公益通報者保護法が2026年12月に改正|フリーランス保護・刑事罰強化と企業の対応を解説
こんにちは!代表の安田です。
2026年12月1日から、改正公益通報者保護法が施行されます。
今回の改正では、フリーランスが新たに保護対象に加わるほか、公益通報を理由とする解雇・懲戒に対する刑事罰が新設されるなど、通報者保護が大幅に強化されます。
また、通報を妨害する行為や、通報者を特定しようとする「探索行為」も禁止されます。
企業にとって重要なのは、単に内部通報窓口を設けているだけでは十分ではないという点です。
内部通報制度が実際に機能し、通報者が不利益を受けることなく、通報された不正を適切に調査・是正できる仕組みが求められます。
特に、会計不正の発覚経路として内部通報は重要な役割を果たしています。経理・財務業務をフリーランスの公認会計士や経理経験者へ委託している企業にとっても、今回の改正は無関係ではありません。
本日は、2026年12月施行の改正公益通報者保護法について、改正内容、企業に求められる対応、会計不正防止への影響を公認会計士が解説します。
公益通報者保護法とは
公益通報者保護法は、企業などにおける法令違反を知った労働者等が公益通報を行なったことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いを受けることを防ぐための法律です。
公益通報とは、労働者等が勤務先や取引先において、一定の法令に基づく刑事罰・過料の対象となる不正行為について通報することをいいます。
通報先は、大きく次の3つに分かれます。
通報先 | 例 | 主な要件 |
①事業者内部 | 社内の内部通報窓口など | 不正がある、または起きようとしていると思料すること |
②行政機関 | 権限を持つ行政機関 | 相当な理由がある、または一定事項を記載した書面を提出すること |
③外部機関 | 報道機関、労働組合など | 相当な理由に加え、解雇のおそれ等の一定要件 |
企業内部の通報窓口は、不正を社外へ拡大させる前に発見し、自社で是正するための重要な仕組みといえます。
300人超の企業には内部通報体制の整備義務
常時使用する労働者が300人を超える企業では、公益通報に適切に対応するための体制整備が義務付けられています。
主な内容として次の事項が考えられます。
内部通報の受付や調査等を担当する「従事者」の指定
内部通報窓口の設置
内部規程の策定
公益通報対応に関する幹部からの独立性確保
従事者には守秘義務があります。
なお、常時使用する労働者が300人以下の企業については、体制整備は努力義務とされています。
【図解】企業に求められる基本的な体制

重要なのは、窓口を「設置すること」ではなく、この一連のプロセスが実際に機能することです。
なぜ今回、公益通報者保護法が改正されたのか
公益通報者保護法の制定から20年以上が経過していますが、企業における内部通報制度の実効性には、なお課題が指摘されています。
具体的には次のような問題が挙げられます。
従業員1,000人超の企業でも内部通報制度が十分機能していない
社内で不正を指摘されても適切に対応せず、是正まで時間を要した
内部通報窓口を設置しているにもかかわらず、年間受付件数が0件の企業が一定数存在する
内部ではなく外部への通報によって不祥事が発覚する
こうした課題を踏まえ、今回の改正では、内部通報をより安心して利用できる環境を整え、制度の実効性を向上させることが狙いとされています。
2026年12月改正の4つの重要ポイント
今回の改正内容は、大きく4つに整理できます。
改正項目 | 主な内容 |
①通報者の範囲拡大 | フリーランスを新たに保護 |
②通報妨害等の禁止 | 通報させない合意、通報者探索を禁止 |
③罰則・保護強化 | 解雇・懲戒への刑事罰等を新設 |
④体制整備の強化 | 300人超企業に周知・啓発を要求 |
以下、それぞれ詳しく見ていきます。
改正① フリーランスも公益通報者として保護
従来、公益通報者として保護される対象は、主に次の者でした。
労働者
派遣労働者
退職者
役員
2026年12月1日以降は、これらに加えて企業と業務委託関係にあるフリーランスも保護対象となります。
さらに、業務委託関係が終了してから1年以内のフリーランスについても対象となります。
経理・財務部門でも重要
近年、決算期の人員不足や専門人材不足を補うため、
フリーランスの公認会計士
経理実務経験者
決算支援スタッフ
IPO支援人材
内部統制・J-SOX支援人材
などに業務を委託する企業があります。
こうした外部人材は、業務上、仕訳、証憑、会計システム、決算資料などを見る機会があるため、不適切な会計処理に気付く可能性があります。
今回の改正後は、そのようなフリーランスが不正を公益通報した場合も、法律上の保護対象となります。
【図解】保護対象の拡大

改正② 公益通報の妨害行為を禁止
今回の改正では、公益通報そのものを妨げる行為も禁止されます。
例えば、企業が従業員等に対して、正当な理由なく「会社について公益通報をしない」という内容の合意を求める行為などが禁止されます。
仮にそのような合意をしたとしても、違反して締結された合意は無効とされます。
つまり、秘密保持契約や誓約書などを利用して、公益通報そのものを封じることは認められません。
改正③ 「誰が通報したか」を探す行為も禁止
企業が公益通報者を特定するための探索行為も禁止されます。
内部通報制度では、匿名性や秘密保持に対する信頼が非常に重要です。
例えば通報後に、
「この資料を知っているのは誰か」
↓
「この部署の誰が通報したのか」
↓
「メールやアクセス履歴から探そう」
といった対応が行なわれれば、従業員は通報をためらうようになります。
制度が存在していても、通報した人物が特定され、不利益な扱いを受けると認識されてしまえば、内部通報制度は実質的に機能しません。
今回の改正は、そのような「通報者探し」を抑止する方向で通報者保護を強化するものです。
改正④ 公益通報を理由とした解雇・懲戒に刑事罰
今回の改正の中でも特に重要なのが、公益通報を理由とする解雇・懲戒への刑事罰の導入です。公益通報を理由として解雇や懲戒を行なった場合、次の刑事罰が設けられます。
対象 | 刑事罰 |
解雇等を行った個人 | 6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
法人 | 3,000万円以下の罰金 |
懲戒には、懲戒処分として行なわれる降格やけん責なども含まれるとされています。
これまで以上に、企業が通報後の人事処分を行う際には慎重な判断が求められます。
通報後1年以内の解雇等は企業側に立証責任
さらに重要なのが、立証責任に関する改正です。
公益通報後1年以内に解雇等が行われた場合、その処分は公益通報を理由として行われたものと推定されます。
企業側が、「この解雇・懲戒は公益通報とは無関係である」ことを立証する必要があります。
【図解】通報後の人事処分

企業としては、通報者に対して人事上の措置を行う必要が生じた場合、その理由や判断過程を客観的な資料として残すことが、従来以上に重要となります。
300人超企業への行政上の措置も強化
常時使用する労働者が300人を超える企業では、公益通報対応業務を行う従事者の指定など、一定の体制整備が義務となっています。
今回の改正では、こうした義務への監督も強化されます。
従事者指定義務に関しては新たに立入検査が追加され、勧告に従わない場合には、
改善命令
命令を行った旨の公表
が可能になります。
さらに、虚偽報告、検査拒否、命令違反等については、30万円以下の罰金が科される仕組みも設けられます。
<図解:企業側のリスク>

内部通報制度は、単なる企業の自主的なコンプライアンス施策ではなく、法令上の義務としての性格がより強くなっているといえます。
300人超企業には制度の「周知・啓発」も必要
今回の改正では、常時使用する労働者が300人を超える企業について、内部通報制度を整備するだけでなく、労働者等に対して制度を周知・啓発することも求められます。
具体的には、
改正公益通報者保護法の内容
内部通報窓口の設置
公益通報への対応体制
などについて、従業員に理解してもらう必要があります。
これは非常に重要なポイントです。
どれほど立派な内部通報制度を作っても、従業員が
どこに通報すればよいか分からない
匿名で利用できるか分からない
通報すると不利益を受けそう
と考えていれば、制度は利用されません。
会計不正の発見に「内部通報」は重要
今回の法改正は、会計不正の早期発見という観点からも重要です。
日本公認会計士協会(JICPA)の「上場会社等における会計不正の動向(2025年版)」では、会計不正の発覚件数が、2021年3月期:26社→ 2025年3月期:56社と増加しています。
また、5期間における会計不正184件の発覚経路では、次のような結果となっています。
発覚経路 | 件数 |
当局の調査 | 47件 |
内部統制等 | 31件 |
内部通報 | 28件 |
内部通報は、当局の調査や内部統制等に次ぐ主要な発覚経路となっています。
【図解】会計不正を早期に把握する流れ

会計不正は、発覚が遅れるほど複数年度にわたって影響が拡大する可能性があります。
そのため、内部通報によって早い段階で問題を把握できるかどうかは、企業にとって非常に重要です。
「通報件数0件」は必ずしも良い状態ではない
内部通報制度について誤解されやすいのが、「通報が少ない会社ほど問題がない」という考え方です。
実際には、内部通報件数が0件であることが、不正がないからなのか、それとも通報制度が利用されていないからなのかを区別する必要があります。
例えば、次のような状態では、窓口を設置していても制度が十分機能していない可能性があります。
通報窓口の存在を従業員が知らない
通報対象となる事項が分からない
匿名性に不安がある
通報後に不利益を受けると思われている
通報内容を経営陣が握りつぶすという不信感がある
通報しても調査されないと思われている
今回の改正が「制度の実効性」を重視している背景には、こうした問題があります。
企業が2026年12月までに確認すべきこと
改正法の施行に向け、企業は内部通報制度を改めて点検する必要があります。
1.内部通報規程を改定する
まず、既存の内部通報規程が改正法に対応しているか確認します。
特に、
フリーランスを通報者として含めているか
通報妨害を禁止しているか
通報者を探索しないことが明確になっているか
不利益取扱いを禁止しているか
通報者情報の秘密保持ルールがあるか
などを確認する必要があります。
2.フリーランスからの通報受付体制を整える
業務委託契約を締結している外部人材が、内部通報窓口を利用できる仕組みになっているか確認します。
特に、
経理業務委託
システム開発
コンサルティング
内部監査支援
決算・開示支援
など、社内情報に接するフリーランスについては重要です。
窓口が社内イントラネットからしかアクセスできない場合、フリーランスが物理的に通報できない可能性もあります。
3.通報者を特定しない運用ルールを作る
通報を受けた際に、「誰が通報したのか」を調べることを目的とした社内調査を行なわないよう、ルールを明確化する必要があります。
通報内容の事実確認と、通報者の探索は別問題です。
調査担当者にも、この違いを理解させる必要があります。
4.通報後の人事処分は証拠を残す
通報者について、通報後1年以内に解雇・懲戒等を行う場合には特に注意が必要です。
人事処分が公益通報とは無関係であることを説明できるよう、
評価記録
問題行動に関する記録
注意・指導履歴
懲戒理由
社内決裁資料
などを適切に保存しておく必要があります。
5.経営陣から独立した調査体制を確認する
通報対象が経営者や役員に関係する場合、通常の報告ルートでは十分な調査ができない可能性があります。
そのため、
通常の通報
↓
コンプライアンス担当部門
経営陣が関係する通報
↓
監査役・監査委員会
外部弁護士などといった独立したルートを設けることも重要です。
6.従業員・フリーランスへ制度を周知する
制度改正後は、従業員に対して改正内容と内部通報窓口を周知することが特に重要です。
企業内研修やイントラネットなどを利用して、
どのような問題を通報できるのか
誰が利用できるのか
通報先はどこか
匿名通報が可能か
通報内容はどのように扱われるか
通報を理由とした不利益取扱いは禁止されていること
などを明確に伝える必要があります。
【チェックリスト】改正公益通報者保護法への対応
確認項目 | 確認 |
内部通報規程を改正法に合わせて見直した | □ |
フリーランスを通報対象者に含めた | □ |
契約終了後1年以内のフリーランスへの対応を確認した | □ |
公益通報を妨害しないルールを明確化した | □ |
通報者探索を禁止する社内ルールを整備した | □ |
通報者への不利益取扱い禁止を周知した | □ |
通報後の人事処分に関する記録体制を整えた | □ |
経営陣から独立した調査ルートを確保した | □ |
通報窓口を従業員に周知している | □ |
フリーランスからも通報できる窓口となっている | □ |
通報受付後の調査・是正手続を定めている | □ |
内部通報制度が実際に利用可能か定期的に検証している | □ |
まとめ
2026年12月1日から施行される改正公益通報者保護法では、通報者保護と内部通報制度の実効性が大幅に強化されます。
主な改正ポイントは次のとおりです。
フリーランスが新たに保護対象となる
業務委託終了後1年以内のフリーランスも対象
公益通報を妨害する行為を禁止
通報者を特定する探索行為を禁止
公益通報を理由とする解雇・懲戒に刑事罰を導入
個人は6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
法人は3,000万円以下の罰金
通報後1年以内の解雇等は公益通報が理由と推定される
企業側が通報と無関係であることを立証する必要がある
300人超企業に対する体制整備義務への監督も強化
内部通報制度に関する周知・啓発も求められる
特に会計不正への対応という観点では、内部通報は重要な発覚経路となっています。
制度を「不祥事が発生したときの窓口」と考えるのではなく、問題を早期に把握し、重大な不正や決算訂正に発展する前に是正する内部統制の一部として位置付けることが重要です。
企業は2026年12月の施行に向けて、内部通報規程、通報窓口、調査体制、フリーランスへの対応、通報後の人事管理、従業員への周知方法などを改めて点検しておくことが望まれます。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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