臨時計算書類とは?配当・自己株式取得を機動的に行うための実務上の留意点
- 安田亮
- 23 時間前
- 読了時間: 16分
こんにちは!代表の安田です。
近年、上場会社を中心に、株主還元への関心が高まっています。
東京証券取引所が公表した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を契機として、企業は資本効率や株主還元方針について、これまで以上に投資家から説明を求められるようになりました。
そのような中で、政策保有株式の売却益など、期中に発生した利益を早期に株主還元へ活用するための方法として、「臨時計算書類」の作成が注目されています。
臨時計算書類を作成すれば、期首から臨時決算日までに生じた損益を分配可能額に反映できるため、通常であれば翌期以降の配当原資となる利益を、より早いタイミングで配当や自己株式取得に活用できる可能性があります。
ただし、臨時計算書類は単に社内で試算表を作ればよいというものではありません。会社法上の手続、会計監査人の監査、取締役会承認、場合によっては株主総会承認などが必要になります。
本日は、臨時計算書類の概要、作成するメリット、分配可能額との関係、会計処理・開示・監査対応上の留意点を公認会計士の視点から解説します。
臨時計算書類とは
臨時計算書類とは、事業年度の途中に任意の臨時決算日を定め、その日までの財政状態や経営成績を把握するために作成する会社法上の計算書類です。
通常、株式会社は各事業年度末に計算書類を作成し、その計算書類をもとに分配可能額を計算します。そして、会社はその分配可能額の範囲内で配当や自己株式取得を行うことになります。
しかし、会社法では、期中の任意の日を臨時決算日として臨時計算書類を作成することが認められています。これにより、期首から臨時決算日までに発生した利益を分配可能額に反映させることができます。
たとえば、事業年度の前半に政策保有株式を売却し、多額の売却益が発生したとします。通常であれば、その売却益は年度決算を経て、翌事業年度以降の配当原資になります。
しかし、期中に臨時計算書類を作成すれば、その売却益を期中の分配可能額に反映させることができ、より早いタイミングで配当や自己株式取得を行うことが可能になります。
臨時計算書類を作成する主な目的
臨時計算書類を作成する目的として、代表的なものは次のとおりです。
1. 株主還元を機動的に行なうため
最も分かりやすい目的は、配当や自己株式取得などの株主還元を機動的に行うことです。
近年は、投資家との対話において、資本効率や株主還元方針が重要なテーマになっています。政策保有株式の売却、遊休資産の売却、子会社株式の売却などにより一時的に利益が発生した場合、その利益を速やかに株主還元へ回したいというニーズがあります。
臨時計算書類を作成することで、期中に発生した利益を分配可能額に反映できるため、株主還元のタイミングを早められる可能性があります。
2. 自己株式取得の原資を確保するため
自己株式の取得も、会社法上は分配可能額の範囲内で行なう必要があります。
そのため、期中に大きな利益が発生していても、分配可能額に反映されていなければ、自己株式取得の上限に制約が生じる可能性があります。
臨時計算書類を作成して期中損益を分配可能額に反映させることで、自己株式取得をより機動的に実施できる場合があります。
3. 子会社から親会社への資金移動を早めるため
子会社が臨時計算書類を作成することで、子会社の期中利益を分配可能額に反映し、親会社への配当を早めることも考えられます。
グループ全体の資金効率を高めたい場合や、親会社側で資金需要がある場合には、子会社の臨時計算書類作成が選択肢になることがあります。
臨時計算書類と分配可能額の関係
配当や自己株式取得を行なう際には、分配可能額による制限を受けます。
分配可能額とは、会社が株主に対して分配できる上限額をいいます。会社法上、会社財産の過度な流出を防ぎ、債権者保護を図るために設けられている制度です。
臨時計算書類を作成すると、期首から臨時決算日までの損益を分配可能額の計算に反映できます。
ただし、臨時計算書類を作成しただけで自動的に分配可能額に反映できるわけではありません。会社法に基づく所定の手続を経る必要があります。
特に、会計監査人設置会社では、会計監査人の監査が必要になります。取締役会設置会社では、取締役会の承認も必要です。さらに、原則として株主総会の承認が必要になりますが、一定の要件を満たす場合には、株主総会承認が不要となる特則もあります。
臨時計算書類に必要な書類
臨時計算書類は、年度末の計算書類と完全に同じものを作成するわけではありません。
通常の年度決算では、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表、附属明細書などが作成されます。
一方、臨時計算書類では、基本的に次の書類が中心になります。
臨時貸借対照表・臨時損益計算書
会社法上の臨時計算書類には、株主資本等変動計算書や個別注記表は含まれません。
もっとも、日本公認会計士協会の研究報告では、重要な会計方針に関する注記、継続企業の前提に関する注記、重要な偶発事象に関する注記、重要な後発事象に関する注記など、一定の注記が必要とされています。
つまり、年度決算より開示範囲は限定的ですが、会社法上の計算書類として一定の品質と説明可能性が求められます。
連結計算書類は必要か
分配可能額の計算は、個別の計算書類をベースに行ないます。
そのため、連結計算書類を作成している会社であっても、臨時決算日における連結計算書類の作成は会社法上求められていません。
ただし、連結配当規制が適用される会社では、臨時決算日後に行う配当の効力発生日における分配可能額の上限を把握するため、連結上の純資産額等を把握する必要があると考えられます。
つまり、「連結計算書類の作成義務はない」としても、連結ベースの影響をまったく見なくてよいわけではありません。
上場会社や大規模グループ会社では、個別ベースの分配可能額だけでなく、連結配当規制やグループ資金管理の観点からも確認が必要です。
臨時決算特有の会計処理
臨時計算書類は、原則として年度決算と同じ会計処理の原則・手続に従って作成します。
ただし、臨時会計年度は事業年度の途中であるため、年度決算とまったく同じ処理を行なうことが難しい項目もあります。
そこで、一部の項目については、臨時決算特有の簡便的な会計処理が認められる場合があります。代表的なものは次のとおりです。
たな卸資産
適切な帳簿記録が行なわれている場合には、前事業年度の実地たな卸高を基礎として、合理的な方法によりたな卸高を算定することが考えられます。
ただし、在庫の増減が大きい会社、棚卸差異が大きい会社、滞留在庫や評価減が問題になりやすい会社では、簡便的な方法で十分かどうか慎重に検討する必要があります。
減価償却費
定率法を採用している場合、事業年度に係る減価償却費の額を期間按分して計上する方法が考えられます。
ただし、期中に多額の固定資産取得・除売却がある場合や、減損の兆候がある場合には、単純な期間按分だけでは不十分な可能性があります。
退職給付費用
退職給付費用については、事業年度の合理的な見積額を期間按分して計上する方法が考えられます。ただし、期中に制度変更、人員削減、退職給付債務に影響する大きな事象がある場合には、別途検討が必要です。
税金費用
税金計算については、臨時会計年度を含む事業年度の税引前当期純利益に対する税効果会計適用後の実効税率を合理的に見積り、臨時会計年度の税引前純利益にその見積実効税率を乗じて計算する方法が考えられます。
臨時計算書類の目的が分配可能額の算定にあるとしても、税金費用の見積りは分配可能額に影響するため、重要な検討項目です。
なお、臨時決算特有の会計処理を採用した場合には、その内容を会計方針に関する注記で記載する必要があると考えられます。
会計方針の変更には注意が必要
臨時計算書類を作成する場合、会計方針の変更にも注意が必要です。
当事業年度に会計方針を変更する場合、原則として、最初の臨時会計年度から変更後の会計方針を適用する必要があります。
たとえば、年度末には会計方針を変更する予定であるにもかかわらず、期中の臨時計算書類では旧方針を使い、年度末だけ新方針を使うと、首尾一貫性の問題が生じる可能性があります。
もっとも、臨時決算日後から事業年度末までの間に特殊な事情が発生した場合や、法令改正があった場合など、例外的に異なる対応が合理的となることもあり得ます。
いずれにしても、会計方針の変更がある年度に臨時計算書類を作成する場合には、監査人と早めに協議しておくことが重要です。
継続企業の前提・後発事象・偶発事象も確認が必要
臨時計算書類では、年度決算と同様に、継続企業の前提、後発事象、偶発事象についても検討が必要です。
継続企業の前提については、少なくとも臨時決算日の翌日から1年間について評価を行う必要があると考えられます。
また、修正後発事象については、臨時計算書類に係る会計監査人の監査報告書日までに発生した事象を踏まえ、必要に応じて臨時計算書類を修正することになります。開示後発事象については、注記が必要になる場合があります。
偶発事象についても、保証債務、訴訟、損害賠償リスクなど、年度決算と同様の観点で確認が必要です。
臨時計算書類だからといって、これらの検討を省略できるわけではありません。
臨時計算書類を作成するだけでは足りない
臨時計算書類を作成する目的が配当や自己株式取得である場合、重要なのは「作成しただけでは分配可能額に反映できない」という点です。
取締役等が作成した臨時計算書類は、監査役設置会社であれば監査役の監査を受ける必要があります。会計監査人設置会社であれば、会計監査人の監査を受ける必要があります。
さらに、取締役会設置会社では取締役会の承認が必要です。原則として株主総会の承認も必要になります。
ただし、取締役会設置会社であり、会計監査人の無限定適正意見が付され、監査役等から会計監査人の監査方法または結果を相当でないと認める意見がないなど、一定の要件を満たす場合には、株主総会承認が不要となる場合があります。
実務上は、この承認プロセスを見落とすと、予定していた配当や自己株式取得のスケジュールに影響が出る可能性があります。
作成側の実務上の留意点
臨時計算書類の作成は、通常の年度決算より書類の範囲が限定されるとはいえ、実務負担は決して小さくありません。特に、次の点に注意が必要です。
経理部門だけで完結しない
臨時計算書類は、経理部門だけで作成できるものではありません。
在庫、固定資産、退職給付、税金、偶発債務、後発事象、減損検討など、さまざまな情報を関係部署から収集する必要があります。
通常の年度決算と同様に、事業部門、人事部門、法務部門、総務部門、経営企画部門、子会社管理部門などの協力が必要になる場合があります。
臨時計算書類の作成目的や重要性を社内に説明し、必要な資料提出を依頼する体制づくりが重要です。
スケジュール管理が難しい
臨時計算書類は、任意の臨時決算日を定めて作成します。
そのため、通常の年度決算とは異なるスケジュールで、決算処理、資料収集、監査対応、取締役会承認、株主還元の意思決定を進める必要があります。
特に、政策保有株式の売却や大規模な資産売却など、株主還元の前提となる取引が秘匿性の高い案件である場合、現場部門への情報共有が遅れることがあります。
しかし、決算は経理部門だけでは締まりません。どのタイミングで、どの部署を巻き込むかを事前に設計しておく必要があります。
事前準備が成否を分ける
臨時計算書類を円滑に作成するためには、事前準備が非常に重要です。
たとえば、次のような準備が考えられます。
臨時決算日の候補を検討する
臨時計算書類のひな形を準備する
必要な注記項目を洗い出す
臨時決算特有の会計処理を採用するか検討する
関係部署から収集する資料を整理する
監査人と事前協議を行なう
取締役会・監査役会の日程を確保する
外部専門家が必要な項目を確認する
特に、固定資産の減損検討で不動産鑑定士などの外部専門家を利用する場合には、臨時決算でも同様の対応が必要になる可能性があります。年度決算のタスク一覧を参考に、臨時決算で必要となる作業を前倒しで確認しておくことが重要です。
会計監査人設置会社の監査対応
会計監査人設置会社では、臨時計算書類についても会計監査人の監査が必要になります。
ここで重要なのは、臨時計算書類の監査であっても、監査の水準が簡便になるわけではないという点です。
臨時計算書類では開示項目が限定され、一部の会計処理について簡便的な取扱いが認められる場合があります。しかし、会計監査そのものについては、年度決算の監査と同水準の対応が求められると考えるべきです。
そのため、会計監査人への早めの打診が不可欠です。
監査法人は通常、年度監査、四半期・半期レビュー、有価証券報告書監査などを前提に年間スケジュールを組んでいます。臨時計算書類の監査は通常スケジュール外の業務となるため、突然依頼しても対応が難しい場合があります。
臨時計算書類を作成する可能性が出てきた段階で、早めに監査人へ相談し、監査スケジュールと必要資料を確認しておくことが重要です。
内部統制対応にも注意
上場会社では、財務報告に係る内部統制の整備・運用状況の評価も監査対応に影響します。
臨時計算書類の監査においても、監査人が内部統制の整備・運用状況を評価し、その結果を踏まえて監査手続を実施することがあります。
通常の年度監査では、内部統制の評価スケジュールが年間で組まれていることが多いですが、臨時計算書類を作成する場合には、そのタイミングに合わせて内部統制評価を組み直す必要が生じる可能性があります。
また、内部統制は経理部門だけの問題ではありません。販売、購買、在庫管理、固定資産管理、ITシステムなど、フロント部門やシステム部門も関係します。
臨時計算書類の監査対応を円滑に進めるには、決算スケジュールだけでなく、内部統制評価やIT統制対応も含めて監査人と協議することが重要です。
半期報告書・決算短信とのスケジュール調整
3月決算の上場会社が9月末を臨時決算日とする場合、9月末は半期報告書の決算日でもあります。
半期報告書は、中間決算日から45日以内に提出する必要があり、企業の都合だけで後ろ倒しすることはできません。
そのため、臨時計算書類の作成・監査と、半期報告書の作成・レビューが同時並行で進む可能性があります。
実務上は、監査人と協議のうえ、半期報告書のレビュー報告書日と臨時計算書類の監査報告書日をずらすなど、リソースを踏まえたスケジュール調整が必要になります。
臨時決算日を普段の決算日からずらすことも選択肢ですが、通常とは異なる日を決算日とすると、在庫、債権債務、税金、内部統制、システム締め処理などに追加負荷が生じる可能性があります。
したがって、臨時決算日は、株主還元の目的、作成者側のリソース、監査人のリソース、既存の決算スケジュールを総合的に考えて決定する必要があります。
臨時計算書類作成でよくある実務上の落とし穴
臨時計算書類の作成では、次のような点が見落とされがちです。
試算表ベースで足りると誤解している
会計監査人の監査が必要なことを後から認識する
取締役会や株主総会承認のスケジュールを確保していない
関係部署への資料依頼が遅れる
臨時決算特有の会計処理を注記していない
後発事象や偶発事象の検討を省略している
内部統制評価のスケジュールを監査人と調整していない
半期報告書や決算短信との作業重複を考慮していない
外部専門家の利用が必要な項目を見落としている
分配可能額の計算と連結配当規制の確認が不十分
これらの落とし穴を避けるためには、臨時計算書類を「臨時の簡単な書類」と考えず、「期中にもう一度、会社法決算を行う」くらいの意識で準備することが大切です。
公認会計士の視点から見た実務対応のポイント
公認会計士の視点から見ると、臨時計算書類作成で特に重要なのは、次の3点です。
目的と金額的重要性を明確にする
臨時計算書類を作成する目的が、配当なのか、自己株式取得なのか、グループ内資金移動なのかによって、必要なスケジュールや社内説明の仕方が変わります。
また、分配可能額にどの程度の影響があるのか、臨時計算書類を作成するコストや監査対応負荷に見合うのかも検討が必要です。
通常決算と同じレベルの準備をする
開示項目は限定的でも、会計処理・監査・承認手続の負荷は小さくありません。
年度決算のチェックリストをベースに、臨時計算書類で必要な項目、不要な項目、簡便処理を採用する項目を整理しておくことが重要です。
監査人との事前協議を早めに行なう
臨時計算書類の監査は、監査人にとっても通常スケジュール外の対応になることがあります。作成可能性がある段階で監査人に相談し、必要な監査手続、提出資料、日程、内部統制対応を確認しておくことが、スムーズな実務対応につながります。
まとめ
臨時計算書類は、期中に発生した損益を分配可能額に反映させることで、配当や自己株式取得などの株主還元を機動的に行うための有効な手段です。
政策保有株式の売却益や資産売却益を早期に株主還元へ活用したい場合、また子会社から親会社への配当を早めたい場合などに、検討する価値があります。
一方で、臨時計算書類は単なる社内資料ではなく、会社法上の計算書類です。会計監査人設置会社では監査が必要であり、取締役会承認や株主総会承認、一定の承認特則の検討も必要になります。
また、臨時決算特有の会計処理、注記、継続企業の前提、後発事象、偶発事象、内部統制評価、半期報告書とのスケジュール調整など、実務上の論点は多岐にわたります。
臨時計算書類の作成を検討する企業は、早い段階から経理・財務・法務・IR・関係部署・監査人を巻き込み、目的、スケジュール、必要資料、監査対応を整理しておくことが重要です。
株主還元を機動的に行なうためには、会計・会社法・監査の実務を踏まえた慎重な準備が欠かせません。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。





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