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社会保険の途中加入で注意すべきこと|役員報酬の減額・配偶者の扶養・年金受給者の取扱いを税理士が解説

執筆者の写真: 安田亮
安田亮
15 時間前
読了時間: 11分

こんにちは!代表の安田です。


会社を経営していると、税金だけでなく社会保険の手続きについて相談を受けることがあります。


特に、これまで社会保険に未加入だった会社が、新たに健康保険・厚生年金保険へ加入する場面では、思わぬ論点が出てきます。


たとえば、次のようなケースです。

  • 社会保険料の負担が重いので、役員報酬を下げたい

  • 社長の配偶者を扶養に入れたい

  • 役員賞与や年金も収入判定に入るのか

  • 年金受給者である親族役員も社会保険に入るのか

  • 従業員数が増えたら、パートも加入対象になるのか


社会保険は税金とは別の制度ですが、役員報酬、給与計算、年末調整、法人決算にも影響します。


本日は、社会保険の途中加入で注意したいポイントを、税理士の視点からわかりやすく解説します。


法人は原則として社会保険の強制適用事業所

まず押さえておきたいのは、法人の場合、原則として社会保険の適用事業所になるという点です。


日本年金機構は、株式会社などの法人の事業所は、事業主のみの場合を含めて厚生年金保険の適用事業所になると説明しています。つまり、従業員がいない一人会社であっても、法人であれば社会保険加入の検討が必要です。


また、厚生年金保険に加入している適用事業所に常用的に使用される70歳未満の方は、国籍・性別・年金受給の有無にかかわらず、原則として厚生年金保険の被保険者になります。

そのため、会社が「任意で入りたいときだけ入る」という制度ではありません。


未加入の法人が年金事務所から加入指導を受け、途中から社会保険に加入するケースもあります。


社会保険に途中加入すると保険料負担が発生する

社会保険に加入すると、健康保険料・厚生年金保険料の負担が発生します。


会社と役員・従業員が原則として折半で負担しますが、会社側から見ると、給与や役員報酬に加えて法定福利費が増えることになります。


たとえば、役員報酬が高い会社では、社会保険加入による会社負担も大きくなります。

このため、加入をきっかけに、

  • 役員報酬を下げたい

  • 配偶者を扶養に入れたい

  • 役員賞与の支給方法を見直したい

  • 給与体系を変更したい


といった相談が出てくることがあります。


ただし、社会保険料を下げたいからといって、安易に役員報酬を変更すると、法人税や所得税の面で別の問題が生じることがあります。


役員報酬の期中減額には注意

社会保険料の負担を軽くするため、役員報酬を期中に減額したいという相談は少なくありません。


しかし、法人税では、役員報酬を損金算入するために「定期同額給与」のルールがあります。


原則として、役員報酬は毎月同額で支給する必要があり、事業年度の途中で自由に増減すると、損金算入が制限される可能性があります。


もちろん、役員報酬の減額がまったくできないわけではありません。

業績悪化改定事由など、一定の理由がある場合には、期中減額が認められることがあります。


しかし、「社会保険料が高いから下げたい」という理由だけでは、税務上の定期同額給与の要件を満たすか慎重な検討が必要です。


社会保険加入を見据えて役員報酬を見直すのであれば、決算期変更や翌期首からの改定など、税務上問題が出にくいタイミングで行うことが重要です。


配偶者を社会保険の扶養に入れる場合の注意点

社会保険の途中加入では、社長の配偶者や親族を被扶養者にできるかどうかもよく問題になります。


健康保険の被扶養者になるには、主として被保険者により生計を維持されていることが必要です。


日本年金機構は、被扶養者の収入要件について、原則として年間収入が130万円未満、60歳以上または障害者の場合は年間収入180万円未満であることなどを示しています。


ここで注意したいのは、単に「今月の収入が少ない」だけでは判断できないことです。

被扶養者認定では、今後の収入見込み、給与、年金、役員報酬、事業収入などを確認する必要があります。


また、配偶者が会社の役員である場合には、そもそも被扶養者ではなく被保険者として加入すべきかどうかも確認しなければなりません。


非常勤役員でも被扶養者にできるとは限らない

配偶者が会社の非常勤役員である場合、「勤務時間が短いから扶養に入れられるのでは」と考えることがあります。


しかし、非常勤役員であっても、実態により被保険者と判断される可能性があります。

実務上は、次のような点を総合的に確認します。

  • 定期的に出社しているか

  • 会社での業務に関与しているか

  • 役員会への出席があるか

  • 報酬の額はいくらか

  • 業務内容や責任の程度はどうか

  • 他社での勤務や収入はあるか


形式上は非常勤でも、会社経営に継続的に関与し、報酬も一定額ある場合には、被保険者として加入すべきと判断される可能性があります。


一方、名目的な役員で、実態としてほとんど業務に関与しておらず、報酬もないような場合には、被扶養者としての認定を検討できることもあります。


ただし、健康保険組合や協会けんぽ、年金事務所の判断が関係するため、事前確認が重要です。


年収130万円の壁は「税金の扶養」とは違う

配偶者の扶養を考えるときに混同しやすいのが、税金の扶養と社会保険の扶養です。


所得税では、配偶者控除や配偶者特別控除の判定があります。

一方、社会保険では、健康保険の被扶養者や国民年金第3号被保険者の判定があります。

この2つは制度が異なります。


税金で配偶者控除の対象になるかどうかと、社会保険の被扶養者になるかどうかは、必ずしも一致しません。


社会保険のいわゆる「130万円の壁」は、会社員の配偶者等が一定の収入を超えると社会保険料の負担が発生するため、就業調整の原因になるものとして説明されています。厚生労働省も、年収換算で約106万円や130万円の基準が「年収の壁」と呼ばれていると説明しています。


したがって、配偶者の働き方を考えるときは、所得税だけでなく、社会保険の扶養判定もセットで確認する必要があります。


130万円を一時的に超える場合の取扱い

最近は、人手不足への対応として、パート・アルバイトの勤務時間が増え、一時的に年収130万円を超えるケースもあります。


厚生労働省は、毎年の被扶養者認定の際、人手不足による労働時間延長等に伴い一時的に年収が130万円以上となった場合、事業主の証明を添付することで、原則として連続2回まで引き続き扶養に入り続けることが可能と説明しています。


ただし、これはあくまで一時的な収入増加への対応です。

役員報酬や継続的な給与が恒常的に130万円以上になる場合まで、当然に扶養が認められるわけではありません。


配偶者を被扶養者にする場合には、単年度の金額だけでなく、今後の契約内容や継続性も確認しておく必要があります。


106万円の壁と短時間労働者の社会保険加入

パート・アルバイトの社会保険加入では、いわゆる「106万円の壁」も重要です。


現行制度では、特定適用事業所などで働く短時間労働者について、週の所定労働時間20時間以上、所定内賃金月額8.8万円以上、学生でないことなどの要件を満たすと、社会保険の被保険者になる場合があります。日本年金機構も、特定適用事業所等では、通常の労働者の4分の3未満であっても、一定要件を満たす短時間労働者は被保険者になると説明しています。


また、令和7年の年金制度改正により、いわゆる106万円の壁として意識されていた月額8.8万円以上の賃金要件は、最低賃金の状況を踏まえて撤廃されることとされています。厚生労働省は、短時間労働者が週20時間以上働けば、企業規模にかかわらず社会保険に加入する方向で制度改正が進むと説明しています。


今後は、従業員数が少ない会社でも、パート・アルバイトの社会保険加入対象が広がる可能性があります。


会社としては、給与計算や労務管理の段階で、短時間労働者の勤務時間・賃金・雇用契約を継続的に確認することが重要です。


年金受給者である役員・従業員も加入対象になる

「年金をもらっている人も厚生年金に入るのか」という疑問を持つ方もいるでしょう。

結論として、年金を受給しているかどうかだけで社会保険加入の対象外になるわけではありません。


日本年金機構は、厚生年金保険の適用事業所に常用的に使用される70歳未満の方は、年金受給の有無にかかわらず、厚生年金保険の被保険者になると説明しています。


したがって、65歳以上の役員や従業員であっても、常用的使用関係があり、要件を満たす場合には、健康保険・厚生年金保険の加入対象になります。


ただし、70歳以上になると厚生年金保険の被保険者にはなりませんが、在職老齢年金の調整や健康保険の取扱いなど、別の論点が出てきます。


在職老齢年金と役員報酬・賞与の関係

年金受給者が会社から役員報酬や給与を受け取る場合、在職老齢年金の調整にも注意が必要です。


老齢厚生年金を受けている方が厚生年金保険に加入しながら働く場合、給与や賞与の額に応じて、年金の一部または全部が支給停止となることがあります。


この判定では、毎月の標準報酬月額だけでなく、賞与も関係します。

役員賞与を支給する場合や、事前確定届出給与を出す場合には、税務上の損金算入だけでなく、社会保険・年金への影響も確認しておく必要があります。


役員賞与の駆け込み支給には注意

社会保険加入前に役員賞与を支給しておけば、社会保険料の対象にならないのではないか、と考えるケースがあります。しかし、これは慎重に考える必要があります。


まず、法人税上、役員賞与は原則として損金不算入です。

損金算入するには、事前確定届出給与など、一定の要件を満たす必要があります。


また、社会保険の加入手続きや報酬の実態との関係で、加入逃れと見られるような不自然な支給は避けるべきです。


さらに、年金受給者であれば、賞与も在職老齢年金の調整に影響する可能性があります。

税金だけを見て役員賞与を設計すると、社会保険や年金で想定外の結果になることがあります。


社会保険加入で確認すべき実務ポイント

社会保険に途中加入する場合には、次の点を確認しておきましょう。

  • 法人として社会保険の適用事業所に該当するか

  • 役員・従業員の加入対象者は誰か

  • パート・アルバイトの勤務時間や賃金はどうか

  • 配偶者や親族役員を被扶養者にできるか

  • 非常勤役員の実態はどうか

  • 役員報酬の期中減額を検討していないか

  • 役員賞与や事前確定届出給与の支給予定があるか

  • 年金受給者である役員・従業員がいるか

  • 在職老齢年金への影響はないか

  • 給与計算ソフトや会計ソフトの設定を変更しているか

  • 社会保険料の会社負担を資金繰りに織り込んでいるか

  • 社会保険は税務だけでは完結しません


社会保険労務士と連携しながら、会社の実態に合わせて加入手続きを進めることが大切です。


まとめ:社会保険の途中加入は「税金・給与・扶養・年金」をまとめて確認する

社会保険の途中加入は、単に年金事務所へ届出を出して終わりではありません。


法人は原則として社会保険の適用事業所になります。

そのため、未加入だった法人が途中から加入する場合には、役員・従業員の加入対象、保険料負担、給与計算、被扶養者認定、年金への影響をまとめて確認する必要があります。


特に注意したいのは、次の点です。

社会保険料を下げる目的だけで役員報酬を期中減額すると、法人税上の定期同額給与の問題が出ることがあります。


配偶者を被扶養者にする場合には、年収130万円未満かどうかだけでなく、役員としての実態や今後の収入見込みを確認する必要があります。


短時間労働者については、106万円の壁や週20時間以上の勤務など、今後の制度改正も踏まえて管理が必要です。


年金受給者であっても、常用的使用関係があれば社会保険の加入対象になることがあります。


また、役員報酬や賞与は在職老齢年金にも影響する可能性があります。


社会保険は税金とは別制度ですが、会社経営に与える影響は大きいです。

加入手続きを急ぐ場面でも、役員報酬、扶養、年金、給与計算、資金繰りへの影響を整理し、税理士と社会保険労務士が連携して対応することをおすすめします。



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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。

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