遺産分割確定までの不動産賃貸収入は誰のもの?相続後の不動産所得で注意すべき申告実務
- 安田亮
- 12 時間前
- 読了時間: 8分
こんばんは!代表の安田です。
相続財産の中に賃貸アパートや貸家、貸店舗などの収益不動産がある場合、相続税だけでなく、所得税の申告にも注意が必要です。
特に実務で迷いやすいのが、相続開始から遺産分割協議が成立するまでの間に発生した賃貸収入を、誰の所得として申告するのかという点です。
最終的に長男がアパートを相続したのだから、相続開始後の家賃収入はすべて長男のものでは?
遺産分割協議書に取得者が決まったのだから、過去の賃貸収入もその人に帰属するのでは?
このように考えたくなりますが、税務上はそう単純ではありません。
今回は、相続発生後、遺産分割確定までの不動産賃貸収入の帰属について、税理士の視点から整理します。
相続発生後の不動産所得は、まず期間で区分する
賃貸不動産を所有していた方が亡くなった場合、不動産所得は大きく次の期間に分けて考えます。
1つ目は、被相続人が亡くなる日までの期間です。
この期間の賃貸収入は、亡くなった方本人の所得です。そのため、相続人が被相続人の準確定申告として申告します。
2つ目は、相続開始後から遺産分割協議が成立するまでの期間です。
この期間の不動産所得は、原則として各共同相続人に法定相続分等に応じて帰属します。国税庁も、遺産分割が確定していない相続財産から生じる所得は、各共同相続人に相続分に応じて帰属すると説明しています。
3つ目は、遺産分割協議成立後の期間です。
遺産分割により賃貸不動産を取得した人が、その後の不動産所得を申告することになります。
このように、相続があった年の不動産所得は、単純に「誰が最終的に相続したか」だけで判断するのではなく、いつ発生した収入なのかを区分することが重要です。
遺産分割確定までの賃貸収入は法定相続分で分ける
遺産分割協議が成立するまでの間、相続財産は共同相続人の共有状態にあります。
そのため、賃貸不動産から生じる家賃収入についても、特定の相続人が代表して管理していたとしても、その人だけの所得にはなりません。
たとえば、父が3月31日に亡くなり、相続人が子ども2人、遺産分割協議が10月31日に成立したとします。
この場合、4月1日から10月31日までの賃貸収入は、遺産分割前の未分割期間に発生した収入です。
最終的に長男がアパートを相続したとしても、この期間の賃貸収入は、原則として相続人2人がそれぞれの相続分に応じて申告します。
国税庁のタックスアンサーでも、遺産分割協議が整うまで特定の相続人が収益を管理していた場合であっても、遺産分割が確定するまでは共同相続人が法定相続分に応じて申告するとされています。
遺産分割が後で成立しても、過去の賃貸収入の帰属は変わらない
ここで特に間違いやすいのが、遺産分割の効力との関係です。
民法上、遺産分割には相続開始時にさかのぼる効力があります。
そのため、「遺産分割でアパートを取得した人が、相続開始時から所有者だったことになるのではないか」と考えたくなります。
しかし、不動産賃貸収入については、遺産分割の結果が未分割期間中の所得の帰属に影響するわけではありません。
国税庁も、遺産分割が確定しても、その効果は未分割期間中の所得の帰属に影響を及ぼさないため、分割確定を理由とする更正の請求や修正申告はできないとしています。
つまり、あとから「アパートはAさんが相続する」と決まったとしても、遺産分割協議が成立する前の賃貸収入までAさん一人の所得に変更することはできない、ということです。
特定の相続人が家賃を受け取っている場合も注意
実務では、家賃の入金口座が被相続人名義のままだったり、代表相続人の口座に変更されていたりすることがあります。また、管理会社とのやり取りを特定の相続人だけが行なっているケースもあります。
しかし、実際の入金口座や管理担当者だけで、所得の帰属が決まるわけではありません。
遺産分割が成立するまでは、あくまで相続人全員の共有財産から生じた収入として扱われます。
そのため、代表者が家賃を一括して受け取っている場合でも、各相続人に帰属する収入金額と必要経費を按分し、それぞれの確定申告に反映させる必要があります。
この処理を忘れると、代表者だけが過大に申告してしまったり、他の相続人が申告漏れになってしまったりする可能性があります。
必要経費も相続分に応じて按分する
未分割期間中の不動産所得を相続分で分ける場合、収入だけでなく必要経費も按分します。
たとえば、固定資産税、管理委託料、修繕費、火災保険料、減価償却費、借入金利息などがある場合には、その不動産所得に対応する経費として整理します。
未分割期間中の収入を相続分で分けるのであれば、対応する経費も同様に相続分で按分するのが基本です。
ここで、家賃収入だけを分けて経費を考慮しないと、各相続人の所得計算が実態と合わなくなります。
相続後の不動産所得を申告する際には、収入金額だけでなく、必要経費の資料も早めに集めておくことが大切です。
準確定申告との違いにも注意
被相続人が亡くなった年には、相続人が準確定申告を行なうことがあります。
準確定申告は、亡くなった方のその年1月1日から死亡日までの所得について行う申告です。
たとえば、3月31日に亡くなった場合、1月1日から3月31日までの賃貸収入や経費は、被相続人の準確定申告に含めます。
一方、4月1日以後の賃貸収入は、被相続人の所得ではありません。
遺産分割が成立するまでは共同相続人の所得となり、遺産分割後は取得した相続人の所得となります。
準確定申告と相続人自身の確定申告を混同すると、期間の区分を誤りやすいため注意が必要です。
青色申告を引き継ぐ場合の期限にも注意
賃貸不動産を相続した場合、青色申告の承認申請にも注意が必要です。
被相続人が青色申告の承認を受けていたとしても、相続人が当然に青色申告を使えるわけではありません。
相続人が青色申告を行なうためには、原則として青色申告承認申請書の提出が必要です。
通常、新たに不動産の貸付けを開始した場合には、その開始日から2か月以内に申請書を提出します。さらに、青色申告の承認を受けていた被相続人の事業を相続により承継した場合には、死亡日が1月1日から8月31日までであれば死亡の日から4か月以内など、死亡日の時期に応じた提出期限が定められています。
青色申告特別控除や青色事業専従者給与などを検討する場合には、相続税申告だけでなく、所得税の届出期限も忘れないようにしましょう。
相続後の不動産所得で確認すべき資料
相続後に賃貸不動産がある場合には、次の資料を確認しておくと申告がスムーズです。
まず、賃貸借契約書、管理会社からの収支報告書、家賃入金口座の明細です。
次に、固定資産税の納税通知書、修繕費の請求書、管理料の明細、保険料の資料、借入金の返済予定表などです。
さらに、遺言書、遺産分割協議書、不動産登記簿、相続人関係を確認できる資料も必要です。
特に大切なのは、相続開始日、遺産分割協議成立日、不動産登記日、家賃の発生日を整理することです。この日付の整理があいまいなままだと、どの期間の不動産所得を誰が申告すべきか分からなくなります。
よくある誤解
相続後の不動産所得では、次のような誤解がよくあります。
最終的に相続した人が、相続開始後の家賃をすべて申告すればよい
実際には、遺産分割確定前の家賃収入は、原則として共同相続人が相続分に応じて申告します。
代表相続人の口座に入金されているから、代表相続人の所得になる
入金口座や管理担当者は、所得の帰属を判断する決定的な要素ではありません。
遺産分割協議が成立したら、過去の申告も取得者に合わせて直せる
国税庁は、遺産分割の確定を理由として未分割期間中の所得の帰属を変更する更正の請求や修正申告はできないとしています。
まとめ
相続財産に賃貸不動産がある場合、相続税の申告だけでなく、所得税の申告にも注意が必要です。
相続発生後、遺産分割協議が成立するまでの賃貸収入は、原則として共同相続人が法定相続分等に応じて申告します。
最終的に誰が不動産を相続したか、誰の口座に家賃が入金されていたかだけで判断してはいけません。
また、遺産分割が後日成立しても、未分割期間中の不動産所得の帰属は変わらないため、あとから取得者一人の所得に修正することはできません。
相続後の不動産所得では、相続開始日、遺産分割協議成立日、賃貸収入の発生日、必要経費の発生日を丁寧に整理することが重要です。
賃貸不動産を相続した場合には、相続税申告と所得税申告を一体で確認し、申告漏れや所得の帰属誤りがないよう早めに専門家へ相談することをおすすめします。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。





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