関連者間取引に係る書類保存特例とは?対象となる関連者・役務提供の具体例を税理士が解説
おはようございます!代表の安田です。
2026年度(令和8年度)税制改正では、「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例」が創設されました。
この特例により、内国法人が関連者間取引を行なった場合において、請求書や契約書などの取引関係書類に必要な事項が記載されていないときは、不足する事項を明らかにした「特定事項記載書類」の取得・保存等が必要になります。
もっとも、実務上は次のような疑問が生じます。
どのような法人が「関連者」に該当するのか
親会社から受ける経営指導やシステム利用は対象になるのか
親子会社間の不動産賃貸も関連者間取引になるのか
親会社が行う株主総会や連結決算業務も役務提供に含まれるのか
請求書が一括請求の場合は対象外になるのか
本記事では、関連者の範囲や、対象となる工業所有権等・役務提供の具体例について、税理士が実務的な観点から解説します。
関連者間取引に係る書類保存特例の概要
今回の特例では、内国法人が関連者間取引を行った場合に、取引関係書類等に必要記載事項が不足しているときは、その不足事項を補う書類を取得・保存することが求められます。
大まかな流れは次のとおりです。

したがって、実務ではまず、取引相手が「関連者」に該当するか、取引内容が「関連者間取引」の範囲に含まれるかを判定する必要があります。
関連者とはどのような法人か
この特例における関連者とは、内国法人との間に次のような特殊の関係がある法人をいいます。
持株関係
実質的支配関係
持株関係や実質的支配関係が連鎖する関係
関連者は「法人」に限られます。
また、特例の対象となる法人は内国法人ですが、取引相手となる関連者については、内国法人か外国法人かを問いません。
関連者に該当するかどうかは、原則として取引が行われた時点の現況により判定します。
関連者のイメージ
関係 | 関連者に該当する可能性 |
親会社が内国法人の株式を50%以上保有 | あり |
兄弟会社について同一の親会社がそれぞれ50%以上保有 | あり |
役員の過半数を実質的に支配している | あり |
事業活動の相当部分を依存している | あり |
事業活動に必要な資金の相当部分を融資している | あり |
単なる取引先で、資本関係・支配関係がない | 原則としてなし |
なお、資本関係だけでなく、人事、資金、事業依存などを通じた実質的支配関係も判定対象になります。
非関連者を経由した取引でも対象になる場合がある
形式上は資本関係のない第三者との取引であっても、一定の場合には関連者間取引とみなされます。
具体的には、次の両方を満たす場合です。
関連者が第三者に譲渡・貸付け・提供した工業所有権等や役務が、契約等により内国法人へ移転・提供されることがあらかじめ決まっている
内国法人への移転・提供に係る対価が、内国法人と関連者との間で実質的に決定されている

形式的に第三者が間に入っているだけでは、関連者間取引の対象から外れるとは限りません。
関連者間取引の対象となる取引
対象となる関連者間取引は、関連者から内国法人に対して行われる、主に次の取引です。
工業所有権等の譲渡または貸付け
一定の役務提供
ただし、すべての取引が対象になるわけではありません。
対象は、法人税法第22条第3項第2号に掲げる販売費、一般管理費その他の費用の基因となる取引に限られます。
そのため、売上原価や完成工事原価など、原価の額の基因となる取引は対象外とされています。
取引内容 | 特例の対象 |
親会社から商標権の使用許諾を受ける | 対象となり得る |
親会社から経営指導を受ける | 対象となり得る |
グループ共通システムの利用料を支払う | 対象となり得る |
グループ広告費を分担する | 対象となり得る |
商品の仕入れにより売上原価を計上する | 原則として対象外 |
建設工事に係る外注費を完成工事原価に計上する | 原則として対象外 |
経理処理上、販売費・一般管理費として処理しているか、売上原価等として処理しているかも確認が必要です。
工業所有権等に含まれるもの
「工業所有権等」は、特許権や商標権だけに限られません。
次のような権利や技術的価値を有する知識なども含まれます。
区分 | 具体例 |
工業所有権 | 特許権、商標権等 |
著作権関係 | 著作権、出版権、著作隣接権等 |
プログラム | 著作権法上のプログラムの著作物 |
生産方式 | 特別な原料、処方、機械、器具、工程等を用いた生産方式 |
ノウハウ | 秘けつ、秘伝、技術的価値を有する知識 |
設計・デザイン | 機械・設備の設計、図面、意匠、デザイン |
権利として登録されていなくても、業務において繰り返し利用できる程度に形成された独自の方法や知識は、工業所有権等に含まれることがあります。
工業所有権等そのものには含まれない情報
一方、次のような情報や調査結果は、原則として工業所有権等そのものには含まれません。
技術の動向に関する情報
製品の販路に関する情報
特定品目の生産高に関する情報
機械や装置の材質・性能に関する調査
原材料等の鑑定・検査
ただし、これらの情報提供や調査・検査の実施が「役務提供」に該当すれば、関連者間取引として特例の対象になる可能性があります。
対象となる役務提供の3つの分類
関連者間取引に該当する役務提供は、大きく次の3つに分けられます。
分類 | 内容 |
費用分担等に係る事業活動 | 研究開発、広告宣伝、共通資産の利用等 |
経営の管理・指導等に係る役務提供 | 経営指導、管理業務、バックオフィス支援等 |
上記に類する役務提供 | 同様の性質を持つサービス |
費用分担等に係る事業活動の具体例
費用分担等に係る事業活動とは、グループ内で行われる研究開発や広告宣伝、共通資産の利用などについて、その費用の全部または一部をサービスの提供を受ける法人が負担するものです。
<研究開発・広告宣伝等>
具体的には、次のような活動が該当します。
グループ共通ブランドの維持・向上を目的とした広告宣伝
グループ全体の販売促進
市場分析
新製品や新技術の研究開発
既存製品の改良
技術・ノウハウ・専門的知識を利用した開発活動
例えば、親会社がグループ共通ブランドの広告を実施し、その広告効果を子会社も享受するため、子会社が費用の一部を負担する場合が該当します。
<共通システム・データベース等>
次のような共通資産の利用も対象になります。
グループ共通の会計システム
基幹業務システム
顧客管理システム
社内ネットワーク
グループ共通データベース
これらの保守・管理
単にシステムを使用させるだけでなく、システムの維持や管理に係るサービスも対象となり得ます。
<建物・設備等の共通利用>
グループ内で建物や設備を共同利用し、その提供・維持・管理を行なう場合も、対象になることがあります。
親子会社間の資産賃貸も対象になるのか
親会社と子会社との間で行われる資産の賃貸借も、「専用資産を活用する事業活動」に含まれる場合があります。
ただし、すべての資産賃貸が該当するわけではありません。
専用資産とは、専ら役務提供者と役務を受ける者の双方の事業に使用することを目的とする資産をいいます。
対象になる例
親会社が自社の事業にも使用している建物の一部を、子会社の事業用として賃貸するケースです。
親会社が事業に使用
+
子会社も事業に使用
↓
双方の事業に使用する専用資産
↓
対象となる可能性対象にならない例
親会社が保有しているものの、自社では事業に使用していない不動産を、子会社だけに賃貸するケースです。
この場合、その不動産は親会社と子会社の双方の事業に使用される資産ではないため、「専用資産を活用する事業活動」には該当しません。
賃貸の状況 | 専用資産を活用する事業活動 |
親会社が使用する建物の一部を子会社にも賃貸 | 該当する可能性あり |
親会社が使用していない投資用不動産を子会社に賃貸 | 原則として該当しない |
親会社の共通システムを子会社に使用させる | 該当する可能性あり |
共通システムの保守・管理を親会社が行なう | 該当する可能性あり |
なお、資産は土地や建物などの有形固定資産に限られません。ソフトウェアなどの無形固定資産も含まれます。
経営の管理・指導等に係る役務提供
親会社から子会社に提供される経営指導やバックオフィス支援も、関連者間取引に該当する可能性があります。具体例は次のとおりです。
<経営管理・事業計画>
事業計画の策定支援
予算作成の支援
業績管理
経営会議への助言
内部管理体制の整備
内部統制の構築支援
<バックオフィス支援>
人事・採用業務
労務管理
法務支援
財務・資金管理
経理業務
税務業務
情報システム管理
<情報提供>
市場動向に関する定期的な情報提供
グループ内の業績情報の提供
事業運営に役立つ情報の組織的な提供
技術情報や経営情報の継続的な提供
専門的な知識や経験に基づき、継続的・組織的に行われる支援が対象になりやすいと考えられます。
株主活動は原則として対象外
親会社が行なう活動であっても、専ら株主としての地位に基づいて行なわれ、対価の授受を予定していないものは、通常、役務提供には該当しません。
このような活動は一般に「株主活動」と呼ばれます。
<株主活動の具体例>
親会社株式の金融商品取引所への上場
親会社の株主総会の開催
親会社による株式発行
親会社の有価証券報告書の作成
親会社の連結財務諸表の作成
子会社株式の取得に係る親会社の資金調達
親会社が株主・投資家向けに行う広報
国別報告書に係る記録の作成
会社法に基づくグループ内部統制・ガバナンス体制の整備
その他、親会社が専ら自らのために行う株主としての活動
<対象となる業務との区分>
親会社の活動 | 判定の方向性 |
親会社自身の株主総会の開催 | 株主活動として対象外となる可能性 |
親会社自身の有価証券報告書の作成 | 株主活動として対象外となる可能性 |
子会社の月次決算を代行 | 役務提供として対象となる可能性 |
子会社の予算作成を支援 | 役務提供として対象となる可能性 |
子会社の人事・労務業務を代行 | 役務提供として対象となる可能性 |
親会社の連結決算に必要な作業 | 内容により株主活動との区分が必要 |
同じ「会計業務」であっても、親会社自身の株主・投資家対応のための活動なのか、子会社の事業運営を支援する活動なのかによって取扱いが異なります。
一括請求でも対象外にはならない
親会社から複数の役務提供を受け、管理料や業務委託料などの名目で一括請求されるケースがあります。例えば、請求書に次のようにしか記載されていない場合です。
グループ経営管理料 1,000,000円この金額に、経営指導、経理支援、人事支援、システム利用料などが含まれていたとしても、個々の役務が請求書上で区分されていないという理由だけで、関連者間取引に該当しなくなるわけではありません。
関連者間取引かどうかは、請求書の名称や書き方だけでなく、実際に提供されたサービスの内容で判断します。
実務上確認すべき資料
業務委託契約書
経営指導契約書
費用分担契約書
請求書の内訳
料金計算表
配賦基準
サービス内容の一覧
親会社の作業記録
メールや報告書
グループ内規程
一括請求の場合ほど、どのような役務が提供され、どのように料金が算定されたかを説明できる資料が重要になります。
実務で確認したいチェックリスト
関連会社との取引がある法人は、次の事項を確認しておきましょう。
チェック項目 | 確認内容 |
取引相手 | 持株関係・実質的支配関係がある法人か |
判定時点 | 取引時点で関連者に該当していたか |
取引の方向 | 関連者から内国法人への取引か |
取引内容 | 工業所有権等の譲渡・貸付け、役務提供か |
費用区分 | 販売費・一般管理費等か、売上原価等か |
契約書 | 役務内容や費用負担が明記されているか |
請求書 | 役務内容、金額、算定方法等が分かるか |
一括請求 | 内訳や配賦基準を説明できるか |
株主活動 | 親会社自身のための活動と区分できているか |
特定事項 | 不足事項を補う書類を取得・保存しているか |
まとめ
関連者間取引に係る書類保存特例では、単に親会社・子会社間の取引というだけでなく、取引内容や費用の性質を確認する必要があります。
特に対象になりやすいのは、次のような取引です。
商標権、特許権、ノウハウ、ソフトウェア等の利用
グループ共通の広告宣伝・研究開発
共通システムやデータベースの利用
建物・設備等の共同利用
経営指導、事業計画、業績管理
人事、労務、法務、財務、経理等の支援
継続的・組織的な情報提供
一方、親会社が専ら株主としての立場から行う株主総会、有価証券報告書、連結財務諸表の作成などは、通常、役務提供には該当しません。
また、請求書が「経営管理料」などの名称で一括請求されていても、それだけで対象外になるわけではありません。契約内容や実際のサービス内容に基づいて判定します。
関連会社との取引がある企業は、取引の開始時点で契約書や請求書の記載内容を確認し、不足する事項がある場合には、別途書類を作成・取得できる体制を整えておくことが重要です。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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