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関連者間取引の書類保存を怠ると欠損金が使えない?令和8年度税制改正の注意点を解説

執筆者の写真: 安田亮
安田亮
18 時間前
読了時間: 11分

おはようございます!代表の安田です。


令和8年度(2026年度)税制改正により、「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例」が創設されました。


この制度では、青色申告法人が関連者との間で一定の取引を行い、契約書や請求書などに対価の算定に必要な事項が記載されていない場合、その不足事項を明らかにする「特定事項記載書類」を取得または作成し、保存することが求められます。


注意したいのは、書類を保存していない場合の影響が、青色申告の承認取消しだけにとどまらない点です。


欠損金が生じた事業年度に必要な特定事項記載書類を保存していなければ、その欠損金について繰越控除を適用できない可能性があります。


特に、親会社・子会社間で経営指導料、システム利用料、研究開発費、広告宣伝費などを負担している企業は、取引価格の根拠を説明できる書類が保存されているか、早めに確認する必要があります。


本記事では、関連者間取引に係る書類保存の特例と、欠損金の繰越控除に与える影響について、公認会計士が分かりやすく解説します。


関連者間取引に係る書類の整理保存の特例とは

「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例」とは、内国法人が関連者との間で一定の取引を行った場合に、対価の算定根拠などを示す書類の保存を求める制度です。


財務省が公表した令和8年度税制改正の大綱では、取引に関する契約書、注文書、請求書、領収書などに、対価の額を算定するために必要な事項が記載・記録されていない場合、不足する事項を明らかにする書類を取得または作成し、保存する制度とされています。


法人税法施行規則では、第59条の2として「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例」が設けられています。



つまり、関連会社から受け取った請求書や契約書を単に保存しているだけでは、必ずしも新制度の保存要件を満たすとは限りません。


「特定事項記載書類」とは

特定事項記載書類とは、既存の契約書や請求書などに記載されていない、対価の算定に必要な事項を明らかにする書類です。


法令上保存すべき書類に対価の額などの記載がない場合、その記載のない事項を明らかにする書類を取得・作成・保存することが義務付けられています。


書類の形式は、必ずしも新たな契約書に限られるわけではなく、必要事項を確認できる資料であれば、社内作成資料や電磁的記録も対象になり得ると考えられます。財務省の税制改正大綱でも、不足事項を明らかにする書類には電磁的記録が含まれるとされています。


<特定事項記載書類に整理しておきたい情報の例>

項目

記載内容の例

取引内容

提供を受けた役務、使用した資産や権利の内容

提供期間

役務提供期間、ライセンス利用期間

対価の総額

支払金額、契約金額

計算方法

定額、利用人数、売上高、工数などによる算定方法

配賦基準

売上高比、人員数、利用時間、床面積など

単価・料率

1時間当たり単価、売上高に対する料率など

計算対象

対象部署、対象法人、対象サービス

算定根拠

原価資料、見積資料、料金表、取締役会資料など

ただし、実際にどの情報が必要になるかは、取引内容や契約条件によって異なります。


対象になり得る関連者間取引

財務省の税制改正大綱では、対象となる「関連者」は、移転価格税制における関連者と同様の基準によって判定するとされています。


また、対象取引として、販売費、一般管理費その他の費用の原因となる一定の取引が挙げられています。代表的な取引を整理すると、次のとおりです。

取引の種類

具体例

無形資産の譲渡・貸付け

特許権、ノウハウ、著作権、プログラムなど

研究開発に関する役務

グループ会社による研究・開発業務

広告宣伝に関する役務

グループ共通の広告、ブランド管理

専用資産の使用

グループ内専用設備やシステムの利用

経営管理・指導

経営指導料、管理業務委託料

情報提供

市場情報、技術情報、経営情報の提供

類似する役務提供

グループ共通業務、専門サービスなど

すべての関連会社間取引が一律に対象となるわけではありませんが、グループ会社から継続的に役務提供を受け、費用を計上している企業は注意が必要です。


契約書や請求書を保存しているだけでは足りない場合がある

今回の特例で特に重要なのは、書類が存在するかどうかではなく、必要な内容が記載されているかどうかです。


例えば、親会社から子会社に対して毎月経営指導料を請求しており、請求書に次のような記載しかなかったとします。

経営指導料 1,000万円

この請求書だけでは、次の事項が分かりません。

  • どのような経営指導を行ったのか

  • 誰が業務を行ったのか

  • どの期間の役務なのか

  • 1,000万円をどのように計算したのか

  • 他のグループ会社との間でどのように費用を配分したのか


このような場合、請求書を保存するだけでなく、役務内容、作業時間、配賦基準、単価、計算過程などを示す資料を取得または作成し、保存する必要が生じる可能性があります。


【図解】保存書類の考え方


書類を保存しない場合は青色申告の取消リスク

特定事項記載書類を法令に従って保存していない場合、青色申告の承認取消事由になり得ます。


財務省の税制改正大綱でも、不足事項を明らかにする書類が法令に従って保存されていないことは、青色申告の承認の取消事由等になるとされています。


国税庁も、法人税法施行規則第59条の2の創設に伴い、「法人の青色申告の承認の取消しについて」の事務運営指針を2026年6月30日付で改正しています。


青色申告の承認が取り消されると、欠損金の繰越控除をはじめとする青色申告法人向けの制度に影響が及ぶ可能性があります。


しかし、今回の制度で注意すべきなのは、青色申告の承認が実際に取り消されなかった場合でも、書類の保存状況によっては欠損金の繰越控除が認められない可能性があることです。


特定事項記載書類がないと欠損金を繰越控除できない可能性

青色申告法人に生じた欠損金は、一定の要件を満たせば、その後の事業年度の所得から控除できます。これが「欠損金の繰越控除」です。


ただし、欠損金の繰越控除を適用するためには、欠損金が生じた事業年度の帳簿書類を適切に保存していることが必要です。


法人税法施行規則第26条の3は、欠損金の繰越控除に関係する帳簿書類の保存について定めています。国税庁も、青色繰越欠損金が生じた事業年度の帳簿書類は原則として10年間保存する必要があると案内しています。


今回の特例により、特定事項記載書類も、欠損金の繰越控除に必要な保存書類に含まれることになります。


<欠損金の繰越控除への影響>

欠損金発生年度の保存状況

繰越控除への影響

契約書等に必要事項が記載され、適切に保存

原則として保存要件を満たす

記載不足があるが、特定事項記載書類で補完・保存

原則として保存要件を満たす

記載不足があり、補完書類を作成していない

保存要件を満たさない可能性

特定事項記載書類を作成したが保存していない

保存要件を満たさない可能性

関連資料が散在し、対価の計算を再現できない

税務調査で問題となる可能性


欠損金が生じた事業年度に、特定事項記載書類を含む帳簿書類を保存していない場合、その欠損金について繰越控除を適用できないことになります。


「元の書類を保存しているから大丈夫」とは限らない

この制度で間違えやすいのが、契約書や請求書などの元の書類を保存していれば問題ない、という考え方です。


対価の額などの記載がない状態の帳簿書類を保存していても、特定事項記載書類を取得・作成していなければ、欠損金の繰越控除に係る保存要件を満たしません。


つまり、次のような状態では不十分となる可能性があります。


単に書類のファイルが残っているかどうかではなく、取引内容と対価の計算過程を第三者が確認できる状態になっているかが重要です。


欠損金が使えなくなる場合の影響

例えば、ある事業年度に1億円の欠損金が生じ、その後の事業年度に1億円の所得が生じたとします。


<通常どおり繰越控除できる場合>

項目

金額

当期所得

1億円

繰越欠損金控除

△1億円

課税所得

0円

<保存要件を満たさず繰越控除できない場合>

項目

金額

当期所得

1億円

繰越欠損金控除

0円

課税所得

1億円


欠損金の繰越控除を適用できなくなると、将来の法人税負担が大きく増加する可能性があります。


特に、多額の先行投資を行っている企業、設立初期の企業、事業再編中の企業などでは、欠損金が重要な税務資産となっていることがあります。


関連者間取引の一部について書類が不足していたために、多額の欠損金全体の利用が問題になる事態は避けなければなりません。


企業が実施すべき実務対応

関連者間取引がある企業は、次の手順で保存状況を点検することが考えられます。


1.関連者を一覧化する

まず、親会社、子会社、兄弟会社その他の関連者を整理します。

国内法人だけでなく、海外のグループ会社との取引がある場合も、対象関係を確認する必要があります。


2.関連者に支払っている費用を抽出する

総勘定元帳や取引先別明細から、次のような費用を抽出します。

  • 経営指導料

  • 業務委託料

  • システム利用料

  • ロイヤルティ

  • 研究開発費

  • 広告宣伝費

  • ブランド使用料

  • 共通部門費の負担額

  • 人件費や間接費の配賦額


3.契約書・請求書の記載を確認する

各取引について、契約書や請求書に次の事項が記載されているか確認します。

  • 役務や資産の内容

  • 提供期間

  • 対価の金額

  • 単価や料率

  • 計算式

  • 配賦基準

  • 計算対象となる法人・部門

  • 金額の根拠資料


4.不足事項を補足する書類を作成する

記載が不足している場合は、取引先である関連者から資料を取得するか、自社で説明資料を作成します。実務上は、次の資料を一つのフォルダにまとめておくと確認しやすくなります。

  • 契約書

  • 請求書

  • 作業明細

  • 費用配賦表

  • 単価表

  • 原価計算資料

  • 稟議書

  • 取締役会資料

  • メールなどの協議記録

  • 対価算定メモ


5.年度ごとに保存状況を確認する

欠損金の繰越控除は、欠損金が発生した事業年度の保存状況が問題になります。

そのため、決算時に関連者間取引の一覧を作成し、必要書類がそろっているかを年度ごとに確認する仕組みを設けることが重要です。


【チェックリスト】関連者間取引の保存状況

確認項目

確認

関連者の範囲を整理している

□

関連者間の費用取引を一覧化している

□

各取引の契約書を保存している

□

請求書に取引内容が具体的に記載されている

□

対価の算定方法を確認できる

□

配賦基準と計算過程を確認できる

□

不足事項を補足する書類を作成している

□

電子データを含めて検索・提示できる

□

欠損金発生年度の資料を区分保存している

□

毎期、保存状況を点検している

□

一つでも確認できない項目がある場合は、契約書や社内資料を見直すことが望まれます。


まとめ

令和8年度税制改正で創設された「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例」では、契約書や請求書に対価の算定に必要な事項が記載されていない場合、その不足事項を明らかにする特定事項記載書類を取得・作成し、保存することが求められます。


重要なポイントは次のとおりです。

  • 関連者との一定の取引が対象となる

  • 契約書や請求書を保存しているだけでは足りない場合がある

  • 対価の額や計算根拠が不足していれば、別途書類による補完が必要

  • 未保存の場合は青色申告の承認取消リスクがある

  • 欠損金発生年度に必要書類が保存されていなければ、欠損金の繰越控除を適用できない可能性がある


特に注意すべきなのは、「取引自体は実在し、請求書も保存している」という場合であっても、金額の算定根拠を確認できなければ保存要件を満たさない可能性がある点です。


関連者間取引がある法人は、欠損金が生じてから対応するのではなく、取引開始時や決算時に必要書類を確認し、対価の計算過程を再現できる状態にしておくことが重要です。



神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!


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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。


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