インボイス制度で支払調書を仕入明細書として使える?課税期間が暦年でない法人の注意点を税理士が解説
こんばんは!代表の安田です。
令和5年10月1日からインボイス制度が始まり、消費税の仕入税額控除を受けるには、原則として適格請求書等の保存が必要になりました。
原稿料、講演料、デザイン料、監修料、出演料、士業報酬などを支払う法人では、支払先から請求書を受け取るだけでなく、買手である法人側が支払内容をまとめた「仕入明細書等」を作成し、それをインボイスとして保存する方法も考えられます。
このとき実務上気になるのが、所得税法上の「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の様式を、消費税法上の仕入明細書等として使えるのか、という点です。
原稿料などの報酬等を支払う事業者が、支払先の執筆者等へ仕入明細書等を交付する場合、必要事項を記載すれば、税務署に提出する「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の様式を使用して、仕入明細書等とすることができるとされています。
ただし、支払調書は所得税法上、原則として暦年ベースで1年間の支払金額を記載する書類です。
一方、消費税の仕入税額控除は、法人ごとの課税期間に対応して判断します。
そのため、12月決算法人以外では、支払調書の様式をそのまま暦年で使うと、課税期間内の一部の支払について、仕入税額控除を受けるための書類が不足することがあります。
本日は、インボイス制度における仕入明細書等の基本、支払調書様式を仕入明細書として使う場合の注意点、課税期間が暦年でない法人の実務対応について解説します。
インボイス制度では仕入税額控除に「帳簿」と「請求書等」の保存が必要
消費税の課税事業者が仕入税額控除を受けるには、原則として、一定事項を記載した帳簿と請求書等の保存が必要です。
国税庁は、仕入税額控除をするためには、課税仕入れ等の事実を記載した帳簿と、その事実を証する請求書等の両方を保存する必要があると案内しています。請求書等には、適格請求書、適格簡易請求書のほか、仕入明細書等やそれらの電磁的記録も含まれます。
つまり、売手が発行するインボイスだけでなく、買手が作成する仕入明細書等によっても、仕入税額控除の要件を満たすことができます。
原稿料や講演料のように、支払先が個人で、毎回正式な請求書を発行しないケースでは、買手側が支払明細を作成する運用が有効です。
仕入明細書等とは
仕入明細書等とは、買手が作成する支払明細書や購入明細書などの書類で、一定の記載事項を満たし、売手の確認を受けたものをいいます。
国税庁のインボイスQ&Aでは、適格請求書等保存方式でも、仕入側が作成した仕入明細書等を保存することで、仕入税額控除のための請求書等の保存要件を満たせるとされています。
ただし、仕入明細書等には、相手方の氏名または名称および登録番号、課税仕入れを行った年月日、取引内容、税率ごとに合計した支払対価の額および適用税率、税率ごとに区分した消費税額等などを記載する必要があります。
仕入明細書等として必要な主な記載事項は、次のとおりです。
仕入明細書等の作成者の氏名または名称
課税仕入れの相手方の氏名または名称
課税仕入れの相手方の登録番号
課税仕入れを行った年月日
課税仕入れに係る資産または役務の内容
税率ごとに合計した支払対価の額
適用税率
税率ごとに区分した消費税額等
インボイス制度では、支払先が適格請求書発行事業者である場合、その登録番号の記載が重要になります。
登録番号がない、税率ごとの区分がない、消費税額等が記載されていない、といった場合には、仕入税額控除の要件を満たさない可能性があります。
仕入明細書等は売手の確認が必要
仕入明細書等は、買手が一方的に作成して保存すればよいものではありません。
国税庁は、仕入税額控除のための請求書等に該当する仕入明細書等は、相手方の確認を受けたものに限られるとしています。確認方法としては、仕入明細書等を相手方へ交付または提供し、相手方から確認の通知を受ける方法のほか、一定期間内に誤りの連絡がない場合には確認があったものとする基本契約等を締結する方法などが示されています。
たとえば、次のような運用が考えられます。
仕入明細書をメールで送付し、支払先から確認返信を受ける
支払先専用サイトで明細を表示し、確認ボタンを押してもらう
契約書に「一定期間内に異議がなければ確認済みとする」旨を定める
仕入明細書に同様の文言を記載し、相手方の了承を得る
外部ライター、講師、監修者、デザイナーなど支払先が多い法人では、毎回個別に返信をもらうのは大変です。
そのため、業務委託契約書や発注時の同意文言に、仕入明細書等の確認方法を定めておくと実務がスムーズです。
支払調書の様式を仕入明細書として使える
所得税法上、法人や個人事業者が原稿料、講演料、弁護士報酬、税理士報酬など一定の報酬・料金等を支払った場合、一定要件に該当すると「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を作成し、税務署へ提出します。
インボイス制度において、原稿料などの報酬等を支払う事業者が支払先の執筆者等へ仕入明細書等を交付する場合、必要事項を記載等すれば、この支払調書の様式を使用して仕入明細書等とすることができると説明されています。
これは実務上便利です。
すでに支払調書を作成している法人であれば、支払調書にインボイスの記載事項を追記することで、支払先への支払内容通知と仕入明細書等の作成を兼ねる運用が可能になるためです。
ただし、支払調書の様式を使えば自動的にインボイス要件を満たすわけではありません。
摘要欄などに、登録番号、適用税率、税率ごとに区分した消費税額等など、仕入明細書等として必要な事項を追記する必要があります。添付資料でも、支払調書の様式で仕入明細書等とするには、インボイスの記載事項を摘要欄等に追記する必要があるとされています。
所得税の支払調書と消費税の仕入明細書は目的が違う
支払調書と仕入明細書は、似たような支払内容を記載する書類ですが、目的が異なります。
支払調書は、所得税法上、報酬・料金等の支払内容を税務署へ報告するための法定調書です。
一方、仕入明細書等は、消費税法上、買手が仕入税額控除を受けるために保存する請求書等の一種です。
整理すると、次のようになります。
支払調書 → 所得税法上の法定調書 → 原則として暦年ベース → 税務署提出用
仕入明細書等 → 消費税法上の仕入税額控除の保存書類 → 法人の課税期間ベースで管理 → 買手保存用・売手確認用
この目的の違いを理解しておかないと、特に12月決算以外の法人でミスが起こります。
支払調書は原則として暦年ベース
所得税法上の支払調書は、原則として1月1日から12月31日までの暦年で支払金額を集計します。そのため、支払調書をそのまま作成すると、1月から12月までの支払金額が記載されることになります。
12月決算法人であれば、消費税の課税期間も暦年と一致しやすいため、大きな問題は起こりにくいでしょう。
しかし、3月決算法人、6月決算法人、9月決算法人など、課税期間が暦年と異なる法人では、支払調書の暦年集計と消費税の課税期間がズレます。
このズレが、仕入税額控除の時期に影響します。
仕入税額控除は課税期間ごとに判断する
消費税の仕入税額控除は、各課税期間における課税仕入れについて適用します。
仕入明細書等は、一定期間の課税仕入れを1枚にまとめて作成することも可能です。
ただし、仕入明細書等は一定期間の課税仕入れを1枚にまとめることも可能である一方、仕入税額控除を適用できるのは課税期間の範囲内とされています。
つまり、1枚の仕入明細書にまとめる期間は自由度がありますが、仕入税額控除を受けるタイミングは、あくまで自社の課税期間に対応させる必要があります。
課税期間をまたぐ支払を1枚の書類にまとめた場合、どの支払がどの課税期間に属するのかを明確にしておかなければなりません。
6月決算法人の例
6月決算法人の例を考えてみましょう。
買手が6月決算法人で、課税期間が7月1日から翌年6月30日までの場合を考えます。
この法人が、支払調書の様式を用いた仕入明細書等に、暦年、つまりX年1月からX年12月までの支払金額を記載したとします。
この場合、X年7月からX年12月までの支払については、X+1年6月期の課税期間内に含まれます。
したがって、その部分についてはX+1年6月期で仕入税額控除を適用できます。
一方、X+1年1月からX+1年6月までの支払は、同じX+1年6月期に属するにもかかわらず、暦年ベースの支払調書には含まれていません。
そのため、別途仕入明細書等を発行しなければ、X+1年6月期にその1月から6月までの支払について仕入税額控除を適用できないことになります。
これを整理すると、次のようになります。
6月決算法人の課税期間:X年7月1日〜X+1年6月30日
支払調書を暦年で作成:X年1月1日〜X年12月31日
この書類でカバーできる当期分:X年7月1日〜X年12月31日
別途対応が必要な当期分:X+1年1月1日〜X+1年6月30日
つまり、暦年ベースの支払調書をそのまま仕入明細書として使うと、課税期間後半の1月から6月分が漏れてしまうのです。
課税期間に合わせて仕入明細書を作成する方法
消費税法上の仕入明細書等として扱うものについて、所得税法上の支払調書とは異なり、各法人の課税期間に合わせて支払金額を記載することができるとされています。
先ほどの6月決算法人であれば、仕入明細書等として扱う書類には、X年7月からX+1年6月までの1年間の支払金額を記載します。
そうすれば、その課税期間内のすべての支払について、X+1年6月期に仕入税額控除の適用が可能になります。
所得税法上の支払調書 → X年1月〜X年12月で作成
消費税法上の仕入明細書等 → X年7月〜X+1年6月で作成
このように、同じ支払調書の様式を使う場合でも、所得税用と消費税用で集計期間を分けることができます。
売手に2通届く場合は名称を変える
支払調書の様式を使って仕入明細書等を作成する場合、支払先である売手には、同じような様式の書類が2通届くことがあります。
1つは所得税法上の支払調書。
もう1つは消費税法上の仕入明細書等です。
売手には同じ様式の書類が2通届くことになるため、混同を避けるため、仕入明細書等として扱う書類の名称を「仕入明細書」などに変更することが望ましいと言えます。
実務上は、次のように書類名を分けるとよいでしょう。
所得税用 → 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
消費税用 → 仕入明細書 → インボイス制度対応仕入明細書 → 適格請求書等保存方式対応 支払明細書
また、書類の冒頭や備考欄に、次のような説明文を入れておくと親切です。
"本書は、消費税法上の仕入税額控除のために保存する仕入明細書等として作成するものです。所得税法上の支払調書とは集計期間が異なる場合があります。記載内容に誤りがある場合は、一定期間内にご連絡ください。"支払先が個人事業主やフリーランスの場合、支払調書と仕入明細書の違いに戸惑うことがあります。
混同を避けるためにも、書類名と説明文を明確にしましょう。
支払先が免税事業者の場合の注意点
仕入明細書等により仕入税額控除を受けるには、原則として、支払先が適格請求書発行事業者である必要があります。
支払先が免税事業者で、適格請求書発行事業者として登録していない場合、登録番号はありません。
この場合、原則としてインボイスとしての仕入明細書等にはなりません。
ただし、インボイス制度開始後も、免税事業者等からの課税仕入れについては一定期間、経過措置があります。
国税庁のインボイス制度の手引きでは、免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置について、令和5年10月1日以後の一定期間、一定割合を仕入税額相当額として控除できる取扱いが示されています。
実務上、原稿料や講演料の支払先には、免税事業者の個人が多く含まれます。
そのため、支払先ごとに次の点を確認しておく必要があります。
適格請求書発行事業者として登録しているか
登録番号は何か
免税事業者等からの仕入れに係る経過措置を使うか
帳簿に経過措置の適用を受ける旨を記載しているか
支払金額を税込、税抜のどちらで管理しているか
支払調書様式を使う場合でも、支払先が登録事業者か免税事業者かで、消費税の処理は変わります。
源泉徴収と消費税の金額管理を分ける
原稿料や講演料などの報酬を支払う場合、所得税の源泉徴収も関係します。
支払調書では、支払金額や源泉徴収税額を記載します。
一方、消費税の仕入明細書等では、税率ごとに合計した支払対価の額や消費税額等を記載する必要があります。
ここで注意したいのは、源泉所得税の計算と消費税のインボイス記載事項は目的が異なることです。
たとえば、報酬額が税込なのか税抜なのか、源泉徴収の対象金額をどのように扱うか、消費税額を区分しているかなどを明確にしなければなりません。
実務上は、支払先との契約書や発注書で、次の点を明確にしておくとよいでしょう。
報酬額は税抜か税込か
消費税額を別途表示するか
源泉徴収税額の計算方法
振込手数料の負担者
インボイス登録番号の通知方法
仕入明細書等の確認方法
源泉徴収・支払調書・インボイスを同じ支払データから作成する場合、データ項目の設計が重要です。
実務上のチェックポイント
支払調書の様式を仕入明細書等として使う場合は、次の点を確認しましょう。
1. 支払調書と仕入明細書の目的を分けているか
所得税用の支払調書と、消費税用の仕入明細書等は目的が異なります。
同じ様式を使う場合でも、名称・集計期間・記載事項を区別しましょう。
2. インボイスの記載事項を追記しているか
登録番号、適用税率、税率ごとの支払対価の額、消費税額等などを記載します。
3. 売手の確認を受けているか
仕入明細書等は、相手方の確認を受けたものである必要があります。
確認方法を契約書や明細書に明記しておくと安心です。
4. 自社の課税期間に合わせて集計しているか
12月決算法人以外では、暦年ベースの支払調書をそのまま使うと、課税期間内の支払が漏れることがあります。
5. 支払先の登録番号を確認しているか
支払先が適格請求書発行事業者か、免税事業者かにより、仕入税額控除の処理が変わります。
6. 所得税用と消費税用で書類名を分けているか
売手が混同しないよう、消費税用の書類名は「仕入明細書」などに変更するのが望ましいです。
7. 保存期間を確認しているか
仕入税額控除のための帳簿や請求書等は、原則として一定期間保存が必要です。国税庁は、帳簿についてはその閉鎖の日、請求書等については受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間保存することとしています。
よくある誤解
支払調書を作っていればインボイス対応は完了している
誤りです。支払調書の様式を使うことはできますが、仕入明細書等として必要なインボイス記載事項を追記し、売手の確認を受ける必要があります。
支払調書は必ず暦年で作らなければならないため、仕入明細書も暦年でしか作れない
所得税法上の支払調書は暦年ベースですが、消費税法上の仕入明細書等として扱うものについては、法人の課税期間に合わせて支払金額を記載できます。
6月決算法人でも暦年の支払調書を保存すれば、1年分すべて仕入税額控除できる
暦年の支払調書では、課税期間内の一部支払がカバーされないことがあります。6月決算法人では、7月から翌年6月までの課税期間に合わせた仕入明細書等を作成する方が実務上安全です。
仕入明細書は買手が作るので、売手の確認は不要
仕入明細書等は、相手方の確認を受けたものに限り、仕入税額控除のための請求書等に該当します。
支払先が免税事業者でも、登録番号欄を空欄にすれば通常のインボイスになる
免税事業者は適格請求書発行事業者ではないため、登録番号がありません。原則として通常のインボイスにはならず、経過措置の適用可否を確認する必要があります。
まとめ
インボイス制度では、仕入税額控除を受けるために、原則として帳簿と適格請求書等の保存が必要です。
この適格請求書等には、売手が発行するインボイスだけでなく、買手が作成する仕入明細書等も含まれます。
原稿料や講演料などの報酬を支払う法人では、所得税法上の「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の様式を使って、消費税法上の仕入明細書等を作成することができます。
ただし、その場合には、支払先の登録番号、課税仕入れを行った年月日、取引内容、税率ごとの支払対価の額、適用税率、消費税額等など、インボイスとして必要な事項を摘要欄等に追記する必要があります。
また、仕入明細書等は、売手の確認を受けたものでなければなりません。
特に注意が必要なのは、12月決算法人以外の法人です。
所得税法上の支払調書は暦年ベースで作成しますが、消費税の仕入税額控除は法人の課税期間ごとに判断します。
6月決算法人のように課税期間が7月1日から翌年6月30日までの場合、暦年ベースの支払調書をそのまま仕入明細書等として使うと、課税期間内の一部支払について別途仕入明細書等が必要になることがあります。
この場合、消費税法上の仕入明細書等として扱う書類については、法人の課税期間に合わせて、7月から翌年6月までの支払金額を記載することができます。
売手には所得税用の支払調書と消費税用の仕入明細書等が別々に届く可能性があるため、混同を避けるためにも、消費税用の書類名は「仕入明細書」などに変更することが望ましいでしょう。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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