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物価高で役員報酬を期中減額できる?定期同額給与と業績悪化改定事由を税理士が解説

執筆者の写真: 安田亮
安田亮
15 時間前
読了時間: 13分

こんにちは!代表の安田です。


物価高で役員報酬を期中減額できる?定期同額給与と業績悪化改定事由を税理士が解説

原材料費、燃料費、電気代、人件費、物流費などの上昇により、中小企業の資金繰りや利益が圧迫されるケースが増えています。


こうした状況の中で、経営者からよく相談されるのが「期中に役員報酬を下げてもよいのか」という問題です。


法人税では、役員給与は原則として損金算入に制限があります。

特に、毎月同額で支給する「定期同額給与」は、事業年度の途中で金額を変更すると、変更前後の一部が損金不算入になる可能性があります。


ただし、例外的に、一定の要件を満たす改定であれば、期中に役員報酬を減額しても、定期同額給与として損金算入が認められる場合があります。


その代表が「業績悪化改定事由」による減額改定です。

しかし、物価高騰や原価上昇により利益が減っているからといって、必ず業績悪化改定事由に該当するわけではありません。


単なる資金繰りの都合、業績目標の未達、利益調整目的の減額などは、税務上認められない可能性があります。


本日は、定期同額給与の基本、期中減額が認められる業績悪化改定事由、物価高騰による役員報酬減額の注意点、税務調査で確認されやすい資料、実務上の判断ポイントを税理士が解説します。


定期同額給与とは

法人が役員に支給する給与は、従業員給与とは異なり、法人税法上、損金算入できる範囲が制限されています。


役員給与のうち、代表的なものが「定期同額給与」です。

定期同額給与とは、簡単にいうと、支給時期が1か月以下の一定期間ごとであり、その事業年度の各支給時期における支給額が同額である給与をいいます。

たとえば、取締役に毎月末に役員報酬50万円を支給する場合です。

  • 4月:50万円

  • 5月:50万円

  • 6月:50万円

  • 7月:50万円

  • 8月:50万円

  • 9月:50万円


このように、毎月同額で支給されていれば、原則として定期同額給与に該当し、法人税の計算上、損金算入の対象になります。


一方、役員報酬を利益の状況に応じて自由に増減できると、法人の利益調整に使われるおそれがあります。


そのため、法人税では、役員給与の金額変更について厳格なルールが設けられています。


役員報酬を変更できるタイミング

役員報酬は、いつでも自由に変更してよいわけではありません。

定期同額給与として損金算入を維持するためには、原則として、次のような改定に該当する必要があります。

  • 通常改定

  • 臨時改定事由による改定

  • 業績悪化改定事由による減額改定


通常改定とは、一般的には事業年度開始の日から3か月以内に行われる定時株主総会等での改定です。


たとえば、3月決算法人が6月の定時株主総会で役員報酬を改定し、7月支給分から変更するようなケースです。


臨時改定事由とは、役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更など、やむを得ない事情による改定です。


そして、今回のテーマで重要になるのが、業績悪化改定事由による減額改定です。

これは、法人の経営状況が著しく悪化したことなどを理由に、事業年度の途中で役員給与を減額する場合のルールです。


業績悪化改定事由とは

業績悪化改定事由とは、法人の経営の状況が著しく悪化したこと、その他これに類する理由をいいます。


この事由に該当する場合には、事業年度の途中で役員給与を減額しても、その改定後の給与が定期同額給与として認められる可能性があります。


ただし、ここでいう「業績悪化」は、単に利益が少し下がった、資金繰りが一時的に苦しい、予算に届かなかったという程度では足りません。


国税庁の「役員給与に関するQ&A」でも、役員給与の額の改定は個々の事情に照らして判断されるとしたうえで、業績悪化改定事由に関する具体例が示されています。


業績目標の未達だけでは認められない

役員報酬の期中減額でよくある誤解が、「業績が計画より悪いから下げてもよい」というものです。


しかし、単に業績目標に届かなかっただけでは、業績悪化改定事由には該当しません。

たとえば、次のような理由だけでは不十分です。

  • 売上予算を達成できなかった

  • 利益目標に届かなかった

  • 今期の着地見込みが計画を下回った

  • 資金繰りに一時的な不安がある

  • 節税や利益調整のために役員報酬を下げたい


役員報酬の減額が認められるためには、経営状況の著しい悪化、またはそれに類する客観的な事情が必要です。


業績悪化改定事由に該当する主なケース

業績悪化改定事由に該当するケースとしては、主に次のようなものが考えられます。

  • 財務諸表の数値が相当程度悪化した場合

  • 倒産の危機に瀕した場合

  • 経営状況の悪化により、株主、債権者、取引先など第三者である利害関係者との関係上、役員給与を減額せざるを得ない場合

  • 現時点では数値が著しく悪化していないものの、客観的な状況から、今後著しく悪化することが不可避と認められる場合


ポイントは「客観的に見て、役員報酬を下げざるを得ない状況かどうか」です。

単なる経営判断としての減額ではなく、会社を守るために避けられない減額であることを説明できる必要があります。


物価高騰による減額改定は慎重に判断する

近年、原材料費、燃料費、電気代、物流費などの上昇により、利益が圧迫される会社が増えています。


そのため、「物価高で利益が減ったので役員報酬を下げたい」という相談もあります。

しかし、物価高騰による業績悪化だからといって、自動的に業績悪化改定事由に該当するわけではありません。


物価高騰等による業績悪化で減額改定を行なう場合、原則どおり、第三者である利害関係者との関係を踏まえた減額改定等でなければ認められないことが基本となります。


また、単なる物価高騰等に伴う業績悪化のみでは業績悪化改定事由には該当せず、新型コロナ感染拡大当初のような弾力的な運用は予定されていません。


したがって、物価高騰を理由に役員報酬を減額する場合は、単に「原価が上がった」「利益が減った」だけでなく、客観的にどの程度経営状況が悪化しているのか、第三者との関係上どのような事情があるのかを整理する必要があります。


コロナ禍の取扱いと同じとは考えない

新型コロナウイルス感染症の拡大当初には、売上の急減や営業自粛など、急激かつ広範囲な影響が生じました。


そのため、当時は、役員給与の減額改定について比較的弾力的な運用が行なわれました。

しかし、物価高騰による業績悪化については、コロナ禍当初と同じような取扱いが当然に認められるわけではありません。


約2年前の新型コロナ拡大当初には、第三者の関与がなくても、利益調整目的でなければ業績悪化改定事由として認められるといった弾力的な運用が行なわれていた一方、今般の物価高騰等については、現時点では同様の弾力的運用は行なわれない予定です。


つまり、過去にコロナを理由として期中減額が認められた経験がある会社でも、物価高を理由とする減額では、より慎重な判断が必要です。


第三者である利害関係者との関係が重要

業績悪化改定事由を判断するうえで重要なのが、第三者である利害関係者との関係です。

利害関係者には、たとえば次のような者が含まれます。

  • 株主

  • 金融機関などの債権者

  • 主要取引先

  • 仕入先

  • 親会社

  • 取引継続に影響を与える相手先


たとえば、金融機関から融資継続の条件として役員報酬の減額を求められた場合、取引先から経営改善を求められた場合、株主から経営責任として役員給与の削減を求められた場合などは、第三者との関係上、減額せざるを得ない事情として説明しやすくなります。


単に社長が自分の判断で「利益が減りそうだから役員報酬を下げよう」と決めただけでは、税務上の業績悪化改定事由としては弱い可能性があります。


今後の著しい悪化が不可避な場合

現時点では、売上や利益の数値が大きく悪化していなくても、将来的な著しい悪化が避けられない状況であれば、業績悪化改定事由に該当する可能性があります。


ただし、この場合も、客観的な状況から「今後著しく悪化することが不可避」といえる必要があります。

の例として、売上の大半を占める主要な得意先が1回目の手形不渡りを出した状況などが挙げられます。


たとえば、次のようなケースでは、検討の余地があります。

  • 売上の大半を占める主要取引先が倒産危機にある

  • 主要得意先から大幅な発注停止の通知を受けた

  • 金融機関から返済条件の見直しを求められている

  • 主要仕入先の供給停止により事業継続に重大な影響が出る

  • 急激な原価上昇により、既存契約の採算割れが継続することが確実である


ただし、将来の業績悪化を理由にする場合は、単なる予測や経営者の感覚だけでは不十分です。


取引先からの通知、金融機関との協議資料、資金繰り表、業績見通し、役員会議事録など、客観的な資料を準備することが重要です。


税務調査で確認されやすい資料

役員報酬の期中減額を行なった場合、税務調査では、その減額が本当に業績悪化改定事由によるものか確認される可能性があります。


そのため、減額時点の状況を示す資料を保存しておくことが重要です。

主な資料は次のとおりです。

  • 月次試算表

  • 資金繰り表

  • 売上推移表

  • 粗利率、営業利益、経常利益の推移表

  • 原材料費、燃料費、電気代などの上昇資料

  • 主要取引先からの発注停止、減額、支払遅延等の通知

  • 金融機関との協議資料

  • 返済条件変更の資料

  • 株主、債権者、取引先からの要請資料

  • 役員報酬減額を決議した株主総会議事録または取締役会議事録

  • 減額後の経営改善計画


特に重要なのは、減額後に作った資料ではなく、減額時点で会社がどのような状況に置かれていたかを示す資料です。


後から「業績が悪かったことにしよう」と資料を整えても、説得力は弱くなります。

役員報酬を下げると決めた時点で、判断の根拠を記録しておきましょう。


減額改定の手続きにも注意

税務上の理由があっても、会社法上・社内手続き上の決議を適切に行なっていなければ、役員報酬の改定として問題が残ります。


役員報酬を減額する場合は、会社の形態や定款、株主総会決議、取締役会設置会社かどうかに応じて、必要な手続きを確認します。


一般的には、次のような流れになります。

  1. 業績悪化の状況を確認する

  2. 減額が必要な理由を整理する

  3. 利害関係者との関係や要請内容を確認する

  4. 減額後の役員報酬額を決定する

  5. 株主総会または取締役会等で決議する

  6. 議事録を作成する

  7. 減額後も毎月同額で支給する

  8. 減額の根拠資料を保存する


減額後の役員報酬についても、毎月同額で支給する必要があります。

いったん減額した後に、業績が少し回復したからといって期中に再び増額すると、定期同額給与の要件を満たさなくなる可能性があります。


役員報酬を一時的に未払にする場合

資金繰りが厳しいとき、役員報酬を減額するのではなく、いったん未払にするケースもあります。


この場合も注意が必要です。

毎月の役員報酬を同額で計上していても、実際には長期間支払われていない場合、会社の支払能力、未払の合理性、債務確定性などが問題になることがあります。


また、未払計上した役員報酬については、源泉所得税の納付時期や社会保険料への影響も確認が必要です。


単に「支払えないから未払にしておく」という処理ではなく、減額するのか、未払とするのか、会社の状況に応じて慎重に判断しましょう。


減額後に再増額する場合の注意点

業績悪化を理由に役員報酬を減額した後、業績が回復したため、同じ事業年度中に元の金額へ戻したいという相談もあります。


しかし、期中の再増額は慎重に考える必要があります。

業績悪化改定事由は、あくまで減額改定を認めるものです。


通常改定や臨時改定事由に該当しない期中増額は、定期同額給与の要件を満たさない可能性があります。そのため、いったん期中に役員報酬を減額した場合、その事業年度中は原則として減額後の金額を継続する前提で検討するのが安全です。


業績回復後の増額は、次の事業年度開始から3か月以内の通常改定で行うことを基本に考えましょう。


実務で間違えやすいポイント

物価高や業績悪化を理由とする役員報酬の減額では、次のような誤りがよくあります。


1. 利益が減っただけで業績悪化改定事由に該当すると考える

利益が減っただけでは不十分です。

経営状況が著しく悪化しているか、第三者との関係上、減額せざるを得ない事情があるかを確認する必要があります。


2. 物価高騰ならコロナ禍と同じように認められると考える

物価高騰による減額改定については、コロナ禍当初のような弾力的運用は期待できません。

原則どおり、業績悪化改定事由に該当する事情を立証する必要があります。


3. 資金繰りが一時的に苦しいだけで減額する

一時的な資金繰りの都合だけでは、業績悪化改定事由には該当しません。


4. 議事録を作成していない

役員報酬の減額は、会社としての正式な決定が必要です。

株主総会議事録や取締役会議事録などを作成し、減額理由も記録しておきましょう。


5. 減額後に期中で再増額する

期中の再増額は、定期同額給与の要件を満たさなくなるリスクがあります。

次回の通常改定での増額を基本に検討しましょう。


役員報酬を期中減額する前のチェックリスト

役員報酬を期中に減額する前に、次の点を確認しましょう。

  • 財務諸表や月次試算表の数値が相当程度悪化しているか

  • 倒産危機や資金繰り破綻の可能性があるか

  • 単なる業績目標未達や一時的資金繰りではないか

  • 第三者である利害関係者との関係上、減額せざるを得ない事情があるか

  • 金融機関、株主、取引先などからの要請や協議資料があるか

  • 今後の著しい悪化が不可避といえる客観的状況があるか

  • 減額時点の資料を保存しているか

  • 株主総会や取締役会など必要な決議を行ったか

  • 議事録に減額理由と減額後の金額を明記したか

  • 減額後も毎月同額で支給できるか


このチェックリストの項目を満たせない場合、期中減額による損金算入にはリスクがあります。役員報酬の減額は、資金繰り対策として有効な場合もありますが、税務上のルールを踏まえて慎重に判断しましょう。


まとめ

役員報酬は、法人税法上、損金算入できる範囲が制限されています。

毎月同額で支給する定期同額給与は、原則として事業年度の途中で自由に金額を変更することはできません。


期中に役員報酬を減額する場合には、通常改定、臨時改定事由、業績悪化改定事由など、定期同額給与として認められる改定に該当する必要があります。


物価高騰により原材料費、燃料費、電気代などが上昇し、利益が圧迫されている会社もあります。


しかし、物価高騰による業績悪化だけで、直ちに業績悪化改定事由に該当するわけではありません。


単なる一時的な資金繰りの都合や、業績目標値の未達だけでは、業績悪化改定事由には該当しないとされています。


業績悪化改定事由に該当するには、財務諸表の数値が相当程度悪化している場合、倒産の危機に瀕している場合、株主・債権者・取引先など第三者である利害関係者との関係上、役員給与を減額せざるを得ない事情がある場合などが必要です。


また、現時点で数値的指標が著しく悪化していなくても、客観的な状況から今後著しく悪化することが不可避と認められる場合には、業績悪化改定事由に該当する可能性があります。


物価高騰を理由に役員報酬を期中減額する場合は、コロナ禍当初のような弾力的な運用を前提にせず、原則どおり、減額の必要性を客観的資料で説明できるようにしておくことが重要です。


月次試算表、資金繰り表、金融機関との協議資料、主要取引先からの通知、株主総会議事録・取締役会議事録などを保存し、減額時点でなぜ役員報酬を下げざるを得なかったのかを明確にしておきましょう。



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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。

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