特定税額控除規定の不適用措置とは?2026年度改正後の対象法人・賃上げ要件・設備投資要件を解説
こんにちは!代表の安田です。
2026年度税制改正により、「特定税額控除規定の不適用措置」の要件が見直されました。
この制度は、一定の大企業について、当期の所得金額が前期を上回っているにもかかわらず、十分な賃上げや国内設備投資を行なっていない場合に、研究開発税制などの政策的な税制優遇を制限するものです。
改正後は、継続雇用者給与等支給額に関する賃上げ要件が引き上げられました。さらに、研究開発税制とそれ以外の税制とで、適用可否の判定方法が異なることになり、従来よりも制度が複雑になっています。
特に重要なのは、次の違いです。
研究開発税制は、原則として「賃上げ要件」または「国内設備投資要件」のどちらかを満たせばよい
地域未来投資促進税制などは、原則として両方の要件を満たす必要がある
大胆な設備投資促進税制は、不適用となると税額控除だけでなく即時償却も利用できない
本日は、2026年度税制改正後の特定税額控除規定の不適用措置について、対象法人、対象税制、判定の流れ、賃上げ要件と国内設備投資要件を分かりやすく解説します。
特定税額控除規定の不適用措置とは
特定税額控除規定の不適用措置とは、一定の大企業が対象となる税額控除制度を利用する際に、賃上げや国内設備投資の状況を確認し、要件を満たさない場合にその税制の適用を制限する制度です。
企業の所得が前期より増えているにもかかわらず、従業員への賃金還元や国内設備投資を十分に行なっていない場合にまで、政策的な税額控除を認めるのは適切ではないという考え方に基づいています。
したがって、各税制自体の適用要件を満たしている場合でも、特定税額控除規定の不適用措置に該当すると、税額控除を利用できない可能性があります。
例えば、研究開発税制について試験研究費の要件を満たしていても、別途、不適用措置の判定が必要になるということです。
対象となる法人
不適用措置の対象となるのは、基本的に資本金1億円超の大企業です。
より正確には、中小企業者や農業協同組合等に該当しない一定の法人が対象となります。
ただし、資本金が1億円以下であっても、大規模法人との資本関係などにより中小企業者に該当しない場合があります。反対に、資本金だけを見て直ちに制度の対象法人と判断できるとは限りません。
実務では、次の事項を確認する必要があります。
資本金または出資金の額
大規模法人との資本関係
発行済株式等の保有状況
適用除外事業者等への該当性
常時使用する従業員数
対象税制ごとの法人区分
まず自社が不適用措置の対象法人に該当するかを確認したうえで、賃上げ要件や国内設備投資要件の判定へ進みます。
不適用措置の対象となる主な税制
特定税額控除規定の不適用措置の対象となる主な税制は、次のとおりです。
研究開発税制
地域未来投資促進税制
カーボンニュートラル投資促進税制
戦略分野国内生産促進税制
大胆な設備投資促進税制
研究開発税制については、繰越税額控除制度と中小企業技術基盤強化税制が対象から除かれます。
また、大胆な設備投資促進税制についても、繰越税額控除制度は不適用措置の対象外です。
重要なのは、これらの税制について、すべて同じ判定を行なうわけではない点です。
2026年度改正後は、大きく次のように分かれます。
税制 | 賃上げ・設備投資要件 |
研究開発税制 | 原則として、いずれか一方を満たす |
地域未来投資促進税制 | 原則として、両方を満たす |
カーボンニュートラル投資促進税制 | 原則として、両方を満たす |
大胆な設備投資促進税制 | 原則として、両方を満たす |
戦略分野国内生産促進税制 | 賃上げ2%以上と設備投資40%超の両方 |
どの制度を適用するかによって、判定フローが変わるため注意が必要です。
2026年度改正の主なポイント
2026年度税制改正では、主に次の見直しが行なわれました。
適用期限の延長
特定税額控除規定の不適用措置の適用期限は2年間延長され、2029年3月31日までとされました。
賃上げ要件の引上げ
継続雇用者給与等支給額の対前年度比増加割合について、法人規模に応じて1%以上または2%以上の増加が必要になりました。
研究開発税制以外の判定を厳格化
研究開発税制以外の一定の税制については、賃上げ要件と国内設備投資要件の両方を満たすことが必要となりました。
改正内容は、2026年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。
3月決算法人であれば、原則として2026年4月1日から2027年3月31日までの事業年度から新しい判定方法を用いることになります。
最初に「当期所得が前期を上回っているか」を確認
不適用措置の判定では、まず当期の所得金額と前期の所得金額を比較します。
当期の所得金額が前期の所得金額以下である場合には、原則として賃上げ要件や国内設備投資要件を満たしていなくても、対象となる税制を適用できます。
反対に、当期所得が前期所得を上回る場合には、企業規模に応じて、賃上げや国内設備投資の要件を確認しなければなりません。
ここでいう所得金額は、会計上の営業利益や当期純利益そのものではなく、法人税法上の所得金額です。
したがって、決算書上は減益であっても、税務調整後の所得金額では前期を上回ることがあります。
不適用措置の判定では、単純に決算書の利益だけを比較しないよう注意が必要です。
設立事業年度・合併事業年度の取扱い
設立事業年度
合併事業年度
これらに該当する場合には、通常の当期所得と前期所得との比較を経ずに、企業規模に応じた賃上げ要件・国内設備投資要件の判定へ進みます。
設立年度や合併年度は、比較対象となる前期の所得金額を通常どおり把握できない場合があるため、一般の事業年度とは異なる判定フローになっています。
賃上げ要件は1%または2%
改正後の賃上げ要件は、法人の資本金等の額や従業員数によって異なります。
<2%以上の賃上げが必要な法人>
次のいずれかに該当する法人は、継続雇用者給与等支給額を前年度比2%以上増加させる必要があります。
資本金等の額が10億円以上、かつ、常時使用する従業員数が1,000人以上
常時使用する従業員数が2,000人を超える
<1%以上の賃上げが必要な法人>
上記に該当しない対象法人については、継続雇用者給与等支給額を前年度比1%以上増加させることが要件です。
整理すると、次のようになります。
法人区分 | 必要な給与増加割合 |
資本金等10億円以上かつ従業員1,000人以上 | 2%以上 |
従業員数2,000人超 | 2%以上 |
上記以外の対象法人 | 1%以上 |
なお、継続雇用者給与等支給額は、会社全体の人件費総額を単純に比較するものではありません。法令上の継続雇用者に対して支給した給与等を基礎として計算するため、採用者、退職者、出向者などの取扱いを確認する必要があります。
国内設備投資要件は30%超または40%超
国内設備投資要件についても、法人規模に応じて基準が異なります。
<大規模な法人>
資本金等の額が10億円以上かつ従業員数1,000人以上の法人、または従業員数が2,000人を超える法人については、原則として次の要件が用いられます。
「国内設備投資額が当期の減価償却費総額の40%を超えること」
<上記以外の対象法人>
それ以外の対象法人については、原則として次の要件です。
「国内設備投資額が当期の減価償却費総額の30%を超えること」
賃上げ要件が「1%以上」「2%以上」であるのに対し、国内設備投資要件は「30%超」「40%超」である点にも注意が必要です。
「以上」と「超える」では境界値の取扱いが異なります。
例えば、国内設備投資額が当期減価償却費総額のちょうど30%である場合、「30%超」の要件は満たしません。
研究開発税制はどちらか一方を満たせばよい
研究開発税制については、当期所得が前期所得を上回る場合でも、原則として次のいずれかを満たせば適用できます。
継続雇用者給与等支給額要件
国内設備投資額要件
つまり、賃上げ要件を満たしていなくても、国内設備投資要件を満たしていれば、研究開発税制を適用できる可能性があります。
反対に、設備投資が基準に届いていなくても、所定の賃上げ率を達成していれば適用可能です。
なお、この判定には、2026年度改正で創設された研究開発税制の「戦略技術領域型」も含まれます。
研究開発税制以外は両方の要件が必要
地域未来投資促進税制、カーボンニュートラル投資促進税制、大胆な設備投資促進税制については、研究開発税制とは判定方法が異なります。
当期所得が前期所得を上回っている場合、原則として次の両方を満たさなければなりません。
継続雇用者給与等支給額要件
国内設備投資額要件
例えば、1%以上の賃上げを行なっていても、国内設備投資額が当期減価償却費総額の30%以下であれば、対象税制を適用できない可能性があります。
反対に、多額の国内設備投資を実施していても、賃上げ率が基準を下回れば、同様に適用が制限されます。
大胆な設備投資促進税制は即時償却も制限される
大胆な設備投資促進税制では、一定の要件を満たす設備投資について、税額控除または即時償却を選択できます。
通常、「特定税額控除規定の不適用措置」という名称から、制限されるのは税額控除だけと思われるかもしれません。
しかし、大胆な設備投資促進税制については、不適用措置の判定で要件を満たさなかった場合、税額控除だけでなく即時償却も利用できません。
例えば、投資計画について経済産業大臣の確認を受け、設備自体の適用要件を満たしていたとしても、賃上げ要件や国内設備投資要件を満たさなければ、即時償却を利用できない可能性があります。
大型投資の税効果や資金繰りに大きな影響を与えるため、設備投資の意思決定時から不適用措置の判定を織り込んでおく必要があります。
戦略分野国内生産促進税制の判定
戦略分野国内生産促進税制についても、2026年度改正により、賃上げ要件の見直しと判定要件の強化が行なわれました。
当期所得が前期所得を上回る場合には、次の両方を満たす必要があります。
継続雇用者給与等支給額の対前年度比増加割合が2%以上
国内設備投資額が当期減価償却費総額の40%を超える
この制度については、法人規模に応じて1%・30%の基準へ下がるのではなく、2%・40%の基準が用いられる点に注意しましょう。
税制別の判定方法まとめ
当期所得が前期所得を上回る場合の主な判定方法は、次のとおりです。
適用を検討する税制 | 必要な要件 |
研究開発税制 | 賃上げまたは国内設備投資のいずれか |
地域未来投資促進税制 | 賃上げと国内設備投資の両方 |
カーボンニュートラル投資促進税制 | 賃上げと国内設備投資の両方 |
大胆な設備投資促進税制 | 賃上げと国内設備投資の両方 |
戦略分野国内生産促進税制 | 賃上げ2%以上かつ設備投資40%超 |
研究開発税制を適用できたからといって、ほかの設備投資税制も同じ判定で適用できるとは限りません。
複数の税制を同じ事業年度に利用する場合には、税制ごとに判定する必要があります。
判定例1:研究開発税制を利用する場合
次の法人を想定します。
資本金5億円
常時使用する従業員数800人
当期所得が前期所得を上回っている
継続雇用者給与等支給額の増加率0.5%
国内設備投資額は当期減価償却費総額の35%
この法人に必要な賃上げ率は1%以上、国内設備投資額は30%超です。
賃上げ要件は満たしていませんが、国内設備投資要件は満たしています。
研究開発税制については、原則としてどちらか一方を満たせばよいため、他の適用要件を満たす限り、利用できる可能性があります。
判定例2:地域未来投資促進税制を利用する場合
前述と同じ法人が、地域未来投資促進税制を利用する場合を考えます。
賃上げ率:0.5%
必要な賃上げ率:1%以上
国内設備投資割合:35%
必要な国内設備投資割合:30%超
国内設備投資要件は満たしていますが、賃上げ要件を満たしていません。
地域未来投資促進税制では両方の要件を満たす必要があるため、不適用措置によって税額控除を利用できない可能性があります。
判定例3:当期所得が前期以下の場合
次の法人を想定します。
当期所得が前期所得以下
賃上げ率0%
国内設備投資額が減価償却費総額の20%
この場合、当期所得が前期所得以下であるため、原則として賃上げ要件・国内設備投資要件の充足にかかわらず、対象税制を適用できます。
もちろん、それぞれの税制本来の適用要件は別途満たす必要があります。
実務上の注意点
決算後ではなく期中から試算する
賃上げ率や国内設備投資割合は、事業年度終了後に初めて計算するのではなく、期中から継続的に確認することが重要です。
期末直前に基準未達が判明しても、給与や設備投資の計画を変更できない可能性があります。
適用予定の税制を先に整理する
研究開発税制と設備投資税制では判定方法が違います。
「いずれか一方でよい」と誤認しないよう、適用を予定する税制を一覧化しましょう。
給与総額ではなく継続雇用者給与等支給額を計算する
賃上げ要件の判定は、会社全体の給与総額ではありません。
法令上の継続雇用者の範囲を確認し、前年度との比較が可能な資料を整備する必要があります。
設備投資額と減価償却費総額を早めに集計する
国内設備投資要件を判定するため、固定資産台帳、建設仮勘定、設備の取得日・事業供用日などを確認します。
当期減価償却費総額についても、会計上の減価償却費と税務上の計算が一致するとは限らないため注意しましょう。
即時償却を前提とする投資計画に注意する
大胆な設備投資促進税制を利用する場合、不適用措置によって即時償却まで利用できなくなる可能性があります。
資金繰り計画や納税見込みを作成する際には、税制を適用できないケースも併せて試算しておくことが重要です。
企業が保存しておきたい資料
不適用措置の判定根拠として、次の資料を保存しておくことが考えられます。
当期・前期の法人税所得計算資料
継続雇用者の抽出資料
給与台帳
雇用保険の加入状況
出向者に関する給与負担資料
継続雇用者給与等支給額の計算明細
固定資産台帳
国内設備投資額の集計表
当期減価償却費総額の計算資料
適用する税制ごとの判定表
設立・合併年度に関する資料
複数の税制を適用する場合には、一つの判定表を使い回すのではなく、研究開発税制用と、それ以外の税制用に区分して整理するとよいでしょう。
まとめ
2026年度税制改正により、特定税額控除規定の不適用措置は従来より複雑になりました。
特に押さえておきたいポイントは、次のとおりです。
2026年4月1日以後に開始する事業年度から新しい要件を適用する
主な対象は資本金1億円超の大企業
当期所得が前期所得以下であれば、原則として不適用措置の制限を受けない
大規模法人は賃上げ2%以上、設備投資40%超が基準
それ以外の対象法人は賃上げ1%以上、設備投資30%超が基準
研究開発税制は、原則として賃上げか設備投資のどちらか一方でよい
地域未来投資促進税制などは、原則として両方を満たす必要がある
戦略分野国内生産促進税制は2%・40%の両方が必要
大胆な設備投資促進税制では、即時償却も不適用となる可能性がある
各税制本来の適用要件だけを確認し、特定税額控除規定の不適用措置を見落とすと、決算時に想定していた税額控除や即時償却を利用できない可能性があります。
研究開発や大型設備投資を予定している大企業は、期中から所得金額、賃上げ率、国内設備投資額を試算し、税制ごとの判定フローに沿って適用可否を確認することが重要です。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






コメント