インボイス登録で期中から課税事業者になった場合、税込経理から税抜経理に変更できる?
こんばんは!代表の安田です。
インボイス制度をきっかけに、これまで免税事業者だった法人が、事業年度の途中から課税事業者になるケースがあります。
たとえば、3月決算法人がインボイス発行事業者として登録し、10月1日から課税事業者になる場合です。この場合、同じ事業年度の中に、4月1日から9月30日までの「免税事業者の期間」と、10月1日から翌年3月31日までの「課税事業者の期間」が併存することになります。
ここで悩みやすいのが、法人税の所得計算における消費税等の経理方式です。
免税事業者の期間は税込経理だから、事業年度全体で税込経理にしなければならないのか
10月1日から課税事業者になるなら、税抜経理に変更できるのか
同じ事業年度の中で免税期間と課税期間がある場合、どのように処理すればよいのか
本日は、インボイス登録により事業年度の途中から課税事業者となった場合の、税込経理方式・税抜経理方式の考え方について解説します。
税込経理方式と税抜経理方式とは
消費税の経理方式には、大きく分けて「税込経理方式」と「税抜経理方式」があります。
税込経理方式とは、売上や仕入、経費などを消費税等込みの金額で会計処理する方法です。
たとえば、税込11,000円の売上があった場合、売上高を11,000円として処理します。税込5,500円の経費を支払った場合も、経費を5,500円として処理します。
一方、税抜経理方式とは、売上や仕入、経費などを本体価格と消費税等に区分して処理する方法です。たとえば、税込11,000円の売上があった場合、売上高10,000円と仮受消費税等1,000円に分けて処理します。税込5,500円の経費を支払った場合は、経費5,000円と仮払消費税等500円に分けて処理します。
どちらの方式を採用するかにより、法人税の所得金額、固定資産の取得価額、交際費等の判定、少額減価償却資産の判定などに影響することがあります。
課税事業者は税込経理・税抜経理を選択できる
消費税の課税事業者である法人は、法人税の所得金額を計算するにあたり、原則として税込経理方式または税抜経理方式のいずれかを選択できます。
つまり、課税事業者であれば、税込経理方式を採用することも、税抜経理方式を採用することも可能です。
ただし、選択した経理方式は、原則としてその法人が行うすべての取引について統一して適用する必要があります。
たとえば、売上は税抜、経費は税込、固定資産は取引ごとにバラバラ、というような処理は原則として認められません。
税抜経理方式を選択する場合でも、一定の条件のもとで固定資産や経費について税込経理を併用できる場合はありますが、基本的には社内で統一したルールを決め、継続的に処理することが大切です。
免税事業者は税込経理方式で計算する
一方、消費税の免税事業者については、消費税等を納付する義務がありません。
そのため、免税事業者が行う取引については、法人税の所得金額の計算上、税込経理方式を適用して計算することになります。
たとえば、免税事業者である法人が税込11,000円で売上を計上した場合、消費税相当額を仮受消費税等として区分するのではなく、売上高11,000円として処理することになります。
同様に、税込5,500円の経費を支払った場合も、仮払消費税等を区分せず、経費5,500円として処理します。
免税事業者は消費税の納税義務がないため、仮受消費税等や仮払消費税等を法人税の所得計算上区分する考え方にはなじみにくいということです。
期中で課税事業者になった場合の問題点
インボイス制度では、登録日によって、事業年度の途中から課税事業者となるケースがあります。
たとえば、3月決算法人が10月1日からインボイス発行事業者になった場合、同じ事業年度の中で次の2つの期間が生じます。
4月1日から9月30日まで:免税事業者の期間
10月1日から翌年3月31日まで:課税事業者の期間
この場合、「免税事業者の期間がある以上、事業年度全体で税込経理方式を適用しなければならないのではないか」という疑問が生じます。
しかし、課税事業者となった10月1日以後の期間については、消費税の納税義務があり、課税売上や課税仕入れに係る消費税等が発生します。
そのため、課税事業者の期間まで税込経理方式を強制されるわけではありません。
同一事業年度の中に免税事業者の期間と課税事業者の期間が併存する場合でも、その事業年度全体について税抜経理方式を選択することが可能です。
事業年度を通じて経理方式を統一する
期中で課税事業者になった場合でも、経理方式は事業年度を通じて統一して考える必要があります。
つまり、同じ事業年度の中で、免税事業者の期間は税込経理、課税事業者の期間は税抜経理、というように単純に期間で分けて別々の経理方式を適用するのではなく、その事業年度全体について税込経理方式または税抜経理方式のいずれかを統一的に適用することになります。
選択肢としては、主に次の2つです。
事業年度を通じて税込経理方式を適用する
事業年度を通じて税抜経理方式を適用する
事業年度を通じて税込経理方式を採用する場合は、取引の対価の額と消費税等の額を区分せず、税込金額で処理します。
一方、事業年度を通じて税抜経理方式を採用する場合は、取引の対価の額と消費税等の額を区分して処理します。ただし、免税事業者の期間については、法人税の所得金額の計算上、区分されるべき消費税等の額を「ゼロ」として扱う点に注意が必要です。
税抜経理を選んだ場合、免税期間の消費税等はゼロ
事業年度を通じて税抜経理方式を採用する場合でも、免税事業者の期間については、少し特殊な処理になります。
免税事業者の期間中の取引については、会計上どのように入力していたとしても、法人税の課税所得金額の計算上は、取引の対価の額と消費税等の額を区分したうえで、区分される消費税等の額を「ゼロ」として計算します。
これは、免税事業者の期間には消費税の納税義務がなく、仮受消費税等や仮払消費税等として法人税の所得計算上控除・加算すべき消費税等がないためです。
その結果、免税事業者の期間については、事業年度全体では税抜経理方式を選択していても、実質的には税込経理方式と同じような所得計算になります。
たとえば、免税事業者の期間に税込11,000円の売上があった場合、消費税等を1,000円と区分して売上高10,000円とするのではなく、法人税の所得計算上は消費税等の額をゼロとして、売上高11,000円で考えるイメージです。
同様に、税込5,500円の経費についても、仮払消費税等500円を区分して経費5,000円とするのではなく、法人税の所得計算上は経費5,500円として扱うことになります。
課税事業者の期間は通常どおり税抜処理できる
事業年度を通じて税抜経理方式を採用した場合、課税事業者となった期間については、通常どおり税抜処理を行ないます。
たとえば、10月1日以後に税込11,000円の売上があった場合、売上高10,000円と仮受消費税等1,000円に区分します。
また、税込5,500円の課税仕入れがあり、インボイス等の保存要件を満たしている場合には、経費5,000円と仮払消費税等500円に区分します。
このように、同じ事業年度の中でも、免税事業者の期間と課税事業者の期間では、税抜経理方式を選択した場合の実質的な処理が異なります。
免税事業者の期間:消費税等の額をゼロとして計算するため、実質的に税込経理に近い
課税事業者の期間:消費税等を区分して通常の税抜経理を行う
この違いを理解しておくことが重要です。
期中での会計ソフト設定変更に注意
期中からインボイス発行事業者になる場合、実務上は会計ソフトや経費精算システムの設定変更が必要になることがあります。
たとえば、10月1日以後の取引について税抜経理方式を採用する場合、次のような設定を確認しましょう。
課税事業者への切替日
消費税の課税方式
本則課税、簡易課税、2割特例の適用有無
税抜経理方式または税込経理方式の選択
インボイス対応の税区分
免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の税区分
仮受消費税等、仮払消費税等の勘定科目
期首から9月30日までの取引データの処理方法
特に、期中で設定を変更すると、過去の取引データまで自動的に税抜処理へ変わってしまう場合があります。
免税事業者の期間については、法人税の所得計算上、消費税等の額をゼロとして扱う必要があるため、会計ソフト上の表示と税務上の所得計算が一致しているかを確認することが大切です。
税込経理を選ぶ場合のメリット・注意点
期中で課税事業者になった場合、事業年度を通じて税込経理方式を採用することも可能です。
税込経理方式を選ぶメリットは、会計処理が比較的シンプルであることです。売上や経費を税込金額で入力するため、少額取引が多い会社や、経理体制が小規模な会社では運用しやすい場合があります。
また、免税事業者の期間と課税事業者の期間で、会計ソフト上の処理方法を大きく変えずに済むこともあります。
一方で、税込経理方式を採用すると、法人税上の各種判定において税込金額を基に判断する場面が出てきます。
たとえば、交際費等の飲食費基準、少額減価償却資産、一括償却資産、固定資産の取得価額などに影響する可能性があります。
また、消費税の納付税額は租税公課として処理されるため、損益の見え方が税抜経理方式とは異なります。
税抜経理を選ぶ場合のメリット・注意点
事業年度を通じて税抜経理方式を採用する場合、課税事業者の期間については、売上や経費を本体価格と消費税等に区分して処理できます。
税抜経理方式のメリットは、売上高や経費の本体価格が把握しやすいことです。また、固定資産の取得価額や交際費等の判定などで、税抜金額を基に計算できる場面があります。
一方で、期中から課税事業者になる場合は、免税事業者の期間の処理に注意が必要です。
免税事業者の期間については、税抜経理方式を選んでいても、消費税等の額をゼロとして所得計算を行なうため、実質的には税込経理方式と同様になります。
そのため、会計ソフト上で期首からすべての取引を単純に税抜処理してしまうと、法人税の所得計算が誤る可能性があります。
税抜経理方式を採用する場合は、10月1日前後で処理ルールを明確にし、決算時に税務上の調整が必要ないか確認しましょう。
免税期間と課税期間がある事業年度の実務対応
同一事業年度内に免税事業者の期間と課税事業者の期間がある場合には、次のような流れで整理するとよいでしょう。
いつから課税事業者になるかを確認する
その事業年度で税込経理方式・税抜経理方式のどちらを採用するか決める
会計ソフトの消費税設定を確認する
免税事業者の期間の取引について、消費税等をゼロとして所得計算できているか確認する
課税事業者の期間について、インボイスの保存状況と税区分を確認する
決算時に法人税・消費税の処理が整合しているか確認する
特に、インボイス制度開始時に登録した法人や、登録日が期中にある法人では、事業年度の途中で消費税の処理が切り替わります。
経理担当者が日々の入力で迷わないよう、期首から登録日前日まで、登録日以後で処理ルールを分けてマニュアル化しておくと安心です。
インボイス登録日と課税期間の確認も忘れずに
インボイス発行事業者になった日と、消費税の課税事業者となる期間は、法人の申告や届出の内容によって重要な意味を持ちます。
インボイス登録を行ったからといって、過去にさかのぼってすべての取引が課税事業者として扱われるわけではありません。
登録日以後の取引について、消費税の納税義務やインボイス発行義務が生じることになります。
そのため、経理処理でも登録日前後の取引を正しく区分する必要があります。
たとえば、売上計上日、請求書発行日、役務提供日、納品日、入金日などが登録日前後にまたがる場合には、どの時点の取引として処理するかを確認しておきましょう。
決算時に確認したいポイント
期中で課税事業者になった事業年度の決算では、通常の決算に加えて、消費税と法人税の経理方式の整合性を確認する必要があります。
具体的には、次の点を確認しましょう。
事業年度を通じて選択した経理方式が整理されているか
免税事業者の期間の取引を税抜処理していないか
課税事業者の期間の仮受消費税等、仮払消費税等が正しく計上されているか
インボイスの保存要件を満たしているか
免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の税区分が正しいか
簡易課税や2割特例を適用する場合の処理が整理されているか
法人税申告書上の所得計算に誤りがないか
消費税申告書の課税期間、課税売上、課税仕入が正しく集計されているか
特に、会計ソフトで自動計算された金額をそのまま使う場合でも、免税事業者の期間の処理が税務上の考え方と合っているかを確認することが重要です。
まとめ
インボイス登録により、免税事業者だった法人が事業年度の途中から課税事業者になる場合、同じ事業年度内に「免税事業者の期間」と「課税事業者の期間」が併存することがあります。
この場合でも、課税事業者となった期間まで税込経理方式を強制されるわけではありません。事業年度を通じて、税込経理方式または税抜経理方式のいずれかを統一的に選択することができます。
ただし、税抜経理方式を選択する場合、免税事業者の期間については、取引の対価の額と消費税等の額を区分したうえで、法人税の所得計算上、消費税等の額をゼロとして計算します。そのため、免税事業者の期間については、実質的に税込経理方式と同様の処理になります。
一方、課税事業者の期間については、通常どおり消費税等を区分して税抜経理を行なうことができます。
期中でインボイス登録をした法人は、登録日前後の取引区分、会計ソフトの設定、税区分、インボイス保存、法人税の所得計算を早めに整理しておくことが大切です。
インボイス登録に伴う経理方式の選択や期中切替の処理で不安がある場合は、税理士に相談し、自社に合った処理方法を確認しておきましょう。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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