墨出し工事は簡易課税の第何種事業?建設現場の役務だから「第4種」とは限らない
おはようございます!代表の安田です。
建設業を営む事業者が消費税の簡易課税制度を適用するとき、特に判断が難しいのが「事業区分」です。
建設現場で行なう仕事なら、すべて第3種事業の建設業になると思われがちです。また、材料をほとんど使わず、作業員による役務提供が中心であれば、第4種事業だと考える方もいるでしょう。
しかし、実際の事業区分は、作業場所や材料費の有無だけでは決まりません。業務内容を日本標準産業分類に当てはめた結果、第5種事業に該当するケースもあります。
その代表例として注意したいのが、建設現場における「墨出し」です。
本日は、墨出し業務の簡易課税における事業区分を題材として、第3種・第4種・第5種の違い、判定を誤りやすい理由、複数の業務を行う場合の実務対応を税理士が解説します。
そもそも墨出しとは
墨出しとは、設計図面に基づき、建設現場の床、壁、柱などへ、工事の基準となる線や位置を表示する作業です。
具体的には、次のような位置を現場に示します。
建物の基準線や通り芯
柱や壁の位置
開口部の位置
床や天井の高さ
仕上げ面の位置
設備を設置する位置
墨つぼ、レーザー機器、測量機器などを用いて、図面上の情報を現場へ正確に反映させます。建築工事の精度を確保するために欠かせない仕事ですが、一般的には大量の資材を納入する業務ではなく、専門的な技術と役務の提供が中心です。
ここで、
材料をほとんど使用しない役務提供だから、第4種事業ではないか
と判断したくなるところですが、簡易課税ではもう一段階の検討が必要です。
簡易課税制度とは
簡易課税制度は、実際に支払った消費税額を一件ずつ集計する代わりに、課税売上げに係る消費税額へ、事業区分ごとの「みなし仕入率」を乗じて仕入控除税額を計算する制度です。
基準期間における課税売上高が5,000万円以下であるなどの要件を満たし、原則として適用を受ける課税期間の初日の前日までに届出書を提出した事業者が利用できます。
現在の事業区分とみなし仕入率は、次のとおりです。
事業区分 | 主な事業 | みなし仕入率 |
第1種事業 | 卸売業 | 90% |
第2種事業 | 小売業、一定の農林漁業 | 80% |
第3種事業 | 建設業、製造業など | 70% |
第4種事業 | 他の区分に該当しない事業、飲食店業など | 60% |
第5種事業 | 運輸通信業、金融・保険業、サービス業 | 50% |
第6種事業 | 不動産業 | 40% |
同じ課税売上げでも、どの区分を適用するかによって納付税額が大きく変わります。
墨出しは第3種事業の「建設業」ではないのか
第3種事業には、原則として建設業が含まれます。
そのため、建設現場で行う墨出しについても、直感的には第3種事業と考えやすいでしょう。
しかし、日本標準産業分類における建設業は、主として注文または自己建設によって、建築物や土木施設などを新設、改造、修繕、解体、移設する事業をいいます。
一方で、建設工事に関する企画、調査、測量、設計、監督などを行う事業は、建設業から除かれ、原則として「学術研究、専門・技術サービス業」に分類されます。
墨出しは、設計図面の情報を現場へ反映し、工事の基準となる位置を示す専門的な技術サービスという性質を持ちます。
そのため、実際の業務内容が建物そのものを施工する工事ではなく、測量や位置表示に近い専門的サービスである場合には、日本標準産業分類上の建設業ではなく、専門・技術サービス業に該当する可能性があります。
この場合、簡易課税上は第3種事業ではなく、原則として第5種事業として判定することになります。
材料を使わないから第4種事業、とは限らない
第3種事業に含まれる建設業や製造業であっても、「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供」は、第3種事業から除かれ、一般には第4種事業に該当します。
たとえば、発注者から材料の支給を受け、事業者側は加工だけを行い、加工賃を受け取る場合などです。
このルールから、
墨出しは材料を仕入れず、人の作業だけで報酬を受け取るので第4種事業
と考える方もいます。
しかし、ここには落とし穴があります。
国税庁は、日本標準産業分類上、運輸通信業、金融・保険業、サービス業に該当する事業については、加工賃その他これに類する役務提供であっても、第4種ではなく第5種事業になると説明しています。
つまり、判定の順序は単純に、
材料があるか
材料がなければ第4種
というものではありません。
まず、業務そのものが日本標準産業分類上どの産業に該当するかを確認する必要があります。専門・技術サービス業に分類される墨出しであれば、役務提供が中心であっても、第5種事業となる可能性が高いということです。
測量業も第5種事業になる
日本標準産業分類では、基準点測量、地図作成のための測量、土木測量、河川測量、境界測量などの専門的サービスは、「測量業」として学術研究、専門・技術サービス業に分類されています。
現在の日本標準産業分類でも、建設工事の企画、調査、測量、設計、監督などは建設業に含まれず、専門・技術サービス業に分類する考え方が維持されています。
墨出しと測量は完全に同じ業務ではありませんが、実態が図面や測量データに基づく位置出し、基準線の設定、精度管理などの専門的サービスである場合は、第5種事業と判断するうえで重要な参考になります。
ただし、「墨出し」という業務名だけで機械的に決めるのではなく、契約書、見積書、作業内容、成果物などから実態を確認する必要があります。
第4種と第5種では税額がどれくらい変わる?
簡単な例で比較してみましょう。
次の条件を前提とします。
税抜課税売上高:1,000万円
売上げに係る消費税:100万円
貸倒れや売上返品などは考慮しない
地方消費税の細かな計算は省略
<第4種事業の場合>
第4種事業のみなし仕入率は60%です。
仕入控除税額=100万円×60%=60万円
したがって、国税部分の計算イメージでは、差引税額は40万円です。
<第5種事業の場合>
第5種事業のみなし仕入率は50%です。
仕入控除税額=100万円×50%=50万円
差引税額は50万円となります。
第4種と第5種の違いにより、この例では年間10万円の差が生じます。
課税売上高が大きい事業者では、区分を一つ間違えるだけで、数十万円から数百万円単位の申告誤りにつながることがあります。
事業区分は会社単位ではなく取引ごとに判定する
簡易課税の事業区分は、会社全体の主な業種だけを見て決めるものではありません。
国税庁は、原則として課税資産の譲渡等ごと、つまり取引単位ごとに事業区分を判定するとしています。
たとえば、同じ建設関連事業者でも、次のような取引が混在することがあります。
材料を自社で調達して請け負う建設工事
墨出しや測量に近い専門サービス
建設機械の貸付け
オペレーター付き建設機械の提供
資材の販売
不要となった固定資産の売却
これらがすべて同じ事業区分になるとは限りません。
会社の登記目的や建設業許可の業種だけを見て、「当社は建設会社だから売上げは全部第3種」と処理すると、誤りが生じる可能性があります。
建設関連で区分が分かれやすい取引
建設現場では、一つの事業者が複数種類の取引を行なうことがあります。
材料を自社で調達して施工する工事
建築物や工作物の新設、改造、修繕などを請け負い、自社で材料を調達して施工する一般的な建設工事は、原則として第3種事業です。
第3種事業のみなし仕入率は70%です。
材料支給による加工・施工のみ
発注者から主要材料の支給を受け、加工賃や施工賃だけを受け取る取引は、第3種事業から除かれ、第4種事業になる可能性があります。
ただし、その業務自体が日本標準産業分類上のサービス業に該当する場合には、第5種事業となるため、単に材料支給の有無だけでは判定できません。
設計・測量・監理
建築設計、測量、工事監理などは、日本標準産業分類上、建設業ではなく学術研究、専門・技術サービス業に分類されるため、簡易課税では原則として第5種事業です。
建設機械の貸付け
建設機械をオペレーターなしで貸し付ける取引は、物品賃貸業として第5種事業になる可能性があります。一方、オペレーター付きで提供し、実質的に作業を請け負っている場合には、作業内容によって第3種、第4種または第5種などの判定が必要です。
建設資材の運搬
他人の依頼を受けて資材を運搬する取引は、運輸業として原則第5種事業となります。
ただし、自社が請け負った工事に付随して資材を運ぶ場合など、工事代金と運送代金が一体となっているケースでは、社会通念上の取引単位や契約内容を確認します。
「取引の場所」ではなく「取引の内容」で判断する
事業区分でよくある誤解は、作業場所だけで業種を決めることです。
たとえば、
建設現場で行なうので建設業
工場内で行うので製造業
店舗内で行うので小売業
とは限りません。
簡易課税では、どこで仕事をしたかよりも、顧客へ何を提供し、その対価として何を受け取ったかを確認します。
墨出しについても、建設現場で作業するという事実だけでは不十分です。
実態が建設物の施工そのものなのか、専門的な位置出し・測定サービスなのかを区別する必要があります。
業務名だけで判断するのも危険
同じ「墨出し」という名称でも、契約内容や作業範囲は事業者によって異なります。
たとえば、次のようなケースが考えられます。
専門的な墨出しのみを請け負う場合
設計図面を基に、レーザー機器などを使って基準線や仕上げ位置を示すだけであり、実際の建設施工を行わない場合です。
この場合は、専門・技術サービス業として第5種事業に該当する可能性が高いでしょう。
墨出しと施工を一体で請け負う場合
墨出しだけでなく、型枠工事や内装工事なども含めて一体の工事として請け負う場合です。
社会通念上、一つの建設工事として取引されており、対価も区分されていなければ、全体を第3種事業として扱う可能性があります。
一方、墨出し代と施工代が明確に区分され、それぞれ独立した取引と認められる場合には、区分ごとに判定することも考えられます。資産の譲渡と役務提供が混在し、対価が明確に区分されている場合には、原則として区分後の取引ごとに判定します。
作業員の派遣に近い場合
発注者の指揮命令に従って作業員を提供するだけで、仕事の完成に責任を負わない場合には、通常の請負とは異なる検討が必要です。
税務だけでなく、労働者派遣法や偽装請負の問題が生じる可能性もあるため、契約実態を慎重に確認すべきです。
日本標準産業分類は最新内容を確認する
簡易課税の第3種事業や第5種事業は、おおむね日本標準産業分類の大分類を基礎として判定します。
日本標準産業分類は改定されることがあります。現在は、2023年7月改定版が公表されています。
古い書籍や過去の社内マニュアルだけを参照すると、分類名や具体例が現在の内容と一致しない可能性があります。
もっとも、日本標準産業分類はあくまで重要な判断材料であり、分類コードだけで消費税上の事業区分がすべて自動的に決まるわけではありません。
国税庁の通達、質疑応答事例、契約内容や取引実態も合わせて検討します。
複数の事業を行なう場合は売上げを区分する
墨出し以外に建設工事や資材販売も行っている場合、事業区分ごとに課税売上高を区分して記帳することが重要です。
たとえば、次のように補助科目や売上区分を設けます。
売上区分 | 想定される事業区分 |
建設工事売上 | 第3種 |
墨出し・測量関連売上 | 第5種 |
材料支給による加工賃売上 | 第4種となる可能性 |
資材卸売 | 第1種 |
資材小売 | 第2種 |
固定資産売却 | 第4種 |
2種類以上の事業を行なっているにもかかわらず、売上げを事業区分ごとに分けていない場合、区分できない部分には、その中で最も低いみなし仕入率が適用されます。
したがって、決算時にまとめて判断しようとするのではなく、日々の記帳段階で区分することが重要です。
請求書にも業務内容を具体的に記載する
事業区分を説明するためには、請求書や見積書の記載も重要です。
単に「工事一式」「作業代」「建設業務」などと記載していると、後から取引内容を確認できません。
できる限り、次のように具体的な名称を使用しましょう。
建築基準墨出し業務
躯体墨出し業務
仕上げ墨出し業務
測量・位置出し業務
型枠工事
資材費
作業員費
建設機械賃貸料
運搬料
業務が複数ある場合には、金額も合理的に区分して記載します。
契約書、注文書、作業報告書、請求書の内容が一致していれば、税務調査時にも事業区分を説明しやすくなります。
簡易課税で起こりやすい事業区分の誤り
1.建設現場の仕事をすべて第3種にする
設計、測量、監理、墨出しなど、建設現場に関連する業務でも、専門・技術サービス業として第5種になるものがあります。
2.材料を使わない役務はすべて第4種と考える
サービス業に分類される役務提供は、材料費がほとんどなくても第5種となる可能性があります。
3.会社の主な業種だけで全取引を処理する
簡易課税の事業区分は、原則として取引ごとに判定します。
4.売上げを区分せず、決算時に推測する
複数事業の売上げを帳簿上区分していなければ、不利なみなし仕入率を適用することになる場合があります。
5.日本標準産業分類の名称だけで結論を出す
分類は重要ですが、契約内容や取引実態、対価の内訳まで確認しなければ正しい判定はできません。
6.前年と同じ区分を機械的に使用する
業務内容や契約方法が変われば、事業区分も変わる可能性があります。
新しい取引先、新規業務、外注方法の変更があった場合は再判定しましょう。
事業区分を確認するためのチェックリスト
簡易課税を適用する建設関連事業者は、次の事項を確認しましょう。
顧客へ提供しているものは工事の完成か、専門サービスか
建設物そのものを新設、修繕、改造しているか
設計、測量、調査、監理、位置出しだけを行っていないか
主要材料を自社で調達しているか
発注者から材料の支給を受けているか
請負契約か、業務委託契約か
仕事の完成責任を負っているか
複数の業務の対価が区分されているか
請求書に業務内容を具体的に記載しているか
事業区分ごとに売上高を記帳しているか
日本標準産業分類の最新版を確認したか
前期と比べて業務内容に変化がないか
まとめ
建設現場で行なわれる墨出しは、作業場所だけを見れば建設業のように思えます。
しかし、実態が設計図面に基づく位置出し、測定、基準線の表示などの専門的な技術サービスである場合、日本標準産業分類上の専門・技術サービス業に該当し、簡易課税では第5種事業となる可能性があります。
重要なポイントは次のとおりです。
建設現場で行う業務がすべて第3種事業になるわけではない
材料を使わない役務提供がすべて第4種事業になるわけでもない
測量、設計、監理などの専門サービスは原則として第5種事業
墨出しも、業務実態によって第5種事業となる可能性が高い
事業区分は会社単位ではなく、原則として取引ごとに判断する
複数事業の売上げは日々の帳簿で区分する
契約書、見積書、請求書、作業報告書を整備する
名称だけではなく、実際に何を提供しているかを確認する
簡易課税は計算方法そのものは比較的シンプルですが、事業区分の判断を誤ると、納付税額も大きく変わります。
特に建設業、修理業、測量業、設計業など、複数の事業区分が隣接する業務については、初めて取引を行う段階で税理士へ確認することをおすすめします。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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