大胆な投資促進税制は設備を先に取得すると対象外|申請・取得・事業供用の順序を解説
おはようございます!代表の安田です。
令和8年度税制改正で創設された「特定生産性向上設備等投資促進税制」、いわゆる大胆な投資促進税制では、一定の大規模な設備投資について税額控除または即時償却を適用できます。
ただし、適用を受けるためには手続の順序が非常に重要です。
結論からいうと、経済産業大臣による投資計画の確認を受ける前に設備を取得した場合、その設備について大胆な投資促進税制を適用することはできません。
「投資計画の作成・確認」→「設備の取得」→「事業供用」という順序で進める必要があり、計画内容自体が制度要件を満たしていても、設備取得を先行すると対象外となります。
一方、投資計画の確認後であれば、設備取得や事業供用が翌期以降になったり、投資実行まで数年空いたりしても、確認日から5年以内であれば適用できる場合があります。
本日は、大胆な投資促進税制の手続の順序、投資計画の確認期間、設備取得・事業供用の期限、先行取得した場合の取扱いについて、公認会計士が解説します。
大胆な投資促進税制とは
大胆な投資促進税制の正式名称は、「特定生産性向上設備等投資促進税制」です。
青色申告法人が一定の要件を満たす投資計画を作成し、その計画に基づいて対象設備を取得等して事業の用に供した場合、税制上の優遇を受けることができます。
主な優遇措置は次のとおりです。
対象設備 | 税額控除 | 即時償却 |
機械装置等 | 7% | 選択可能 |
建物 | 4% | 選択可能 |
建物附属設備 | 4% | 選択可能 |
構築物 | 4% | 選択可能 |
税額控除を選択する場合は、法人税額の20%が上限となります。
大規模投資を予定している企業にとって税務上の効果が大きい制度ですが、設備を取得した後に税制適用を検討しても間に合わない点には注意が必要です。
適用には3つのステップを順番に行う必要がある
添付資料では、企業が行う手続を大きく3段階に整理しています。
順序 | 手続 | 主な内容 |
① | 投資計画の作成・確認 | 一定の要件を満たす投資計画を作成し、経済産業大臣の確認を受ける |
② | 設備取得 | 確認日から5年以内に対象設備を取得する |
③ | 事業供用 | 対象設備を自社の事業の用に供する |
この順番を守ることが重要です。
特に、①計画確認より 先に ②設備取得を行なうことは認められていません。
「設備投資自体は計画に記載されているから問題ない」という考え方では適用できないため、設備の発注・取得時期と申請スケジュールを早い段階で調整する必要があります。
投資計画の確認を受けられる期間
投資計画の作成と経済産業大臣による確認には期限があります。
投資計画の作成・確認を行なう期間は、2026年(令和8年)7月31日から2029年(令和11年)3月31日までとされています。
<主な期限を整理>
手続 | 期限 |
投資計画の作成・確認 | 2026年7月31日~2029年3月31日 |
対象設備の取得 | 投資計画の確認日から5年以内 |
事業供用 | 投資計画の確認日から5年以内 |
ポイントは、2029年3月31日までにすべての設備を取得しなければならないわけではないことです。
2029年3月31日までに投資計画の確認を受けていれば、その確認日から5年以内に設備取得・事業供用を行なうことが可能です。
投資計画の確認後なら、設備取得が翌期になっても問題ない
大規模な設備投資では、投資計画を立ててからすべての設備が完成・納入されるまで数年を要することがあります。
例えば、
工場建設に時間がかかる
生産設備の納期が遅れる
海外メーカーから設備を調達する
工事工程が変更になる
といったケースです。
大胆な投資促進税制では、投資計画の確認後、確認日から5年以内であれば、設備取得と事業供用が異なる事業年度になっても問題ないとされています。
<例>
3月決算会社が2027年1月に投資計画の確認を受け、
2028年3月期に工場建物を取得
2029年3月期に機械装置を取得
2030年3月期に生産設備全体を事業供用
したとしても、確認日から5年以内という要件を満たしていれば、期間が複数年度にまたがったことだけを理由に適用できなくなるわけではありません。
数年間設備投資が遅れても5年以内なら対象になり得る
例えば工場建設と生産設備導入を予定していたものの、生産設備の納期が遅れて数年間後ろ倒しになったケースを考えてみましょう。
この場合でも、
所定の期間内に投資計画の確認を受けている
その確認日から5年以内に設備を取得している
5年以内に事業供用している
のであれば、制度の適用に問題はないとされています。
<スケジュールの考え方>
ケース | 適用関係 |
計画確認後すぐに取得・供用 | ○ |
計画確認後、翌期に設備取得 | ○になり得る |
設備取得と事業供用が別年度 | ○になり得る |
設備納入が数年遅延 | 5年以内なら○になり得る |
2029年3月末近くに計画確認 | 確認日から5年以内なら○になり得る |
計画確認より前に設備取得 | × |
添付資料3ページの図表でも、投資案件A~Dについては、投資時期が異なっていても、確認後5年以内で適切な順序により取得・事業供用しているため適用可能と整理されています。
最大の注意点は「設備の先行取得」
最も注意したいのが、経済産業大臣による投資計画の確認を受ける前に設備を取得するケースです。
大規模な設備投資では、「納期を確保するために先に設備を買いたい」「中期経営計画上、申請を待たずに発注・取得を進めたい」ということも考えられます。
しかし、大胆な投資促進税制では、計画確認前の設備の先行取得について例外は設けられていないとされています。
したがって、
順序 | 適用 |
投資計画確認 → 設備取得 | ○ |
設備取得 → 投資計画確認 | × |
となります。
ここは税制適用の可否を左右する重要なポイントです。
「あとから計画確認を受ければよい」は通用しない
例えば、100億円の設備投資計画があり、そのうち30億円の機械を先に取得した後、投資計画の確認を受けたとします。
その30億円の機械が投資計画の内容と完全に一致していたとしても、
計画確認前に取得している以上、その設備自体は本税制の適用対象とはなりません。
その後に取得する設備については、改めて制度要件を満たすかどうかを判定することになります。
先行取得した設備だけが対象外になる
先行取得した設備が1つでもあるからといって、投資計画に含まれる設備のすべてが自動的に対象外となるわけではありません。
計画確認前に取得した設備は適用対象外となる一方、それ以外の設備だけで投資下限額35億円以上などの一定要件を満たせば、その他の設備について適用できるとされています。
例えば次のケースを考えます。
<当初の投資計画>
設備 | 取得価額 | 取得時期 |
機械A | 20億円 | 計画確認前 |
機械B | 30億円 | 計画確認後 |
工場建物 | 50億円 | 計画確認後 |
合計 | 100億円 |
機械Aの20億円については、確認前に取得しているため対象外となります。
一方、機械B30億円+工場建物50億円=80億円について、投資下限額などの必要要件を満たせば、この80億円分について税制適用を検討できることになります。
つまり、先行取得した設備を除外した後で、残った対象設備だけを使って制度要件を再判定することが重要です。
中小企業経営強化税制とは取扱いが異なる
設備投資税制を利用した経験がある企業ほど、ここは注意が必要です。
中小企業経営強化税制について、一定の要件を満たす場合には、設備を先行取得した後に計画認定を受けることで税制適用できる場合があることが紹介されています。
そのため、
「他の設備投資税制では後から認定を取れたので、大胆な投資促進税制でも同じだろう」
と判断するのは危険です。
<両制度の違い>
項目 | 大胆な投資促進税制 | 中小企業経営強化税制 |
設備の先行取得 | 認められない | 一定の要件の下で認められる場合あり |
基本的な考え方 | 計画確認後に取得 | 事後認定が可能なケースあり |
注意点 | 手続順序を厳格に管理 | 制度固有の要件を確認 |
税制ごとに手続要件は異なるため、過去に利用した設備投資税制の経験だけで判断しないことが重要です。
「発注」と「取得」は区別して確認する必要がある
「設備取得」を計画確認後に行なう必要があることが明示されていますが、実際の大型設備投資では、
見積取得
稟議
取締役会決議
売買契約
発注
着手金支払
納品
検収
所有権移転
会計上の取得
といった各段階のうち、どの時点が制度上の「取得」に該当するのかを、個別案件ごとに最新の経済産業省資料等で確認する必要があります。
特に設備の納期が長い案件では、契約スケジュールと税制申請を同時並行で管理することが重要です。
税制適用を検討する場合の実務スケジュール
大胆な投資促進税制を利用する場合には、設備部門が先に発注・取得を進め、その後に経理・税務部門へ相談するという進め方は避ける必要があります。
実務上は、次の順番を意識するとよいでしょう。
段階 | 主な対応 |
①投資構想 | 対象設備・投資金額を整理 |
②税制適用検討 | 制度要件を確認 |
③投資計画作成 | 投資利益率等を含め計画策定 |
④専門家確認 | 必要な事前確認等を進める |
⑤経済産業大臣の確認 | 投資計画について確認を受ける |
⑥設備取得 | 確認後に実施 |
⑦事業供用 | 確認日から5年以内 |
⑧税務申告 | 税額控除または即時償却を適用 |
特に⑤と⑥の順番を逆にしないことが重要です。
設備部門・経営企画・経理税務の連携が重要
先行取得を防ぐためには、税務担当者だけが制度を理解していても十分ではありません。
実際に設備を発注・取得するのは、
生産部門
設備部門
購買部門
経営企画部門
子会社
などであることが多いためです。
例えば設備部門が、「納期が長いので今月中に取得手続を進めたい」と判断した後に税務部門へ相談すると、すでに税制適用ができなくなっている可能性があります。
<社内で共有しておきたい事項>
部門 | 主な確認事項 |
経営企画 | 投資計画と意思決定スケジュール |
設備・生産部門 | 設備の納期、取得時期 |
購買部門 | 契約・発注・取得スケジュール |
経理・税務 | 税制要件、申請状況 |
財務 | 資金調達計画 |
経営者 | 投資意思決定 |
公認会計士・税理士 | 必要な事前確認 |
大型投資を予定している場合には、投資計画の初期段階から税制適用の有無を確認しておくことが望まれます。
<大胆な投資促進税制の確認チェックリスト>
確認事項 | チェック |
大胆な投資促進税制の適用を検討している | □ |
対象設備と取得価額を一覧化した | □ |
投資下限額等の計画要件を確認した | □ |
投資計画の申請期限を確認した | □ |
経済産業大臣による計画確認を受けた | □ |
計画確認前に取得済みの設備がないか確認した | □ |
設備取得を計画確認後に行うスケジュールとなっている | □ |
設備取得が確認日から5年以内である | □ |
事業供用が確認日から5年以内である | □ |
設備取得と事業供用が期をまたぐ場合も期限管理している | □ |
先行取得設備がある場合、残りの設備だけで制度要件を再判定した | □ |
設備部門・購買部門と税制要件を共有した | □ |
まとめ
大胆な投資促進税制では、税制優遇の内容だけでなく、手続を行う順序が非常に重要です。
主なポイントは次のとおりです。
まず投資計画を作成し、経済産業大臣の確認を受ける
投資計画の確認後に対象設備を取得する
設備を事業の用に供する
投資計画の確認期間は2026年7月31日から2029年3月31日まで
設備取得・事業供用は計画確認日から5年以内
設備取得と事業供用が異なる事業年度でも、それだけで対象外にはならない
設備納入が数年間遅れた場合でも、確認日から5年以内であれば適用できる場合がある
投資計画の確認前に取得した設備は対象外
個別事情による先行取得の例外も認められない
先行取得した設備を除き、残る設備だけで投資下限額等を満たせば、他の設備について適用できる場合がある
特に注意すべきなのは、「設備を取得してから税制の申請をすればよい」という進め方ができないことです。
大型の設備投資では、納期や工事スケジュールを優先して設備取得が先行しやすいため、投資意思決定の段階から経理・税務部門を関与させ、投資計画の確認を終えてから設備を取得する社内フローを構築することが重要です。
確認後の設備取得・事業供用については一定の時間的余裕が認められる一方、確認前の先行取得や確認後5年を超えた取得・供用は対象外となります。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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