業績連動給与を損金算入していない企業が約半数|有報の株主総会前開示との関係を解説
おはようございます!代表の安田です。
役員報酬制度では、中長期的な企業価値向上を促す観点から、業績や株価などに連動して報酬額を決定する仕組みが広がっています。
一方、法人税上の「業績連動給与」として損金算入するには一定の要件があり、実際には業績連動報酬を支給していても、法人税上は損金算入していない企業が少なくありません。
経済産業省が2026年8月6日に公表した委託調査では、業績連動報酬について「全額を業績連動給与として損金算入」している企業は19%、「損金算入可能な算定指標に係る部分のみ損金算入」している企業は15%でした。これに対し、資料で示された回答では、損金算入していない企業が約半数を占めています。
その背景の一つとして指摘されているのが、損金算入要件を満たすための実務の煩雑さです。
特に近年増えている有価証券報告書の株主総会前開示との関係では、報酬決定と開示のタイミングについて注意が必要です。
本日は、業績連動給与の損金算入の実態と、有価証券報告書の株主総会前開示を行う企業が注意したい実務上のポイントについて、公認会計士・税理士が解説します。
業績連動給与の損金算入には企業ごとにばらつき
経済産業省の委託調査では、171社から有効回答が得られています。
結果を整理すると、次のとおりです。
回答内容 | 割合 |
業績連動報酬の全額を業績連動給与として損金算入 | 19% |
損金算入可能な算定指標に係る部分を損金算入 | 15% |
損金算入可能な算定指標に係る部分はあるが、全て損金不算入 | 22% |
損金算入可能な算定指標に係る部分がなく、全て損金不算入 | 35% |
資料では、こうした回答状況から約半数の企業が業績連動報酬を損金算入していないと整理されています。
「業績連動報酬」と「税務上損金になる業績連動給与」は同じではない
実務上重要なのは、会社が業績に連動する報酬制度を導入しているからといって、その報酬が自動的に法人税上損金になるわけではないという点です。
会社法・コーポレートガバナンス上の役員報酬制度としては合理的であっても、法人税上の損金算入要件を満たさなければ、税務上は損金不算入となります。
今回の調査結果でも、損金算入可能な算定指標を含むにもかかわらず、あえて損金算入していないと回答した企業が22%存在します。
つまり、税務メリットだけを最大化するのではなく、
報酬制度として分かりやすいか
経営戦略と連動しているか
投資家に説明しやすいか
税務上の手続負担がどの程度あるか
などを踏まえて、損金算入を必ずしも優先していない会社もあることがうかがえます。
なぜ損金算入しない企業が多いのか
その背景として損金算入要件を満たすための実務の煩雑さが挙げられます。
業績連動給与を法人税上損金算入する場合には、報酬の算定方法だけでなく、決定・開示の手続も重要になります。
特に上場会社では、
報酬委員会等での決議
株主総会
有価証券報告書
適時開示
半期報告書
臨時報告書
など、ガバナンス・開示と税務が複雑に関係します。
そのため、税制上は損金算入できる可能性があっても、制度運用の簡素さを優先して損金算入しないという判断も考えられます。
有価証券報告書の「株主総会前開示」で問題となるケース
特に重要なのが、有価証券報告書の株主総会前開示との関係です。
例えば、次のようなスケジュールを考えます。
時期 | 内容 |
株主総会の前 | 有価証券報告書を提出 |
株主総会 | 役員選任等 |
株主総会直後 | 報酬委員会で業績連動給与を決定 |
この場合、株主総会前に提出する有価証券報告書の段階では、まだ報酬委員会の決議が行われていません。
そこで、「株主総会直後の報酬委員会で、この内容を決議する予定です」という予定内容を有価証券報告書に書けば税務上の開示要件を満たすのではないか、と考えることもできます。
しかし、決議予定の内容を有価証券報告書へ記載するだけでは、法人税法上の損金算入要件を満たすことはできません。
ここが重要なポイントです。
決議後の内容を改めて開示する必要がある
株主総会直後の報酬委員会等で業績連動給与を決議した場合、決議された内容を改めて適時開示、半期報告書、臨時報告書などで開示する必要があるとされています。
つまり、
株主総会前
有価証券報告書提出
↓
「今後この内容で決める予定」と記載
↓
これだけでは税務要件を満たさない
↓
株主総会直後報酬委員会等で正式決議
↓
決議内容をあらためて開示
↓
損金算入要件への対応という流れになります。
有価証券報告書を早期開示するほど、役員報酬の正式決定時期とのタイムラグが生じやすくなるため、税務実務上の追加対応が必要になります。
総会前の有価証券報告書開示はすでに88.3%
この問題は一部の先進企業だけのものではありません。
金融庁によると、2026年3月期では、2,184社中1,928社、88.3%の企業が有価証券報告書を株主総会前に開示しています。
<有報の総会前開示>
項目 | 2026年3月期 |
対象会社数 | 2,184社 |
総会前開示会社 | 1,928社 |
割合 | 88.3% |
総会前開示が一般化するほど、業績連動給与を損金算入する企業では、「報酬をいつ正式決定し、どの媒体でいつ開示するか」を事前に設計する必要性が高まります。
「有報に書いてあるから大丈夫」と考えない
実務上ありがちな誤解として、「有価証券報告書に報酬制度を詳しく記載しているので、税務上の開示要件も満たしているだろう」という考え方があります。
しかし、「何が書かれているか」だけでなく、「いつ正式に決定された内容を、いつ開示したか」が重要です。
報酬委員会等による正式決定前の「予定」は、決定済みの業績連動給与の開示とは異なります。
このため、
報酬決定日
有報提出日
株主総会日
適時開示日等
を時系列で整理することが重要です。
開示要件緩和を求める声はあるが、実現可能性は低い状況
有価証券報告書の株主総会前開示が広がる中、現在の損金算入要件では実務が煩雑になるため、要件緩和を求める声もあるとされています。
ただし、対応が行なわれる可能性は低いと思われます。
そのため現時点では、今後制度が簡単になることを期待して対応を先送りするのではなく、現在のルールを前提として社内スケジュールを組むことが現実的です。
報酬制度設計の段階で「税務」と「開示」を同時に検討する
業績連動給与で問題になりやすいのは、報酬制度が完成した後に税務部門へ相談するケースです。
例えば、
報酬委員会が報酬制度を設計
有報の記載内容を作成
株主総会スケジュールを決定
最後に税務担当が確認
という順番では、損金算入要件に対応するため追加の開示やスケジュール変更が必要になる可能性があります。
実務上は、制度設計の段階から次の部門が連携することが望まれます。
関係部門等 | 主な役割 |
取締役会・報酬委員会 | 報酬制度・算定方法の決定 |
人事部門 | 報酬計算・制度運用 |
経理・税務 | 法人税上の損金算入要件を確認 |
法務・総務 | 株主総会等の手続 |
IR・開示部門 | 有報・適時開示等への対応 |
つまり、業績連動給与は単なる「役員報酬の税務」ではなく、コーポレートガバナンス、開示、税務を横断する論点として管理する必要があります。
損金算入にこだわらない選択肢もある
調査結果を見ると、企業の対応は一様ではありません。
全額を損金算入する企業もあれば、一部だけ損金算入する企業、全く損金算入しない企業もあります。
これは、業績連動報酬制度の第一目的が必ずしも法人税負担の軽減ではないためです。
例えば、
長期的な株主価値を重視したい
非財務KPIを報酬に取り入れたい
制度を複雑にしたくない
税務要件よりガバナンス上の合理性を優先したい
という会社であれば、損金算入要件に合わせて報酬制度を変更することが必ずしも最適とは限りません。
したがって、「損金にできる制度を作る」ことを目的にするのではなく、望ましい役員報酬制度を設計したうえで、税務上どこまで損金算入を狙うのかを判断するという順序が重要です。
実務で確認したいスケジュール表
有報の総会前開示を行なう企業では、次のような一覧表を作成しておくと整理しやすくなります。
確認事項 | 日付・状況 |
有価証券報告書提出予定日 | |
定時株主総会日 | |
報酬委員会開催日 | |
業績連動給与の正式決定日 | |
適時開示予定日 | |
半期報告書提出日 | |
臨時報告書提出の要否 | |
税務上の損金算入可否 |
この表を経理・税務だけでなく、報酬委員会事務局やIR担当と共有することが有効です。
業績連動給与を導入する企業のチェック項目
業績連動報酬のうち損金算入を狙う範囲を整理した
報酬の算定指標を確認した
損金算入要件を事前に確認した
報酬委員会等の決議日を確認した
有価証券報告書の提出日を確認した
有報を株主総会前に提出するか確認した
有報提出時点で報酬が正式決定済みか確認した
決議後の追加開示方法を決めた
IR・人事・法務・税務でスケジュールを共有した
損金算入のためだけに制度を過度に複雑化していないか確認した
まとめ
経済産業省の調査によると、業績連動報酬について、全額を業績連動給与として損金算入している企業は19%、一部を損金算入している企業は15%でした。
一方、資料に示された回答では、約半数の企業が業績連動報酬を損金算入していません。
その背景には、損金算入要件への対応に伴う実務負担があります。
特に、有価証券報告書を株主総会前に提出する企業では注意が必要です。
今回のポイントをまとめると、次のとおりです。
業績連動報酬を導入しても、必ずしも税務上損金算入しているわけではない
全額損金算入している企業は19%
一部損金算入している企業は15%
資料上、約半数の企業は損金算入していない
背景には損金算入要件を満たす実務の煩雑さがある
有報の総会前開示では、総会後に正式決定する報酬を「予定」として記載するだけでは足りない
報酬委員会等での正式決議後、適時開示や半期報告書、臨時報告書等による対応が必要
2026年3月期は88.3%の企業が有報を総会前開示
総会前開示に伴う要件緩和を求める声はあるものの、資料時点では対応の可能性は低い
業績連動給与を設計する際には、報酬制度だけを先に決めるのではなく、税務上の損金算入要件と有価証券報告書等の開示スケジュールを同時に検討することが重要です。
特に、有報の総会前開示を行う企業では、報酬委員会による正式決定日と開示時期にずれが生じやすいため、決議後の追加開示まで含めて年間スケジュールを設計しておくことが望まれます。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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