インボイス制度で仕入明細書は使える?講師報酬・外注費で買手が書類を作成する場合の注意点
こんばんは!代表の安田です。
インボイス制度では、仕入税額控除を受けるために、原則として売手から交付された適格請求書、いわゆるインボイスの保存が必要です。
しかし、すべての取引で売手が請求書や領収書を発行しているとは限りません。
たとえば、研修会社が個人講師に講演料を支払う場合、これまで講師から請求書を受け取らず、会社側が振込案内や支払明細を作成して支払っていたケースもあります。
また、農産物の仕入れ、外注費、委託販売、講師料、出演料など、実務上は買手側が支払額を計算し、相手方へ明細を通知する取引もあります。
このような場合、インボイス制度ではどのように対応すればよいのでしょうか。
結論からいうと、買手が作成する仕入明細書であっても、必要事項を記載し、売手である相手方の確認を受けたものであれば、仕入税額控除のための請求書等として保存することができます。
本日は、インボイス制度における仕入明細書の取扱い、記載事項、相手方の確認方法、支払調書データを使う場合の注意点、免税事業者との取引での経過措置について解説します。
仕入明細書とは
仕入明細書とは、買手が作成する取引明細書です。
通常の請求書は、売手が買手に対して発行します。
これに対して、仕入明細書は、買手が「この内容で仕入れました」「この金額を支払います」という形で作成し、売手に確認してもらう書類です。
たとえば、次のような取引で使われることがあります。
講師への講演料
外注先への業務委託料
農家や生産者からの仕入れ
委託販売に係る精算
買手側が数量や単価を集計する取引
源泉徴収税額を控除して支払う報酬
支払者側が振込案内を作成する取引
インボイス制度では、売手からインボイスを受け取る方法だけでなく、買手が作成した仕入明細書を保存する方法も認められています。
ただし、買手が勝手に書類を作成して保存すればよいわけではありません。
必要事項を記載し、相手方の確認を受けることが重要です。
インボイス制度でも仕入明細書は使える
インボイス制度が始まる前から、買手が作成する仕入明細書については、一定事項を記載し、相手方の確認を受けたものであれば、仕入税額控除のための請求書等として取り扱うことができました。
この考え方は、インボイス制度でも引き継がれています。
つまり、売手が請求書を発行しない取引であっても、買手がインボイス制度に対応した仕入明細書を作成し、相手方の確認を受けて保存すれば、仕入税額控除の保存要件を満たすことができます。
たとえば、研修会社が講師に報酬を支払う場合、講師から請求書をもらう代わりに、会社側で講演日、講演内容、報酬額、源泉徴収税額、消費税額などを記載した仕入明細書を作成し、講師に確認してもらう方法が考えられます。
このように、仕入明細書方式は、従来から買手側で支払明細を作成していた会社にとって、実務上使いやすい方法です。
インボイス制度後の仕入明細書の記載事項
インボイス制度後に仕入明細書を仕入税額控除のための書類として使うには、一定の記載事項が必要です。
主な記載事項は次のとおりです。
仕入明細書を作成する買手の氏名または名称
課税仕入れの相手方、つまり売手の氏名または名称
売手の登録番号
課税仕入れを行なった年月日
課税仕入れに係る資産または役務の内容
軽減税率対象品目である場合はその旨
税率ごとに区分した支払対価の額、適用税率、税率ごとに区分した消費税額等
インボイス制度前の区分記載請求書等保存方式では、登録番号、適用税率、税率ごとの消費税額等の記載は不要でした。
しかし、インボイス制度後は、相手方が適格請求書発行事業者である場合、その登録番号などを記載する必要があります。
そのため、従来の支払明細書や振込案内をそのまま使うのではなく、インボイス制度に対応した様式へ見直すことが必要です。
講師報酬で仕入明細書を使うケース
研修会社やセミナー運営会社では、講師に講演料を支払うことがあります。
この場合、講師が個人であることも多く、これまで講師から請求書を発行してもらっていなかった会社もあるでしょう。
たとえば、会社側が講演終了後に振込案内を作成し、講演料、源泉徴収税額、振込額を記載して講師へ送付していたようなケースです。
インボイス制度では、講師が適格請求書発行事業者である場合、会社が仕入税額控除を受けるには、原則としてインボイスの保存が必要です。
講師からインボイスを発行してもらう方法もありますが、会社側で仕入明細書を作成し、講師の確認を受ける方法も考えられます。
既存の振込案内に、講師の登録番号、適用税率、税率ごとの消費税額等を追加し、相手方の確認を受けられる運用にすれば、仕入明細書として活用できる可能性があります。
仕入明細書は一定期間分をまとめて作成できる
仕入明細書は、取引の都度作成しなければならないわけではありません。
課税期間の範囲内であれば、一定期間内に行なった取引をまとめて作成することができます。たとえば、毎月分をまとめて作成する、四半期ごとに作成する、半期ごとに作成する、といった方法が考えられます。
講師報酬のように、同じ講師に年に複数回支払う場合、取引のたびに仕入明細書を作成するよりも、一定期間分をまとめて作成した方が効率的な場合があります。
ただし、集計期間には注意が必要です。
法令上は、課税期間の範囲内の一定の期間についてまとめることができるとされています。
そのため、課税期間をまたぐ形で1枚の仕入明細書にまとめることは避けるべきです。
支払調書データを使う場合は集計期間に注意
実務上、講師報酬や原稿料などについては、所得税の支払調書を作成するために、1月から12月までの支払データを集計している会社が多いでしょう。
この支払調書用のデータを使えば、仕入明細書も作りやすいと考えるかもしれません。
しかし、ここで注意が必要です。
支払調書の集計期間は、通常、暦年である1月から12月です。
一方、法人の消費税の課税期間は、会社の事業年度に合わせていることが多く、たとえば3月決算法人であれば4月から翌年3月までです。
仕入明細書は、課税期間の範囲内で一定期間分をまとめる必要があります。
そのため、3月決算法人が1月から12月の支払調書データをそのまま使って仕入明細書を作成すると、課税期間と集計期間が一致しないことになります。
この場合、支払調書用データをそのまま仕入明細書として使うのは適切ではありません。
3月決算法人であれば、4月から翌年3月まで、または月次・四半期など、課税期間内に収まる単位で仕入明細書を作成する必要があります。
支払の都度作成する方法も検討する
支払調書用の年次データをそのまま使えない場合、支払の都度作成している振込案内を仕入明細書の様式に変更する方法もあります。
たとえば、講師に報酬を振り込むたびに、次の内容を記載した振込案内を送付します。
講師名
講演日
講演内容
報酬額
消費税額等
源泉徴収税額
差引振込額
講師の登録番号
適用税率
確認に関する文言
このように、既存の振込案内をインボイス制度対応の仕入明細書として使えるようにすれば、年次集計のズレを気にせず運用できます。
また、取引の都度確認できるため、後からまとめて相手方に確認を求めるよりも、ミスに気付きやすいというメリットもあります。
会社の事務負担、取引件数、講師や外注先の数に応じて、月次作成、都度作成、四半期作成など、自社に合った方法を選ぶことが大切です。
相手方の確認を受ける必要がある
仕入明細書は、買手が作成する書類です。
そのため、買手が作成した内容が売手側の認識と一致していることを確認する必要があります。インボイス制度で仕入明細書を保存書類として使うには、記載内容について相手方の確認を受けたものでなければなりません。
相手方の確認方法としては、たとえば次のような方法があります。
仕入明細書を送付し、相手方から確認済みの返信を受ける
メールで明細を送付し、内容確認の返信を受ける
クラウドシステム上で相手方に確認ボタンを押してもらう
電子データを共有し、相手方から承認通知を受ける
一定期間内に誤りの連絡がない場合は確認済みとする旨を合意する
必ずしも紙に押印をもらう必要はありません。
インターネットや電子メールを使った確認も認められます。
ただし、単に送付するだけではなく、相手方が記載内容を確認したといえる実態を整えることが重要です。
「一定期間内に連絡がなければ確認済み」とする方法
実務上、最も運用しやすい方法の一つが、仕入明細書に確認文言を記載する方法です。
たとえば、次のような文言を仕入明細書に記載します。
「本明細書の内容に誤りがある場合は、受領後○日以内にご連絡ください。期間内にご連絡がない場合、本明細書の記載内容について確認を受けたものとして取り扱います。」
このような文言を記載し、相手方の了承を得ておくことで、一定期間内に誤りの連絡がなければ、記載内容について確認があったものとして取り扱うことができます。
国税庁Q&Aでも、仕入明細書等に、送付後一定期間内に誤りの連絡がない場合には記載内容のとおり確認があったものとする旨を記載し、相手方の了承を得る方法が示されています。
ただし、確認済みとするための「一定期間」については、取引内容や相手方との関係に応じて、認識を合わせておくことが大切です。
契約書、取引基本契約、業務委託契約、講師依頼書などに、この確認方法を明記しておくとより安心です。
免税事業者との取引でも仕入明細書が必要になる場合
インボイス制度では、免税事業者は適格請求書発行事業者ではないため、インボイスを発行することはできません。
では、相手方が免税事業者である場合、仕入明細書は不要なのでしょうか。
ここで注意したいのが、免税事業者等からの仕入れに係る経過措置です。
インボイス制度開始後も、一定期間は、免税事業者等からの課税仕入れについて、一定割合の仕入税額控除が認められています。
この経過措置の適用を受けるためには、帳簿と一定の事項を記載した請求書等の保存が必要です。
相手方が免税事業者であっても、経過措置を使って仕入税額控除を受けるのであれば、仕入明細書を整備する必要があります。
この場合の仕入明細書は、インボイス登録番号の記載はできませんが、現行の区分記載請求書等保存方式と同様の記載事項を満たすことが求められます。
課税事業者と免税事業者で記載事項が異なる
仕入明細書を作成する場合、相手方が適格請求書発行事業者か、免税事業者かによって記載事項が異なります。
相手方が適格請求書発行事業者である場合、仕入明細書には、相手方の登録番号、適用税率、税率ごとの消費税額等を記載する必要があります。
一方、相手方が免税事業者であり、経過措置の適用を受ける場合には、登録番号はありません。そのため、現行の区分記載請求書等保存方式と同様に、相手方の氏名または名称、取引年月日、取引内容、税率ごとの支払対価の額などを記載することになります。
実務上は、相手方ごとに登録番号の有無を管理し、仕入明細書の様式や税区分を分ける必要があります。講師や外注先に免税事業者が多い会社では、登録番号の確認、経過措置の税区分、仕入明細書の記載内容を整理しておきましょう。
講師が副業の場合の注意点
講師業務を副業として行なっている個人の場合、免税事業者であることも少なくありません。たとえば、会社員が休日にセミナー講師をしている、専門家が単発で講演をしている、大学教員や実務家が研修講師をしている、といったケースです。
このような講師は、適格請求書発行事業者として登録していないことがあります。
その場合、会社側は、講師が登録事業者かどうかを確認し、登録事業者であればインボイス対応の仕入明細書を作成し、免税事業者であれば経過措置に対応した仕入明細書を作成する必要があります。
また、源泉徴収の対象となる講師報酬については、所得税の源泉徴収も別途必要です。
仕入明細書には、消費税の情報だけでなく、源泉徴収税額や差引支払額を記載しておくと、講師側にも分かりやすい書類になります。
源泉徴収とインボイスは別の論点
講師報酬や原稿料などでは、所得税の源泉徴収が必要になることがあります。
一方、インボイス制度は、消費税の仕入税額控除に関する制度です。
そのため、源泉徴収をしているからといって、インボイス制度上の保存要件を満たすわけではありません。
たとえば、講師への振込案内に、報酬額、源泉徴収税額、差引支払額だけが記載されている場合、所得税の支払明細としては役に立ちます。
しかし、インボイス制度上の仕入明細書としては、登録番号、適用税率、消費税額等などが不足している可能性があります。インボイス制度開始後は、従来の源泉徴収事務用の書類を、消費税の仕入税額控除にも対応できるように見直すことが重要です。
電子メールやシステムで仕入明細書を送る場合
仕入明細書は、紙で送付するだけでなく、電子メールやクラウドシステムを使って送ることもできます。
たとえば、PDFの仕入明細書をメール添付で送る、講師専用の管理画面で明細を確認してもらう、電子契約システムや支払管理システムで承認を取る、といった方法です。
電子データで仕入明細書をやり取りする場合、電子帳簿保存法への対応も必要になります。
具体的には、電子取引データとして、一定の保存要件を満たして保存する必要があります。
確認したいポイントは次のとおりです。
送付した仕入明細書データを保存しているか
相手方の確認通知や承認履歴を保存しているか
取引年月日、金額、取引先で検索できるか
改ざん防止措置を講じているか
税務調査時にデータを出力できるか
紙と電子データが混在する場合のルールを決めているか
電子化すれば便利になりますが、保存方法を整えておかないと、後から確認が難しくなることがあります。
仕入明細書方式を導入する実務フロー
仕入明細書方式を導入する場合、次のような流れで進めると整理しやすくなります。
仕入明細書方式を使う取引を洗い出す
売手から請求書を受け取る取引と、買手が明細を作る取引を区分する
相手方が適格請求書発行事業者か確認する
登録番号を取引先マスターに登録する
免税事業者との取引について経過措置の適用方針を決める
仕入明細書の様式を見直す
相手方の確認方法を決める
契約書や依頼書に確認方法を記載する
電子保存の方法を整備する
経理担当者と現場担当者に運用ルールを周知する
特に、講師、外注先、個人事業主との取引が多い会社では、登録番号の有無や免税事業者との経過措置管理が重要になります。
実務上よくあるミス
仕入明細書方式では、次のようなミスが起こりやすくなります。
従来の振込案内をそのまま使い、登録番号や消費税額等が不足している
支払調書用の1月から12月データを、3月決算法人の仕入明細書として使っている
課税期間をまたいだ期間で仕入明細書を作成している
相手方へ送付しただけで、確認を受けたものとして扱っている
確認文言について相手方の了承を得ていない
免税事業者との取引で経過措置用の書類を保存していない
登録番号の有無にかかわらず同じ税区分で処理している
電子メールで送った仕入明細書や確認履歴を保存していない
仕入明細書は、買手側が主導して作成できる便利な方法ですが、記載事項や確認手続を誤ると、仕入税額控除に影響する可能性があります。
実務上のチェックポイント
仕入明細書方式を利用する場合は、次の点を確認しましょう。
仕入明細書を使う取引を特定しているか
相手方の登録番号を確認しているか
必要な記載事項を満たしているか
課税期間の範囲内で作成しているか
支払調書データをそのまま流用していないか
相手方の確認を受ける方法を決めているか
確認文言について相手方の了承を得ているか
免税事業者との取引で経過措置を使う場合の書類を保存しているか
電子データでやり取りする場合、電子帳簿保存法に対応しているか
源泉徴収事務と消費税の保存書類を混同していないか
インボイス制度では、請求書の形式だけでなく、実際に保存している書類が必要事項を満たしているかが重要です。
仕入明細書方式を採用する場合は、早めに様式と運用ルールを整備しておきましょう。
まとめ
インボイス制度では、売手から交付された適格請求書だけでなく、買手が作成する仕入明細書も、一定の要件を満たせば仕入税額控除のための請求書等として利用できます。
仕入明細書を使うには、買手の名称、相手方の名称、相手方の登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとの支払対価の額、適用税率、税率ごとの消費税額等など、必要事項を記載する必要があります。
また、仕入明細書は買手が作成する書類であるため、記載内容について相手方の確認を受けなければなりません。確認方法としては、メールやシステムで承認を受ける方法のほか、一定期間内に誤りの連絡がなければ確認済みとする旨を記載し、相手方の了承を得る方法もあります。
仕入明細書は、課税期間の範囲内で一定期間分をまとめて作成できます。ただし、支払調書用の1月から12月のデータを、3月決算法人の4月から翌年3月までの課税期間にそのまま使うことはできないため、集計期間に注意が必要です。
相手方が免税事業者であっても、免税事業者等からの仕入れに係る経過措置を適用する場合には、一定事項を記載した仕入明細書等の保存が必要です。
講師報酬、外注費、委託取引など、買手側で支払明細を作成している会社は、従来の振込案内や支払明細を見直し、インボイス制度に対応した仕入明細書として使えるよう整備しておきましょう。
仕入明細書方式の導入やインボイス対応で不安がある場合は、税理士へ相談することをおすすめします。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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