海外資産は税務署に把握される?相続税申告で注意したい国外財産調書とCRSを税理士が解説
おはようございます!代表の安田です。
海外に預金口座や証券口座、不動産などを持っている方が亡くなった場合、相続税申告では国外財産の確認が非常に重要になります。
特に、被相続人が過去に海外勤務をしていた、海外の金融機関に口座を持っていた、外国籍の配偶者や親族がいる、海外不動産を所有している、といったケースでは、日本国内の財産だけを確認していては不十分です。
相続人の方からは、次のような相談を受けることがあります。
父が海外に預金を持っていたようだが、詳しい内容が分からない
海外口座の残高証明を取り寄せるのに時間がかかっている
国外財産を申告しなかった場合、税務署に分かるのか
海外の金融機関の情報まで日本の税務署は把握できるのか
国外財産調書を出していなかった場合、相続税申告に影響するのか
結論からいうと、海外資産であっても、税務当局が把握する可能性は十分にあります。
現在は、国外財産調書制度やCRSによる各国税務当局間の情報交換により、海外金融口座や国外財産に関する情報が税務調査で活用されています。
本日は、税務当局が国外財産をどのように把握するのか、相続税申告で注意すべき国外財産調書、CRS、税務調査、加算税の取扱いについて解説します。
国外財産も相続税の対象になる
日本の相続税では、被相続人や相続人の住所、国籍、在留期間などにより課税対象となる財産の範囲が変わります。
典型的には、日本に住所がある被相続人が亡くなった場合、その方が所有していた国内財産だけでなく、国外財産も相続税の対象になります。
国外財産には、たとえば次のようなものがあります。
海外銀行の預金
海外証券会社の口座
外国株式
外国投資信託
海外不動産
海外法人の出資持分
海外保険契約
外国年金に関する権利
国外にある貴金属や美術品
海外の貸付金や債権
「海外にある財産だから日本の相続税は関係ない」と考えるのは危険です。
日本の相続税申告では、国外財産を含めて相続財産を確認し、必要に応じて円換算して申告する必要があります。
税務当局は国外財産をどう把握するのか
税務当局が国外財産を把握する主な手段として、次のような制度があります。
国外財産調書制度
CRSによる金融口座情報の自動的情報交換
租税条約等に基づく情報交換
国外送金等調書
国内金融機関や証券会社の取引情報
相続税申告書や所得税申告書との照合
税務調査における資料提出依頼
かつては、海外資産の把握は難しいと考えられることもありました。
しかし現在では、海外金融機関の口座情報が各国税務当局を通じて交換される仕組みが整っています。
そのため、海外口座や国外投資を相続税申告から除外しても、後日、税務調査で指摘される可能性があります。
国外財産調書制度とは
国外財産調書制度とは、一定額を超える国外財産を有する個人に対し、その国外財産の内容を税務署へ提出することを義務付ける制度です。対象となるのは、原則として、その年の12月31日時点で、合計5,000万円を超える国外財産を有する一定の居住者です。
提出対象となる場合には、国外財産の種類、数量、価額などを記載した国外財産調書を、翌年6月30日までに提出する必要があります。
国外財産調書は、税務当局にとって重要な情報源です。
相続が発生した場合、税務署は、被相続人が過去に提出していた国外財産調書の内容と、相続税申告書に記載された国外財産の内容を照合することがあります。
たとえば、過去の国外財産調書には海外預金1億円が記載されていたのに、相続税申告書には国外財産が記載されていない場合、税務署は当然その理由を確認することになります。
相続開始年の国外財産調書にも注意
国外財産調書は、各年12月31日時点の国外財産を基準に提出義務を判定します。
相続が発生した年については、相続により取得した国外財産をどのように扱うかに注意が必要です。
現在の国税庁の案内では、相続開始年の国外財産調書について、その相続または遺贈により取得した国外財産は記載しないで提出できるとされています。
この場合、相続開始年の提出義務判定でも、相続により取得した国外財産を除外して判定します。
ただし、相続開始年以後にその国外財産を引き続き保有する場合、翌年以降の国外財産調書の提出義務が生じる可能性があります。
国外財産を相続した場合は、相続税申告だけでなく、翌年以降の所得税・国外財産調書の提出義務も確認しておきましょう。
CRSとは
CRSとは、Common Reporting Standardの略で、日本語では共通報告基準と呼ばれます。
CRSは、外国の金融機関の口座を利用した国際的な脱税や租税回避に対応するため、OECDが策定した国際基準です。この制度では、各国の金融機関が、非居住者の金融口座情報を自国の税務当局に報告します。
そして、その情報が、その口座保有者の居住地国の税務当局へ自動的に交換されます。
たとえば、日本居住者が海外の銀行に口座を持っている場合、その海外金融機関が所在国の税務当局に口座情報を報告し、その情報が日本の国税庁へ提供されることがあります。
CRSにより交換される情報には、氏名、住所、居住地国、口座番号、口座残高、利子・配当・売却収入などが含まれることがあります。
つまり、海外口座の存在や残高、一定の取引情報が、日本の税務当局に把握される可能性があるということです。
CRS情報は相続税調査にも使われる
CRS情報は、所得税だけでなく、相続税の税務調査にも活用されます。
たとえば、被相続人の相続税申告書には国外財産の記載がないにもかかわらず、CRS情報により海外預金口座の存在が把握されることがあります。
この場合、税務署は、相続税申告漏れの可能性があるとして調査に着手することがあります。CRS情報を活用した調査事例として、相続税申告に海外資産の計上がなかったものの、外国の預金情報から申告漏れが想定され、調査の過程で海外預金や海外不動産の存在が判明した例が紹介されています。
また、海外法人の金融口座情報や実質的支配者情報から、被相続人が実質的に保有していた海外法人の出資持分が相続財産であると判断されるようなケースもあります。
海外法人名義で資産を保有している場合でも、実質的支配者や資金の流れから、相続財産や所得税の申告漏れが問題になることがあります。
海外法人名義なら安心とは限らない
海外資産を海外法人名義で保有している場合、「個人名義ではないから相続財産ではない」と考えてしまうことがあります。
しかし、海外法人の出資持分そのものが相続財産になることがあります。
また、形式的には海外法人名義であっても、実質的には被相続人が支配し、資産運用を継続していたと判断される場合には、税務調査で問題になる可能性があります。
CRSでは、金融口座の名義人だけでなく、実質的支配者に関する情報が把握されることがあります。実質的支配者とは、一般に法人の議決権を一定割合超保有する自然人などをいいます。
タックスヘイブン国や低税率国に法人を設立し、その法人名義で資産運用している場合でも、日本の居住者が実質的支配者であれば、その情報が日本の税務当局へ提供される可能性があります。
海外法人、信託、ファンド、保険などを使っている場合は、名義だけでなく、実質的な権利関係を確認することが重要です。
国外送金等調書から把握されることもある
海外資産の把握には、国外送金等調書も関係します。
国外送金等調書とは、金融機関を通じて一定額を超える国外送金や国外からの送金を行なった場合に、その情報が税務当局へ提出される制度です。
たとえば、海外口座へ多額の送金をしている、海外から国内口座へ多額の入金がある、といった場合、その送金情報が税務署の確認対象になることがあります。
相続税調査では、被相続人の国内口座から海外への送金履歴、海外口座から国内への資金移動、親族名義口座への送金などが確認されることがあります。
送金の目的が投資なのか、贈与なのか、貸付なのか、生活費なのかによって、所得税・贈与税・相続税の取扱いが変わります。
海外送金がある場合は、送金目的や資金の帰属を説明できる資料を保存しておくことが大切です。
税務調査はどのように進むか
国外財産に関する税務調査では、まず税務当局が把握している情報と申告内容の照合が行なわれます。たとえば、次のような情報が確認されます。
国外財産調書の記載内容
過去の所得税申告書
相続税申告書
CRSにより入手した海外金融口座情報
国外送金等調書
国内銀行口座の入出金履歴
証券口座の取引履歴
海外金融機関からの郵便物
親族への送金や資産移転の状況
調査では、納税者や相続人に対し、海外口座の残高証明、取引明細、不動産の評価資料、海外法人の登記情報、信託契約書、保険契約書などの提出が求められることがあります。
納税者側から十分な資料が提出されれば、その資料をもとに申告漏れの有無が確認されます。
一方、資料が提出されない場合や、国外財産の存在を隠している疑いがある場合には、税務当局が租税条約等に基づいて外国税務当局へ情報提供を求めることがあります。
資料を出さないと調査が長期化することもある
国外財産の税務調査では、海外金融機関や外国税務当局から情報を取得する必要があるため、国内財産だけの調査より時間がかかることがあります。
特に、納税者が国外財産に関する情報を十分に提示しない場合、税務当局は外国税務当局への情報交換要請を行なうことがあります。
悪質・巧妙なケースでは、取引内容や資金の流れの全体像を把握するために、複数回の情報交換が必要になることもあります。
税務調査を早期に終わらせるためにも、相続人側で可能な限り資料を収集し、説明できる状態にしておくことが重要です。
国外取引等では更正決定の期間が延びる場合がある
通常、税務当局が更正決定等を行なうことができる期間には制限があります。
しかし、国外取引や国外財産が関係する場合、外国税務当局から情報を入手するまでに時間がかかることがあります。
そのため、国外取引等については、一定の場合に更正決定等の期間制限が見直されています。具体的には、納税者が国外取引または国外財産に関する書類を税務当局が指定する日までに提示・提出せず、税務当局が租税条約等の相手国に情報提供要請をした場合に、申告内容と相手国から提供された内容に相違があるときは、情報提供要請に係る書面が提出された日から3年間、更正決定等が可能となる場合があります。
つまり、国外財産について資料を出さなければ、通常の期間制限があるから安心というわけではありません。
むしろ、資料提出に応じないことで、調査が長期化し、後から更正決定等を受けるリスクが高まる可能性があります。
国外財産調書を提出している場合のメリット
国外財産調書を期限内に提出している場合、その調書に記載された国外財産について所得税や相続税の申告漏れがあったときでも、一定の場合には過少申告加算税または無申告加算税が5%軽減されます。
これは、国外財産調書を適正に提出することを促すための軽減措置です。
もちろん、国外財産調書を提出していれば申告漏れが許されるわけではありません。
しかし、税務当局に対して国外財産の情報をきちんと開示していた場合には、加算税の面で一定の軽減が受けられる可能性があります。
海外資産を保有している方は、毎年の国外財産調書を正しく提出しておくことが、将来の相続税申告や税務調査対応にもつながります。
国外財産調書を提出していない場合のリスク
一方、国外財産調書を期限内に提出していない場合や、提出した国外財産調書に記載すべき国外財産が漏れていた場合には、国外財産に係る所得税・相続税の申告漏れについて、過少申告加算税または無申告加算税が5%加重されることがあります。
さらに、国外財産に関する書類の提示・提出を求められたにもかかわらず、指定期限までに提出しなかった場合には、軽減措置が受けられないだけでなく、加重割合が10%になる場合があります。
また、国外財産調書に偽りの記載をして提出した場合や、正当な理由なく期限内に提出しなかった場合には、罰則の対象になることもあります。
国外財産は、国内財産に比べて調査や評価が難しいため、提出漏れや記載漏れが起こりやすい分野です。しかし、故意に隠すことは非常にリスクが高いといえます。
国外財産を相続した場合にまず確認すべき資料
国外財産を相続した可能性がある場合、まずは手掛かりとなる資料を集めることが重要です。
確認したい資料としては、次のようなものがあります。
海外金融機関からの郵便物
海外銀行の通帳、カード、口座番号
オンラインバンキングの情報
海外証券会社の取引明細
外国株式や投資信託の明細
海外不動産の登記書類
固定資産税や管理費の請求書
海外保険契約の証券
海外法人の登記簿や株主名簿
国外送金の控え
過去の国外財産調書
過去の所得税申告書
パスポートや海外居住歴に関する資料
被相続人本人から生前に詳しい話を聞けていない場合でも、自宅に届く郵便物やメール、パソコン、スマートフォン、金融機関アプリなどから手掛かりが見つかることがあります。
海外金融機関に残高証明や取引明細を請求する場合、相続関係を証明する書類や翻訳、現地の手続が必要になることもあります。
申告期限との関係で時間がかかるため、早めに動くことが大切です。
海外資産の評価と円換算にも注意
国外財産を相続税申告に含める場合、その財産を日本の相続税評価のルールに従って評価する必要があります。
海外預金であれば、相続開始日の残高を外貨建てで確認し、相続開始日の為替レートで円換算します。
海外不動産であれば、現地の評価証明書、固定資産税評価、鑑定評価、売買事例などをもとに、日本の相続税申告で合理的に評価する必要があります。
海外法人の出資持分や外国ファンドなどは、評価方法が複雑になることがあります。
また、海外の相続手続、現地税制、日本の外国税額控除なども関係する場合があります。
国内財産に比べて資料収集と評価に時間がかかるため、国外財産がある場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
海外年金や保険も見落としやすい
国外財産というと、海外預金や不動産をイメージしがちですが、海外年金や保険に関する権利も見落としやすい財産です。
海外の公的遺族年金について、相続税上のみなし相続財産として課税を求められた報道事例もあります。
日本では課税対象にならないと思い込んでいても、海外制度に基づく年金や保険、死亡給付に関する権利が、日本の相続税で問題になることがあります。
海外勤務経験がある方、外国籍の配偶者がいる方、海外の年金制度に加入していた方は、死亡時に発生する給付や権利を確認しておく必要があります。
海外資産の相続税申告では、「預金・不動産だけ見ればよい」と考えず、年金、保険、法人持分、信託、ファンドなども確認しましょう。
生前からできる対策
海外資産を持っている方は、生前から相続人が困らないように情報を整理しておくことが大切です。特に、次のような情報を一覧にしておくとよいでしょう。
海外金融機関名
支店名や所在地
口座番号
口座名義
保有通貨
オンラインバンキングの有無
海外証券口座の有無
海外不動産の所在地
海外法人や信託の内容
現地専門家や金融機関担当者の連絡先
国外財産調書の提出状況
現地での相続手続の概要
ただし、パスワードそのものの管理には注意が必要です。
相続人が存在を把握できるようにしつつ、不正利用や情報漏えいが起きないよう、安全な方法で保管しましょう。
また、海外資産を保有している場合は、毎年の国外財産調書や所得税申告も適切に行っておくことが、将来の相続税申告をスムーズにします。
相続人が国外財産を隠した場合のリスク
相続人が国外財産の存在を知りながら、意図的に相続税申告から除外した場合、非常に大きなリスクがあります。
税務調査で申告漏れが判明すると、本税だけでなく、過少申告加算税、無申告加算税、延滞税が課される可能性があります。
さらに、仮装・隠ぺいがあると判断されれば、重加算税の対象になることもあります。
国外財産については、税務当局がCRS情報や情報交換制度を通じて把握する可能性があるため、「海外にあるから分からないだろう」という判断は危険です。
相続人が十分に把握できていない場合と、把握していながら隠す場合では、税務上の評価も大きく異なります。
不明点がある場合は、申告期限内に可能な限り調査し、必要に応じて税理士と相談しながら対応することが重要です。
実務上のチェックポイント
国外財産がある場合の相続税申告では、次の点を確認しましょう。
被相続人に海外勤務歴や海外居住歴があるか
海外金融機関から郵便物やメールが届いていないか
国外財産調書を提出していたか
過去の所得税申告に国外所得が含まれているか
CRSで把握される可能性のある海外口座がないか
海外不動産や海外法人持分がないか
海外年金や保険に関する権利がないか
国外送金の履歴がないか・相続開始日の残高証明を取得できるか
外貨建資産を適切な為替レートで円換算しているか
現地の相続手続や税務申告が必要か
日本の相続税申告期限に間に合うよう資料収集を進めているか
国外財産は、見つけること、評価すること、証明することのすべてに時間がかかります。
早めに資料収集を始め、必要に応じて国際税務に詳しい専門家や現地専門家と連携することが大切です。
まとめ
海外に預金、不動産、証券、保険、法人持分などの財産がある場合、日本の相続税申告でも申告対象になることがあります。
税務当局は、国外財産調書、CRSによる自動的情報交換、国外送金等調書、租税条約等に基づく情報交換などを通じて、国外財産に関する情報を把握する仕組みを整えています。
特にCRSでは、海外金融機関の口座情報が、その口座保有者の居住地国の税務当局へ自動的に交換されます。海外口座の存在や残高、一定の取引情報が日本の国税庁に提供され、相続税や所得税の税務調査に活用されることがあります。
国外財産調書については、一定の居住者が12月31日時点で5,000万円を超える国外財産を有する場合、翌年6月30日までに提出する必要があります。期限内に提出している場合には加算税の5%軽減措置がある一方、提出がない場合や記載漏れがある場合には5%加重、書類提示等に応じない場合には10%加重となる可能性があります。
国外財産を相続した場合、相続人が詳細を知らないことも少なくありません。海外金融機関からの郵便物、オンライン口座、国外財産調書、海外送金履歴、保険契約、海外法人資料などを早めに確認し、相続開始日時点の残高や評価額を把握する必要があります。
海外資産を意図的に隠すことは非常にリスクが高く、CRS情報や外国税務当局との情報交換により、後日申告漏れを指摘される可能性があります。
国外財産がある相続税申告では、国内財産だけの場合よりも資料収集や評価に時間がかかります。申告期限を意識しながら、早めに税理士や現地専門家へ相談し、正確な申告を行いましょう。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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