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工事代金を支払っただけでは仕入税額控除できない?建設仮勘定と消費税の計上時期を解説

執筆者の写真: 安田亮
安田亮
10 分前
読了時間: 15分

おはようございます!代表の安田です。


建物の新築や倉庫の建設、設備工事などでは、工事完成前に着手金・中間金・出来高払などを支払うことがあります。


決算時に工事代金の多くをすでに支払っていると、

  • お金を払ったのだから、その消費税は今期の仕入税額控除にできる

  • 建設仮勘定に計上していても、支払済みなら還付申告ができる

  • 請求書やインボイスも受け取っているので問題ない

と考えてしまいがちです。


しかし、消費税の仕入税額控除は、原則として代金を支払った日ではなく、資産の引渡しや役務の提供を受けた日を基準に判定します。


したがって、工事代金を全額支払っていても、建物が未完成で引渡しを受けていなければ、その全額を直ちに仕入税額控除できるとは限りません。


一方で、設計業務や部分完成した工事など、今期中に役務提供や部分引渡しが完了しているものについては、その部分だけ先に仕入税額控除できる可能性があります。


本日は、建設仮勘定に計上した工事代金の仕入税額控除について、支払日と引渡日の違い、設計料・出来高払・部分引渡しの取扱い、インボイス制度上の注意点を税理士が解説します。


消費税は「支払った日」だけでは決まらない

消費税の仕入税額控除は、事業者が課税仕入れを行った課税期間に適用します。


ここでいう「課税仕入れを行った日」は、原則として次の日です。

  • 商品や設備などの資産については、引渡しを受けた日

  • 工事や設計などのサービスについては、役務の提供を受けた日


つまり、代金を先に支払っていても、まだ商品を受け取っていない、またはサービスの提供が完了していない場合には、原則として支払時点では課税仕入れが成立していません。国税庁も、前払金を支払った場合であっても、実際に資産の引渡しやサービスの提供があった時が仕入れの時期になると説明しています。


典型例

3月決算の会社が倉庫建設を発注し、次の状況だったとします。

  • 工事請負代金:1億1,000万円(税込)

  • 3月末までの支払額:8,800万円

  • 工事完成・引渡し予定:翌期の8月

  • 3月末時点:工事継続中で、倉庫全体の引渡しなし


この場合、8,800万円を支払ったという事実だけで、対応する消費税額の全額を3月期の仕入税額控除にできるわけではありません。


支払額のうち、

  • 単なる前払金に当たる部分

  • 今期中に完了した設計業務

  • 完成・検収済みの部分工事

  • 引渡しを受けた資材や設備

などを区分し、それぞれの役務提供日や引渡日を確認する必要があります。


建設仮勘定とは

建設仮勘定とは、建物や設備などの建設・製作が完成するまでに支払った金額を、一時的に計上する資産科目です。


たとえば、建物の完成前に支払った次のような費用を計上します。

  • 工事着手金

  • 中間金

  • 設計料

  • 建築確認申請費用

  • 工事監理料

  • 建設資材代

  • 設備工事代

  • 外注費


建物が完成し、事業の用に供した時点で、建設仮勘定から建物、建物附属設備、構築物、機械装置などへ振り替えます。

建物等 100,000,000円/建設仮勘定 100,000,000円

ただし、法人税・会計上で建設仮勘定に計上していることと、消費税の仕入税額控除の時期は必ずしも一致しません。


国税庁は、建設仮勘定に計上されている金額であっても、原則として資産の引渡しや役務提供があった日の課税期間に仕入税額控除を行うとしています。


原則は、引渡し・役務提供を受けた部分から控除する

建物全体が未完成でも、工事に関連するすべての費用を完成時まで控除できないわけではありません。


今期中に個別の資産の引渡しや役務提供が完了している場合には、その部分については今期の仕入税額控除の対象となります。


今期中に控除できる可能性があるもの

  • 完了済みの設計業務

  • 完了済みの測量・地盤調査

  • 納品済みの建築資材

  • 引渡しを受けた設備

  • 検収済みの部分工事

  • 工程ごとに独立して完成・引渡しを受けた工事

  • 完了済みの工事監理業務


たとえば、倉庫本体の完成は翌期であっても、設計業務が今期中に完了し、成果物の納品や検収を受けている場合には、設計料に係る消費税は今期の仕入税額控除の対象となる可能性があります。


反対に、設計料という名称で支払っていても、今期末時点で設計作業が継続中であれば、単に支払っただけでは原則として控除できません。


工事全体の完成前でも「部分引渡し」があれば控除できる

建設工事では、建物全体が完成する前に、工区や棟、設備などの単位で部分的な引渡しが行われることがあります。


たとえば、3棟の倉庫を一括発注したものの、次のような進捗だったとします。

  • A棟:完成し、検収・引渡し済み

  • B棟:内装工事中

  • C棟:基礎工事中


この場合、契約内容や工事の実態からA棟について独立した部分引渡しが認められるのであれば、A棟に対応する工事代金について、今期の仕入税額控除の対象とできる可能性があります。


一方、A棟が物理的に完成していても、契約上は3棟全体を一括して引き渡すこととされ、A棟だけでは発注者が使用・収益できない状況であれば、部分引渡しがあったとは言い切れません。


部分引渡しの判断では、主に次の点を確認します。

  • 工区・棟ごとに請負金額が区分されているか

  • 個別に検収を行っているか

  • 引渡書や完成確認書があるか

  • 発注者がその部分を使用できる状態か

  • 危険負担や管理責任が移転しているか

  • 契約書上、部分引渡しが予定されているか

  • 工事業者が残工事とは独立して引き渡したと認識しているか


単に工事の進捗率が80%というだけでは、80%相当額を自動的に仕入税額控除できるわけではありません。


出来高払をしただけでは部分引渡しとは限らない

建設工事では、工事の進捗に応じて「出来高払」を行なうことがあります。

たとえば、

  • 契約時に20%

  • 上棟時に30%

  • 中間検査時に30%

  • 完成引渡し時に20%

という支払条件です。


この場合、支払額が工事の進捗に連動していても、それだけで資産の引渡しを受けたとは限りません。


中間金の支払いが、あくまで資金繰りのための前払いであり、建物の所有・管理・使用権が発注者へ移っていなければ、原則として支払時点での仕入税額控除はできません。

重要なのは、「何%支払ったか」ではなく、「どの資産または役務の引渡し・提供を受けたか」です。


出来高検収書があれば控除できる場合

下請工事などでは、一定期間ごとに出来高を検収し、その出来高に応じた請負金額を確定させることがあります。


出来高検収の結果、該当部分について役務提供が完了し、その内容を当事者間で確認している場合には、その出来高部分を課税仕入れとして処理できることがあります。


インボイス制度上も、発注者が作成する出来高検収書について、受注者の確認を受け、適格請求書に必要な記載事項を満たすなどの要件を備えていれば、仕入税額控除のための請求書等として使用できる場合があります。


ただし、次の二つは分けて考える必要があります。

  1. 課税仕入れがいつ成立したか

  2. 仕入税額控除に必要なインボイス等を保存しているか


インボイスを持っていても、資産の引渡しや役務提供を受けていなければ、原則として課税仕入れの時期は到来していません。


逆に、役務提供が完了していても、必要な帳簿や適格請求書等を保存していなければ、原則として仕入税額控除は認められません。


建物全体の完成時にまとめて控除する方法も認められる

建設仮勘定に含まれる費用は、原則として個々の資産の引渡しや役務提供を受けた課税期間に控除します。


しかし、実務上は設計料、資材費、設備工事費などを一件ずつ区分して処理することが煩雑です。


そこで、建設仮勘定として経理した課税仕入れについて、個別の引渡し・役務提供時に控除せず、工事目的物のすべての引渡しを受けた課税期間にまとめて仕入税額控除する方法も認められています。


二つの処理方法

建設仮勘定に含まれる課税仕入れには、概ね次の処理があります。


<原則処理>

  • 設計業務が完了した課税期間

  • 資材の引渡しを受けた課税期間

  • 部分工事の引渡しを受けた課税期間

ごとに仕入税額控除する。


<完成時にまとめる処理>

  • 個々の課税仕入れ時には控除せず

  • 建物全体の完成・引渡しを受けた課税期間にまとめて控除する

後者は税額控除を後ろ倒しにする処理です。


反対に、工事代金を支払った時点へ前倒しして控除する方法ではありません。


継続的な処理が重要

建設仮勘定の仕入税額控除については、案件ごとに都合よく処理を変えると、税額操作と受け取られる可能性があります。たとえば、

  • 還付になる年度は個別に早期控除

  • 納付になる年度は完成時まで繰延べ

というような恣意的な使い分けは避けるべきです。


社内で次のような会計・税務方針を定め、継続的に運用することが重要です。

  • 設計料は役務完了時に控除する

  • 資材は納品・検収時に控除する

  • 工事本体は契約上の引渡時に控除する

  • 部分引渡しは一定の証拠書類がある場合だけ認める

  • 建設仮勘定全体を完成時に控除する場合は一貫して処理する


法人税の工事進行基準と消費税は必ずしも一致しない

長期の工事では、法人税・会計上、工事の進捗度に応じて収益を計上することがあります。

しかし、法人税上の収益計上と消費税の資産譲渡等の時期は、必ずしも同じではありません。


法人税等で工事進行基準を適用している場合、消費税でも同様の特例を選択できますが、消費税について原則的な引渡基準を用いることも認められています。

したがって、「法人税で工事進捗80%を計上した=消費税も必ず80%計上する」とは限りません。


購入者側の仕入税額控除についても、相手方の法人税上の収益計上率だけで判断せず、実際の役務提供、部分引渡し、検収の状況を確認する必要があります。


仕入税額控除の具体例

<ケース1:前払金だけを支払った>

  • 倉庫建設代金:税込1億1,000万円

  • 今期支払額:税込5,500万円

  • 今期末時点:工事未完成

  • 部分引渡し:なし

  • 設計・工事代金の区分:なし


この場合、5,500万円は実質的に前払金であり、原則として今期の仕入税額控除はできません。会計上は、たとえば次のように処理します。

建設仮勘定 50,000,000円
仮払消費税等 5,000,000円/普通預金 55,000,000円

ただし、仮払消費税等を計上していても、消費税申告では仕入税額控除の対象外として調整する必要があります。


税務処理を明確にするため、支払時は税込額を建設仮勘定または前払金にまとめ、引渡時に仮払消費税を認識する方法も考えられます。


<ケース2:設計業務だけ完了している>

  • 建設工事全体:未完成

  • 設計料:税込1,100万円

  • 設計図面:今期中に納品・検収済み

  • 工事代金:前払いのみ


設計業務が独立した契約または明確に区分された役務であり、今期中に完了していれば、設計料に含まれる消費税100万円は今期の仕入税額控除の対象となる可能性があります。

工事本体の前払額については、引渡しを受けるまで原則として控除できません。


<ケース3:3棟のうち1棟だけ完成した>

  • A棟:完成・使用開始・引渡書あり

  • B棟・C棟:工事中

  • 契約金額:棟ごとに区分

  • 検収:棟ごとに実施


A棟について独立した引渡しが認められる場合、A棟に対応する消費税は今期に控除できる可能性があります。B棟・C棟の前払部分は翌期以降となります。


<ケース4:工事進捗率80%として中間金を支払った>

  • 工事進捗率:80%

  • 中間金:契約額の80%

  • 建物全体の引渡し:翌期

  • 部分引渡し・検収:なし


進捗率に応じて支払っただけであれば、原則として今期に80%分を控除できるとは限りません。出来高払の名称ではなく、契約上・事実上、役務提供の完了や部分引渡しが認められるかを確認します。


還付申告になる場合は特に慎重な確認が必要

建物の建設には多額の消費税が含まれるため、仕入税額控除を行う年度によっては、大きな消費税還付が発生します。


しかし、還付申告では税務署から次のような資料の提出や説明を求められることがあります。

  • 工事請負契約書

  • 設計契約書

  • 工事工程表

  • 請求書・適格請求書

  • 出来高検収書

  • 完成引渡書

  • 検査済証

  • 工事写真

  • 建設仮勘定の明細

  • 振込記録

  • 固定資産台帳

  • 建物の使用開始日

  • 課税売上げに使用することが分かる資料


還付を早く受けたいからといって、支払日だけを基準に全額控除すると、後日の税務調査で控除時期を否認されるおそれがあります。


課税売上げに使用する建物かも確認する

工事の引渡し時期を満たしても、その消費税を全額控除できるとは限りません。

建物の用途によって、仕入税額控除の可否や控除割合が変わります。


<全額控除になり得るもの>

  • 課税商品の製造工場

  • 課税売上げを行う店舗

  • 事業用倉庫

  • 課税事業にのみ使用する事務所


<控除が制限される可能性があるもの>

  • 居住用賃貸マンション

  • 非課税売上げにのみ使用する施設

  • 課税売上げと非課税売上げの双方に使用する建物

  • 社宅など一定の非課税取引に関連する建物


また、課税売上高や課税売上割合によっては、個別対応方式や一括比例配分方式により控除額を計算します。


簡易課税制度を適用している課税期間では、実際に支払った建設工事の消費税を個別に控除する方式ではありません。


インボイスを受け取っただけでは十分ではない

2023年10月からのインボイス制度では、原則として仕入税額控除を受けるために、帳簿と適格請求書等の保存が必要です。

ただし、適格請求書が届いたことだけで、仕入税額控除の時期が到来するわけではありません。確認すべき要件は、少なくとも次の二段階です。

  1. 資産の引渡しまたは役務提供を受けていること

  2. 適格請求書等と帳簿を保存していること


前払請求書に登録番号や消費税額が記載されていても、まだ引渡し・役務提供を受けていなければ、原則として支払時点では控除できません。


また、工事完成後に発行された請求書でも、登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとの対価・税額などの必要事項を満たしているか確認しましょう。


工事代金の仕入税額控除で起こりやすいミス

1.支払日で仕入税額控除する

前払金や中間金を支払っただけでは、原則として課税仕入れは成立しません。

引渡日・役務提供完了日を確認します。


2.建設仮勘定の全額を今期の控除対象にする

建設仮勘定の中には、前払金と完了済みの設計料・資材費などが混在していることがあります。明細ごとに確認する必要があります。


3.工事進捗率と仕入税額控除を機械的に一致させる

進捗率80%だから消費税も80%控除できるとは限りません。

部分引渡しや役務完了の有無で判断します。


4.請求書を受け取った日を課税仕入れの日とする

請求書発行日や支払期日は、必ずしも資産の引渡日ではありません。

契約書、検収書、引渡書などを確認しましょう。


5.法人税の収益・費用計上と消費税を同じにする

法人税上の工事進行基準や減価償却開始時期と、消費税の課税仕入れ時期は必ずしも一致しません。


6.部分引渡しの証拠を残していない

工区や棟ごとに控除する場合は、契約金額の区分、検収、引渡日、使用開始日を証明できる資料が必要です。


7.インボイスだけ確認して取引時期を見ていない

適格請求書の保存と、課税仕入れの成立時期は別の要件です。


決算時のチェックリスト

建設仮勘定や工事前払金がある場合には、次の事項を確認しましょう。


<契約内容>

  • 契約は一括請負か、工程別・棟別契約か

  • 設計料と工事代金は区分されているか

  • 部分引渡し条項があるか

  • 出来高払は単なる前払いか

  • 検収・引渡しの条件は何か


<工事の進捗>

  • 今期中に完成した工区や棟があるか

  • 設計・測量・監理業務は完了しているか

  • 資材や設備の引渡しを受けているか

  • 発注者が使用できる状態か

  • 工事写真や工程表を確認したか


<証拠書類>

  • 工事請負契約書

  • 注文書・請書

  • 請求書・インボイス

  • 出来高検収書

  • 完成引渡書

  • 検査済証

  • 工事報告書

  • 振込明細


<消費税申告>

  • 本則課税か簡易課税か

  • 課税売上げに対応する建物か

  • 居住用賃貸建物ではないか

  • 個別対応方式か一括比例配分方式か

  • 建設仮勘定の明細を一件ずつ確認したか

  • 前期以前と継続した処理になっているか


まとめ

工事代金を支払ったからといって、その時点で必ず仕入税額控除ができるわけではありません。


消費税の課税仕入れは、原則として資産の引渡しや役務提供を受けた時に成立します。

重要なポイントは次のとおりです。

  • 前払金・中間金の支払いだけでは原則として控除できない

  • 建設仮勘定に計上していても、個別の引渡し・役務完了時に控除できる

  • 設計料や資材費は、工事全体の完成前でも控除できる場合がある

  • 棟別・工区別の部分引渡しがあれば、その部分を先に控除できる可能性がある

  • 出来高払や工事進捗率だけでは部分引渡しとは限らない

  • 建設仮勘定を完成引渡時にまとめて控除する処理も認められている

  • 法人税の工事進行基準と消費税の処理は必ずしも一致しない

  • 適格請求書を保存していても、引渡し前なら原則として控除できない

  • 還付申告では契約書、検収書、引渡書などの証拠資料が重要

  • 会計ソフトの処理をそのまま申告へ反映せず、取引実態を確認する


建設工事は支払額が大きく、仕入税額控除の年度を一つ誤るだけでも、消費税の申告額が大幅に変わります。


特に決算期をまたぐ工事や、多額の還付申告が見込まれる場合には、決算後ではなく、契約締結時や中間金の支払時から、工事区分と引渡条件を整理しておくことが大切です。



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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。

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