非上場株式の評価方法が大幅見直しへ|残余利益方式に原則一本化、資産管理会社は純資産価額方式へ
おはようございます!代表の安田です。
非上場会社の株式、いわゆる「取引相場のない株式」の評価方法が、大きく変わる可能性があります。
国税庁は2026年8月20日に開催した「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」で、現在の会社規模に応じて類似業種比準方式・純資産価額方式などを使い分ける仕組みを見直し、原則として「残余利益方式」に一本化する案を示しました。
一方、資産管理会社や組織再編直後の会社など、残余利益方式では適切な評価になりにくい会社については、純資産価額方式を原則適用する方向で検討されています。
さらに、少数株主に適用される配当還元方式も、対象者や計算方法の見直しが検討されています。
現時点ではまだ検討段階ですが、実現すればオーナー企業の相続・事業承継、持株会社や資産管理会社を利用した株価対策などに大きな影響が出る可能性があります。
本日は、非上場株式の評価制度について、現在の仕組みと見直し案の違い、新たに導入が検討されている残余利益方式、資産管理会社や配当還元方式への影響を公認会計士が解説します。
現在の非上場株式の評価方法
現在、非上場株式の相続税・贈与税評価では、株主の属性や会社規模などによって評価方法が異なります。
同族株主等が株式を取得する場合の原則的評価方式は、おおむね次のように整理されています。
会社区分 | 現在の原則的な評価方法 |
大会社 | 類似業種比準方式 |
中会社 | 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用 |
小会社 | 純資産価額方式 |
一定の特定評価会社 | 原則として純資産価額方式 |
同族株主等以外の一定の株主 | 配当還元方式 |
この制度では、会社の規模によって評価方法が変わります。
そのため、経済的な実態が似ている会社でも、会社規模区分が違うことで株価評価に差が生じることがあります。
国税庁の見直し案では、この企業規模による評価方式の違いを原則廃止する方向が示されています。
見直し後は「残余利益方式」に原則一本化
見直し案の大きなポイントが、幅広い非上場会社について「残余利益方式」を共通の原則的評価方式とすることです。
整理すると次のようになります。
項目 | 現行 | 見直し案 |
大会社 | 類似業種比準方式 | 残余利益方式 |
中会社 | 併用方式 | 残余利益方式 |
小会社 | 純資産価額方式 | 残余利益方式 |
特殊な会社 | 特定評価会社として別途判定 | 新たな区分を設け純資産価額方式 |
少数株主 | 配当還元方式 | 対象範囲・算式を見直し |
これまでの「会社規模による使い分け」から、
一般的な事業会社 → 残余利益方式
資産管理会社等 → 純資産価額方式
という形に整理し直す方向といえます。
残余利益方式とは
残余利益方式は、会社が保有する純資産だけでなく、企業の収益獲得能力を株価に反映させる評価方法です。
見直し案では、時価純資産ではなく、直前期末の簿価純資産を出発点とします。
そこに、企業が通常期待される利益を上回って稼ぐ部分である「残余利益」を加減算して株式価値を計算します。
イメージすると、
株式価値= 簿価純資産+ 将来の残余利益の現在価値× 一定のしんしゃく率
という考え方です。
今回の見直し案では、残余利益を5年間加算するモデルが示されています。
「残余利益」とは何か
残余利益とは、簡単にいえば、
会社が株主から預かった資本に対して通常求められる利益を上回って稼いだ利益
です。
例えば、簿価純資産100億円の会社について、株主が期待する収益率を仮に8%とすると、通常期待される利益は8億円です。
実際の利益が12億円だった場合、「12億円-8億円=4億円」が残余利益というイメージになります。
逆に実際の利益が5億円であれば、「5億円-8億円=△3億円」となり、企業価値を引き下げる方向に働きます。
したがって、新方式では単純に純資産が多い会社ほど株価が高くなるのではなく、その純資産を使ってどれだけ利益を生み出しているかが重要になります。
現行の純資産価額方式との違い
特に大きな違いは、継続企業としての収益力を反映する点です。
項目 | 純資産価額方式 | 残余利益方式 |
基本的な考え方 | 会社の資産・負債価値を重視 | 純資産+収益力を重視 |
基礎となる純資産 | 時価ベースの評価が重要 | 簿価純資産 |
収益力 | 直接の中心要素ではない | 残余利益として直接反映 |
保有資産の時価洗替 | 必要となる場合がある | 原則不要となる方向 |
継続企業としての評価 | 相対的に弱い | 重視 |
見直し案では、簿価純資産と過去数年の利益など、法人税申告書等から確認できる情報を中心に計算できるため、資産を一つひとつ時価評価する必要がなくなり、事務負担の軽減も期待されています。
高収益企業では株価が高くなる可能性
残余利益方式では収益獲得能力が評価額に反映されるため、利益率の高い会社では評価額が高くなる可能性があります。
例えば、同じ簿価純資産100億円の会社でも、
会社 | 簿価純資産 | 収益力 | 残余利益方式への影響 |
A社 | 100億円 | 高い | 株価を押し上げる方向 |
B社 | 100億円 | 標準的 | 純資産価額に近づきやすい |
C社 | 100億円 | 低い | 株価を押し下げる方向 |
となる可能性があります。
そのため、事業承継を予定している収益力の高いオーナー企業では、新制度への移行により株価評価がどのように変化するか、今後の具体的な算式が公表された段階でシミュレーションすることが重要です。
資産管理会社は純資産価額方式へ
一方、すべての会社を残余利益方式で評価すると適切でないケースもあります。
例えば、事業活動による利益よりも、不動産や有価証券など保有資産そのものの価値が会社価値の中心となっている「資産管理会社」です。
そこで見直し案では、「特定の評価会社」の区分も再編し、
資産管理会社
組織再編成直後の会社
開業後5年未満の会社
などを新たな区分として設け、これらに該当する会社については純資産価額方式を原則適用する方向で検討されています。
<見直し後の大まかなイメージ>
会社の性質 | 原則的な評価方法案 |
通常の事業会社 | 残余利益方式 |
資産管理会社 | 純資産価額方式 |
組織再編成直後の会社 | 純資産価額方式 |
開業後5年未満の会社 | 純資産価額方式 |
一定の少数株主 | 見直し後の配当還元方式 |
なぜ資産管理会社は残余利益方式にしないのか
資産管理会社の場合、毎期の利益だけでは会社価値を適切に表せないケースがあります。
例えば、
多額の上場株式を保有
賃貸不動産を大量に保有
投資用資産を中心に運用
本業による営業活動が限定的
という会社では、収益力だけを中心に評価すると、保有資産の価値を十分に反映できない可能性があります。
そこで、資産の価値を直接反映しやすい純資産価額方式を適用するという考え方です。
組織再編直後の会社も注意
見直し案では、「組織再編成直後の会社」についても純資産価額方式を適用する方向で検討されています。
例えば、
会社分割
合併
株式交換
株式移転
などの直後では、過去の利益実績が再編後の会社の収益力を適切に表していない場合があります。
残余利益方式は過去の利益情報を利用するため、このようなケースについて別の評価方法を用いる考え方には一定の合理性があります。
配当還元方式も見直しへ
今回の見直しでは、少数株主向けの「配当還元方式」も対象になっています。
現行制度では、同族株主等以外の一定の株主について、会社全体の企業価値ではなく、受け取る配当を中心に株式を評価する配当還元方式が認められています。
ところが、この仕組みを利用して株主構成や議決権割合を調整し、低い株価評価を実現するケースが問題視されていました。
そのため見直し案では、配当還元方式の対象を「特定の少数株主」に限定するとともに、
評価算式そのものについても見直す方向で検討されています。
資産管理会社を使った株価圧縮対策にも影響
資産管理会社の株主構成や議決権割合を調整することによって、配当還元方式だけを適用し、株価評価を圧縮するスキームが利用されていました。
今回の見直しが実現すると、
資産管理会社 → 純資産価額方式
配当還元方式 → 対象者を限定
という双方の改正によって、従来利用されてきた一部の評価圧縮手法が利用しにくくなる可能性があります。
そのため、オーナー企業の相続対策や持株会社スキームについては、新評価制度を前提として再検討する必要が出てきそうです。
相続・事業承継への影響
非上場株式の評価額は、オーナー経営者の相続税・贈与税に大きく影響します。
今回の見直しが実施されれば、例えば次のような会社で影響を受ける可能性があります。
会社の状況 | 想定される主な影響 |
高収益の事業会社 | 残余利益が大きくなり評価額上昇の可能性 |
低収益の事業会社 | 残余利益がマイナスとなり評価額が低下する可能性 |
資産管理会社 | 純資産価額方式が原則となる方向 |
組織再編直後 | 残余利益方式ではなく純資産価額方式となる可能性 |
配当還元方式を利用している株主 | 適用できなくなる可能性 |
事業承継を予定する会社 | 新旧制度による株価比較が重要 |
ただし、具体的に株価が上がるか下がるかは、今後確定する算式や各企業の財務内容によって異なります。
今後の適用スケジュール
今回公表された内容は、まだ確定した制度ではありません。
国税庁が2026年8月20日の有識者会議で示した見直し案です。
次回の有識者会議は2026年9月16日(水)に予定されており、今後、令和9年度税制改正大綱への盛込みを目指しています。
順調に進めば、早ければ2028年(令和10年)から新しい評価方式が適用される見通しとされています。
<想定スケジュール>
時期 | 内容 |
2026年8月20日 | 国税庁が見直し案を提示 |
2026年9月16日 | 次回有識者会議予定 |
令和9年度税制改正 | 制度改正を検討 |
早ければ2028年 | 新評価方式の適用開始見込み |
現時点では正式決定ではないため、具体的な相続・贈与を行なう際には最新情報を確認する必要があります。
今から企業オーナーが確認しておきたいこと
制度が確定する前であっても、事業承継や相続を予定している企業では、自社への影響を整理しておくことが有用です。
特に確認したいのは次の事項です。
確認事項 | ポイント |
現行株価 | 現行制度で株価を把握 |
会社区分 | 大会社・中会社・小会社等 |
過去の利益 | 新方式では収益力が重要 |
簿価純資産 | 残余利益方式の基礎 |
資産内容 | 資産管理会社に該当する可能性 |
組織再編 | 再編予定・実施直後か |
株主構成 | 配当還元方式への影響 |
事業承継予定 | 株式移転の時期を確認 |
制度案が具体化した段階で、現行評価額と新方式による評価額を比較することが重要になります。
残余利益方式では「利益を出すほど株価が上がる」側面も
今回の見直し案は、事業承継実務において大きな意味を持つ可能性があります。
これまで類似業種比準方式では、利益だけでなく配当や純資産など複数の要素によって評価が行なわれてきました。
一方、新たな残余利益方式では、企業の収益獲得能力がより直接的に株価へ反映される仕組みとなります。
したがって、優良企業ほど事業承継時の株価が高くなるという側面が強まる可能性があります。
もちろん、実際の影響は最終的な計算方法や「しんしゃく率」などがどのように決定されるかによって左右されます。
今後の制度設計を注視する必要があります。
まとめ
国税庁は、非上場株式の相続税・贈与税評価について大幅な見直し案を示しました。
今回の主なポイントは次のとおりです。
大会社・中会社・小会社という企業規模による評価方式の使い分けを廃止する方向
一般の非上場会社は「残余利益方式」に原則一本化
残余利益方式は簿価純資産に収益獲得能力を加減算して評価
過去の貸借対照表・損益計算書等を利用でき、資産の時価洗替が原則不要となる方向
資産管理会社は純資産価額方式を原則適用する方向
組織再編直後の会社、開業後5年未満の会社等も純資産価額方式の対象として検討
配当還元方式は適用できる少数株主の範囲を縮小する方向
配当還元方式の算式自体も見直し
従来の株主構成を利用した一部の評価圧縮スキームは利用しにくくなる可能性
早ければ2028年から新制度が適用される見通し
特に、オーナー企業の相続・事業承継にとって重要なのは、一般的な事業会社では「会社規模」よりも「収益力」が株式評価に大きく影響する制度へ変わる可能性があることです。
一方、資産管理会社については、収益力ではなく資産価値を重視する純資産価額方式が原則となる方向です。
現時点ではあくまで検討案ですが、数年以内に事業承継・贈与・相続を予定している企業オーナーは、制度の確定を待つだけでなく、現在の株価評価、簿価純資産、利益水準、株主構成などを整理し、新制度による影響を早めに検討できるよう準備しておくことが重要です。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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