関連者間取引の書類保存特例|保存漏れで青色申告は取り消される?税務調査・損金算入への影響を解説
おはようございます!代表の安田です。
令和8年度税制改正で創設された「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例」では、関連者との一定の取引について、契約書や請求書などに必要な事項が記載されていない場合、「特定事項記載書類」の取得・保存等が求められます。
この制度で特に注意したいのが、特定事項記載書類を保存していない場合、青色申告の承認の取消事由に該当するという点です。
ただし、
保存漏れがあれば直ちに青色申告が取り消される
関連者への支払額がすべて損金不算入になる
というわけではありません。
実際の税務調査では、まず不足している書類の取得・作成を求められ、その後、保存状況や是正可能性、違反の程度などを踏まえて判断される取扱いが示されています。
本日は、関連者間取引の書類保存特例について、メールで特定事項を取得した場合、保存漏れによる損金算入への影響、青色申告取消し、税務調査での対応、欠損金の繰越控除との関係まで、税理士が分かりやすく解説します。
関連者間取引の書類保存特例とは
内国法人が関連者との間で一定の取引を行った場合、取引関係書類等に必要記載事項が不足していれば、その不足事項を明らかにする書類を取得・保存する必要があります。
対象となり得る取引には、例えば次のようなものがあります。
親会社から受ける経営指導
経理、人事、財務などのバックオフィス支援
グループ共通システムの利用
研究開発費や広告宣伝費の費用分担
商標権、特許権、ノウハウ等の利用
契約書や請求書などから取引内容や対価の計算方法等を十分確認できれば、別途特定事項記載書類を作る必要はありません。
一方、必要な情報を確認できない場合には、不足事項を補完する必要があります。
特定事項をメールで取得した場合、紙で保存する必要はある?
親会社などから不足している情報をメールで受け取るケースもあります。
例えば、「経営指導料は年間売上高の2%として計算しています。」という内容をメールで受信した場合です。
この場合、改めて紙の特定事項記載書類を作成する必要はありません。
メールなどの電子取引によって特定事項を取得した場合には、紙の特定事項記載書類の取得・作成は不要で、その電子データを電子帳簿保存法に基づいて保存することになります。
<保存方法の整理>
特定事項の取得方法 | 保存方法 |
紙で取得 | 特定事項記載書類として保存 |
メールで取得 | 電子帳簿保存法に基づき電子保存 |
その他の電子取引で取得 | 電子帳簿保存法に基づき電子保存 |
つまり、メールを受信した後にわざわざ印刷して紙だけ保存する、という対応を前提としているわけではありません。
特定事項記載書類がないと費用は損金にならない?
実務上、非常に重要なポイントです。
例えば親会社へ1,000万円の経営指導料を支払っているものの、特定事項記載書類を保存していなかった場合、「1,000万円全額が損金不算入になるのでは?」と心配するケースがあります。
結論として、特定事項記載書類が保存されていないことだけを理由に、関連者間取引に係る費用の損金算入が否定されるわけではありません。
この書類保存制度は、関連者間取引に係る費用を損金算入するための直接的な要件ではないためです。
<考え方>
状況 | 税務上の考え方 |
特定事項記載書類がない | それだけで損金不算入にはならない |
実際に役務提供を受けている | 取引実態を確認して判断 |
金額・役務内容を説明できない | 別の税務上の問題が生じる可能性 |
架空の取引 | 当然ながら損金算入は別途問題 |
税務当局は、帳簿、契約書、請求書その他の資料から実際の取引内容を把握し、その実態に即して課税関係を判断するとされています。
保存漏れは青色申告の取消事由になる
一方で、損金算入とは別に注意しなければならないのが、青色申告の承認です。
特定事項記載書類を保存していない場合、法令上は青色申告の承認取消事由に該当します。
その根拠は、法人税法第127条第1項です。
同規定では、青色申告法人が、財務省令で定めるところに従って帳簿書類の備付け・記録・保存をしていないことが、青色申告の取消事由の一つとされています。
今回の関連者間取引に係る書類保存特例は、その帳簿書類保存に関する規定の一部であるため、特定事項記載書類を適切に保存していないことも取消事由となります。
「取消事由に該当する」=「すぐ取り消される」ではない
ここは混同しやすいところです。
法令上は取消事由に該当しますが、保存漏れが判明した瞬間に、自動的に青色申告が取り消されるわけではありません。
税務当局は、
保存状況
不足内容
是正できるか
違反の程度
その他の事情
を確認したうえで、取消処分の要否を判断します。
<判定イメージ>
特定事項記載書類の保存漏れ
↓
直ちに青色取消しではない
↓
税務署が保存状況等を確認
↓
不足を是正できるか確認
↓
違反の程度等を総合判断
┌────────┴────────┐
軽微な場合 重大な場合
↓ ↓
改善指導等 青色申告取消しの
にとどまる可能性 可能性
軽微な違反については、取消処分ではなく改善指導にとどめることもできるとされています。
税務調査ではまず「合理的な期間」が与えられる
税務調査で特定事項記載書類が保存されていない、または記載内容が不十分と判断された場合、税務署が即座に取消処分をするわけではありません。
まず、税務調査担当者から不足内容を明示されたうえで、合理的な期間を設定し、特定事項記載書類の取得・作成・提示を求められることとされています。
税務署から明示される内容は、主に次の3つです。
項目 | 内容 |
取引区分 | なぜ関連者間取引に該当するのか、どの取引区分か |
記載事項 | 不足している特定事項の内容 |
不足の程度 | どの記載が不十分で、調査上なぜ必要なのか |
したがって、税務調査で初めて保存漏れが判明した場合にも、まずは不足資料を整理し、速やかに対応することが重要です。
親会社が書類を一元管理している場合は?
グループ企業では、契約書や料金計算資料は全部親会社が保管しているというケースもあります。
原則として、子会社自身の納税地等において特定事項記載書類を保存する必要があります。
ただし、実務負担への配慮から一定の例外があります。
税務調査担当者から求められた際に、親会社から必要な情報を遅滞なく取得し、税務署へ提示できる体制が整っている場合には、子会社側で保存されているものとして取り扱われることがあります。
<親会社管理でも認められる可能性があるケース>
状況 | 取扱い |
親会社保管で、子会社がすぐ入手できる | 保存扱いとなる可能性あり |
親会社へ頼んでも数か月かかる | 要件を満たさない可能性 |
必要事項の一部しか入手できない | 要件を満たさない可能性 |
調査時に速やかに完全な資料を提示できる | 認められる可能性あり |
「親会社が持っているから大丈夫」というだけでは十分ではありません。
実際にどのくらいの期間で、どの資料を入手できるのかまで確認しておくことが重要です。
白色申告法人にはペナルティがない?
白色申告法人も、この書類保存特例の対象です。
ただし、そもそも青色申告ではないため、「青色申告承認取消し」というペナルティはありません。
それでは保存しなくても問題ないのかというと、そうではありません。
特定事項記載書類を含む帳簿書類の保存状況が不十分で、関連者間取引の実態が明らかにならず、法人税の課税標準等を実額で計算することが困難な場合には、推計課税の対象となる可能性があります。
<青色法人と白色法人の違い>
区分 | 書類保存漏れによる主なリスク |
青色申告法人 | 青色申告承認取消しの可能性 |
白色申告法人 | 推計課税の可能性 |
青色取消し後 | 以後の事業年度で推計課税の対象となり得る |
したがって、白色申告法人であっても書類保存を軽視することはできません。
青色申告が取り消されると何が問題になる?
青色申告法人には、税務上さまざまなメリットがあります。
例えば、
欠損金の繰越控除
欠損金の繰戻し還付
一定の租税特別措置
各種税制優遇
などです。
そのため、青色申告承認取消しは単に「申告書の色が変わる」だけの問題ではなく、将来の法人税負担にも大きな影響を与える可能性があります。
関連者間取引が多数ある企業では、書類保存体制そのものを内部統制の一部として管理する必要があります。
欠損金の繰越控除にも影響する可能性
特定事項記載書類の保存漏れは、欠損金の繰越控除にも関係します。
欠損金の繰越控除を適用するためには、原則として、その欠損金が生じた事業年度の帳簿書類を保存する必要があります。特定事項記載書類を含む帳簿書類の保存が十分に行われていない場合には、欠損金の繰越控除を受けられない場合があるとされています。
これは特に、多額の繰越欠損金を保有している企業では重要な論点です。
<例えば繰越欠損金が1億円ある場合>
関連者間取引に係る書類保存の不備によって青色申告や欠損金繰越控除に影響が出れば、税負担が大きく変わる可能性があります。
多額の繰越欠損金あり
↓
帳簿書類の保存義務あり
↓
関連者間取引の書類も確認
↓
保存不備
↓
欠損金の繰越控除へ影響する可能性「取引自体は正しいから書類は多少不足していても大丈夫」と考えない方がよいでしょう。
書類がなくても損金算入できるのに、なぜ保存が重要なのか
今回の制度を整理すると、一見すると次のような疑問が生じます。保存書類がなくても経費は損金になるのに、なぜそこまで重要なのか?
理由は、損金算入の問題と帳簿書類の保存義務の問題が別だからです。
<2つの論点を区別する>
論点 | 判断内容 |
費用の損金算入 | 実際に役務提供等があり、法人税上損金になるか |
書類保存義務 | 法令で要求される帳簿書類を保存しているか |
したがって、費用自体は損金として認められるが、書類保存義務違反として青色申告取消しの問題が生じるというケースはあり得ます。
この点を分けて考えることが重要です。
関連者間取引がある企業の実務チェックリスト
次のような取引がある企業は、書類保存状況を確認しておきましょう。
チェック項目 | 確認内容 |
関連者一覧 | 親会社・子会社・兄弟会社等を整理しているか |
対象取引 | 経営指導料・管理料・システム利用料等を把握しているか |
契約書 | 役務内容や料金計算方法が記載されているか |
請求書 | 対象期間や金額の内訳が分かるか |
計算資料 | 配賦基準・料率等を説明できるか |
メール | 特定事項をメールで受け取った場合、電子保存しているか |
親会社保管 | 調査時に遅滞なく取得できるか |
保存体制 | 誰がどこに保存するか決まっているか |
税務調査 | 不足を指摘された場合の対応担当者が決まっているか |
欠損金 | 多額の繰越欠損金がある場合、保存状況を再確認したか |
今から対応するなら何をすべき?
1.関連者との取引を一覧化する
以下の項目を洗い出します。
経営指導料
グループ管理料
経理支援料
ITシステム利用料
商標使用料
広告宣伝費負担金
研究開発費負担金
2.契約書・請求書で必要事項が確認できるか見る
取引内容や計算方法が十分記載されていれば、追加資料は原則不要です。
「管理料 一式」などの抽象的な記載しかない場合は、補完資料が必要になる可能性があります。
3.メールで取得した情報は電子保存する
親会社から料金計算方法などをメールでもらった場合、そのメールを適切に電子保存します。紙に出力しただけで電子データを削除しないよう注意しましょう。
4.親会社一元管理なら取得体制を確認する
子会社側で保存していなくても、必要時に速やかに入手できる場合には保存扱いとなる可能性があります。
実際に誰へ依頼すれば何日で資料を入手できるのか、社内ルールを作っておくとよいでしょう。
まとめ
関連者間取引に係る書類保存特例では、特定事項記載書類の保存がない場合、法令上は青色申告の承認取消事由に該当します。
ただし、実務上は保存漏れだけを理由として直ちに青色申告が取り消されるわけではありません。
税務調査では、まず合理的な期間内に不足書類の取得・作成・提示を求められ、その対応状況や違反の程度を踏まえて取消処分の要否が判断されます。
また、
書類がないだけで関連者間取引の費用が直ちに損金不算入になるわけではない
メールで特定事項を取得した場合は電子保存すればよい
親会社一元管理でも、遅滞なく取得・提示できれば保存扱いとなる可能性がある
白色申告法人では推計課税のリスクがある
帳簿書類の保存不備により欠損金の繰越控除へ影響する可能性もある
といった点も重要です。
関連者間取引がある企業では、税務調査が始まってから資料を探すのではなく、契約書、請求書、計算資料、メール等を取引ごとに整理し、必要事項をすぐ確認できる状態にしておくことが重要です。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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