株式分割で株主が増えるとコストも増える?配当金計算書の電子化と実務負担を解説
おはようございます!代表の安田です。
東京証券取引所では、個人投資家が日本株に投資しやすい環境を整えるため、投資単位の引下げに向けた取組みが進められています。
一方、上場会社にとって株式分割には、投資単位を引き下げて個人投資家が株式を購入しやすくなるというメリットがある反面、個人株主の増加によって株主向け書類の発送費用などが増える可能性があります。
実際、投資単位の引下げに慎重な企業からは、株主数の増加に伴う書類送付コストを懸念する声もあります。東証によれば、現在も投資単位が50万円以上の上場会社が約270社存在しています。
そこで注目されるのが、株主に送付している書類の見直しです。
なかでも「配当金計算書」は、一定の場合には紙で送付する必要がないにもかかわらず、実務上は紙で送付されているケースもあるとされています。
本日は、株式分割と株主数増加による企業の事務負担、配当金計算書の電子化、今後検討される株主管理コストの削減策について、公認会計士が解説します。
東証が進める「少額投資」の環境整備
東京証券取引所は、日本株により少額から投資できる環境を整備するため、「更なる少額投資の実現に向けた制度・実務ワーキング・グループ」を設置しています。
ワーキング・グループでは2026年10月以降、少額投資を実現するための具体策に加えて、投資単位の引下げに伴って上場会社の負担が増加しないよう、企業側の実務負担を軽減する方法についても議論される見通しです。
つまり、今後の少額投資促進策では、
個人投資家が株式を購入しやすくする
↓
株式分割などを促進
↓
株主数が増加
↓
上場会社の事務負担も増加
↓
書類発送などの負担軽減策を検討という両面から制度・実務を検討する必要があります。
なぜ株式分割で企業の負担が増えるのか
株式分割を行なうと、1株当たりの株価が理論上低下するため、最低投資金額も低下します。
例えば、株価6,000円、単元株数100株の会社の場合、最低投資金額は60万円です。
これを1株につき5株の割合で株式分割すると、理論上の株価は1,200円となり、最低投資金額は12万円になります。
【図解】株式分割と最低投資金額
分割前
株価6,000円 × 100株
↓
最低投資金額 60万円
1:5で株式分割
分割後
株価1,200円 × 100株
↓
最低投資金額 12万円最低投資金額が下がれば、これまで購入できなかった個人投資家が株式を購入しやすくなります。
これは株式分割の大きなメリットですが、企業側から見ると、株主数の増加によって次のような事務負担が増える可能性があります。
負担項目 | 株主数増加による影響 |
株主向け書類 | 印刷枚数・発送件数が増える |
郵送費 | 株主数に応じて増加しやすい |
株主名簿管理 | 管理対象となる株主が増える |
株主対応 | 問い合わせ等が増える可能性 |
配当関係事務 | 配当金に関する案内等の件数が増える |
特に、株主1人ごとに紙の書類を郵送する業務は、株主数の増加とともにコストが増えやすい分野です。
配当金計算書とは
株主に送付される書類の一つに「配当金計算書」があります。
配当金計算書には、保有している株式数や配当金額などが記載されます。
この配当金計算書は租税特別措置法の規定に基づいて送付されるものですが、受領者の同意がある場合には、紙で送付する必要はないとされています。
つまり、
配当金計算書
↓
原則として株主へ交付
↓
株主が電子交付に同意
↓
紙での送付が不要となる仕組みです。
株主数が多い会社では、紙での発送件数を減らすことができれば、印刷費や郵送費だけでなく、発送事務そのものの負担軽減にもつながる可能性があります。
「株式数比例配分方式」と電子交付
株式の配当金の受取方法の一つに「株式数比例配分方式」があります。
これは、証券会社の口座で配当金を受け取る方式です。
この方式を利用する人の多くが、配当金計算書などの電子交付に同意しているとされています。
また、日本証券業協会が2026年7月に公表したアンケート資料では、株式数比例配分方式によって配当金を受け取る人は約6割と、過半数を占めています。
<配当金の受取方法と企業実務のイメージ>
項目 | 株式数比例配分方式を利用する株主 |
配当金の受取先 | 証券口座 |
利用者の割合 | 約6割 |
電子交付 | 同意している人が多いとされる |
配当金計算書 | 一定の場合、紙送付が不要 |
企業側の効果 | 郵送・印刷事務を削減できる可能性 |
この点は、株式分割によって株主数が増加した場合の事務負担を考えるうえで重要です。
紙で送る必要がない株主にも送付しているケース
実務上の大きなポイントは、制度上は紙で送付する必要がない株主に対しても、慣行として配当金計算書を郵送しているケースがあるという点です。
本来紙での送付が不要な人に対しても、配当金計算書が送付されている実態があるとされています。例えば、仮に10万人の株主がいる会社で、そのうち6万人が電子交付に同意しているとします。
【イメージ】紙発送を見直した場合
株主数 100,000人
従来
100,000人へ紙で発送
↓
発送件数 100,000件
電子交付対象者への紙発送を見直し
↓
紙発送 40,000件
電子交付 60,000件
↓
紙の発送件数を大幅に削減できる可能性株式分割によって株主数が増加したとしても、株主向け書類の発送方法を見直すことで、コスト増加をある程度抑えられる可能性があります。
株式分割をためらう理由の一つが「株主管理コスト」
株式分割によって投資単位を引き下げれば、個人投資家が株式を購入しやすくなります。
しかし企業側からすると、株主数が増えれば、株主管理に必要なコストも増加する可能性があります。
このため、投資単位が50万円以上であっても、株式分割に積極的ではない会社の中には、個人株主の増加に伴う書類送付費用などを懸念する企業もあります。
株式分割をめぐるメリットと負担
観点 | 株式分割による影響 |
最低投資金額 | 低下する |
個人投資家 | 投資しやすくなる |
株主数 | 増加する可能性 |
株式の流動性 | 向上する可能性 |
印刷・郵送費 | 増加する可能性 |
株主管理業務 | 増加する可能性 |
電子化の効果 | 負担増加を抑えられる可能性 |
したがって、少額投資を促進するためには、単に上場会社へ株式分割を求めるだけでなく、株主数増加に伴う企業側の負担を減らす仕組みを整えることも重要になります。
配当金計算書以外の書類も見直しの対象になる可能性
企業の負担軽減を考えるうえでは、配当金計算書だけを見直せば十分とは限りません。
配当金計算書以外についても、株主へ送付している書類を減らすことなどが、企業の実務負担を軽減する方法として考えられます。
今後、企業側では、
本当に紙で送付する必要がある書類か
電子化できる書類はないか
複数の書類をまとめることはできないか
株主の同意状況を効率的に管理できないか
といった観点で、株主関係事務全体を見直す余地があります。
【図解】少額投資と企業負担軽減の関係
東証が少額投資を促進
↓
投資単位の引下げ
↓
株式分割の実施
↓
個人投資家が購入しやすくなる
↓
株主数が増加する可能性
↓
印刷・郵送などのコストが増加
↓
配当金計算書などを電子化
↓
企業の事務負担を抑制今後の制度設計では、「個人投資家の投資機会を増やすこと」と「上場会社の実務負担を抑えること」を両立させることが重要なテーマになると考えられます。
上場会社が確認しておきたい実務ポイント
投資単位が高い会社や、今後株式分割を検討する会社では、株価や分割比率だけでなく、株主数増加後の事務負担も含めて検討することが重要です。
特に次の点を確認しておくとよいでしょう。
1.株主数が増えた場合のコストを試算する
株式分割によって株主数が増加した場合に、
書類印刷費
郵送費
株主名簿管理費
証券代行関係費用
株主対応業務
などがどの程度増える可能性があるかを試算します。
2.配当金計算書の発送状況を確認する
電子交付に同意している株主にも紙の配当金計算書を送付していないか、現在の実務を確認することが考えられます。
長年の慣行として紙で送付している場合には、本当に必要な業務なのかを見直す余地があります。
3.株主向け書類全体を棚卸しする
配当金計算書だけでなく、株主へ送付している書類を一覧化し、
法令上必要なもの
株主サービスとして送っているもの
従来から慣行で送っているもの」
を整理することも有効です。
4.今後の東証WGの議論を確認する
「更なる少額投資の実現に向けた制度・実務ワーキング・グループ」では、2026年10月以降、上場会社の負担軽減策についても議論される予定です。
具体的な施策は添付資料の時点では示されていません。
そのため、今後公表される議論の内容を確認し、自社の株主管理業務に影響する制度変更がないかを把握することが重要です。
まとめ
東証では、日本株により少額から投資できる環境を整えるため、投資単位の引下げを進めています。
一方、株式分割によって個人株主が増えると、上場会社では配当金計算書などの印刷・発送費用が増加する可能性があります。
今回のポイントを整理すると、次のとおりです。
投資単位50万円以上の上場会社は約270社存在する
株式分割に慎重な企業には、株主数増加による書類発送費を懸念する声がある
配当金計算書は、一定の場合には紙で送付する必要がない
株式数比例配分方式で配当金を受け取る人は約6割
電子交付に同意した株主にも、実務上は紙の配当金計算書が送られているケースがある
株主管理コストの削減には、配当金計算書だけでなく、送付書類全体の見直しも考えられる
東証のワーキング・グループでは、2026年10月以降、企業負担の軽減策も議論される予定
少額投資を促進するうえでは、投資家側の利便性だけでなく、株主数増加によって生じる上場会社の事務負担をどのように軽減するかも重要です。
株式分割を検討する会社では、分割比率や投資単位だけを見るのではなく、株主数増加後の管理コストも試算し、配当金計算書をはじめとする株主向け書類の電子化・合理化をあわせて検討することが望まれます。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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