日払い給与の源泉所得税に注意|非常勤医師・スポット勤務の乙欄・丙欄の使い分けを税理士が解説
- 安田亮
- 7 時間前
- 読了時間: 10分
おはようございます!代表の安田です。
病院やクリニックでは、常勤医師だけでなく、非常勤医師やスポット勤務の医師を採用することがあります。
特に医師不足の地域や、夜間・休日診療を行う医療機関では、大学病院や紹介会社を通じて非常勤医師に勤務してもらうケースも少なくありません。
このとき実務上よく問題になるのが、給与に対する源泉所得税です。
勤務した日に現金で払うから日額表でよいのか
日払いだから丙欄を使えるのか
月に数回勤務する非常勤医師には月額表を使うべきなのか
源泉所得税を控除した後の手取り額を保証する契約にしてよいのか
源泉徴収税額表の使い方を誤ると、源泉所得税の徴収不足が発生し、後日の税務調査で病院側に大きな負担が生じることがあります。
本日は、日払い給与・非常勤医師・スポット勤務者に対する源泉所得税について、月額表・日額表・乙欄・丙欄の使い分けを税理士の視点から解説します。
給与を支払う場合は源泉徴収が必要
病院が医師に給与を支払う場合、原則として源泉所得税および復興特別所得税を徴収し、税務署へ納付する必要があります。
これは、常勤医師だけでなく、非常勤医師、短期間勤務の医師、スポット勤務の医師であっても同じです。
国税庁は、給与等を支払うときに源泉徴収する所得税および復興特別所得税の額は、「給与所得の源泉徴収税額表(月額表および日額表)」または「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使って求めると説明しています。
したがって、医師への支払が「給与」に該当する場合には、勤務形態に応じて正しい税額表を選ぶことが必要です。
なお、医師への支払が給与なのか、外注費・報酬料金なのかという論点もあります。
ただ、勤務時間・勤務場所・業務内容について病院の指揮命令を受け、病院の設備を使い、勤務実態として雇用に近い場合には、給与として扱うのが通常です。
源泉徴収税額表には月額表と日額表がある
給与に対する源泉所得税を計算する際には、まず「月額表」と「日額表」のどちらを使うかを判断します。
国税庁によれば、月額表を使うのは、月ごと、半月ごと、10日ごと、または月の整数倍の期間ごとに給与を支払う場合です。
一方、日額表を使うのは、毎日支払う給与、週ごとに支払う給与、日割で支払う給与、日雇賃金などの場合です。
つまり、単に「非常勤」だから日額表、「常勤」だから月額表と決まるわけではありません。重要なのは、給与の支払方法や雇用契約の内容です。
たとえば、月末締め翌月払いで月に数回分の給与をまとめて支払う場合には、月額表の使用を検討します。
一方、勤務した日ごとに給与を支払う、または週ごとに支払う場合には、日額表を使う場面があります。
甲欄・乙欄・丙欄の違い
源泉徴収税額表を使う際には、月額表・日額表だけでなく、甲欄・乙欄・丙欄の区分も重要です。
甲欄は、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人に対して給与を支払う場合に使います。
乙欄は、扶養控除等申告書を提出していない人に対して給与を支払う場合に使います。
医師の場合、常勤先が別にあり、その病院では非常勤勤務をしているだけであれば、扶養控除等申告書は常勤先に提出していることが多いです。
この場合、非常勤先の病院では原則として乙欄を使うことになります。
一方、丙欄は、日雇賃金に対して使う欄です。
ここが実務上の落とし穴です。
「日払いだから丙欄」と考えるのは危険です。
丙欄を使えるのは、あくまで日雇賃金に該当する場合です。
日雇賃金とは何か
国税庁は、日雇賃金について、日々雇い入れられる人の労働した日または時間によって算定される給与等で、労働した日ごとに支払を受けるものをいうと説明しています。さらに、1か所の勤務先から継続して2か月を超えて給与等が支払われた場合には、その2か月を超える部分の期間について支払われるものは日雇賃金に含まれないとされています。
また、パートやアルバイトに日給や時間給で給与を支払う場合でも、あらかじめ雇用契約の期間が2か月以内と決められていれば、日額表の丙欄を使って税額を求めるとされています。
したがって、丙欄を使えるかどうかは、次の点で判断します。
日々雇い入れられる勤務か
日または時間で給与が計算されているか
勤務した日ごとに支払われるか
雇用契約期間が2か月以内か
同じ勤務先で継続して2か月を超えていないか
非常勤医師であっても、毎週決まった曜日に勤務する契約や、2か月を超えて継続する勤務契約であれば、丙欄を使えない可能性が高くなります。
非常勤医師の日払いでよくある誤り
非常勤医師を採用した病院で、勤務終了後に現金で給与を支払うケースを考えてみましょう。
雇用契約では、毎月第1・第3月曜日に勤務することが予定されており、2か月以上勤務することが想定されていました。
このような場合、単に「勤務日に現金で支払うから日額表の丙欄でよい」とは言い切れません。継続して2か月以上勤務する予定がある場合には、日雇賃金として丙欄を使うことは難しくなります。
この場合、支払方法や契約内容に応じて、日額表乙欄または月額表乙欄を使うことになります。たとえば、1回ごとに給与を支払うのであれば日額表乙欄、月ごとにまとめて支払うのであれば月額表乙欄を検討します。
月額表を使える日払いとは
「日払い給与であっても月額表を使えるのか」と疑問に思う方もいるかもしれません。
実務上、月の給与総額をあらかじめ定め、それを勤務回数に応じて分けて支払うような場合には、月額表の適用を検討する余地があります。
たとえば、毎月4回勤務し、月額40万円を支払う契約で、その給与を1勤務ごとに分割して支払うようなケースです。
このような場合、実質的には月単位の給与を分割払いしていると考えられるため、月額表を用いて源泉徴収税額を計算することがあります。
日額表乙欄を使うと源泉所得税が大きくなり、人件費負担が重くなるケースとして、契約条件を見直し、月額表乙欄を使える給与体系に変更する方法もあります。
ただし、月額表を使うためには、契約書上も実態上も月単位の給与であることを説明できる必要があります。
単に税額を少なくするために形式だけ月額にするのは避けるべきです。
手取り額保証の契約は要注意
非常勤医師の採用では、「手取りで1回10万円」など、源泉所得税控除後の金額を保証する契約が見られることがあります。
しかし、このような契約は病院側の負担を大きくする可能性があります。
給与の手取り額を保証するということは、源泉所得税を控除した後の金額を一定にするということです。
そのため、源泉所得税額が増えれば、その分だけ額面給与を引き上げる必要があり、病院側の人件費負担が増えます。
特に、乙欄や日額表を使う場合には、源泉所得税額が高くなることがあります。
医師の給与は金額が大きくなりやすいため、手取り保証契約にすると、病院が想定していた以上のコストを負担することになりかねません。
契約書を作成する際には、「額面給与」で定めるのか、「手取り給与」で定めるのかを明確にし、源泉所得税の負担関係を確認しておく必要があります。
源泉徴収漏れがあると病院側の負担になる
源泉所得税の計算を誤り、徴収不足が生じた場合、税務調査で病院側が指摘を受けることがあります。
源泉徴収義務者は、給与を支払う病院やクリニックです。
そのため、源泉徴収不足があった場合には、まず病院側が不足税額を税務署に納付することになります。
さらに、納付が遅れた場合には、不納付加算税や延滞税が発生する可能性があります。
国税庁は、源泉所得税を期限までに納付しなかった場合、不納付加算税が課されることがあると説明しています。法定納期限後に納付告知を受けた場合は原則10%、税務署から告知を受ける前に自主的に納付した場合は原則5%とされています。
源泉徴収漏れが複数年・複数人に及ぶと、病院側の負担はかなり大きくなります。
添付資料でも、毎月納付の法人であれば5年分で60回分が確認対象になり得るため、源泉徴収不足が積み上がると影響が大きいことが紹介されていました。
医師本人から不足分を回収できるとは限らない
源泉徴収不足があった場合、病院側としては「本来医師から徴収すべき税金だから、後から医師に返してもらえばよい」と考えたくなります。
しかし、現実には簡単ではありません。
非常勤医師やスポット勤務の医師は、すでに勤務を終了していることも多く、連絡が取れない場合もあります。
また、「手取り額で契約していた」と主張されると、源泉徴収不足相当額を医師に請求するのが難しくなることがあります。
仮に医師本人が確定申告で所得税を精算していたとしても、病院側の源泉徴収義務が当然に消えるわけではありません。
そのため、病院側としては、最初から正しい源泉徴収税額を計算し、給与支払時に控除しておくことが重要です。
非常勤医師を採用するときのチェックポイント
非常勤医師やスポット勤務者を採用する場合には、次の点を確認しましょう。
雇用契約か業務委託契約か
給与として扱うべき勤務実態か
勤務期間は2か月以内か、2か月を超えるか
勤務日は固定されているか
勤務回数は月単位で決まっているか
給与は日払いか、週払いか、月払いか
扶養控除等申告書の提出があるか
甲欄、乙欄、丙欄のどれを使うか
日額表か月額表か
給与は額面で定めているか、手取りで定めているか
源泉徴収税額を控除した後の金額を保証していないか
源泉所得税の納付期限を管理しているか
このような確認を採用時に行なっておくことで、後日の税務調査での指摘を防ぎやすくなります。
まとめ:日払い給与でも「丙欄」とは限らない
非常勤医師やスポット勤務者に給与を支払う場合、源泉所得税の計算では、月額表・日額表・甲欄・乙欄・丙欄の使い分けが重要です。
特に注意したいのは、日払いだからといって必ず日額表の丙欄を使えるわけではないという点です。
丙欄は、日々雇い入れられる日雇賃金に対して使う欄です。
同じ病院で継続して2か月を超えて勤務する場合や、あらかじめ2か月を超える勤務が予定されている場合には、丙欄を使えない可能性があります。
非常勤医師の場合、常勤先が別にあることも多いため、扶養控除等申告書の提出がなければ、原則として乙欄を使います。
また、支払方法が勤務日ごとの日払いであれば日額表乙欄、月単位の給与として支払う契約であれば月額表乙欄を検討することになります。
源泉徴収税額の誤りは、病院側に大きな負担をもたらします。
不足税額だけでなく、不納付加算税や延滞税が発生することもあります。
さらに、非常勤医師本人から不足分を回収できるとは限りません。
非常勤医師を採用する際には、契約書の作成時点で、勤務期間、支払方法、給与の額面・手取り、扶養控除等申告書の有無、源泉徴収税額表の適用欄を必ず確認しておきましょう。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。





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