家に対してタイムリーに情報を提供する意味合いが強かったといえます。
成長企業に投資する投資家にとって、事業の進捗や業績変化を早く把握することは非常に重要です。四半期開示は、こうした市場のニーズに応える形でスタートしました。
東証による四半期財務・業績概況の開示
その後、四半期開示はマザーズ市場に限らず、より広い上場会社へと広がっていきます。
2001年には、金融庁が四半期短信などによる経営情報開示の促進について、東京証券取引所に検討を要請しました。
これを受けて、東証でも検討が進み、上場会社に対して段階的に「四半期財務・業績の概況」の開示を求めるようになりました。
この時期の四半期開示は、投資家への情報提供を充実させるための取引所ルールとして発展していったといえます。
上場会社が四半期ごとに売上高、利益、財政状態などを開示することで、投資家は年度決算を待たずに会社の状況を把握できるようになりました。
四半期報告制度の法制化
四半期開示が大きく制度化されたのは、金融商品取引法上の四半期報告制度が導入されたことによります。
金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループは、2005年6月に公表した報告で、証券取引法上の四半期報告制度の法制化を提言しました。
この背景には、投資家保護や開示情報の信頼性向上に対する社会的要請がありました。当時は、企業不祥事や虚偽記載の問題もあり、市場の信頼を高めるために、より制度的な開示が求められていました。
四半期報告制度が法制化されると、四半期報告書は単なる任意的・取引所ルール上の開示ではなく、法令に基づく開示書類となります。
これにより、虚偽記載などに対して罰則が適用される可能性も生じるため、開示情報の信頼性と責任は一段と重くなりました。
四半期報告書と四半期決算短信の違い
四半期開示を理解するうえで重要なのが、四半期報告書と四半期決算短信の違いです。
四半期報告書は、金融商品取引法に基づく法定開示書類です。一定の上場会社などが提出することを求められていたもので、財務諸表や注記、経営成績の分析などが含まれます。法令に基づく書類であるため、虚偽記載などに対する責任も重くなります。
一方、四半期決算短信は、証券取引所のルールに基づく適時開示資料です。投資家に対して決算情報を迅速に提供することを目的としており、決算発表時に開示されます。
簡単にいうと、四半期報告書は法令に基づく詳細な開示、四半期決算短信は市場に対する速報性の高い開示という位置づけです。
この2つの開示が併存していたことにより、投資家に対する情報提供は充実する一方、企業側には重複した開示負担が生じているとの指摘もありました。
開示簡素化の流れ
四半期開示は、投資家保護の観点から重要な制度として発展してきました。
一方で、企業側からは、四半期ごとの決算・開示対応に多くの時間とコストがかかるという声もありました。
そのため、四半期開示については、導入後も簡素化の議論が続いてきました。
たとえば、2011年には、四半期報告書について、第1四半期と第3四半期のキャッシュ・フロー計算書の作成が任意化されるなどの簡素化が行なわれました。これは、政府の成長戦略の中で四半期報告の大幅な簡素化が掲げられたことを受けた対応です。
また、2017年には、東京証券取引所が四半期決算短信の簡素化を公表しました。これにより、決算短信の様式や記載内容について、より実務負担を抑える方向で見直しが進められました。
このように、四半期開示は一度導入されて終わりではなく、投資家保護と企業負担のバランスを取りながら、継続的に見直されてきた制度です。
四半期開示への批判
四半期開示には、投資家にタイムリーな情報を提供するというメリットがあります。
しかし、一方で批判もあります。
代表的な批判は、企業の短期志向を助長するのではないかという点です。
四半期ごとに業績が開示されると、経営者は短期的な利益や市場評価を意識しすぎる可能性があります。その結果、中長期的な研究開発投資、人材投資、設備投資、事業構造改革などが後回しになるのではないかという懸念があります。
また、四半期開示のために経理部門や開示担当者の負担が大きくなり、本来の経営管理や分析に十分な時間を使えないという問題もあります。
特に、四半期報告書と四半期決算短信が併存していた時期には、似たような情報を複数の書類で作成・確認する必要があり、重複感が強いとの指摘がありました。
四半期開示を支持する意見
一方で、四半期開示を支持する意見もあります。
投資家にとって、会社の業績や財政状態を定期的に把握できることは重要です。特に、業績変動が大きい会社、成長企業、財務リスクの高い会社では、1年に1回や半年に1回の開示だけでは情報が不足する可能性があります。
また、四半期開示は、企業の経営管理にも役立つ面があります。
四半期ごとに業績を整理することで、会社自身も事業の進捗、予算との差異、利益率の変化、資金繰りの状況を把握しやすくなります。
さらに、四半期開示の問題は、開示制度そのものよりも、読み手がどのように情報を使うかに左右される面があります。四半期情報を短期的な株価判断だけに使うのではなく、中長期的な業績推移を確認する材料として活用することも可能です。
近年の四半期開示見直し
近年、四半期開示の見直しはさらに進んでいます。
金融審議会の報告では、四半期開示の「一本化」が議論され、東証でもその方向性に沿った実務対応が検討されてきました。
東証は、四半期開示の見直しに関する実務検討会を設置し、投資家、上場会社、学識経験者など市場関係者の意見を踏まえながら、四半期決算短信を中心とした実務のあり方を検討しました。
その後、東証は2023年11月に「四半期開示の見直しに関する実務の方針」を取りまとめ、2024年3月に上場規程等の改正を行なっています。
この流れは、四半期開示を完全になくすというより、重複していた開示を整理し、投資家に必要な情報を迅速かつ効率的に提供する方向への見直しといえます。
四半期報告書廃止後も四半期情報は重要
制度見直しにより、法定の四半期報告書が廃止される方向になったとしても、四半期情報の重要性がなくなるわけではありません。
上場会社にとって、四半期ごとの業績情報は、投資家との対話において重要な材料です。
特に、売上高、営業利益、利益率、受注高、資金繰り、セグメント別業績、重要な投資や損失などは、投資判断に大きく関係します。
また、会社側にとっても、四半期ごとの決算情報は、経営管理のために欠かせません。外部開示が簡素化されたとしても、社内管理としての四半期決算や月次決算の重要性は変わりません。
むしろ、開示書類が簡素化されるほど、投資家に対して何をどのように説明するかという企業側の姿勢が問われることになります。
経理・開示担当者への影響
四半期開示の見直しは、経理・開示担当者の実務にも影響します。
まず、提出書類や開示スケジュールが変わるため、決算作業の流れを見直す必要があります。
次に、四半期決算短信の重要性が相対的に高まる場合、速報性と正確性の両立がより重要になります。
また、四半期報告書がなくなることで、開示負担が軽くなる部分がある一方、投資家に対する説明資料や決算説明会資料、任意開示の内容がより重要になる可能性があります。
経理・開示担当者は、単に書類を減らすという発想ではなく、必要な情報をどの媒体で、どのタイミングで、どの程度詳しく提供するかを考える必要があります。
投資家が見るべきポイント
四半期開示の見直し後、投資家も情報の読み方を見直す必要があります。
四半期報告書が簡素化・廃止される場合でも、四半期決算短信、決算説明資料、適時開示、有価証券報告書、半期報告書など、複数の情報源を組み合わせて会社の状況を判断することが大切です。
特に、四半期決算短信では、売上や利益だけでなく、前年同期比、通期予想に対する進捗、セグメント別の動向、キャッシュ・フローに関する情報、財務状態の変化を確認することが重要です。
また、一つの四半期だけで判断するのではなく、複数四半期の推移を見ることも大切です。
一時的な要因で利益が増減しているのか、事業構造として収益性が改善・悪化しているのかを見極める必要があります。
四半期開示の今後
四半期開示の今後を考えるうえでは、投資家保護と企業負担のバランスが重要です。
投資家に必要な情報を十分に提供しなければ、市場の透明性や信頼性が損なわれます。
一方で、企業に過度な開示負担を課すと、経理・開示部門の負担が増え、形式的な書類作成に追われてしまう可能性があります。
重要なのは、開示の量を増やすことではなく、投資家にとって有用な情報をわかりやすく提供することです。
今後の四半期開示では、法定書類としての細かな記載よりも、業績変化の背景、経営者の見方、リスク情報、通期見通しとの関係など、投資判断に役立つ情報の質がより重視される可能性があります。
まとめ
日本の四半期開示は、1999年の東証マザーズ市場創設を契機に始まりました。成長企業に対する投資家保護の観点から、四半期ごとの業績概況の開示が求められたことが出発点です。
その後、金融庁や東証の検討を経て、上場会社に四半期財務・業績概況の開示が段階的に求められるようになりました。さらに、金融審議会の提言を受け、四半期報告制度が法制化され、四半期報告書は法令に基づく開示書類となりました。
一方で、四半期開示には企業負担が大きいという指摘もあり、2011年には第1四半期・第3四半期のキャッシュ・フロー計算書が任意化されるなどの簡素化が行われました。2017年には、東証による四半期決算短信の簡素化も進められています。
近年では、四半期報告書と四半期決算短信の重複を見直し、四半期開示を一本化する方向で制度改正が進んでいます。東証も、金融審議会の報告を踏まえて実務検討会を設置し、2024年には上場規程等の改正を行っています。
四半期開示は、単に多くの情報を出せばよいというものではありません。投資家に必要な情報を、タイムリーかつわかりやすく提供することが重要です。
企業側は、制度見直しにより開示負担が軽減される部分がある一方で、四半期決算短信、決算説明資料、任意開示を通じて、投資家に何を伝えるべきかを改めて考える必要があります。
四半期開示の歴史を振り返ると、制度は常に、投資家保護と企業負担のバランスを取りながら変化してきました。今後も、形式的な開示ではなく、利用者にとって有用な情報開示が求められるでしょう。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。





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