収用の5,000万円特別控除|建物の取壊しが6か月を超えた場合でも適用できる?
こんばんは!代表の安田です。
道路整備や再開発などの公共事業に伴い、土地や建物が収用される場合には、一定の要件を満たすことで「収用等の場合の5,000万円特別控除」を利用できることがあります。
この特例には、収用等の対象となる資産について、原則として買取りや取壊し等の最初の申出日から6か月以内に譲渡することという要件があります。
では、土地の収用に伴って建物を取り壊す予定だったものの、人手不足や工事日程の都合などにより、実際の取壊しが申出日から6か月を超えてしまった場合はどうなるのでしょうか。
結論として、一定の条件を満たす場合には、実際の取壊しが6か月を超えていても、5,000万円特別控除の対象となる余地があります。
本日は、収用等の場合の5,000万円特別控除について、6か月要件、建物取壊しに係る補償金の取扱い、取壊しが遅れた場合の実務上の考え方を税理士が解説します。
収用等の場合の5,000万円特別控除とは
公共事業のために土地や建物などを譲渡した場合、通常の譲渡所得課税に対して一定の税務上の特例があります。その代表的なものが、収用等の場合の5,000万円の特別控除です。
個人については租税特別措置法33条の4、法人については同法65条の2に規定されています。
この特例を適用できれば、収用等による譲渡所得から最大5,000万円を控除できるため、税負担に大きな差が生じる可能性があります。
「6か月以内」という要件がある
この特例では、収用等の対象となる資産について、原則として、資産の買取りや取壊し等について最初に申出を受けた日から6か月以内に譲渡することが要件の一つとされています。
<基本イメージ>
項目 | 内容 |
起算日 | 買取り・取壊し等の最初の申出日 |
原則的な期限 | 申出日から6か月以内 |
対象 | 収用等の対象となる資産 |
主な特例 | 5,000万円特別控除 |
そのため、申出を受けてから長期間そのままにしていた場合には、特例の適用が問題になる可能性があります。
建物の取壊し補償金は、原則として何所得になる?
収用に伴って公共事業の施行者から支払われる補償金には、さまざまな種類があります。
個人の場合、5,000万円特別控除の対象となるのは、「資産の収用等の対価たる金額」に該当するものです。
一方で、建物の移設費用などとして交付される補償金は、原則として一時所得に該当します。
ただし、実際に建物の取壊しが行なわれた場合には、その補償金が「対価補償金」に該当し、譲渡所得として5,000万円特別控除の対象となることがあります。
<補償金の考え方>
補償金の内容 | 原則的な取扱い |
資産そのものの収用・買取りの対価 | 譲渡所得 |
建物の移設費用等 | 原則として一時所得 |
実際に建物を取り壊した場合の一定の補償金 | 対価補償金として譲渡所得となる場合あり |
したがって、名称が「移転補償金」「取壊し補償金」などとなっていても、税務上は実際の内容を確認して判断する必要があります。
取壊しが6か月を超えたら特例は使えない?
形式的に考えれば、申出日から6か月を超えて建物を取り壊した場合、「6か月以内」という要件を満たさないようにも見えます。
しかし、人手不足などの事情により実際の取壊しが6か月を超えるケースについて、一定の条件のもとで5,000万円特別控除を適用できる取扱いが示されています。
ポイントとなるのは、取壊し契約がいつ締結されたかです。
一定の条件なら6か月以内に取り壊したものと同視される
東京国税局の文書回答では、法人について、次のようなケースでは実際の取壊しが6か月を超えていても特例を適用できるとされています。
取壊しに係る補償契約が、最初の申出日から6か月以内に締結されている
その契約に建物の取壊期限が定められている
このような場合には、実際の取壊しが6か月後になったとしても、6か月以内に取壊しが行われたものと同視して、5,000万円特別控除を適用できるとされています。
個人についても、同様のケースでは建物の取壊しに係る対価補償金が特例の対象になるとされています。
具体例
例えば、次のようなケースを考えてみます。
項目 | 内容 |
最初の買取り・取壊し申出日 | 2026年4月1日 |
取壊し補償契約締結日 | 2026年8月1日 |
契約上の取壊期限 | 2027年1月31日 |
実際の取壊日 | 2027年1月20日 |
最初の申出日から実際の取壊日までは6か月を超えています。
しかし、
補償契約自体は申出日から6か月以内に締結されている
契約上、取壊期限も定められている
のであれば、資料で紹介されている取扱いに照らし、6か月以内に取壊しが行われたものと同視できる可能性があります。
なぜ実際の取壊し日だけで判断しないのか
建物の取壊しには、
解体業者の手配
建物内部の移転
設備撤去
行政手続
近隣対応
人手不足
工事日程
など、所有者だけではコントロールできない事情があります。
そのため、申出を受けてから6か月以内に契約上取壊しを確定させ、期限までに実際に履行することが明らかな場合まで形式的に特例対象外とするのは、制度趣旨に合わないケースがあると考えられます。
もっとも、「どのような事情なら必ず認められるか」まで網羅的に示されているわけではありません。
実際の適用判断では、契約内容やスケジュールを個別に確認する必要があります。
重要なのは「補償契約書」の内容
実務上、特に重要になるのが補償契約書です。
申出日から6か月を超えて建物を取り壊す可能性がある場合には、少なくとも次の事項を確認しておく必要があります。
確認項目 | 内容 |
最初の申出日 | いつ申出を受けたか |
補償契約締結日 | 6か月以内か |
取壊し義務 | 契約上明確か |
取壊期限 | 期限が明記されているか |
補償金の内容 | 何に対する補償なのか |
実際の取壊日 | 契約期限内に履行したか |
税務申告時だけでなく、補償契約を締結する段階から税務上の要件を意識しておくことが重要です。
「補償金の名称」だけで判断しない
収用に伴う補償では、補償金の名称がさまざまです。
例えば、
建物移転補償金
取壊し補償金
移転雑費
営業補償
動産移転料
などがあります。
しかし、税務上の所得区分や5,000万円特別控除の対象になるかどうかは、単に名称だけで決まりません。建物の移設費用等として交付される補償金であっても、実際に建物を取り壊した場合には「対価補償金」として扱われ得ると考えられます。
そのため、補償金の中身を確認することが重要です。
個人と法人の取扱い
項目 | 個人 | 法人 |
5,000万円特別控除 | 措法33の4 | 措法65の2 |
6か月要件 | あり | あり |
取壊しが6か月超の場合 | 一定ケースで対象となる | 一定ケースで対象となる |
対価補償金 | 譲渡所得として対象になり得る | 法人所得計算上対象 |
個人の場合は、補償金が譲渡所得なのか一時所得なのかという所得区分も重要になります。
5,000万円特別控除以外の選択肢もある
収用等による譲渡では、必ず5,000万円特別控除を選ばなければならないわけではありません。別の制度として、収用等の場合の課税の繰延べの特例を選択して譲渡所得を計算することもできるとされています。
<主な選択肢>
制度 | 概要 |
5,000万円特別控除 | 譲渡所得から最大5,000万円を控除 |
課税繰延べの特例 | 一定の要件のもと課税を将来に繰り延べ |
どちらが有利かは、譲渡金額、取得費、代替資産の取得予定などによって異なります。
そのため、収用補償金を受け取る場合には、申告前にどの特例を選択するか比較することが重要です。
<5,000万円控除を適用するときの実務チェックリスト>
チェック項目 | 確認内容 |
収用等に該当するか | 公共事業等による譲渡か |
最初の申出日 | 日付を確認 |
6か月要件 | 原則満たしているか |
補償契約日 | 申出日から6か月以内か |
取壊期限 | 契約書に明記されているか |
実際の取壊し | 契約に従って実施されたか |
補償金の内容 | 対価補償金か、その他の補償金か |
所得区分 | 個人の場合、譲渡所得か一時所得か |
他の特例 | 課税繰延べとの比較をしたか |
証拠資料 | 契約書・補償金明細等を保存しているか |
よくある疑問
Q.a建物の取壊しが申出日から7か月後になりました。5,000万円控除は使えませんか?
A. 必ずしも使えないとは限りません。補償契約が申出日から6か月以内に締結され、その契約に取壊期限が定められているなど一定の条件を満たす場合には、6か月以内に取り壊したものと同視して特例を適用できるケースがあります。
Q. 建物移転補償金は一時所得ですか?
A. 個人の場合、建物の移設費用等として交付される補償金は原則として一時所得とされています。ただし、実際に建物の取壊しが行われた場合には、対価補償金として譲渡所得となり、5,000万円特別控除の対象になる場合があります。
Q.収用された場合は必ず5,000万円控除を使うべきですか?
A.必ずしもそうではありません。収用等の場合の課税繰延べの特例を選択できる場合もあるため、どちらが有利かを比較する必要があります。
まとめ
収用等の場合の5,000万円特別控除では、原則として、買取りや取壊し等の最初の申出日から6か月以内に対象資産を譲渡する必要があります。
ただし、建物の取壊しについては、実際の取壊しが申出日から6か月を超えていても、
取壊し補償契約が6か月以内に締結されている
契約に取壊期限が定められている
といった一定の条件を満たす場合には、6か月以内に取壊しが行われたものと同視して、5,000万円特別控除を適用できるケースがあります。
また、個人が受け取る建物の移設費用等に係る補償金は原則として一時所得となるものの、実際に取壊しが行われた場合には対価補償金として譲渡所得となり、特例の対象となる場合があります。
収用等に伴う補償金は、
いつ申出を受けたか
いつ契約を締結したか
契約上いつまでに取り壊すのか
実際に何の対価として補償金を受け取ったのか
によって税務上の取扱いが変わります。
公共事業による土地・建物の収用や取壊しがある場合には、補償契約を締結する段階から税務上の要件を確認しておくことが重要です。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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