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コーポレートガバナンス・コードの「相当数の反対票」とは?取締役会に求められる分析と対応

執筆者の写真: 安田亮
安田亮
12 時間前
読了時間: 13分

こんばんは!代表の安田です。


金融庁と東京証券取引所は、2026年7月21日、改訂版のコーポレートガバナンス・コードを公表しました。


今回の改訂では、株主総会で会社提案議案に「相当数の反対票」が投じられた場合に、取締役会が反対理由や反対票が増えた原因を分析し、株主の権利確保に向けて適切に対応することが求められています。


もっとも、コーポレートガバナンス・コードでは、「相当数」が具体的に何%以上を指すのかは定められていません。


株主構成や支配株主の有無、機関投資家の比率などは会社ごとに異なるため、一律の数値基準を設けるのではなく、各社の取締役会が合理的に判断すべきとの考え方が示されています。


その一方で、判断が場当たり的にならないよう、会社として客観的な基準をあらかじめ定めておくことが有益とされています。


本日は、コーポレートガバナンス・コードにおける「相当数の反対票」の考え方、コンプライ・オア・エクスプレインとの関係、取締役会やIR部門が準備すべき実務対応について、公認会計士の視点から解説します。


「相当数の反対票」に関する原則の概要

改訂コーポレートガバナンス・コードの原則1-3では、株主総会で相当数の反対票が投じられた会社提案議案があった場合、取締役会に対して、反対理由や反対票が多くなった原因を分析し、適切に対応することを求めています。


この考え方は、改訂前のコーポレートガバナンス・コードにも補充原則として盛り込まれていました。


今回の改訂でも、その重要性が高いとして内容が維持され、コンプライ・オア・エクスプレインの対象とされています。


つまり、対象となる上場会社は、原則に沿った対応を行うか、対応しない場合には、その理由を説明する必要があります。


単に議案が可決されたという結果だけで判断するのではなく、株主からどの程度の支持を得たか、その背景にどのような懸念があるかを取締役会が確認することが求められています。


コーポレートガバナンス・コードは法律なのか

コーポレートガバナンス・コードは、会社法のように、すべての項目を一律に義務付ける法令ではありません。


上場会社に対し、各原則を実施することを求めつつ、実施しない場合にはその理由を説明する「コンプライ・オア・エクスプレイン」の仕組みが採用されています。


したがって、「相当数の反対票」があった場合に必ず特定の手続を行わなければ、直ちに法令違反になるという性質のものではありません。


もっとも、合理的な理由なく対応しない場合や、十分な説明を行わない場合には、投資家からガバナンスに問題があると評価される可能性があります。


特に、毎年同じ取締役候補者に多くの反対票が集まっているにもかかわらず、会社が原因分析や改善対応を行っていない場合には、取締役会が株主の意思を軽視していると受け取られかねません。


「相当数」は何%以上なのか

今回の改訂でも、「相当数」に関する一律の数値基準は設けられていません。


パブリックコメントでは、「相当数」という表現が曖昧であり、実効性を確保するために定量的な目安を示すべきではないかとの意見が寄せられました。


これに対しては、どの程度の反対票を「相当数」とみるかは、会社ごとの株主構成や置かれた状況によって異なるため、取締役会が合理的に判断すべきとされています。


ただし、取締役会が判断するための客観的な基準を、社内であらかじめ設定しておくことは有益とされています。


たとえば、次のような基準を設けることが考えられます。

  • 反対率が20%以上となった議案

  • 前年から反対率が10ポイント以上増加した議案

  • 賛成率が会社の定める基準を下回った取締役候補者

  • 特定の機関投資家から継続的に反対されている議案

  • 議決権行使助言会社が反対推奨を行った議案

  • 支配株主の議決権を除くと賛成率が低い議案


これはあくまで実務上の例であり、すべての会社に同じ水準が適しているわけではありません。会社の株主構成や過去の議決権行使結果を踏まえ、自社に適した基準を検討する必要があります。


なぜ一律の数値基準を設けにくいのか

同じ反対率であっても、会社によって意味合いが異なります。


たとえば、安定株主や親会社が多くの議決権を持つ会社では、議案全体の賛成率が高くても、一般株主や機関投資家に限定すると反対率が高いことがあります。


一方、株主が広く分散している会社では、20%程度の反対票でも、多数の投資家が共通の懸念を持っている可能性があります。


また、取締役選任議案と定款変更議案、役員報酬議案では、反対票が示す意味も異なります。取締役選任議案で反対が多い場合には、候補者の独立性、在任期間、兼職状況、業績責任などが問題となっている可能性があります。


役員報酬議案であれば、報酬水準、業績との連動性、報酬決定プロセスなどが問題視されている可能性があります。


そのため、単に反対率だけを機械的に見るのではなく、議案の内容、株主構成、過去の推移、投資家との対話内容を総合的に分析することが重要です。


可決された議案でも分析が必要

株主総会では、通常、議案が必要な賛成数を得れば可決されます。


しかし、議案が可決されたからといって、ガバナンス上の問題がないとは限りません。

たとえば、取締役選任議案の賛成率が65%だった場合、議案そのものは可決されていても、約35%の株主が反対していることになります。


これは、相当数の株主が候補者の選任に懸念を持っていることを示しています。

特に、親会社や創業者などの大株主が賛成したことで議案が可決されている場合には、一般株主や機関投資家の支持率がさらに低い可能性があります。


取締役会は、法的に議案が成立したという結果だけでなく、株主からどの程度の信任を得ているかを確認する必要があります。


反対票が集まりやすい取締役選任議案

取締役選任議案では、候補者ごとに反対率が大きく異なることがあります。

一般に、次のような事情は反対票につながる可能性があります。


  • 独立性に対する疑問

社外取締役であっても、会社や親会社との取引関係、過去の勤務関係などから、実質的な独立性に疑問を持たれることがあります。


  • 長期在任

社外取締役の在任期間が長くなると、経営陣から独立した立場を維持できるかが問題視されることがあります。


  • 兼職数の多さ

多くの上場会社で役員を兼務している場合、その会社の取締役として十分な時間を確保できるかが懸念されます。


  • 業績不振や資本効率への責任

株価低迷、低いROE、資本コストを下回る収益性が続いている場合、代表取締役や社内取締役への反対票が増える可能性があります。


  • 不祥事や内部統制上の問題

会計不正、品質不正、情報漏えいなどの問題が発生した会社では、問題発生時の取締役に監督責任が問われることがあります。


  • 政策保有株式への対応不足

政策保有株式を多額に保有し続けている会社では、資本効率やガバナンスの観点から取締役への反対票が投じられることがあります。


反対票の原因分析で確認すべき事項

相当数の反対票があった場合には、単に反対率を集計するだけでなく、なぜ反対されたのかを分析する必要があります。


実務上は、次のような情報を確認することが考えられます。

  • 株主総会議案ごとの賛成率・反対率

  • 前年度からの賛成率の変化

  • 国内機関投資家の議決権行使基準

  • 海外機関投資家の議決権行使方針

  • 議決権行使助言会社の推奨内容

  • 株主との面談や質問で示された意見

  • 株主提案や事前質問の内容

  • 同業他社の議決権行使結果

  • コーポレートガバナンス報告書の記載

  • 取締役候補者に関する開示内容


特に重要なのは、反対票が一時的なものか、複数年度にわたって継続しているものかを確認することです。前年から反対率が大きく上昇している場合には、当年度に生じた経営課題や開示不足が影響している可能性があります。


取締役会に求められる対応

原因分析の結果、株主の懸念が合理的であると判断される場合には、取締役会として改善対応を検討する必要があります。


具体的には、次のような対応が考えられます。

  • 反対株主との対話

機関投資家などに対し、反対理由を直接確認します。

賛否の数字だけでは、独立性、業績、報酬、資本政策など、どの論点が問題となったのかを特定できないことがあります。


  • 取締役候補者の選定プロセスの見直し

候補者の独立性、スキル、在任期間、兼職数などを改めて検討します。

必要に応じて、指名委員会や独立社外取締役の関与を強化することも考えられます。


  • 開示の充実

候補者の選任理由や期待する役割について、招集通知や株主総会参考書類の説明を充実させます。会社側では合理的な候補者選定を行っていても、その理由が株主へ十分に伝わっていない可能性があります。


  • ガバナンス体制の改善

取締役会の構成、独立社外取締役の比率、委員会の役割などを見直します。


  • 経営課題への対応

資本効率、政策保有株式、役員報酬、不祥事対応など、反対理由となった経営課題に具体的な改善策を講じます。


対応を公表している企業の例

相当数の反対票への対応を公表している企業として、リコーと資生堂の事例があります。


リコーは、2024年と2025年に、取締役2名の賛成率が60%台となったことについて、分析結果や対応を公表しています。


また、資生堂は、自社が定める水準より賛成率が低い場合、反対した株主との対話を行い、その上で今後の対応を検討する方針をウェブサイトで示しています。


これらの事例からも、一定の基準を事前に設け、基準を下回った場合の分析・対話・対応プロセスを定めておくことが有効と考えられます。


社内基準を設けるメリット

「相当数」の判断基準を事前に設けることには、次のようなメリットがあります。

  • 対応の一貫性を確保できる

年度ごと、候補者ごとに恣意的な判断を行うことを防げます。


  • 取締役会への報告基準が明確になる

どの議案を取締役会で詳細に分析するかを事前に定められます。


  • 株主との対話を開始しやすい

一定の反対率を超えた場合に、IR部門が株主へ連絡するなど、社内手続を明確にできます。


  • 改善状況を継続的に管理できる

前年の反対理由と当年度の対応結果を比較できます。


  • 投資家に説明しやすい

会社が株主の意思をどのように把握し、ガバナンス改善に活用しているかを説明できます。


内部基準を設ける際の注意点

数値基準を設ける場合でも、その数値だけで対応の要否を判断するのは適切ではありません。


たとえば、内部基準を反対率20%以上としていた場合でも、反対率が19%で前年より10ポイント増えているのであれば、原因を確認すべき可能性があります。


反対率が基準未満でも、主要な機関投資家が共通の理由で反対している場合には、重要なガバナンス上の論点が含まれているかもしれません。


反対率だけでなく、次の要素を組み合わせて判断することが望まれます。

  • 絶対的な反対率

  • 前年度からの変化

  • 反対した株主の属性

  • 反対理由の共通性

  • 議案の重要性

  • 同業他社との比較

  • 支配株主を除いた賛成率

  • 複数年度にわたる継続性


取締役会議事録にも対応を残す

相当数の反対票があった場合には、取締役会で分析・検討を行った事実を議事録等に残すことも重要です。


たとえば、次のような事項を記録します。

  • 対象となった議案

  • 賛成率・反対率

  • 前年との比較

  • 反対理由の分析結果

  • 株主との対話方針

  • 改善策

  • 実施期限

  • 担当部門

  • 次回取締役会への報告時期


単に「株主総会結果を確認した」と記録するだけではなく、取締役会が株主の意思をどのように受け止め、何を検討したかが分かる内容にすることが望まれます。


IR部門と取締役会事務局の連携が重要

反対票の分析は、取締役会事務局だけでは十分に行えないことがあります。

機関投資家との日常的な対話は、IR部門が担当しているケースが多いためです。


実務上は、次のような連携体制が考えられます。

  1. 株主総会後に議案別・候補者別の賛成率を集計する

  2. 社内基準を下回った議案を抽出する

  3. IR部門が主要株主や機関投資家の意見を確認する

  4. 法務・総務部門が議決権行使助言会社の推奨理由を分析する

  5. 指名委員会・報酬委員会等で対応案を検討する

  6. 取締役会へ分析結果と対応案を報告する

  7. 必要に応じて対応内容を開示する


取締役会、指名委員会、IR部門、法務・総務部門が役割を分担し、反対票への対応を継続的なガバナンス改善につなげることが重要です。


企業が準備すべき実務対応

今回の改訂を踏まえ、上場会社は次のような準備を進めることが考えられます。


1.過去の議決権行使結果を分析する

直近3年から5年程度の議案別・候補者別の賛成率を整理します。


2.「相当数」の社内基準を定める

反対率、前年からの増加幅、主要株主の反対などを組み合わせた判断基準を設定します。


3.対応プロセスを文書化する

基準を超えた場合に、誰が分析し、どの委員会や取締役会へ報告するかを定めます。


4.株主との対話方法を整理する

面談、書面照会、議決権行使担当者との意見交換など、反対理由を把握する方法を決めます。


5.改善内容の開示方針を検討する

ウェブサイト、コーポレートガバナンス報告書、統合報告書などで、どこまで説明するかを整理します。


6.翌年度の議案に反映する

候補者選定や説明内容を見直し、反対理由への対応を次回株主総会へ反映します。


公認会計士の視点から見たポイント

「相当数の反対票」への対応は、単なる株主総会事務ではありません。


取締役会の実効性や経営者への信任を確認する重要なガバナンスプロセスです。

特に重要なのは、次の3点です。


  • 議案の可否だけで判断しない

可決された議案でも、一定数の株主が反対している場合には、その理由を確認する必要があります。


  • 数値と定性的な情報を組み合わせる

反対率だけでなく、株主との対話や議決権行使方針を踏まえて判断します。


  • 分析結果を改善行動につなげる

原因を分析して終わるのではなく、候補者選定、開示、資本政策などの具体的な改善へつなげることが重要です。


まとめ

改訂コーポレートガバナンス・コードでは、株主総会で会社提案議案に相当数の反対票が投じられた場合、取締役会に対して、反対理由や原因を分析し、適切に対応することを求めています。


「相当数」が何%以上かについて、一律の数値基準は示されていません。

株主構成や議案の内容など、各社の状況が異なるため、取締役会が合理的に判断することとされています。


一方、判断が恣意的にならないよう、次のような社内基準や手続を整備しておくことが有益です。

  • 議案別・候補者別の反対率

  • 前年度からの増加幅

  • 主要な機関投資家の反対状況

  • 支配株主を除いた賛成率

  • 反対理由の分析方法

  • 株主との対話手続

  • 取締役会への報告基準

  • 改善対応の進捗管理


相当数の反対票は、取締役会に対する株主からの重要なメッセージです。

議案が可決されたことで問題を終わらせるのではなく、反対理由を把握し、取締役会構成や経営課題、情報開示の改善につなげることが求められます。



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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。


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